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寄生捕喰者とツインテール

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“食欲”の食い違い、“彼ら”のネタバレ

 
前書き
久しぶりの投稿になります。

此処の所時間が取れないもので……楽しみにしている皆様には深くお詫び申し上げます。


それでは本編をどうぞ。 

 
 都心部のとある場所。

 イベントが開かれているその場所には烏賊の風貌を持つエレメリアンと、た事クラゲの風貌を持つエレメリアンが居り、二色のツインテールを靡かせて地面に突き刺さる二人の横で、紫色の幼女と少女の間に位置する容姿の人物が、無言で左腕を真正面へと向けていた。



 ……こんな説明にならぬ説明だけではポルナレフ状態もかくやの呆然となりそうなうえ、当然中の当然且つ当たり前ながら向こうはおろか此方すらチンプンカンプンなので、どのような経緯でエレメリアンが現れ何があってツンテイルズが突き刺さって、グラトニーが左腕を構え無反応でいるのか順を追って説明しよう。





 事の発端は連休であるゴールデンウィークも開け、社会人には仕事の、学生には学業の毎日が戻って来てから三日ほど経った日の午後。


 帰り道を一人行く瀧馬は途中で駄菓子屋により、買いだめしていた分の菓子が尽きていたのかまた大量に買っていった。
 余り人が通らず客が少ないのか、瀧馬が悩みながらも仰山買っていくのを駄菓子屋のおばあちゃんは嬉しそうに見ていたという。

 そこで菓子だけではなくご飯持底をついていた事を思い出して、スーパーへ寄るとレンジでチンするタイプの白飯やら、コロッケにから揚げにポテトサラダにコールスローとスーパーのお惣菜を籠に入れ、店員が少々驚くのも慣れた物だと金を払って店を出る。

 そして家に着くや否や冷蔵庫と棚と菓子箱へそれぞれ放り込んで、黒蜜で味を付けた麩菓子を何本か齧りながらお茶を飲んだ。


 丁度最後の麩菓子を食べ終えた時と同時に、ラースが瀧馬へ向けて意気揚々と話しかける。


『おーオー、今日も今日とて来なすったぜェ、栄養源の変態共がよォ!』
「キリが良い所で来てくれたか。すんなり飛んで行けそうだな」
『それじゃあ今日子一発元気良く! 行っちゃいますカネ相棒ヨォ!!』
「了解だ」



 コネクトからのコールズセンスの掛け声により、長身強面の高校生から、洋上に分類される紫色のツインテールモンスター娘 “グラトニー” へと変身……ではなく冗談抜きで “体をDNAごと” 取っ替えた変態を行い、人気のない場所までひとっ走りして軽く構えた。




「ラース……食べ行くよ」
『何時も通りで安心なこったネェ! じゃやる事ねえし、ワープしちゃうぜぇッ!』
「ご飯……!!」



 神々しい光も禍々しいエネルギーも無く、そこに居たのが気の所為だったかと言わんばかりに、グラトニーは揺らぎもせず一瞬で消えていく。

 そして、ラースが属性力(エレメーラ)を感じた場所までワープさせ、軽い調子に似合わぬ重い音を立てて着地した。

 ちなみに、このワープは実は異世界間移動の応用に近く、一瞬で消えているように見えるのは所謂一種の “不思議空間” 中に入ってしまっているからであり、瞬時にワープできない要因もそれが絡んでいるの為なのだとか。


 そんな豆知識を教えられても余り興味がないといった風情で流したのは余談である。


 グラトニーの視界内に居るエレメリアンは三体であり、どれも脚が幾本もある海の軟体動物の姿を模している者たちであった。
 中でも烏賊の姿をしたエレメリアンは力が濃く、幹部クラスであろう事が予想できる。


 右足に空気を取り込み一気に一体目を弾き飛ばそうとした時、待っていたかのようにエレメリアンが声高に叫ぶ。




「この摩天楼を行く貧乳のツインテールよ! その極上の貧乳はおらぬのか!」
「クラーケギルディ様の言うとおり!」
「我らはツインテールに次ぐ至上の属性たる貧乳を求めねばならぬのだぁ!」



 概ね何時も通りだとグラトニーが呆れた事で一呼吸程遅れたが……そのお陰か所為か、この後やってきた者達に巻き込まれずに済んだ。
 それは、余りの発言に驚いたか力が抜けたか、気を付け状態で地面を削りながら滑走していくツインテイルズに、である。

 段々と地面に沈んで行き、最後は頭がすべて埋まった状態で止まった。


 ……此処までが冒頭で説明した状態につながる経緯、という訳である。


 行き過ぎた変態発言など日常茶飯事であろうにそんなオーバーリアクションをした事を、グラトニーは多少煩わしく思ったか眉をひそめ、中に居るラースは爆笑していた。

 そんな彼らの心情などつゆ知らず、勢いよくほぼ同時に頭を引っこ抜いたツインテイルズの内、矢鱈乳の属性に拘っていたテイルブルーがウンザリした声色と叫んでいるでも呟いているでも無い奇妙な音量で文句を口にする。



「なんで……なんで此処の所乳の事ばっかに拘る奴が現れんのよ……!? しかも今度は貧乳って……!!」
「そんな事言われても知らねえよ、俺」



 尤もな発言をしたテイルレッドの声で気が付いたか、烏賊エレメリアンとその部下であろう軟体動物エレメリアン二体が、嫌にゆっくりとした動作でツインテイルズとグラトニーの方を向くと、軟体動物モチーフに似合わぬ腕を上げて指差した。



「おお! 現れたかテイルレッドよ! 既に完成された美しさを持つそなたと相まみえるこの日を楽しみにして―――」

「“風砲暴(ふうほあかしま)”」

「いるんでっぐおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
「「クラーケギルディ様―――っ!?」」



 また此方も何時ものように最初から話など聞く気が無いグラトニーが、台詞途中で隙だらけであった烏賊エレメリアン……部下の発言から名前がクラーケギルディと分かったその怪人を吹っ飛ばす。

 流石に幹部クラスな為か溜める時間の短さ、そして手加減の影響もあり傷こそ浅くないが、やはり一撃で葬る事は出来ていない。

 だが体を震わせている辺り、癇を刺激するには十分な一撃であった様だ。



「おのれグラトニー……ッ! 体に似合わぬ醜く育った肉の果実をぶら下げおって……お主など評価する価値も―――」

「“風砲暴”」

「なぐはああああああっ!?」



 更にもう一発。

 しかも大分アホな理由でけなされてイラついたか規模と威力が先程より大幅に上がっていた。ツインテイルズがギャラリーの前に居るのを見る限り、ギャラリーにも影響が及びかねない威力であった様だ。

 斬りもみ回転して地面に激突し、烏賊を模した尖った頭が不運にも地に突き刺さって、所謂犬神家状態を強制的に彼へ取らせる。

 何とか部下に引っこ抜いて貰い、三度グラトニーを睨みつけた。



「ぬっ、ぐううぅぅ……此処で倒れる訳にはいかんのだ……! 私が倒すべきと見定めていたリヴァイアギルディを……倒し喰らった貴様を冥界へ叩き落す為にも!!」

「……?」
『リヴァイアギルディ? なんじゃそリャ?』




 聞き覚えの無い名前を出た事で、三度目の “風砲暴” は放たれなかったが、彼女の発言はクラーケギルディにとって好ましくないものであったか、より一層憤怒をたぎらせて叫んだ。



「とぼけるな!! 我がアルティメギル基地で次々同胞が消えているという事実、圧倒的格上の主犯としか思えぬ惨状、そして雄々しき股間の槍を携えた我がライバルの大敗……貴様以外にだれが考えられようか!」

「……そー言われても、食べてないモノ知らない……というか、そいつもし出会ってたら股間だけ残したい」
『股間の槍テ、あいつ等も下ネタの加減に容赦が無くなって来タカ?』



 どれだけ怒りの眼と圧迫感大きい気迫を向けられようとも、グラトニーにとっては記憶面では何も知らないが故に何も言えず、実力面ではクラーケギルディよりも上な為に震えも感じない。

 股間の槍という部分には、かなり嫌悪感をしめしたが。……というか、そんな奴に自分の名前を使われて、海の王たるリヴァイアサンは怒っているか、もしくは泣いているのではなかろうか。


 しかしながら、グラトニーの様子がどうもおかしいと勘づいたか、徐々にクラーケギルディも怒りを納め、そして冷静に質問してきた。



「……本当に知らぬのか? 海竜の風貌たたえた、股間の槍雄々しき我が対立者を?」
「食べてない」



 此処が 知らない では無く 食べていない なのがグラトニーらしく、そして同時にそんな彼女だからこそその言葉に説得力がある事を感じる。

 どうもお互いの認識に食い違いがある事を感じたクラーケギルディは、目の前の超展開の所為で置いてけぼりを喰らっていたツインテイルズを、念の為か油断なく監視し続けていた部下二人の方を向いた。



「オクトパギルディ、ジェリーフィッシュギルディ、お主らはツインテイルズの相手……を……」



 彼の部下であるオクトパギルディとジェリーフィッシュギルディの肩越しに、改めてツインテイルズを見たクラーケギルディが何故か黙り込み次いで固まる。

 その様子から部下二人は何かに気が付いたようではあったが、先程まで置いてかれていたのに行き成り注意を向けられてどう反応していいか分からないツインテイルズは、何やら慌てていて彼が硬直した事に気が付いていない。



「おっとと!? しまった傍観しすぎてた! 武器構えねぇと!」
「そ、そうね!! 乳に拘る奴は何者であろうとも殲滅しないといけないものね!!」
「そう言う意味では言ってねぇ―――な!? ブルーっ!!」
「へ?」



 行き成り叫んだテイルレッドを見て呆けながらも、自分の近くに刺した陰で何故彼女が叫んだのかを理解する。

 何時の間に移動したか、風すら起こらぬのが不思議な程の神速で、クラーケギルディがテイルブルーの近くに現れていたからだ。

 グラトニーの表情は余り変わっておらず、一応彼の動きが見えていた事が窺えるが、見えていようとも反応できなかった時点で、その動きがどれだけ並はずれているかを物語っている。


 不意を突かれたと、間に合うかどうか分からずとも捨身覚悟でテイルブルーが一撃を放とうとした時……クラーケギルディは腰の剣を抜くでもなく、行き成り騎士の如く彼女の前に傅いた。



「美しい……あなたこそ私が追い求めていた理想!! 麗しき姫よ……なぜあなたが敵なのか!」
「へ? えっ?」
「どど、どうなんてんだぁ……?」

「出てしまったか! クラーケギルディ様の悪癖が!」
「こうなってしまってはあの方はもう止まらない!」

「……何あれ」
『知ルカ』



 困惑して立ち尽くす二人、如何したものかと頭を抱える二人、そして冷めて呆れる二人。

 温度差がかなりある場が出来あがっていたが、クラーケギルディはそんな事は知らぬとばかりに、片膝を立て恭しく見上げたまま、テイルブルーへと次々賛辞を述べていく。



「この私、クラーケギルディの剣を貴方様にささげたい! 如何であろうか姫よ!」
「い、いや、アンタ正気!? 気は確か!? 自分で言うのもなんだけど私蛮族扱いなのよ!?」
「本気も本気、正気も正気! 蛮族扱い無い度知り得ませぬ! 寧ろそれすら吹き飛ばす貴方の美貌に心撃ち抜かれたのです! 如何かこの恋を、この愛を受け取ってくださりませぬか、我が姫よ!!」
「そ、そんな事言われてもこ、困る……」



 声だけはイケメンであり、なおかつここまで素直に賛辞を述べられたのは久しぶりだったのか、どうする事も出来ずにテイルブルーは唯右往左往している。

 途中、テイルレッドがトゥアールらしき人物と会話していたが、如何でもいい話だったのか途中からテイルレッド自身が無視していた。


 その戸惑っているさまにクラーケギルディはもう一押し必要だと見たか、声高に見惚れたであろう理由叫んだ。



「素晴らしき貧乳をもつ、天上且つ至高の姫君よっ!!」
「……は?」



 場の空気が凍りつき、そういえばクラーケギルディが此処に来たばかり際そんな事言っていたと全員が思い出した頃にはテイルブルーの困惑もすっかり収まり、代わりにドス黒い殺気が立ち込めていた。

 更に追い打ちをかける様に、止せばいいのにトゥアールが笑いを隠さず、テイルブルーへと罵倒としか取れない台詞を投げかける。


『なるほどなるほど! 愛香さんは成長しているのに貧乳だからこれ以上成長する事もないと見抜かれて、彼のお眼鏡にかなったのかもしれませんね! 良かったですねえ愛香さん! 徐々に貧乳属性が芽生えている証拠と、声だけはイケメンの彼氏が手に入りますよ! うぷぷぷぷ……』

「トゥアール、シャワー浴びておいて貰ってもいい?」

『れれ? やだなぁ愛香さんたら♡ 幾ら今日限りで縁遠くなるからって、そんな踏み込んだスキンシップは――――』

「なるべくさ、綺麗なまま逝きたいでしょう? ……ねぇ、トゥアール?」

『………そそそそそそそそそ総二さまあああああああっ!? 早くその蛮族をやっつけちゃってください! 未曾有の危機にさらされますうっ!!』

「いや、俺だって相手したくないし……それにエレメリアンいるし……」

『そんなのグラトニーちゃんが食べてくれま―――ってこのやり取り、前にもした様な……』



 前にも一度あった事ならば何故に同じ過ちを繰り返すのだろうか。

 揚げ足を取ったり他人を扱き下ろす衝動が我慢できないならば、せめて空気を読む術ぐらいは身につけるべきである。

 何もかもふっきれたといった表情でテイルブルーは肩をまわして伸びをし、グラトニーの一撃の所為か、彼女の殺気のお陰か、少し距離が遠くなったギャラリーの面々を見渡して呟いた。



「あー、何だか如何でもよくなってきちゃった。ここら辺の物すべて吹き飛ばしたり壊しちゃっても保険聞くかな?」
「物騒な事言ってんじゃねぇよ!? 人道的にやっちゃいけねぇよ!」


 至極恐ろしげな事をのたまうテイルブルーではあるが、此処で責めるべきは寧ろ彼女では無く、周りの事も慮らずに私欲を優先して害意を誘発した、銀髪ロリコン変態科学者だと思う。

 如何取り繕おうとも、原因の一端を担ったのは確かだ。


 そんなテイルブルーの殺気にも負けず、未だ跪いていたクラーケギルディは徐に立ち上がり、両手を目いっぱい広げる。



「プリンセスよッ! 我が嘘偽りなき思いの強さ! しかと目に焼き付けてくだされい!!」



 叫びと共にクラーケギルディの鎧がはじけ飛び……否、鎧を形成していたらしい触手を表し四方八方に広げた。

 クラーケンの名を冠するだけあってちゃんと触手も持っていたらしいが、これでは伝説の化け物は勿論、烏賊どころか海の生物でも無い、鳥類であるクジャクの求婚法だ。

 すると、先程までやる気、もとい殺るき満々だったテイルブルーが急にしおらしくなり、体を抱いて震えはじめる。



「どうですか! 貧乳のプリンセスよっ!」
「い、いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!? 触手!? 触手ううううっ!?」



 そして触手が再び動いたのを見て、金切り声にも似た悲鳴を上げた。


 いきなり何だとテイルレッドが驚愕の表情を向けるが、テイルブルーはそちらに顔を向ける余裕もない様で、怯え震えながら一歩一歩下がっていく。

 どうも彼女はうねうね系が苦手だったらしい。思わぬ弱点である。

 オクトパギルディとジェリーフィッシュギルディを気持ち悪がらなかったのは、彼等も触手を鎧状にしていた為だったようだが、その所為でか窮地中の窮地で発覚してしまったのだ。


 尤も、相手であるクラーケギルディは責めること無く迫るだけであるが。



「何故怯えるのです姫! 私は剣など振るってはいない! これは我が愛の証明! 最上級たる求婚の儀に他ならないのですぞ!」
「しょしょしょ触手に告白されたプロポーズされたぁぁぁぁ!? こんなのいやあああああぁぁぁっ!!」



 すっかり戦意喪失してしまっているテイルブルーを見て、無理やりにでも割り込んでかばいながら闘うべきかと悩み始めた……その時。



「だらあっ!!」
「うっ! ごはああぁっ!」

「む? ぬおおぉおおぉ!?」



 横からすっ飛んできた何かがクラーケギルディを巻き込んで無理矢理テイルブルーから彼を遠ざけた。

 依然として触手が蠢いておりテイルブルーは戦意を回復できないものの、一応の気休めにはなるであろう。

 自身の全てを掛けた求婚を阻害されたからか、三度クラーケギルディは怒りを湛えて何か……ではなくその何かを飛ばして来た者を睨みつけた。



「おのれおのれおのれぇっ! 好敵手との決着、そして我が愛をも妨げるか! 暴食の獣グラトニィィィ!!」

「……あぐっ」



 よく見ると飛んできた物はオクトパギルディであり、よく分からない儀式の背後で交戦中であった事が窺え、そしてジェリーフィッシュギルディの姿が無いことから既に食い尽くされた事も分かる。

 グラトニーは吹き飛ばす途中で引きちぎったのであろうオクトパギルディの触手を、歯で千切って堅いのか大きく咀嚼していた。


 大きく音を立てて塊を飲みこみ、グラトニーは不満そうに告げる。



「……変な味」




 相も変わらず場違いな感想に、しかし状況が状況ゆえ誰も反応が薄い。

 元より何か反応を期待している訳では無いので、グラトニーは構わずオクトパギルディとクラーケギルディへ突っ込んで行く。



「オクトパギルディ! 手は出すな、私が仕留める!」
「は、はい! りょうかいぐおおぅっっ!?」
「何!?」



 オクトパギルディが返事し終える前に急加速にて目視困難な速度で突貫してきたグラトニーの左腕で掻っ攫われ、空中で蹴りを叩き込まれて地に叩きつけられる。


 技後の余韻か、蹴りあげた様な格好となった事をあえて活かし、グラトニーは上から振り降ろす形で右足を勢い良く振り抜いた。

 無言で放たれた “風刃松濤(ふうばしょうとう)” により、悪足掻きとして壁を作っていた触手などものの役に立たぬと豆腐の如く両断し、見事という言葉が似合う程綺麗に真っ二つにして見せた。

 あっという間に決着が付き、残りはクラーケギルディ一人となる。


 しかし、部下二人が倒された事、属性力が関係なくなってきている事、リヴァイアギルディの件が全く見当違いだった事、理想の姫に出会えたことが重なった為か、クラーケギルディはあえて此処で撤退の道を選んだ。



「ぐぅぅ……姫よ! 次こそは! 次こそは貴方に思いを届けて見せま―――」
「オオオッ!!」
「くっ! 去り際も待ってはくれないか!!」



 グラトニーから逃げる様に光る円形の空間へと飛びこむが、一歩遅かったか触手の一本はグラトニーの鎌鼬を纏った一撃により両断される。

 此処で思わぬ出来事がツインテイルズを襲った。

 体の隅から隅まで属性力で出来ている為か、クラーケギルディの思いを反映したかのように、何と触手が独りでに飛び上がってテイルブルーに当たったのだ。



「え、お……きゅうぅぅ……」
「やべっ……オーラピラー!!」



 それ自体は差して高い威力でもなかったが、此処に来て限界が訪れたかテイルブルーはとうとう気絶してしまう。

 辺りに静寂が戻ると同時、突如としてテイルブルーの体が発光し始めた。


 何事かと周りにまだいたらしいギャラリーが詰めかける前に、テイルレッドは拘束技であろう炎の球体を地に放ち、そこから急いで去っていく。


 一方のグラトニーはもう用事も終わったし、ちゃんと属性玉も食べれたのでご満悦といった調子で帰ろうとしたのだが、何か気になるものが目に入ったか彼女は追うような足取りで歩いて行く。

 やがてじれったくなったか対象を追い抜いて建物の上に着地し、溜めていた分の空気を利用して壁を地面として蛙のように座りこんだ。


 しかし眼下に変身が解けたらしいテイルブルー……津辺愛香とテイルレッドが居るのを見て、少し慌てた様に目を見開く。

 そしてテイルレッドが先程のブルーと同様に光り輝いたのと、グラトニーが地面代わりの壁を砕く程の威力で蹴って地面に降りた事―――




「グラトニーさん!? あ、あとテイル……え……み、観束……君……?」
「会長……!?」

「………チッ」
『面倒事になったヤネ、こりゃあなんトモ』



 あの炎球の眼隠しの中追って来ていたらしい、そしてグラトニーが気になって追っていたのであろう……生徒会長、神堂慧理那が肩で息をしながら呆然と立ち尽くしたのは、ほぼ同時だった。



 
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