戦闘城塞エヴァンゲリオン
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第2話Bパート『ウィル子は神になります!!』
◇ ◇ 1 ◇ ◇
事態は収束したものの、いまだ住民避難は解除されておらず。
瓦礫の撤去がすすみ、展開していた国連・戦略自衛隊の部隊も順に撤収している。
第三新東京市ローカルテレビでは被害状況の速報など特別番組が放送されていたが、
日付がかわって、午前0時。ようやく通常番組に戻った。
もっとも、もとより地方の報道系番組なのだが。
しかしこの番組、多重放送で同時にまったく別内容が流されている。
一般視聴者にはその存在自体が知られていないが、デジタル放送受信用のICカードを専用のものに差し替えればどんなTVでも視聴可能だ。
この裏番組名は、“今日の聖魔杯”。
聖魔杯参加者、関係者に向けた番組である。
軽やかなジングルを響かせ、番組コールが流れる。
「はいっ!はじまりましたー!“今日の聖魔杯”、記念すべき第1回放送です。司会を務めますのはみんなのアイドル、カッコちゃんことVZですっ」
「…解説担当のリップルラップルなの。自称アイドルとは片腹痛いの。」
眼鏡にメイド服の美少女がノリよく言うと、隣に座る5、6歳の女の子がぼそりとしかし通る声でつづける。
「なになにー、ちょっと何言ってるのか、よくわかりませんねー」
「自覚なしの魔人には無関係な話なの。構わず司会を続けるといいの。」
「…。昨日深夜12時、ついに本大会がはじまりましたっ!これまでに数回臨時放送してきた“プレ・今日の聖魔杯(仮)”、からも“プレ・”と“(仮)”が取れ、司会者もワタシに決定しました。投票してくれた皆っ!ありがとー」
「出たがり共を蹴散らしたその上に我々は立っているの。死して屍拾う者なしなの」
「ではそろそろ、今日の状況を振り返ってみましょー」
「残り参加者は1505組なの。一日目の敗退者はたった7組なの。とんだ腰抜けどもなの」
「いえいえ今日は、突発の小大会も行われましたし、積極的に勝負できる状況ではなかったのでは?」
「小大会での失格者は0なの。ほとんどはシェルターで震えてたチキンでしかないの」
「いや、今回の小大会ルールだと失格は市外退避と死亡だけなんですが…。
ええその小大会なんですが、参加者は全体の約1割、308人!その全員が地上で無事生き抜き、賞金総額は一日でなんと3000万チケット以上っ!!」
「個々でみればペアで20万チケットに過ぎないの。
本当に腕に自信があるなら、センタービル名物地下ダンジョンに挑むといいの。
アイアンゴーレムの1匹も倒せば余裕でおつりがくるの。あと珍しいスライムがいたら捕獲するといいの。個人的に引き取るの」
脱線し始めた話題を引き戻そうとする眼鏡の美少女。
「えー、そんな生存優先と思われる中!なんと使徒撃退に成功した参加者がいました!
受付最終日に会場入りした、ヒデオ&ウィル子ペア!
なんとなんと巨大ロボットを繰り出しガチの戦闘の末、見事な大勝利!」
やや粗い画像ながら、エヴァンゲリオンと使徒との戦闘の映像が流れる。
「足元がよたついてるの。生まれたての仔馬と違ってらぶりーではないの。無様ねなの」
「おーっ投げた投げた。強いぞっ。あと乗ってる人間もロボも人相悪いぞっ」
「大会本部から10勝が贈られたの。敗北者数以上の勝ち数だから、圧倒的一位なの」
ワイプで抜かれた二人のコメント。
映像が終わり、スタジオの画に戻る。
「いやいやまさか!巨大ロボットのパイロットなんていう人間が参加しているとはっ。
これからの聖魔杯の勝負でもロボット付きで戦闘するんでしょうか!?
参加者のみなさんは要注意ですよっ」
「でも情報によれば、ロボットに乗ったのはこれが初めてらしいの。
映像でも不慣れ感満載だったの」
「えー、いや確かに最初はそうでしたがっ。
最後とか凄かったですよ!?」
「まぐれか、なんらかのトリックなの」
「…おいこら、番組盛り上げる気あんのかっ、ぁあ!?
…。みなさま、番組内で不適切な発言があったようです。失礼しました。」
卓をたたいて言ってから、画面に向き直りにっこり。
「じゃ、彼は何者だと?」
「ぶっちゃけヒキコかニートなの。
あるいは内罰症の中二なの」
「いやどう見ても中学生の年齢ではないですが?」
「今のはちょっとした電波の混信なの。てへぺろ、なの」
「…ホントに、やる気あるっ!?」
「ぶっちゃけ皆無なの」
「にゃーっ!今日こそ覚悟しやがれーっ!」
椅子を蹴って立ち上がり、いつの間にか何処からともなく細身の剣がその手に現れていた。
「面白いの。久しぶりにわたしのミズノに魔人の血を吸わせてやるの」
一方の少女の手にも、身長に見合わない金属バットがあった。
ガキンガキンと金属同士がぶつかり合い火花を散らす。
騒々しい音に動揺するでもなく、番組アシスタントらしきメイド服の女性が一枚のフリップを持って、てこてこ歩いてフレームインする。
フリップには、大きく『放送事故』の四文字。
この日の放送は、第三新東京市ローカルテレビ史上最高視聴率を叩き出し、多重放送の事実を知らないテレビ関係者を大いに困惑させたという。
◇ ◇ 2 ◇ ◇
翌朝。もう日は高いが。
葛城ミサトは昨夜の戦闘の残務処理に追われていた。平素であれば適当な部下に丸投げして、「部下を巧く使ってこその指揮官よん」と悪びれもしないが。その部下たちも初めての実戦で、他人の仕事までこなすような余裕などない。そもそも責任者クラスが目を通し押印しなければならない書類は多い。
「避難誘導はどうなってたのよっ」
一枚の書類に目を通していたミサトは呻いた。戦闘に巻き込まれた市民の被害状況報告だった。
途中経過だが3百数十人の負傷者を出しており、全体ではまだ数が膨らみそうだ。愚痴っても仕方のないことではあるが。
国連軍が指揮権を持っていた間、本来あるべき市民の安全が重視される方針は取られなかった。国連軍の多くの人間にとって所詮は他国民だから。
戦略自衛隊は、第三新東京市においては十分な権限を持たなかった。ここは国連軍の縄張りだ。
そしてネルフは未だ、実戦経験が圧倒的に不足していた。
縄張り争い、主導権の奪い合い。それが市民のシェルターへの避難を完全なものとせず、彼らの命を危機に晒したのだ。
「昨夜の戦闘の被害者は最終的には500人近くに上る予想よ。」
赤木リツコ試算結果をもたらす。
その数にもかかわらず、
「死亡者0、重傷者でも10人に満たず。ほとんどが軽傷。」
「あれだけのことがあって?」
およそ有り得ないことだ。
病院での聞き取りでは、危ないところを何者かに助けられたとの証言が多く見られた。
正規の部隊によるものではない。そして、どうにも情報は一定しない。
十手持ちの女性警察官に助けられた。あるいは軍用犬を連れた老軍人に助けられた。といった証言は百歩譲ってまだいい。
一方は何といっても軍人だし、警棒のような装備を持った女性軍人だって居るだろう。
変わった所だと
閃光とともに駆けつけた魔法少女に危ないところを救われただとか。
昔懐かしい、宇宙刑事な特撮ヒーローに助けられたとか。
一軒だけ営業しているレストランに逃げ込んだところ、
そこで出会った埴輪に助けてもらった。だとか。
幻覚作用のガスでも撒かれていたのではあるまいか。
そう疑うのも無理はないぐらいのカッ飛んだ内容。
さすがのミサトも、親友に対し「これ、本当?」とは、聞かなかった。
「ところでサード…、ヒデオ君から内線電話で連絡があったわ。」
昨夜の戦闘後、彼にはいったん施設内の仮眠室で休んでもらった。
戦闘後の簡単な検査は受けてもらったが、病院に担ぎ込むほどのこともなし。
もう遅い時刻だった上に非常時で一切の交通機関も動いていない。
朝、起きてから適当な時間に連絡して。と伝えておいた。
「てか、そう言ったのは私なんですけど?
なんでリツコに連絡が行くわけ?」
「責任者に伝えられさえすればいいと思ったようね?
前から思ってたけど、ミサトは主語や目的語を明確にして話すべきね。行き違いの元よ」
恨みがましい目で、見られる。
「帰る、そうよ。」
リツコが端的に、彼の言ったとおりに伝えると。ばっと立ち上がり、さっさと歩き出す。
思ったとおりだが、ちょうど書類を持って来た彼女の副官に、「後、よろしくー」と肩をぽんと叩いて。
何を言う間もなく、言っても聞かないだろうが。ミサトの後姿は消えていた。
一人残された眼鏡の青年副官と、目も合わせずリツコもそこを後にした。
◇ ◇ 3 ◇ ◇
朝のやや遅い時間に、赤木博士に電話を入れるとやって来たのは葛城ミサトだった。
常には無いぐらいに遅い時刻に起床し、まあ昨日は完徹明けから始まり遅くまで神経を使う仕事だったからと、ひとり誰に聞かせるでもないセルフ言い訳を考えていた。
「えーと、帰るって聞いたんだけど?」
顔を合わせるとミサトはそのようなことを聞いてきた。
「はい、アパートに。バスも地下鉄も動いてないそうなので。できれば、送ってもらえれば。と」
気まずそうに、彼女が何か気遣わしげにしている。
「帰ってもらうと拙いのよね。というのも、使徒はあの一体だけではなくて。まだ来るらしいのよ。だから…」
やっと理解できて。
新東京…第二新東京の、アパートに帰ると。そう言っていると誤解されたらしい。
「アパート。というのは第三新東京市の新居のことで」
「は?」と怪訝な顔をされる。たしかに、突然呼び出されてのこのこやって来たばかりで、既に此方に居を構えているとは思うまい。
「既に入居手続きを済ませた部屋が。生活必需品の買い込みぐらいは。早めに済ませたいのですが。」
とにかく、これからもエヴァンゲリオンのパイロットを続けて欲しいくらいのことはわかっていることと、第三新東京市を離れるつもりがないことを伝える。大いに安堵した表情をした彼女に、送らせるのもどうかと感じ始めていた。
夜が明けたことで避難指示の解除もされたし、タクシーの一台も捕まるだろう、懐は痛むが。
そう言って、地上都市への経路を歩き出した。事前に贈られてきた手紙に挟まれていた写真付きICカードを使えば施設内外の出入りができることはわかっていたし。
彼女は、しかし疑問が解消しないのだろう。並んで歩き、引越しの経緯を訊こうとしてくる。
聖魔杯について、説明するつもりもない。かといってあからさまな嘘をつくのもどうかと。
正直うざったく感じ始めていたころ、地上に出た。
「お待たせっ。ヒデオくん?」
一台の外車が停車し、助手席から声がかけられる
デイムラー・ダブルシックスか、いい車に乗ってるわね。これはミサトの感想だが、
セカンドインパクト前に生産終了した高級車に乗る2人は、それに似つかわしくない、まだ若い男女だった。
「…迎えが来たようなので。これで」
「ってか、こっちに知り合いとか、居たんだ!?」
一瞬、車に目を奪われたミサトを尻目に、ヒデオは後部座席に乗り込むとドアはバタンと閉じた。
早々に走り出す車。
「乗ってもらえるとは、思わなかった。嬉しいわ」
助手席からバックミラー越しに眺める。眼鏡にショートカットの女性。
「…まさに、まさかだ。豪胆なヤツだな。川村」
運転席の青年が感心したようにつぶやく。明るい色の茶髪、シルバーアクセで飾られた、軽薄そうにも感じられる青年だが、表情は鋭い。
「アパートまで。送ってもらえると助かる」
遠慮なく座席に深く身体を沈みこませ、けだるげに。
しかしこの二人とは。まったくの初対面だった。
「いいわよ。でも送る途中、ちょっと話を訊かせて貰えないかしら」
にこにこ。
「ええ、それは。」
話を聞かせるぐらいは。どうということもない。しかし。
「それは、参加者として、でしょうか。それとも、仕事で。」
カマをかけたに過ぎない。淡々と尋ねる。そもそもそれらしい演技とかできないし。
運転席の青年が、ぎくりと反応したのが分かった。
ところが助手席の女性は、一切その笑顔を崩すことなく。
ああ、成る程。強敵だ。
とりあえず、戦闘能力が高いと思われるのは青年のほう。安いカマかけにひっかかるようではまだまだ迂闊だが。
所作のひとつひとつに隙がない、指先まで神経が通っているようなイメージ。
女性のほうは、戦闘能力は不明。まあ、誰がどんな力を秘めているか。分からない大会だ。
一切ぶれることのない笑顔も。万人を騙し通しそうな魅力的な笑みだが、これは違うものだ。ヒデオにはそんな風に思える。
巧くお互いを補い合ったらと考えると。付け入る隙は、何処だ。
彼らが知りたいのはネルフについての情報であった。
教えてほしいと直接的に訊かれた。無用な腹の探り合いにならないようにということだろう。
戦闘に参加したパイロットが聖魔杯参加者と知って接触を図ってみたということだが。
まあ、答えられる情報など僅かなものだ。
エヴァについては機密情報だろうし、本部内で見聞きしたことは外で喋らないようにと一通りの口止めはされている。
そう断ってから、第三新東京市に呼ばれた経緯を簡単に説明する。
パイロットの適正ありと判明して、父親から手紙で呼び出されたこと。それまでネルフやエヴァに関わりを持っていなかったこと。
「結局、大した情報はないってことか」
「期待には。添えないようだ」
アパートまでは大した距離はなく、自動車を使えばほんの10数分だった。
「ねえ…」
車を降りたところで、眼鏡の女性の方に見つめられる。
「勝負しない?」
「…勝負方法は、何で?」
聖魔杯参加者同士ならば。出遭った以上、積極的に勝負を挑んでいくべきで。
「名前当て、ってどうかしら?時間内に私たちの名前を当てられればあなたの勝ち。
通常ならお互いの本名を探り合うとかになるでしょうけど、こちらは事前に調査する時間があった。
対して、あなたにはそんな時間がなかったから」
「良いでしょう。勝負を」
勝負成立――
「ウィル子」
「はい。マスターっ!」
姿を現すウィル子に、青年は驚くが。
「よろしくね。ウィル子ちゃん」
平然と声をかける女性。
「にひひっ。この人たちの名前は…」
「偽名だ」
「は?(゚Д゚)」
ウィル子の顔芸は置いといて。
彼らの参加登録名は、高山と白鳥とのことだが。
「参加者名簿を調べて分かるなら、そんな勝負はしかけない」
「じゃ、どうして勝負なんて受けたのですかー」
誰かの顔写真などからその人の氏名を割り出すのは難しい。逆なら、名前から顔写真を探すのは簡単にできる。インターネットの画像検索など方法は多い。
警察のシステムなどなら、防犯カメラの映像から抽出した顔画像を元に犯罪者データベースと照合することもできるが。
当然、彼らも犯罪歴などないだろう。
なお、白鳥という登録名の青年の方の種族は魔人とのことだが。それも本当かどうか。
ウィル子に政府関連のデータベースに侵入し、ある組織の情報を確認するように指示した。
すっと掻き消える少女の姿に。
「どう、わかりそうかしら?」
「ええ、それは。まあ、五分五分といったところかと」
焦ったところでどうもできないので、車体にもたれ掛かってゆったりと返す。
「何故、聖魔杯に参加を?」
想像通りなら、聖魔王の座に興味があるとも思えないが。
「それもヒントになりそうだけど…。そうね、知り合いに誘われたから。かしら」
「そんなに暇じゃないと一旦は断ったんだがな」
では、なぜ。
「別の知り合いが、いつの間にか無断で参加しててな。」
「わざわざそれを追いかけて?」
「知らない奴とペアを組んでたのが、気に食わないようで…。いやスマン。忘れろ」
女性の方をチラリと見て言葉を濁す。彼女は相変わらず笑顔で、にこにこにこにこ。
…これ以上突っ込んで訊くこともあるまい。
「お前らこそ、何故なんだ。目的は?川村」
「…僕は、」
言いよどむ。と、
「ウィル子は神になります!!」
「カミ?…また、ずいぶんデカい夢だな」
突如姿があらわしたウィル子が宣言し、青年を、そしてその場の全員を驚かせる。
もっとも、ヒデオはリアクションが乏しく、眼鏡の女性も常の笑みを崩さず。
わずかに目を見開いた気がしたが。
「ウィル子」
「にひひひっ。ビンゴだったのですよーっ」
首尾を確認すると、現実空間にウィンドウを開いて、データを表示してみせる。
二人の対戦相手にも、そこに書かれた情報は見えただろう。
「関東機関、飛騨局長ですね。飛騨真琴さん。
それに機関のエージェント、香良洲菊人氏」
「参ったな。俺たちの敗けだ。何故ばれた?」
むしろ楽しそうに。
「政府の下部組織であろうことはすぐに分かりました。ネルフを調べたいとのことであれば。
それがどこなのかが問題であり。
もうひとつのヒントは、聖魔杯の参加者であるということ。」
人間外がこの世界に存在していることを知る者は少ないのではと思う。ネルフで確認した限りではあるが、葛城ミサトも赤木リツコもそういった存在について想像したこともない。と見えた。国連の秘密組織の幹部ですらそうだ。
結論、人外の存在に通じた特殊な組織。その条件で探ってみると、候補は絞られた。
宮内庁に存在するという“神霊班”なる部署、そして警察庁内の同音異字の“心霊班”。――これらは潜入捜査を行うような所員をもつところではないようで。念のため確認できる範囲で所員リストを当たったが、目の前の二人とは合致せず。警察庁心霊班の北大路なる所員は聖魔杯参加者と合致したが彼らとは無関係だ。
自衛隊内にも特殊な部隊が最近創設されたようだが、対モンスター部隊との表現も使われており。完全に一兵科にすぎないようだった。
最後に残ったのが、“関東機関”。第二次世界大戦当時の軍部が秘密裏に開発していた技術を継承している独立組織だとか。非人道的な側面をもつ技術であるとして廃止に向かっていたようだが、セカンドインパクトを契機に再度拡大し、現在では軍や政府諜報機関との癒着も見られるとか。最も今回の要件に近い。
突っ込んで調べていくと、機関の最高責任者、“局長”と10人を定員とする最高実力者、Eナンバーと呼ばれるエージェントたちについてのみ殆ど情報が開示されていない。
十中八九、この中の誰かだ。
あとは過去の事件・事故の情報から彼らが関係していそうな情報を洗いざらい調べれば、性別や年齢など容姿から判別は可能だった。
もちろん、電子ウイルスの精霊という特殊な存在であるからこそ、この短時間でそこまで迫ることができたのだが。
“飛騨真琴”、関東機関局長をつとめる才女。
そして“香良洲菊人”、導化猟兵と呼ばれる人間兵器、関東機関の最強のエージェント。E1。
「これから、どうするのです」
「聖魔杯からは脱落だが、仕事は継続するからな」
「伝手を頼って、いずれかの陣営に潜り込むわ」
陣営?訊くと、聖魔杯の関係者・参加者の中でもいくつかの陣営が存在するとか。
現聖魔王とされる大会主催者、スポンサーとなっている魔殺商会グループ、都市経済に喰い込んでいるというエリーゼ興業。
他国の関東機関同様の対魔組織などに属する参加者グループもあるらしい。
「また、逢う機会もあるでしょう」そういって彼らは、敗退者手続きを行うためセンタービルに向かって去っていった。
聖魔杯は始まったばかりだ。
10勝に、新たに1勝をプラスして。ヒデオとウィル子は、新居となったアパートに、帰宅した。
[続く]
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