ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜
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parallel world3-『白亜宮の戦士達』-
グリーア・イクス・アギオンス・イクセシス__マスターであるルークに「長い」と言われ、『ましろ』という渾名を貰ったが__は、自らの故郷、《白亜宮》に再び帰ってきた。
目的は帰省などではない、『終焉』に対抗する為の力を貸して貰うべく、交渉に来たのだ。
そう、子が親に頼むような『お願い』ではない。
対等の者同士が、お互いの利益の為、契りを結ぶ『交渉』に来たのだ。
当然、ましろは《主》と自分が同等などとは欠片も思っていない。《主》はましろにとって常に『憧れの人』だったし、
最愛の『お兄様』でもある。
だが、今だけは__
たとえ戦闘になっても、あの最強の少年神を無理矢理従わせなければならない。
たとえ『白亜宮』を敵に回しても__打ち勝たなくてはならない。
それこそが、自らが愛する故郷と『お兄様』を守る為の、最適の方法だからだ。
「……すぅ……はぁ……全く……面倒な事になりましたね……」
大きく深呼吸をして、キッと目の前の扉を見る。
ゆっくりとその扉に手を伸ばし__そして手が扉に触れる前に、扉は自らその道を開いた。
「っ!」
「そう驚かなくてもいいよ。グリーア」
「……お兄様……!」
そのだだっ広い空間の先。
そこに佇む玉座に、絶対的な力を持つ《主》は腰掛けていた。
「やあ、ひとまずは、おかえり」
「はい、ただいま戻りました。お兄様」
深く頭を下げ、少年神に向き直る。
「……お兄様……」
「分かっているよ。君がここに来た理由も、僕がどうすれば良いかも。
流石に僕も『また』世界の崩壊に巻き込まれるのは御免だからね。しかも、今回は以前みたいに生温いものじゃなさそうだ」
「……!」
やはり敵わない。
《主》は何もかも見通している。
幾らマスターの力の『一端』を借りているとはいえ、勝ち目などあるはずなかった。協力的なのが救いだ。
「ふーむ、そうだね。アッシュ、ホロウ、ダーク。行ってくれるかい?」
「勿論です。マスターの意の儘に」
「はーい、分かりましたお兄様!」
「イェス。マスター」
ほぼ同時のタイミングで、3つの返答が返ってくる。
《主》の座る玉座の背後に、先ほどまでは明らかに存在しなかった3つの人影が現れていた。
アッシュと呼ばれた女性……ヴァシュルア・シーニア。
天宮薄葉とも呼ばれる、ホロウ・イクス・アギオンス・スプンタマユ。
天宮皇影こと、グリーヴィネスダーク・イクス・アギオンス・レギオンナイト。
三人とも、ましろ達『グリーア』とは文字通り格が違う存在だ。
よもや彼女らと肩をならべるとは、昔の自分は思いもしなかっただろう。
「……そういえばグリーア。ルークは元気にしているかい?」
「あ、はい。その事でマスターから手紙を預かっているのですが……」
「ああ、これかい?」
《主》の掌には、既に数枚の紙が収まっていた。勿論全てルークからましろが預かった物だ。
《主》はその紙に一通り目を通し、そして顔色を変えた。
「これは……かなり厄介な事になりそうだね」
「あの……マスターはなんと?」
「……いや、君はまだ知る必要は無い。安心してくれ、いつか知る事になろだろう」
《主》は立ち上がり、懐から何やら宝石のような物を取り出した。あれも神器の一種なのだろうか。
「『名も無き龍神に告げよう。
幾千の呪縛は解き放たれ、今一度世界は廻り出す。
今こそその封印を解き放つ刻、我の力を以って、その瞳を開かん。
__【輪廻】__《核神》__』」
突如、宝石から光が漏れ出す。
光は徐々にその範囲を広げていき、《主》もその中に溶け込んでいく。
「僕は暫く此処を開ける。先程の三人以外はすぐに《白亜宮》を覆うように結界を張ってくれ。
《惟神》の使用も許可する。何がなんでも《白亜宮》を守れ」
『イェス、マスター』
全く同時に何十人もの声が聞こえ、同時に《主》も光に呑み込まれた。
光が収まると、そこにはもう《主》の姿は無かった。
「マスターがご自分から出られるとなると……これはかなり厄介なようですね」
「ですねー。ま、その分楽しめそうですけど」
「ホロウ姉、遊びじゃないんですよ」
「分かってますよー!」
ダークの注意に、ぶー、と頬を膨らますホロウ。
まるで緊張感が無い。これが、強者として存在する者の余裕、というものなのだろうか。
正直ましろは、いくら《白亜宮》の実力者とはいえ、今回の戦いに挑むには少々戦力が足りないと思っていた。
だからこそあの神をこちらに引き入れた訳だし、他にもまだ引き入れなければならない人員が数多く存在する。
数多の神器を使う兄妹に、全能神と呼ばれる多大な素質を持った者、世界の名を冠するAIに、喰らう神と雷皇神、そして同じく強大な素質を持った双剣使い。
正直、これでも足りるかは分からない。それ程までに、今回の終焉は《強大》で、《絶対》なのだ。
「グリーア」
「__っ!は、はい」
突如アッシュに声を掛けられ、驚きつつも返事を返す。
「今回起きる事を私達は知りません。しかし、あの青年の下にいた貴女なら知っている筈。教えて頂戴」
「あ__はい、えっと……」
ザザ__
突如、ましろのポケットからノイズ音が響いた。
「__!申し訳ありません、少しお待ち下さい」
それはアルマから預かった宝玉だ。彼の体の一部らしく、これを介して通信を行えるらしい
「はい、どうかされましたか?マスター」
『ましろ、君は今何処に居る?』
「は__?え、命じられた通り、《白亜宮》です。協力の約束は取り付けられました」
『よし、なら今すぐにそこを離れるんだ。『彼』が向かっている』
「__『彼』__?」
『今の君達ではまず勝てない。たとえ『主』だろうと、勝利することは出来ない。負ける事がなくともね。兎に角、すぐにそこを離れるんだ。いいな?』
ブツリ__
やけに慌てたような声。あのマスターがここまで慌てた様子は見た事が無い。
__兎に角、離れなければ。
「すいません、説明は後です。今すぐ此処から離れます」
「わかったわ」
「はーい」
「分かった」
普段なら絶対にあり得ないだろう光景。
一介のグリーアの指示に彼らが従うなど、珍しい光景だった。
その光景に少し違和感を覚えながら、ましろはアルマの力を介し、扉を創り出した。
四人はその扉に入り、扉はすぐに閉じて、跡形もなく消失した。
__ズブリ__
突如、扉のあった空間が暗黒に染まる。
少しずつ暗黒は広がり、全てを呑み込もうとする。
《白亜宮》が、闇に呑まれてゆく__
一つの《世界》が、闇に呑まれてゆく__
「……ちっ」
闇は全てを呑み込んだ。
闇は総てを呑み込んだ。
何もない。何も無い。なにも無い。なにもない。
「逃した……か……」
『 』は、小さく呟いた。
__此処は、世界に必要無い。
__奴らも、世界に必要無い。
世界は等しく無に帰す。その邪魔はさせてはならない。
ならば平定しよう。ならば統一しよう。
『 』は、何者も救わない__
『 』は、再び闇に消えた。
新たなる反逆の芽を、摘むために……
世界転生まで、あと68時間。
《滅びの依り代》の完成まで、あと66時間。
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