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幻聴

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幻聴

 
前書き
サークルの企画の為に執筆しました。
最初の一文がその企画「ある一文から連想して物語を作る」の一文になります。


 

 
 音がした、気がした。
 第三艦隊秘書艦「赤城」から提出された報告書を読んでいる時、微かにブゥンと言うプロペラ音が聞こえ、思わず窓から空を見上げる。
 私の行動に疑問を覚えたのか、隣の机で艦娘たちからの陳情などが書かれた書類をまとめている加賀が私の方を向いて、首を傾げた。

 「何かありましたか?」
 「いや、音がした気がしてな」
 「音?」
 「ああ、プロペラ音がな、聞こえて来たんだ」
 「プロペラ音……と言うと艦載機かしら」

 このラバウル基地でプロペラ音を発するのは正規空母、軽空母、水上機母艦などの艦娘が搭載する艦載機や水上機な物だ。

 「今日は遠征組以外は休みのはずだから、誰かが艦載機を飛ばすと言うのは考えられないな」
 「飛行場勤務の子達は?」

 このラバウル基地には私の趣味で作られた飛行場があり、そこに機種転換などで使われなくなった九六艦戦や零戦(二一型、五二型)、艦攻、艦爆が配置され、基地の防空を担っている。

 「可能性はあるな。機種転換でお役御免の所、飛行場勤務で基地の防空を担ってくれって言ったら喜んでいたからな」

 深海棲艦との戦いが激化し、敵の艦載機の性能も高くなってきた為、新型機にどんどんと機種転換していくこととなり、今まで艦隊の上空を守り、敵艦を葬ってきた妖精たちはお役御免と言う事になってきたのだ。
 普通の所ならば解体して資材にするところ、無類の日本機好きの私は作ったはいいものの、所属させる余裕のなかった飛行場に目をつけ、そこに配属したのだ。

 「少し見てくるから、書類は私の机に置いておいてくれ」
 「……提督一人で出歩くのは基地内とは言え、感心しないのだけれど」

 息抜きがてら飛行場の様子を見に行こうとした私を軽く睨んで加賀はそう言う。
 心配してくれているのはよく分かるが、偶には息抜き位したくなる。
 そう思って、加賀を見つめると、ほんの少し頬を赤らめて目を逸らした。

 「……はぁ、分かりました。あまり遅くならないでくださいね」
 「ああ、じゃあ行ってくるよ」

 加賀からのお許しが出たところで私は椅子から立ち上がり、服を整え、帽子を被りなおすと執務室から外へ出た。



 執務室がある棟から歩いて五分位の所に飛行場はある。
 飛行場には航空機を仕舞う為のハンガー(大きさは妖精サイズなので私の身長の約半分くらいの大きさ)がある。

 「どうなさったのですか、提督殿」

 誰も飛行訓練をしていないと言う事を確認し、用件が終わったので点検中の零戦を見ていると、不意に声を掛けられた。
 後ろを振り向くとそこには陸軍の制服を着た少女「あきつ丸」が立っていた。

 「おお、あきつ丸か。いや、誰かが飛行訓練をしているんじゃないかと思って、来てみたわけだが誰も飛んでいなかったから、暇になってな」
 「そうだったのでありますか」
 「それであきつ丸はどうしたんだ?」
 「自分はカ号の調子が悪くて、直してもらったので飛行場を借りて飛行訓練をしようと思っていたのであります」
 「そうか」

 そう言うとあきつ丸は私に軽く頭を下げて、飛行場の真ん中へ歩いて行った。
 その後ろ姿を私は見送り、空を仰ぐ

 「あのプロペラ音はなんだったんだろうな」

 軽く体を伸ばし、執務室へ戻ろうとした私の耳にまたぶぅんと言う音が聞こえてきた。
 驚いてあきつ丸の方を向くが、あきつ丸の方から聞こえてくるのはヘリコプターに似た音しか聞こえてこない。

 「空からか……?」

 先ほども確認して何もなかった空をもう一度確認すべく空を見上げる。

 「!!?」

 そして、零戦が編隊を組んで飛んでいるのを見て絶句した。

 (何故こんな所に零戦が!?誰も飛ばしていないのに)

 よく見てみると先頭の零戦の垂直尾翼部分に『I-102』と書かれている。

 (あ、あの機体……もしかして『零戦虎徹』と言われたエース、岩本徹三!!?どういう事だ!?)

 夢じゃないかと思い、慌てて目をこする。
 だが、夢ではなく、岩本機を先頭とする編隊はゆっくりと飛んでいた。
 何となく帽子を取り、思い切り振ると零戦の編隊が大きくロールし、低空に侵入、俺の目の前を通り過ぎていく。
 その時、コックピットの中で岩本徹三らしき人物が俺に手を振り、そのまま急上昇し雲の向こうへと飛んで行った。

 「夢、なのだろうか………」

 先ほど自分で確かめたのに、信じられない。
 私は呆然と零戦の編隊が消えた空をあきつ丸に揺さぶられるまで見つめ続けていたのだった。



 「全く帰ってこないと思ったら、ずっと呆けていたんですか」

 執務室に戻ると「この忙しい中長時間開けやがって」と言う艦娘たちからの非難の視線を受けながら加賀の説教を受けていた。

 「まあ、いいです。貴方が作ったシステムで書類作業に割かれる時間は少なくなっているのだから、早く終わらせてください」

 そう言うと、着任した時よりもはるかに数の少ない書類を私の机に置いた。
 痺れる足をさすりながら私はペンを走らせた。
 さて、先程見た物を甘味を食べながら彼女たちに話して見ようか。
 どういう反応を取るか楽しみだな。
 特に瑞鶴は岩本さんと関わりがあるからな。
 さあ、張り切って書類を終わらせようか。




―エピローグ―

 「岩本さんを見た?」

 たまたま瑞鶴と一緒の席になった俺は昼間見た光景を話して見た。

 「そんな馬鹿な事がある訳ないじゃない、提督さん幻覚でも見たんじゃないの?」

 そう言って、瑞鶴は湯呑みを傾けた。

 「提督さん、もしかしてあの映画に影響された?」
 「………ふぅむ……かもしれんな」
 「ま、何も見ていない私たちがとやかく言える事じゃないからさ、提督さんの胸にしまっておくのがいいんじゃない?」
 「そうか、その方がいいか」

 俺がそう言うと同時に瑞鶴は間宮が持ってきた超特盛カレー(空母・戦艦限定)を頬張り始めた。

 「あ、そうそう。岩本さんで思い出したけど、岩本さんって他のエースパイロットよりも視力が悪かったんだってさ」
 「へえ」
 「でもね、日光で反射した光で、敵どのくらいの距離にいるのか、どういう角度でこちらに向かってくるのか分かったそうよ」
 「すごいな」
 「それに地上勤務になってからも、このラバウルで千機以上の米軍機を他のエースたちと協力して、押し返してたんだってさ」

 「それでねそれでね」と瑞鶴の話は小一時間ほど続き、その話を聞きつけた龍驤なども参戦し、日本軍のエースパイロット談義が始まったのだった。
 
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