| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

世界蛇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

3部分:第三章


第三章

「そうなのですが」
「じゃあ。早く終わって欲しいよ」
 その言葉をまた出す。
「もうね。それまではここにいてもいいから」
「貴方は。今の人生は楽しんでおられないのですね」
「楽しみって?」
 それを言われてもわからないような言葉だった。
「何、それ」
「いずれ御知りになられます。次には」
「次だね」
「今の貴方もまた貴方ですが」
 光は今の彼にとっては実に不思議な言葉をかける。彼には全くわからない言葉であってもそれをかけるのであった。それでもといったように。
「次の貴方も貴方なのです」
「そうだといいね」
「では。次に御会いする時は」
「楽しさっていうのを教えて欲しいな」
「わかっています。それでは」
「ああ、ちょっと待って」
 姿を消そうとする彼を呼び止めるのだった。
「最後にもう一つ聞きたいことがあるけれど」
「何でしょうか」
「君は誰かな」
 このことを光に尋ねるのだった。
「あの僕を嫌ってた神だったっけ」
「ええ」
「あの連中とは違うっていうことはわかるけれど。誰なの?」
「その彼等に祭られている存在です」
「祭られている?」
「そうです」
 こうヨルムンガルドに述べるのであった。
「私は。全てを見守っている存在」
「神様じゃなくて?」
「神と言うべきでしょうか。それとも」
「それとも」
「いえ。これからは貴方でもおわかりになられない世界です」
 彼に答えようとはしない。話してもわかることはないだろうと判断したのである。
「これは」
「わからないんだ。僕には」
「そうです。それではですね」
「うん」
「その時を待っていて下さい」
「次の命を授かる時をだね」
「そうです。その時をです」
 またヨルムンガルドに対して語るのだった。
「その時にまた。御会いしましょう」
「うん、またね」
 別れを告げると光は完全に姿を消した。自分だけに戻ったヨルムンガルドはここで一人思うのだった。しかしそれは決して悪い考えではなかった。
「そうか。次があるんだ」
 今生きているだけではない。このことがわかって少し嬉しかったのである。今のままがずっと続くと思って諦めてしまっていたからだ。
「だったら。待っていよう」
 次にこう思った。
「次の人生が来るのを」
 そうしてまた海のそこで眠りに入った。ラグナロクの時彼は海から出て厳しい顔の神と闘った。彼の持っているハンマーにより撃たれそれで倒れ伏したが決して苦しくはなかった。そして悲しくも無念でもなかったのだった。
「これで今は終わるんだ」
 倒れ伏す中で呟くのだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧