蜃気楼
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3部分:第三章
第三章
小さな集落もあった。その集落にはだ。
人がいた。そのうえで彼等を見てだ。現地の言葉で尋ねてきたのである。
「あの、あんた達は」
「俺達かい?実は」
浩昭がだ。その現地の人に対して話すのだった。
「遭難してたんだよ」
「乗ってた飛行機が墜落してね」
麻耶も話す。
「それでなんだよ」
「何とかここまで来たんだ」
「おお、それは大変だったねえ」
現地の人はそれを聞いて同情する声で述べてきた。
「けれど何とかここまで来たんだね」8
「本当に何とかな」
「助かったよ」
「いや、よかったよ」
現地の人は二人の話を聞いて述べた。
「本当にね。生きていてね」
「ああ、それでな」
「ちょっと連絡したいけれど」
日本の大使館にである。そこに連絡をすれば何とかなるからだ。確かに問題のある外務省だがそれでも大使館の存在は有り難いのだ。
それでだ。あらためて話す二人だった。
「いいかい?電話あるかい?」
「それは」
「あるよ」
あっさりと答えた現地の人だった。
「じゃあ使うんだね、その電話を」
「ああ、そうさせてもらう」
「早速な」
「わかったよ。それにしてもあんた達運がいいね」
現地の人はここでこう話したのだった。
「砂漠からこの村まで来られるなんてね」
「ああ、広い砂漠だよな」
「まるで海だったよ」
「この辺りで村はここだけだよ」
現地の人はこのことも話す。
「他にはないからな」
「このオアシスだけか」
「じゃあ本当にここに辿り着けなかったら」
「死んでたね」
最悪の事態をだ。あっさりと話す現地の人だった。
「そういう意味でも運がよかったよ」
「そうだな。これはな」
「蜃気楼のお陰ですね」
二人はそのことを実感したのだった。話をしているうちにだ。
「あの蜃気楼に向かっていなかったら」
「どうなっていたか」
「蜃気楼って?」
現地の人は二人のその言葉にふと目を止めた。
そうしてだ。二人にあらためて尋ねるのだった。
「蜃気楼がどうしたってんだい?」
「いや、こっちの話だよ」
「俺達だけのな」
「ふうん。何かわからないけれど」
それでもだとだ。現地の人は話すのだった。
「あんた達が助かったのは確かだな」
「ああ。人間何に助けられるかな」
「本当にわからないな」
ほっとした顔で話す二人だった。そうなったのである。
何はともあれ二人は助かった。だが砂漠の幻にしか過ぎないその蜃気楼に導かれる形で助かったことはだ。言っても殆どの人間が信じてくれなかった。しかし二人にとってはそれが真実だった。砂漠の幻に助けられたことはだ。
蜃気楼 完
2011・3・22
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