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歪みすぎた聖杯戦争

作者:無人 幻獣
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7話 普通と異常もまた紙一重

吉良煌影の家族は居ない

───五歳の時、吉良は留守番をしていた

──出かけていた父親と母親はその帰りに運転していた車の操縦を誤って電柱にぶつけてしまった

二人とも即死だったそうだ───

両親の死に吉良は───

ああ……死んだんだ───

別に二人に虐待されたわけではない、不満があったわけでもない、普通の家族だった

だが、吉良には飽きて捨てていく玩具の様にしか、感じられなかった。

そして、吉良は祖父に預けられた。

とても優しく接してくれた。

ある日家でフラフラしていると、偶然にも祖父の部屋から見つけたものがあった。

弓に使う''矢'' だ。古びていたが何かそそられる感じだった。吉良は引き寄せられるようにそれを取ろうとする。が、誤って落としてしまい、矢の切っ先を掠めてしまい、肩の部分からは血が出ていた。その時だった

───コラッ‼︎

いつも優しくしてくれた、祖父があんなにも怒声をあげるのを初めて観たのだ。
吉良は怒られるのだろうと思ったのだが
祖父は現状を判断すると、祖父はさっきの怒っていた顔は消え失せ、いつもの優しい顔とともに吉良に駆けつけてきた。

─煌影ッ! け、怪我は、何処か怪我はしなかったか⁈───

吉良は直ぐさま、さっき矢を落として、肩に怪我をしたことを説明すると、肩の怪我は不思議なことに痕も残らずに消えていた。祖父は何か悟ったような表情になると祖父はいつになく、緊迫した顔で語りかけてきた。

─この矢には 意思があるそして人を選ぶ。

子供にいきなりそんなことを言う。祖父にただただ吉良は何故か惹かれ一心に聞いていた。

──煌影についた傷は気のせいではない、きっとお主は矢に素質を認められたのじゃろう

──いずれ、いや早いうちに吉良に変化が訪れる。それは、人間を超えた力じゃ、そしてその力はこう言う

精神エネルギー 意思の力が反映されるもの即ち、スタンドと───

その出来事の後、祖父の言った通りに吉良に変化が訪れた。祖父は決して他の者にも悟られるな、その力をただ悪戯に使うなと、吉良は祖父に言われた通りにスタンドは家にいる時に、暇なときにだけ使った。そしてただ普通のこと変わりない暮らしをした。
祖父ともまるで、その時のことが、なかったかのように暮らした。

そして小学生になり──普通に暮らした。

普通の友達。

そして、平凡な、

毎日を、繰り返す。

繰り返す。

繰り返す。

そして、小学校を卒業し、中学校に入学し、中学校を卒業し、高校に入学し、高校を卒業し、祖父が亡くなって、一人暮らしを始めて只々、

繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返すく譁返す怜喧縺代すく陦遉コ縺輔返す繧九∋縺肴枚蟄励′豁」縺励返遉コ縺輔す縺ェ縺縺ィ縺ァ縺ゅk縲縺ゥ縺縺ヲ譁怜喧縺代′襍キ縺阪k縺ョ繝舌き縺ェ縺ョ縺ッ縺ィ繝す�ぅ繧ソ縺後ヰ繧ォ縺り縺」縺溘j繰返す縲√ユ繧ュ繧ケ繝医r諢丞峙縺励繰縺�枚蟄励さ繝シ縺蝣縺セ縺吶繰りơ̟̤̖̗͖͇̍͋̀͆̓́͞͡け̜ͪ̅̍̅͂͊?≫u2??±?・?????1!!繝峨〒隱ュ!????ソ霎シ繧薙□?????℡返すハクサ嵂ス、ア、キ、ニ、、、゙、ケエ蜷医↓













そんなある日夜遅くの路地に路地で観てしまった。派手なオレンジの髪の青年が、女を刺し殺していたのだ。普通そんな状況を見た人は、悲鳴をあげるか、腰を抜かすか、逃げ出すかに限る、だがそんな殺人をしている青年にこの異常者は喋りかけた。

『スゲェなあんた。楽しいのか……それは?....』

そう言われた青年は少し面を食らうと、柔かなスマイルで話した。

『それりゃ〜楽しいさ。お兄さんも一緒にどうかい?」

そんな事を受けるわけがない。普通なら、だが吉良もこの男同様に狂っていた。

『あぁそれじゃ頼むわ…』

吉良は単に人と違うすごいことをしている。そんな気分になりたいために、

『あんた名前は?』

『名前は吉良…吉良煌影』

『俺の名前は雨生龍之介、よろしくな』

そうして吉良は龍之介と一緒に行動をした。吉良は行動を共にするうちに龍之介は自分とはまた違う変わり者だと感じた。雨生龍之介はスプラッター映画を軽蔑していた。
が、そういう娯楽の必要性には、それなりに理解があった。
ホラーの分野だけではなく、戦争映画、パニック映画、さらにはただの冒険活劇やドラマ作品に至るまで、どうして虚構の娯楽というものは飽くことなく''人間の死''を描き続けるのか?
それはつまり、観客は虚構というオブラートに包んだ''死''を観察することで、死というものの恐怖を矮小化できるから、なのだろう。人間は''智''を誇り''無知''を恐れる。だからどんな恐怖の対象であれ、
それを''経験''し''理解''できたなら、それだけで恐怖は克服され理性によって征服される。
ところが、''死''ばかりは……どうあっても生きているうちに経験できる事象ではない。
したがって本当の意味で理解することもできない。
そこで仕方なく人間は、他人の死を観察することで死の本質を想像し、疑似的に体験しようとする。
さすがに文明社会においては人命が尊重されるため、疑似体験は虚構に依らざるを得ない。
が、おそらく日常茶飯事に爆撃や地雷で隣人が挽肉にされているような戦火の地においては、ホラー映画など誰も見ようとはしないのだろう。同じように、肉体的な苦痛や精神的ストレス、ありとあらゆる人生の不幸についても、虚構の娯楽は役に立つ。実際に我が身で体感するにはリスクが大きすぎるイベントであれば、それらを味わう他者を観察することで、不安を克服し解消するわけだ。
──だから銀幕やブラウン管は、悲鳴と嘆きと苦悶の涙に満ちあふれている。それはいい。理解できる。かつては龍之介も人並み以上に''死''というものが恐かった。特殊メイクの惨殺死体、赤インクの血飛沫と迫真の演技による絶叫で再現された''陳腐な死''を眺めることで死を卑近で矮小なものとして精神的に征服できるのであれば、龍之介は喜んでホラー映画の愛好家になったことだろう。ところが雨生龍之介という人物は、どうやら''死''というものの真贋を見分ける感性もまた、人並み以上に鋭かったらしい。
彼にとって虚構の恐怖は、あまりにも軽薄すぎた。プロットも、映像も、何から何まで子供だましの安易のフェイク。そこに''死の本質''なんてものは微塵も感じ取れなかった。
フィクションの残虐描写が青少年に悪影響を及ぼす、などという言論をよく見かけるが、雨生龍之介に言わせればそんなものは笑止千万な戯言だ。スプラッターホラーの血と絶叫が、せめてもう少し真に迫ったものであったなら、彼は殺人鬼になどならずに済んだのかもしれないのだから。それはただ、ただひたすらに切実な好奇心の結果だった。龍之介はどうあっても''死''について知りたかった。
動脈出血の鮮やかな赤色、腹腔の内側にあるモノの手触りと温度。
それらを引きずり出されて死に至るまでに、犠牲者が感じる苦痛と、それが奏でる絶叫の音色。
何もかも本物に勝るものはなかった。殺人は罪だと人は言う。だが考えてみるがいい。
この地球上には五十億人以上もの人間が犇めいているそうではないか。
それがどれほど途方もない数字なのか、龍之介はよく知っている。
子供の頃に公園で砂利の数を数えたことがあるからだ。たしか一万個かそこいからで挫折したが、あのときの徒労感は忘れようがない。人の命はその五十万倍。しかもそれが毎日、これまた何万という単位で生まれたり死んだりしているという。龍之介の手になる殺人など、一体どれほどの重みがあるというのか。それに龍之介は、人ひとりを殺すとなればその人物の死を徹底的に堪能し尽くす。
ときには絶命させるまで半日以上も''死に至る過程''を愉しむこともある。
その刺激と経験、一人の死がもたらす情報量は、取るに足らないひとつの命を生かし続けておくよりも、よほど得るところが大きかった。それを考えれば、雨生龍之介による殺人はむしろ生産的な行為と言えるのではないのか。そういう信条で、龍之介は殺人に殺人を重ねながら各地を転々と渡り歩いた。法の裁きは恐くなかった。手錠をかけられ虜囚となる感覚は──実際に何人かそういう目に遭わせた末に──恐れるまでもない程度にきちんと''理解''できていたし、絞首刑も電気椅子も、どんな結末に到るものなのかは充分に''観察済み''だった。それでも彼が司直の追跡から逃れ続けている理由はといえば、ただ単に、自由と生命を手放してまで刑務所に行ったところで得る物など何もないからであり、それならより享楽的に日々の暮らしを楽しむ方が、ポジティブで健康な、人として正しい生き方であろうと思っていたからだ。彼は殺す相手の生命力、人生への未練、怒りや執着といった感情を、ありったけ絞り出して堪能する。犠牲者たちが死に至るまでの時間のうちに見せる末期の様相は、それ自体が彼らの人生の縮図とも言える濃厚で意味深長なものばかりだった。なんの変哲もない人間が死に際に奇態な行動を見せたり、また逆に、変わり種に思えた入間が凡庸きわまりない死に方をした。──そういった数多の人間模様を観察してきた龍之介は、死を探求し、死に精通するのと同時に、死の裏返しである生についてもまた多くを学ぶようになっていた。彼は人を殺せば殺すほど、殺した数だけの人生について理解を深めるようになっていた。
知っているという事、弁えているという事は、それ自体が一種の威厳と風格をもたらす。
そういった、自分自身に備わった人間力について、龍之介は正確に説明できるほどの語彙を持ち合わせていなかったが──強いて要約するならば、''COOLである''という表現がすべてを語る。
喩えて言うならば、小洒落たバーやクラブに通うようなものだ。そういう遊び場に慣れていないうちは空気が読めずに浮いてしまうし、愉しみ方もわからない。だが場数を踏んで立ち振る舞いのルールを身につけるようになっていけば、それだけ店の常連として歓迎され、雰囲気に馴染んでその場の空気を支配できるようになる。それがつまりCOOLな生き様、というものだ。
言うなれば龍之介は、人の生命というスツールの座り心地に慣れ親んだ、生粋の遊び人だった。
そうして彼は新手のカクテルを賞味するような感覚で次々と犠牲者を物色し、その味わいを心ゆくまで堪能した。実際に比喩でも何でもなく、夜の街の享楽では、龍之介はまるで誘蛾灯が羽虫を引き寄せるかの如く、異性からの関心を惹いた。
酒脱で剽軽、そのくせどこか謎めいた居住まいから晒し出す余裕と威厳は、まぎれもない魅力となって女たちを惑わした。そういう蠱惑の成果を、彼はいつでも酒の肴の感覚で愉しんだし、本当に気に入った女の子については、血みどろの肉塊にしてしまうほど深い仲になることもしばしばだった。
夜の街はいつでも龍之介の狩り場だったし、獲物たちは決定的な瞬間まで捕食者である龍之介の脅威に気付くかなかった。あるとき、彼は動物番組で豹を見て、その優雅な身のこなしに魅せられた。
鮮やかな狩りの手口には親近感さえ覚えた。豹という獣は、あらゆる意味で彼の規範になるCOOLな生物だった。それ以来、龍之介は豹のイメージを自意識として持ち合わせるようになった。
つねに衣服のどこかには豹柄をあしらった。ジャケットやパンツ、靴や帽子、それが派手すぎるようなら靴下や下着、ハンカチや手袋の場合もあった。琥珀色の猫目石の指輪は、中指に嵌めないときでも常にポケットに入れておき、本物の豹の牙で作ったペンダントも肌身離さず持ち歩いた。
さて、そんな雨生龍之介という殺人鬼は、つい最近まで''モチベーションの低下''という由々しき事態に悩まされていた。かれこれ三十人あまりの犠牲者を餌食にしてきた彼だったが、ここにきて処刑や拷問の手口が、似たり寄ったりの新鮮味に欠けるものになってきたのである。すでに思いつく限りの手法を試し尽くしてしまった龍之介は、どんな獲物を嬲り、断末魔を見届けるのにも、もう以前ほどの感動や興奮を味わえなくなっていた。一つ原点に立ち戻ろうと思い立った龍之介はかれこれ五年ぶりになる実家に吉良と一緒に帰省し、両親が寝静まった深夜になってから裏庭にある土蔵に二人は踏み込んだ。

『龍之介…これが言ってた奴?』

吉良が指を差したそこにはミイラ化し、もはや誰かもわからない死体があった。

『あぁ〜、そっ、これがそうだよ。』

彼が最初の犠牲者を隠匿したのが、もはや家人たちにすら放棄されていた、その崩れかけの土層の中だったその死体こそ姉だった。五年ぶりに再会した姉は、姿形こそ変わり果てていたが、それでも龍之介が隠したそのままの場所で弟を待っていた。物言わぬ姉との対面は、しかし、これといった感慨ももたらさず、龍之介は無駄足だったかと落胆しかけたが、そのとき──

『龍之介この書物見てみなよ。』

吉良が蔵に詰め込まれたガラクタの山の中から、一冊の朽ちかけた古書を渡してきたのだ。薄い和綴じの、虫食いだらけのその本は、刷り物ではなく個人の手記だった。奥付には慶応二年とある。今から百年以上も昔、幕末期に記されたことになる。たまたま学生時代に漢書を齧ったことのある龍之介にとって、その手記を読み解くこと自体には何の苦もなかった。──が、その内容は理解に苦しんだ。細い筆文字で、とりとめもなく書き綴られていたのは、妖術がどうのという表記が散見されるあたり、どうやら西洋オカルトに関する記述らしい。異世界の悪魔に人身御供を捧げて式神を呼び出し云々というのだからもうまるっきり伝奇小説の世界である。吉良のスタンドだか超能力だかなら教えてもらっていたが、これはまた違う何故なら江戸の末期という時代において蘭学は異端ジャンル。その異端の中でもさらに最異端であるオカルトの書物となると、吉良の不思議な能力を目にして信じてもこれは少々度が過ぎている感もあったのだ。が、どのみち龍之介にとって、その本の記述の信憑性などは最初からどうでもいい事柄だった。実家の土蔵から出てきたオカルトの古書というだけで、すでに充分COOLでFUNKYである。
殺人鬼が新たなるインスピレーションを得るには充分な刺激だったのだ。
さっそく龍之介は手記いあった。''霊脈の地''とされる場所に拠点を移し、夜の渉猟を再開した。
現代では冬木市と呼ばれるその土地に一体どういう意味があるのかは知らなかったが、龍之介は新たな殺人について吉良に雰囲気作りに重点を置くという方針で、極力、和綴じの古書の記述を忠実に再現しようと努めた。
まず最初に、夜遊び中の家出娘を深夜の廃工場で生贄にしてみたところ、これが予想以上に刺激的で面白い。まだ未経験だった儀式殺人というスタイルは、完全に龍之介を虜にした。病みつきになった彼は第二、第三の犯行を矢継ぎ早に繰り返し、吉良も次の四度目の犯行で殺ってみることになった。
そうして平和な地方都市を恐怖のどん底に叩き落とした。
そして四度目の犯行で夢にも思わなかった事が起きてしまった。魔法陣から現れた道化師の姿をしたそいつは吉良のことをマスターと言い、何も知らない俺たちに聖杯戦争を説明してくれた。そして、お近づきに用意した子供をどうぞと渡すと、魔術の証拠を見せようと悪知恵の笑みを浮かべて子供に近づく、そして道化師は何か呟くと子どものロープと猿轡を優しく解く。

『いいかい坊や? 今から僕ちんから逃げだせたら見逃してあげるよ〜』

子供は道化師に怯えている様子で言葉を聞いてるか怪しい状態だったが、そののまま立ち上がり、両親と姉の死体には目もくれず、血まみれのリビングを横断する。扉の外の廊下には、二階へ上がる階段と玄関。そこまで行けば彼は殺人鬼の手から逃れ、生き延びることが叶うだろう。

『おい、キャスター..』

何をするかもわからないキャスターに少し焦れったい吉良は声をかけたが、キャスターは素早く手で遮って制止した。勢いに呑まれた吉良は気を揉みながらも為す術もなく、
逃げていく子供の背中を見送るしかない。少年がドアを開け、廊下に出る。目の前には玄関の扉。
さっきまで恐怖の色だけに塗り込められた瞳が、そのとき、ようやく安堵と希望で輝きを取り戻す。
次の刹那に、クライマックスは待ち受けていた。陽の光を浴びた手先から灰色に変化していく。
その状況に絶叫する暇もなくみるみる人しての形を失っていく。そして泥人形の様に崩れていく。
最後には魂消る絶叫。
残ったのは服と灰の残り滓だけが、子供がそこにさっきまで居たと実感させていた。
これが、キャスターと彼等の邂逅の瞬間だった。


 
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