イリス ~罪火に朽ちる花と虹~
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Interview13 アイリス・インフェルノ
「探したのよ、ずっと!」
ルドガー一行は分史世界の「ジュード」たちと同じように排気口から要塞に入り、ローエンの案内で要塞内を進んだ。
一番に選んだ目的地は捕虜を閉じ込める牢のあるスペースだ。一度「ミラ」が時歪の因子であったことから、今回も「ミラ」が時歪の因子かもしれないと予想したからだ。
だが、牢まで行ってルドガーたちが見たものは、時歪の因子も何も関係ない、一つの死体だった。
「お嬢様……?」
ローエンが呆然とした声を上げた。
明滅する呪帯(と呼ぶのだとローエンに聞いた)の向こう側で、特に下半身を惨たらしく損ねて転がる死体は、ドロッセル・K・シャールのもので間違いなかった。今日もエルを迎えに行った時に、笑顔で「いってらっしゃい」と言ったあの若き女領主だった。
「ドロッセルが、どうして」
エリーゼが言い切る前に、足音がした。二人分だ。ルドガーはとっさに双剣の柄に手をかけた。
現れたのは、ルドガーにとっては意外であり、再会を焦がれた相手でもあった。
「ユリウス……」
「やっぱりお前だったか」
再会できて嬉しい。嬉しいのに。ルドガーは心から喜べない。ユリウスもそれは同じなのだと表情から読み取れた。
気まずい間が空いた時、ユリウスの後ろから、もう一人の足音の主が現れた。
豊かな金蘭の髪に横顔を隠された、一人の女。
「ミラ、なの……?」
金髪をなびかせ、女はふり返った。
マゼンタの目に、今にも泣き出しておかしくない哀しみを湛えて。
ジュードはミラの名を呼んだだけで、ミラに自ら近づこうとはしない。ミラのほうも、ジュードだけでなく、こちら側の誰に対しても歩み寄っては来ない。
石化したかのような時間が永遠に続くのではと思った所で、
「ああ、ミラ! 探したのよ、ずっと!」
ミュゼが一番に、文字通り飛んで行ってミラに抱きついた。
「すまない。心配をかけたようだな」
ミラは、マゼンタの瞳に湛える哀しみはそのままに、ミュゼを抱き返した。
(ミュゼにとっては妹との再会なんだから、喜んで当然だ。けど、けどっ、すぐ近くに死体が転がってるんだぞ!? そんな状況でよく。精霊ってみんなこんな神経してるのか? ユリウスでさえためらったのに)
ミュゼ以外の誰も声を上げない中で、一番に口火を切った勇者は、アルヴィンだった。
「ミラ。何があったんだよ」
短い問いかけながら、ミラという彼女に何が起きてこの光景に至ったのかを、アルヴィンは的確に問うている。
「殺した」
ミラはぽつりと口にした。
「『私』が殺したんだ。ドロッセルを。マクスウェルの使命を果たすためだけに」
そこで急に悪寒が走った。ルドガーはその原因――斜め後ろに立っていたイリスをふり返った。
「イリス、どうし……」
ふり返ったイリスは俯いていて、無言でラバースーツに包まれた腕を上げた。
指差すのは、ミラ。
ルドガーは再び、ミラを何気なくふり返った。
ミラが立っていた位置だけ、床のプレートがじゅわりと溶けた。
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