魔法少女リリカルなのは ―全てを変えることができるなら―
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第一話
名前/朝我 零(ともが れい)
年齢/20
性別/男
所属/地上本部 陸士108部隊
階級/二等陸士
魔法術式/ベルカ式
魔導師ランク/陸戦B・空戦Bランク
使用デバイス/刀型インテリジェントデバイス『クロス・ネクサス』
特記事項/陸士部隊所属でありながらも空戦魔法も得意とし、多種多様な事件に携わってきたが目立った活躍はない。
全体的なパラメーターは平均並み。
また、デスクワークに関しても人並み以上にこなすため、どこの部隊でも十分に活躍できる人材である。
「――――以上が、今回のBランク昇格試験参加者/朝我 零の資料」
「うん、ありがとうな」
PCと向き合うくらいの位置に表示されたモニターを眺めながら、二人は会話をしていた。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと八神 はやてである。
場所は空飛ぶヘリコプター内。
後部座席にてフェイトが窓側、はやてがその隣に座っており、二人の間にスクリーンモニターは表示されていた。
今日この日は先にもフェイトが述べたようにBランク昇格試験が実施される。
二人は空中とモニターにて会場となる無人の廃都市を見つめ、試験前の“三人”の様子を眺めていた。
青い髪の少女/スバル・ナカジマとオレンジの髪の少女/ティアナ・ランスター。
そして今回、本人のあずかり知らぬ所でフェイトとはやての二人の注目を浴びている朝我 零。
この三人が協力し合い、今回の試験を受けることになった。
三人は元々訓練校時代からの友人らしく、卒業してからは別々の部隊で活躍していた。
今回の試験は、三人にとっては久々のコンビで受ける試験と言える。
――――それだけの話しであれば、フェイトとはやてにとっては然したる問題ではない。
なぜ二人が朝我 零について慎重な態度を取るのか。
それは彼の経歴にあった。
「記憶喪失の次元漂流者だったのに、魔法だけを頼りにここまで来るなんてね」
「ほんま、彼の努力と前向きさにはビックリしたわ」
――――この世界は一つではなく、いくつもの世界が様々な次元の海を超えて存在している。
通常の手段ではまず移動することはできず、専用の戦艦・船艦などを使用しなければ渡航は不可能。
だが、極々稀に何らかの事故でその次元の海を漂い、この世界に漂着する人がいる。
その人のことをこの世界ではそのまんま『次元漂流者』と呼ぶ。
朝我 零は書類上、その次元漂流者であり、名前とデバイス以外の身元は不明だった。
情報端末としても効果を持つインテリジェントデバイスでさえも次元漂流者の影響でいくつかのデータを失い、その失われたデータに彼のことも含まれていた。
保護されたのが今から八年前で、傷だらけだった彼はそのまま病院へ搬送された。
どういう因果か、彼が入院した病院がたまたまフェイトとはやての親友/高町 なのはと同じ病院だった。
更に病室が隣だったこともあり、二人が知らない間になのはと朝我は交流していた。
そういうこともあってか、二人は今回の試験に朝我が来たことに何か運命めいたものを感じずにはいられなかった。
「さぁ、そろそろ始まるみたいやね」
「うん、楽しみ」
様々な想いを込めた眼差しで、二人は朝我 零の姿を見つめた――――。
*****
Bランク昇格試験の内容は、廃都市内に用意されたターゲットを破壊、そして指定のエリアへゴールすることである。
制限時間と破壊してはいけないダミーターゲット、妨害攻撃があると言う注意点を受けた三人は、気合に満ちた表情のまま、試験を開始させた。
試験開始直後、三人は別れてターゲットとなる『オートスフィア』の破壊に向かった。
スバルと朝我は建物内部に侵入して打撃、斬撃による破壊。
ティアナは建物の屋上から窓際にいるスフィアを狙い撃ちしていく。
すでに試験内容を大方理解し、それに向けた準備を整えてきた三人にとって“ここまで”は問題なかった。
特にアクシデントと呼べるような事態も起こらず、三人は当初予定していたよりも速いタイムで破壊に成功し、別エリアに存在するスフィアの撃破に向かった。
「このまま行けるといいね!」
肩を並べて走るスバルの明るい言葉に、ティアナは調子に乗らないようにと叱咤し、朝我は苦笑混じりに頷いた。
試験はここからなのは分かっているが、それでもこの三人で合格したいと、スバルは強く思っていた。
無論、それはティアナと朝我にとっても同じことなのだが――――。
次のエリアにある建物に侵入した三人を待ち構えていたのは、大量のスフィア達だった。
狭い建物の中を埋め尽くすかのようなその数から放たれる青いレーザー光線。
柱や壊れて落下した岩山を盾にして射撃するティアナ。
持ち前の機動力で回避、攻撃するスバルと朝我。
途中まではティアナの作戦通りにことが運んでいるかのように見えた。
――――その油断が、一つのアクシデントを生んだ。
倒しきれなかった一体のスフィアの攻撃を庇うためにティアナが右足を負傷、移動困難となってしまったのだ。
幸いにも骨折と言うほど酷くはないが、現状このままだと残りのスフィアを撃破、更にゴール地点まで向かうことが難しくなってしまった。
そこでティアナが提案したのが、残りスフィアの撃破後、スバルと朝我のみがゴールに向かうと言うものだった。
「そんなことしたらティアが……」
不安を漏らすスバルに対し、ティアナは敢えて冷たい態度を取った。
「あたしは一人でもどうにかなる。
邪魔なあんたがいなくてせいせいする、だからいいでしょ!」
「ティア……」
それが無理をしていること、スバルと朝我はすぐに悟った。
それだけ二人がティアナといる時間が長かったと言うことである。
そして、だからこそ二人はどうにかして三人揃ってゴールするための策がないか考えた。
残り時間を考えれば、考える時間はほとんどない。
それでも自分達にできることを再び振り返り、現状を理解し、そして可能性を模索する。
「――――なら、俺が“やるしかない”だろ」
考えた中で最初に答えを出したのは、朝我だった。
そして彼の心中を察した二人は驚き、そして聞いた。
「で、でもアレは“トモ”が隠してるやつじゃ…………」
スバルにそう聞かれたトモこと朝我 零は、苦笑から一点、真剣な表情になって二人を見つめた。
「俺の事情なんて、二人の夢に比べたら小さなものだ。
それに――――」
そして朝我は清々しいまでの笑顔で――――。
「――――俺も合格するなら、二人と一緒がいいから」
一点の曇も迷いもなく、そう言った。
*****
建物を出て、ティアナは一人で道路を駆け出した。
目標地点は向かいの建物の上層にいる大型スフィア。
遠距離からのレーザー攻撃と高い防御性能を持ち、試験を受けた半数が攻略に失敗すると言う難所。
その大型スフィアは、小型では狙えなかった距離にいるティアナを補足し、そしてすぐさま狙いを定めてレーザー光線を放った。
回避できなかったティアナは直撃した――――かに思えた。
別の岩陰から複数のティアナが現れて駆け出した。
そう、これらは全て囮・偽物の存在。
現代では『古い』と言われる魔法/幻術である。
古いと言われることを逆手に取り、相手を油断・かく乱させることが狙いだ。
ただし幻術には大量の魔力を消費するため、この囮が失敗すれば試験不合格に直結する。
だからこそ、岩陰にひっそりと身を隠し、幻術に集中しながらもティアナは念話で二人に願った。
『二人とも、二度目はないんだから、きっちり決めなさい!』
「うん!」
「任せろ!」
遠くで二人は頷き、そして行動を開始させた。
スバルは建物の屋上から魔力で構成されたレール状の道/ウィングロードを形成し、大型スフィアのいる部屋へ一直線に向かった。
スフィアはすぐさまターゲットをティアナからスバルへ変更、壁越しに迫るスバルに狙いを定めた。
「――――こっちだ!」
――――だが、背後から聞こえた声、そして突如現れた熱源反応によってスフィアの狙いは反応があった真後ろに切り替わった。
しかしそこには誰もおらず、再び熱源を探り、真上、右、左、背後と反応を追いかけるように狙いを向けた。
それでも背後から聞こえたはずの声の主/朝我の存在を捉えるには至れず、混乱しているスフィアの背後から強い衝撃が加わった。
振り向いた先にようやく朝我の存在を補足した。
彼は銀と黒の渦となった柄、白の丸い唾、そして細身で反りのない真っ直ぐな刃の刀を握り、スフィアに斬りかかっていた。
しかりスフィアの表面を覆う防御フィールドの破壊には至れず、しかし悔しそうな顔は一切せずにすぐさま“姿を消した”
スフィアは再び彼の存在を見失うと、再び背後から強い衝撃が加わる。
振り向けばこれまた再び朝我が斬りかかっていた。
以下、それの繰り返しである。
スフィアの反射速度を上回る動きで朝我は次々と斬撃を入れていき、そしてついにスフィアを守る防御フィールドの破壊にいたった。
だが、その隙を突いてスフィアはレーザー光線を放ち、朝我の腹部を直撃――――――――しなかった。
レーザーは彼の腹部をすり抜けて空をかけていくと、朝我の身体は風船のように呆気なく消滅した。
それと同時に建物の壁が外から破壊され、そこからスバルが右拳に魔力を込め、油断したスフィアを攻撃した。
「うおぉぉおおお!」
拳に込めた魔力を前方に力強く放つ一撃/『ディバインバスター』。
砲撃にも似た一撃は見事にスフィアを破壊し、勝利の余韻に浸る間もなくスバルは全速力で建物を出た。
今回の試験目標は後ひとつ――――時間ないにゴールすることだったからだ。
*****
朝我が考えた作戦は、ティアナの幻術による陽動とかく乱。
その間に朝我は建物内部へ、スバルは隣の建物の屋上へ向かった。
所定の位置に到着したら朝我が高速移動でスフィアをかく乱、防御フィールドを破壊する。
その間にティアナは朝我の姿を模した幻術を作り、朝我本人と入れ替えてスバルの一撃までにスフィアを再びかく乱させた。
スバルはそのままスフィアを破壊し、入れ替わった朝我は急いでティアナの下へ向かう。
あとは朝我がティアナを抱え、スバルと共にゴール地点まで向かう――――と言うのが作戦である。
そこまで難しい発想でもない作戦だが、一つだけ無茶な内容が含まれている。
それはゴール地点までの移動を、朝我はティアナをおんぶしたまま自力で駆け抜けることだ。
ティアナが重いわけではなく、たんに人を抱えている状態で全力疾走は体勢的に難しいということだ。
スバルはデバイスのひとつとしてローラーシューズを履いており、その力もあって地上ではバイクにも負けない速度を叩き出すことができる。
その速度で向かえば間違いなくゴールできるが、三人揃ってと言う当初の目的がかなわない。
――――朝我が常人の速度が限界であれば。
ゴールまでの移動で朝我は、公では語らないでいた『能力』を発動した。
「スバル、一気に駆け抜けるぞ!」
「うん!」
全速力でゴール地点まで駆け出したスバルに追い抜かれた朝我は大きく息を吸い、そして次の右踏み込みで能力を発動した。
「――――フリューゲル・ブリッツ!」
瞬間、朝我の足は翼を得た鳥のように軽く、大きく羽ばたくかのように力強く駆け出した。
同時に彼の移動速度は音速を超え、風を切るような音が後ろから追いかけてくるようにやってくる。
それだけの音速を、光速を超えた“神速の領域”に達した彼は、まるで瞬間移動でもしたかのようにゴール地点に到着した。
「――――ってことで、あとはスバルだな」
ふぅ、と立ち止まって一息つく朝我の後ろでおんぶされているティアナは疲れたようにため息を漏らす。
「相変わらず、アンタの“ソレ”って常識はずれよね」
呆れ口調のティアナに対して朝我は不敵に微笑み――――。
「ありえないことをするのが魔導師だろ?」
当たり前だと言わんばかりにそう答えた。
そんな二人を他所に遅れてゴールしたスバルは勢い止まらず壁へ激突――――しかけたところを魔力で形成したネットで受け止められ、九死に一生を得た。
「って、ブレーキのことくらい考えろよ…………」
「うぅ……ごめんなさーい」
呆れた様子で注意する朝我に、スバルは落ち込んだ様子で頭を下げた。
「……まぁ、とにかくこれで無事、三人揃って合格ってことで」
「スバルが最後にとちんなければ、無事って使っても良かったけどね」
「うぅ……ティ、ティアの意地悪ぅ!」
スバルの泣き言をオチに、三人は揃って笑いあった。
「三人とも、ギリギリだったけどゴールできたみたいで良かった」
空から聞こえる女性の声に三人は振り向いた。
白主体のBJを身に纏った空戦魔導師/高町 なのはがそこにいたからだ。
はやて、フェイトの二人と十年以上もの長い付き合いを持ち、若くして『エース・オブ・エース』とまで称される実力者。
スバルにとっての憧れのその人を目の前に、彼女は泣き出してしまう。
そんな姿に誰もが困り果てたような笑みを溢し、そして慰めに入るのだった。
こうして三人のBランク昇格試験は終了し、そしていくつかの反省点を残しつつも合格となった。
――――後に三人は八神 はやてが設立した部隊/古代遺物管理部機動六課に入隊することになった。
後書き
どうも、IKAです。
急いだ感じの内容で申し訳ありません。
今回のお話しは、とりあえず朝我が誰と一緒にいるのか、どうしているのかと言うのがわかればいいと思って書きました。
流れは本編とあまり変わらないので、多くは語る必要ないかなとか思ってしまった限りです。
余裕ができたら編集して細かくしようと思っています(いつになるのやら)
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