| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

お見舞い客、三組目

あの後、剣閃烈火の者達が長ったらしい言葉を残してから出ていこうとしたので一輝が追い出す、と言う形で二組目のお見舞い客は帰った。
そして、三組目は・・・

「よお、一輝!」
「おお、いらっしゃい。えっと・・・ほら、」
「アンタ、私の名前わからないの!?」
「ああいや、分かってるよ。うん。なんとか・イグニファトゥスだってのは思い出せてる。」
「一番重要なところ思い出せてないじゃん!名前出てきてないじゃん!」
「そうカリカリすんなよ、アーシャ。胃に穴あくぞ?」
「誰のせいだ誰の!ってか、今名前呼んだよな!?」
「え、何のことだ?俺はお前の名前がアーシャであることなんて微塵も知らないけど。」
「それだよ!間違いなく呼んでただろ!」
「はぁ、全く何をそんなに騒いでるんだ?元気なやつだなぁ。」
「あぁくそ!ほんとに問題児だな!」

と、そういいながら頭をかきむしるアーシャ。そして、

「あう、えっと・・・大丈夫、なの?」
「おう、今ので分かったと思うけど、割りと元気だ。」
「そっか・・・よかった。」

と、ホッとした様子を見せるウィラ。ウィル・オ・ウィスプを代表して、この二人が訪ねてきた。

「それにしても、まさかウィル・オ・ウィスプから来るとは思ってなかった。」
「ん?何で?同盟相手になるんだから、来るに決まってんじゃん。」
「いや、だとしてもさ。一応、ジャックを殺したのは俺になるわけだし。俺としては、この事で同盟が破棄になったりでもしたらみんなにどれだけ頭下げても足りないなぁ、って考えてたくらいだし。」
「・・・そんなことは、しない。それに、むしろ同盟を組むだけの利益が、そっちにはなくなった。」
「ん?」

ウィラの言っていることが理解できなかった一輝は、短く聞き返す。

「だって、ジャックがいなくなった以上、神珍鉄の加工をするという契約が果たせるかはあやしい。」
「ああ、そんなことか。」
「そんなことって、十分に重要な問題だろ?」

まあ、普通ならアーシャの言うとおりだ。基本的な技術を備えているのはジャックであるし、他にもそのあたりの技術を持っていそうなやつとしてルイオスがあげられるが、それではネームバリューという価値が一気になくなる。それならば六本傷に頼んだ方がよっぽど連盟の、そして“ノーネーム”の利益になる。が、

「いや、うん。だって俺がジャックを召喚すればいい話じゃん?」
「・・・え、できるの?」

表情の乏しいウィラの驚く顔という何とも貴重なものに満足感を覚えながら、一輝は続ける。

「うん、できる。」
「私たち、あんたが殺したって聞いてるんだけど?」
「正確には、契約して封印した、だからなぁ・・・契約内容さえ満たせれば、簡単に召喚出来たり。」

と、その言葉に一気に嬉しそうな顔になる二人だが、すぐに場が場だということと、契約内容、という言葉に反応して表情を戻す。

「でも、その契約内容もあるんでしょ?だったら・・・」
「ああ、それだけど・・・相手はジャックだし、あの内容だし、多分簡単に何とかなる。」

首を傾げる二人だが、一輝はそんなこと気にもしないで話を続ける。

「えっと、そうだな・・・たとえばアーシャ、一つ質問いいか?」
「へ?あ、うん。いいけど。」
「じゃあ遠慮なく・・・ジャックに会えたら、お前は笑顔になるか?」

最初、アーシャもウィラも一輝の言っていることが理解できなかったが・・・それでも。

「そんなの、決まってんじゃん。ジャックさんに会って私が笑顔にならないわけがない。」
「だろうな。さらに言うなら、“ノーネーム(うち)”の子供たちもジャックに会えるなら笑顔になるだろうし、飛鳥も間違いないだろう。んで、ウィル・オ・ウィスプの子供たちも。」
「それはそう、だけど・・・それがどうかしたの?」
「ああ、結構重要なことなんだよ。あというなら、今あげたメンバーは全員、ジャックもそうだし、一般的に見ても“子供”と分類するやつが大半だ。」

飛鳥は十五歳。大分ギリギリなラインに思えるが、まあ子供と分類するやつの方が多いだろう。中学と高校のラインは、割と大きい。箱庭でもその認識はあるのか、二人もうんうんと納得したような様子を見せる。
だがまあ、うん。

「って、だれが子供だ!」

アーシャはこう反応するだろう。それはそうだ。
一輝はそんなアーシャにまあまあと落ち着くようジェスチャーで促した後、話を再開する。

「で、だ。俺がジャックに一方的に押し付けてジャックが受け入れた契約の内容は、『お前の魂を、力を、恩恵を、その全てを幼子の笑顔のために、幼子の命を守るために使う。汝それを受け入れるのであれば、名を名乗り、魂を献上せよ。』だ。んで、あいつはこれを受け入れて名前を名乗り、俺に魂を献上した。」
「・・・だから?」
「いや、ジャックを召喚して笑顔になる子供がその場にいるなら、俺はあいつを召喚出来るんだよ。」
「「・・・・・・えー・・・」」

なんだそりゃ、とでも言いたげな声の二人だが、しかし二人の表情はうれしそうである。ジャックに会える、というのがうれしくないはずがない。
だがまあそれでも、もう会うのは難しいだろうと思っていた相手だけあって、どこがっくりきたような様子があるのは仕方ない。

「でも、悪いけど今召喚するのは無理だ。契約の方よりも俺自身のコンディションが最悪だし。」
「あ、うん。それはわかってる。でも・・・えっと、」
「ああ、分かってる。ちゃんとジャックと会う場、それに話す場は設ける。とりあえず、俺が復活したら一度“ノーネーム”に来てくれ。」
「うん・・・ありがとう。それと、よかったら“ウィル・オ・ウィスプ”の方にも来てほしい。あなたとあなたのメイドたち、みんな招待する。」
「おう、了解。・・・って、俺のメイドたちも、なのか?」
「あ、えっと・・・いくつか聞きたいこと、あるから。」

ウィラはその内容について話さないので一輝は首をかしげるのだが、話す様子はないのでまあいいかと流す。

「あ、それと・・・カズキに相談したいこともあるから、それもその時に。」
「うん、俺に相談?いったい何を?」
「えっと、ジャックの扱いとか、他にもちょっと、相談したいことが・・・」
「俺に相談したところでなんになるのか、ってのが本音なんだけど・・・まあ、俺でいいならいくらでも聞く。」

どこか不安そうな様子のウィラを見て、一輝はその頭を撫でながらそう答える。一輝のその行動にウィラは顔を赤くして俯けるのだが、一輝はそれに気づかず、

「・・・え、ちょ、ウィラ(ねえ)マジで・・・?」

一人アーシャだけが気づいて、そう漏らす。本人としては今すぐにでも問い詰めいたいところなのだが、さすがに一輝がいるところでそうするわけにはいかない。
さて、そんな一輝がウィラの頭から手を離したところで、話は戻る。

「なんにしても、そういうわけだからそっちの子供たちにも伝えといてくれ。」
「うん、分かった。“とっておきのサプライズが待ってる”って。」
「うちの子供たち、皆ジャックさんのことで落ち込んじゃってるからさ。きっと、会えたらまたにぎやかになると思う。」
「それは良かった。・・・ってか、あれ?もしかして俺、そっちの子供たちに恨まれてたりしない?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

二人は一輝の言葉に対して、一瞬で視線をそらした。

「ちょ、えー・・・いやまあ仕方ないし、俺が悪いし、仕方ないな。」
「その考えに至るの、早すぎない?」
「まあ、自覚ある分、な。一方的に押し付けたあの契約、どう考えても悪行なわけだし。責められても仕方ない。」
「・・・さっぱりしてんなぁ。」

アーシャはあきれ果てた、とでも言いたげな様子である。

「・・・確かにそう思ってる子もいるけど、ジャックに会えたらそうでもなくなると、思う。」
「そんな単純なもんかねぇ。」
「うん。割と感情って、単純なもの。」

えっへん、と胸を張って言うウィラ。その際にその豊満な胸が揺れたが、そこに反応するものは、この部屋にはいなかった。
いや枯れすぎだろ、一輝。

「あ、そうだ。これうちの畑で採れたかぼちゃ、お土産に。」
「・・・なあ、それはジャックのことに対するメッセージか何か?」
「そんなんじゃない!うちのコミュニティで準備できる、お見舞いにもなるもの、って選び方だよ!」
「それに、こういう収穫物以外になると、作るときにジャックも参加したものばかりだから・・・」
「ああ、なるほど。」

そっちの方がよっぽど、ということだろう。まあ確かに、それをもらう方がよっぽどではある。だが、かぼちゃを選択したのもどうなのだろうか、と思わないではない。

「なんにしても、そういうことなら遠慮なく。そこに置いといてくれるか?」
「ん、了解。」

と、もう既に五つのお見舞いの品が置かれているそこに、アーシャがかぼちゃを乗せる。

「・・・じゃあお見舞いも渡せたし、そろそろ失礼する。お大事に、カズキ。」
「また完全復活したら来るから、あの話忘れるなよ!」
「おう、分かってる。んじゃ、またその時にな。」

こうして、お見舞い三組目は帰って行った。被害者はアーシャ一人と、とても平和である。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧