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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第25.5話 憎しみの記憶

 
前書き
どうも蛹です。
今回は特別編で番外編をするという“外道(アウトロード)”に走ります。
そして、先に言っておくと、今回は私の殺意をぶちまけた一話です。
今までの話の中で最も惨酷な描写が多いです。
素人の駄文が殺意むき出しで襲いかかってきます!
生半可な心構えでは、卒倒者が続出ですので注意してください。
まぁ、そんな人は惨酷警告の出ているこの作品を読まないでしょうが。

それでは第25.5話、始まります!! 

 

生きるって‥‥‥‥‥‥‥‥何だろう。

物心ついた時にふと思ったことである。


「オイッ、何やっているノロマ!」

 ベチィンッ!!

私の売られた時の値段の何十倍も高い衣服に身を包んだ男が
鞭で背中を強く叩いてきた。痛々しい線が背中に走った。
皮膚がパックリと割れて、鮮血が流れ出した。

しかし、動きを止めてはいけない。
無駄に叩かれて体力を浪費するだけだからだ。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

私は無言のまま仕事を続けた。

「ダラダラしてると飯抜きにするぞッ!!」

 バシィンッ!!

地面を鞭で叩きながら男は叫んだ。


全てのモノには価値がある。
それは人間も例外ではない。
親友とただの友達とでは価値が全く異なるように
ヒトは価値を基準にして動作を行う。

無駄な事を行うことの愚かさを
考えれば当然の事だろう。
価値のないことをすることは
文字通り価値がないことだからだ。

この世の中ではヒトがヒトを売っている。
いわゆる奴隷というモノだ。

貴族が下等な人間、つまり奴隷を
自らの鬱憤を晴らすため、楽しむため
苦しむ姿を見て、自らの地位を改めて知るため
などの様々な″使い方″をされている。


彼らはヒトをヒトとして見ない。


生まれつき、傷の治りは早い方だった。
先のような大怪我も数十分あれば完全に塞がる。
前には腕を切られたこともあり、「くっつけてれば治る」と
笑いながらろくな治療も行われなかったが
くっつけたままいたら、数時間で治った。

得に変わり映えのない日常に最近、新しい変化が起こった。
自分が死なないことが分かったのだ。

全身を切り刻まれても、電気を流されても、
水の中に数日沈められても、火の中に放り込まれても
目をえぐり出され、舌や指や耳をねじ切られ、手足をもがれ
内臓を順番に取り出されても、死ななかった。


最近は、粘土のように肉が再生するようになった。


目覚めた力を使ってサーカスに出ることになった。
トラの入った檻の中に入って、ズタズタにされて、中身を引きずり出され
観客が「もうすでに死んだだろう」と誰もが思うタイミングで現れる。
その瞬間、会場は大歓声に包まれるのだ。

あそこに落ちた首やそこの右足は、精巧に作られた人形で
トラが咀嚼している内臓は、ウシかブタの内臓で
檻の中に四散している血は、ペンキか何か。
そう観客たちは自らに言い聞かせ、納得するのだ。

それが有名になり、少しずつサーカスは大きくなっていった。
血塗れ曲芸団(ブラッディサーカス)』の開幕であった。


それに伴い、芸も一個ずつ増えて行った。


燃えさかる炎をゆっくりと歩いて行き
何食わぬ顔で反対側から出てくる芸。

投げナイフの的になって、飛んで来るナイフを受け
額に当たった瞬間に倒れ込み、「死んだ」と思わせておいて
勢いよく立ち上がり、大丈夫だとアピールするという芸。

箱の中に入って無数の剣で刺され、それを抜き
また何食わぬ顔で現れるという芸。

上半身と下半身の二つに分断されて
それぞれが血を噴き出しながら歩いていき
ある程度歩いたら、再び一つになるという芸。
(ここ辺りから倒れる人が現れ始める)

トランポリンで空中に大ジャンプして、勢いよく地面に激突し
全身をバラバラにし、血だまりの上に黒いカーテンを掛けて
再び上げると、身体が元に戻っているという芸。

芸の中で最も反響を呼んだのは、天井近くに吊るされた小部屋に入り
吊り天井が落ちて来て、血が観客に雨のごとく降り注ぎ
全員が「これは完全に死んだな」と思わせながら吊り天井を上げると
平然と部屋から出て来るというものである。
肉体の再生力が上がったから出来たことである。

小部屋の近くにはその部屋に入る為のロープしかなく
それも芸が始まる時には回収されるので、一体どうやって
あの芸を成功させているのかが誰にもわからなった。


たとえプロのマジシャンでも分かるはずがない。
この芸にはタネは全くないのだから。


経営は絶頂期を迎えて、やや山が下り始めた後
血塗れ曲芸団(ブラッディサーカス)』閉幕会を最後に終了した。

一団体から億万長者に成り果てたサーカス団は
彼を再び奴隷市場に売り払った。
値段は二束三文、すなわち、はした金だ。
所詮、こんなものだ。ヒトの価値とはこんなものである。



    **********



そして、私は貴族の家に買われることになった。

「やぁ、お前が新しい奴隷か?」

高貴な服に身を包んだ少年が話しかけてきた。
高い鼻で髪にロールがかかっていた。
ヨーロッパの貴族を想像すれば早いだろう。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい」

私はうなずいた。少年は手に鞭を持っていた。
あぁ、またこれか。私は心の中でそうつぶやいた。


 バチンッ! バシッ! ビシッ!


少年は私の身体を鞭で叩き続けた。
叩く度に肉が裂け、血が弾け飛び、壁に散った。
別の個所を叩く間に叩かれた傷はほとんど塞がっていた。

「うえぇ、ホントに治ってる。化け物だな」

私自身でも限りが分かっていない不死の能力。
いつか死ぬのか?ここで叩かれ続けていればいつか。
しかし、そのいつかは来ない。

「これで頭撃ってみろよ」

少年は腰から見かけに似合わない黒い鉄の塊を取り出した。
拳銃だ。何回も見たことがある、何の役にも立たない武器。

「‥‥‥‥‥‥‥分かりました」

そう答え、こめかみに当て、硬い引き金を引いた。

 ガキンッ! ドンッ!

弾丸がはじき出され、頭蓋骨を叩き割り、柔らかい脳を貫き
反対の頭蓋骨を抜けて、部屋の壁に突き刺さった。

 キンッ

「‥‥‥‥‥‥‥撃ちました」

薬莢が地面に落ちると同時に
私はこう言いながら、銃を少年に返した。

「‥‥‥‥うおぇ‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

少年は片手で口を押さえて、そのまま走り去っていった。

 メキメキ‥‥‥ッ‥‥‥

両方の側頭部に開いた穴は
周りから肉が寄っていき、完全に塞がった。
私の前には空虚だけが残った。

生とは死へと向かう間にヒトが感じるモノだ。
では、私にはそれがあるのだろうか?
魂から溢れ出る命が、私に死を許さなかった。



    **********



「ハァ、ハァ、このくらいで反省しておけッ!!」

 ガキンッ!

暗い、唯々暗い、地下の牢獄に閉じ込められた。
少年が「――――が俺の気分を害した」と父親にチクったらしい。
そして、この家の主である少年の父親が私を鞭打ちを始めとする
様々な拷問で責めたてたのである。

今、私は鎖で壁に繋がれている。
ジャラジャラと耳に残る金属音が動く度に鳴り続けた。

『‥‥‥‥‥‥‥‥‥生とは』

生きているとは何だろう。
彼は心の中でそう問いかけた。
もちろん、答えが返るはずがない。
しかし、問わずにはいられなった。

私のように、奴隷ゆえに蔑まれながら生きていく事が生なのか。
少年やその父親のように、弱者を蔑みながら生きていく事が生なのか。

『‥‥‥‥‥無駄だな‥‥‥‥‥』

考えるだけ無駄だった。現在(いま)を生きる事。
それが生であるということにしておこう。


それより、先程の価値についてだが
それが今はわからなくなっている。


生きるために役立つ様々な事、いわば技術を高貴な者達は使えなかった。
この前、屋敷にいる人たちに食事の用意、洗濯、掃除などが出来るかを訊くと
「使用人たちがすることを、何故私たちがしなければいけないの?」
と、男女で言い方に差があっても大体同じような事を答えた。
そして、無礼者と私をぶったのだ。

この家の貴族たちに蔑まれている奴隷たちに同じことを訊いてみると
「僕は料理が苦手かな」「私は力仕事が出来ないわ」「俺は皿洗いだな」
など、習っていない技術や初めて知ったもの以外は
生きるために必要なものだと言って、覚えている者がほとんどだった。

何の能力も持たない役立たずの高貴な者達が
それぞれ個性ある才覚を持つ奴隷たちをけなしている。
これを暴挙と呼ばずして、何と呼ぶべきだろうか。



    **********



一か月の地下牢生活の後、彼は再び上に戻された。

「次からはあまり出しゃばるなよ!」

そう少年から言われた。出しゃばるとは何だろう?
撃てと言われて、頭を撃ち抜く事がそうなのだろうか?
ならば、もう出しゃばらないようにしよう。私はそう決めた。

3日後、別の少年から銃で撃てと言われたので
それを拒否したら、また父親から拷問され、地下牢に繋がれた。



    **********



暗い。またここだ。私はそう思った。
私の中では、もうここは飽ききった場所だった。

『鎖さえなければ、静かで良い所なのだが‥‥‥‥』

私は鎖の両端を掴んで、軽く引っ張ってみた。
何も見えないので確認できない。しかし、確かに分かる。


外れた。


片手は確かに不自由なく動かせている。
私はもう片方の鎖も軽く引っ張ってみた。


やはり外れた。


これで、両腕が自由になった。
金属の輪が両の手首に付いていたので
留金の金具を回し抜いて、それも外した。

地下牢の鎖は錆びついていたので
こんなにも簡単に千切れたのだろうか。

私は壁から垂れて石畳にまで伸びている鎖を両手で拾い上げた。
まだ、ジャラジャラと音がするのでうるさく感じた。

鎖は金属の輪を沢山連ねた物だ。逆に言えば
バラバラにすれば、ただの金属の輪に過ぎない。

私は鎖の輪を一つ掴み、左右に引っ張った。
感触はなかったが、千切れていた。

それを、ただひたすら繰り返した。

たまに落とした時はギャリンと耳に痛い音が鳴るので
それを注意するようにしながら続けた。

太陽も月も見えないので、一体何日経ったのかは分からないが
2本の鎖は数十個の小さな金属の輪になった。
暗くて何一つ見えなかったが、この作業は正直楽しかった。
しかし、それも終わってしまった。

金属の輪をまた鎖に戻そうかと考えたが、うるさいのでやめた。



    **********



私は、数週間後に三度上に戻された。

そして、今に至るのだ。外で荷物を運ぶ仕事をしている。
最初は痛かった鞭が、今では叩かれたという程度にしか感じない。
私の中で、痛みとはとっくに重要なものではなくなっていた。

「さっさと働けと言っているだろうクズがッ!!」
 
 バチィンッ!

「ギャアッ!」

別の誰かが叩かれた。まともな食事も与えられずに
まともな仕事ができるのだろうか?
いつもたらふく物を食らうだけの愚者(クズ)
ろくに物も食べれず、それでも働く奴隷(クズ)
どうこう言えるのだろうか。


奪われなければ分からない。
奪ってやらねば分からない。


私の頭の中に囁くようにこの言葉が響き渡った。

「キャッ!」

 ドシャッ!

声からして少女だろうか。後ろを振り向くと
彼女の周りには、大量の荷物が散乱していた。
とても一人で運べるような量ではなかった。

「おいッ!そこのガキ!甘えてんじゃねぇぞ!
 ここは弱肉強食の世界なんだよ!
 弱者は這いつくばり、強者はのし上がって行く。
 こういう風に世界はできてるんだよッ!!」

 ヒュオッ!

そして、風を切る音が聞こえてきた。


 バシィィィィィンッ!!


鞭打の音、そして少しの沈黙が響き渡った。


少女の身体を男が庇い、その背に鞭を受けたのだ。
飛び散った鮮血は砂に吸われていった。

「テメェ‥‥何してやがるッ!!」

高貴な男は声に怒りを込めて叫んだ。


そこには私が立っていたのだ。
それには、私自身が驚いた。


斜めに走った赤く割れた傷は私が立ち上がる内に
ぐじゅぐじゅと音を立てながら塞がっていった。

私は男の全身を見回した。
身体は万遍なく脂肪に覆われていた。
何もしていないのに息が上がっているように見える。

私は先程に叩かれた男や少女の方を見た。
全身が引き締まっていた。栄養不足の為に
やせ細ってはいるが、貴族の男たちに比べれば
はるかに鍛えられていた。

弱肉強食。弱い者の肉を強い者が食うと書く。
この場合はどちらが弱者だろうか?
餌を与えられていない獣と毎日たらふく食っている人間。

「さっき言いましたよね?弱肉強食って」

私は男にそう問い立てた。

「あぁ、そうだよ!分かったらさっさと持ち場に戻れ!!」

男はそう言って鞭を振り上げた。
私はその前に近寄り、男の上げている腕の方の肩に触った。

 ゴキンッ ブチッ!

肩の骨が外れる音の後に、腕がまるで紙のようにもげた。
鎖を引きちぎる時の応用でやってみたが、ここまで脆いとは。


人間の肉体は(ヒトノカラダハ)


「あ、ああ、あひぇああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!!」

男は声にならない叫び声を上げながら、砂の上をのたうち回った。

「大丈夫ですか?とても辛そうですが」

そう言って、私はもう片方の肩に手をやった。

 ゴキンッ ブチッ!

さっきの要領でもう片方の腕がもげた。
だが、鎖の時とは違い、楽しさは全く感じなかった。

「あがああぁぁァァァぁぁあああひぃィィぃぃィィぃぃぃイイイイッ!!!」

この男がうるさいからだろうか?

「奴隷仲間から聞いたんです。右が痛い時は左を叩けって。
 そうすれば、少しは痛みが引くらしいです」

一応、本当に聞いた事だ。善意でしたつもりだが
男はただのたうち回るだけで、痛みが引いた様には見えなかった。
周りからは、君は知識不足と笑われるだろう。

「‥‥‥‥‥あ、そう言えば」

さっき守った少女の方を見た。
彼女は私が男に行った行為に驚いたのか、失神していた。

「これはしばらく起きないな。誰か、この子を頼む」

そう言うと、近くのおじいさんが荷物を置いて駆け寄って来た。
おじいさんは少女の肩を支えると、彼に質問した。

「一体、君は何をするつもりなんだ?」

その問いに私はすぐ答えた。

「世界の理を‥‥‥打ち砕く」

そう言って私は屋敷へと向かって行った。



    **********



「たった一人の反逆者も鎮圧できんとはどういうことだ!」

数に物を言わせただけの白兵戦で
不死の私を殺せると思っているのだろうか?
もしも本気でそう思っているなら、愚か者にもほどがあるだろう。


最近、もう一つ分かったことがあった。
それは、私は″虫″であるということだ。
故に蔑まれていたのだ。故に踏みにじられていたのだ。


私は蟻(ワタシハアリ)


飛んで来る弾丸や刃は身体を貫かずに弾かれていった。
″虫″と同じ骨格を私は手に入れていた。それはいつ?
私にも分からない。生まれた時なのか、それとも‥‥‥‥‥

兵士たちの身体を紙屑のように千切ってみせた。
5、6人程で他の兵たちは逃げるようになってきた。

「何をやっているお前たち!私を守れ!私を―――――――」

 パキッ

それがこの屋敷の主が放った最後の言葉だった。
この男の首から上にあった丸い部分は、私の右手の内にあった
傷口から噴水の如く血が吹き出した。
それは、傍から見れば非常に滑稽にも思える光景だった。



    **********



「まさか、こんな素晴らしい食事会を開いて頂けるなんて光栄です」

長いテーブルの上に並べられた料理を前に
男は席から立ち上がって代表の一言のように言った。

「でも、一体どんな料理なんざましょう?」

銀色のドーム状の物で蓋をされた料理を見ながら
いかにも狡猾そうな女はつぶやいた。

「皆様のお気に召すであろう御料理でございます」

私は深々と礼をしながら言った。タキシードに身を包んで。
金と地位にしか興味のない者たちは
私が奴隷であることなど想像もしないだろう。
所詮、使用人など誰でもいいのである。それが、奴隷であっても。

「‥‥‥‥‥‥良い使用人たちですね」

私の後ろに座っている男はそう言った。
私は、何故そうおっしゃるのですか?と訊いた。

「だって、誰一人として壁際で微動だにしていないんですよ?
 しつけが良く行き届いていますね」

今の言葉から、彼らにとっては使用人でさえ
同じ人間としての価値を持っていないようである。

「ところで、食事は始めないのですか?」

小太りの男が大広間の一番前にある
全員の視線が注目しやすい位置に座る屋敷の主に声をかけた。
しかし、彼からの返事はなかった。

「早くしないと、せっかくの料理が冷めてしまいますぞ」

その点に関しては大丈夫である。
とうの昔に冷めきっているのだから。

「‥‥‥‥‥‥そろそろ潮時ですね」

私は屋敷の主の前に立ち、こう言い放った。
大広間にいる全員は一斉に私に視線を向けた。

「‥‥‥それはどういう意味です?」

鼻の高い、金髪の偉そうな男が私に訊いてきた。
私は、屋敷の主の後ろに立った。

「誰も疑問に思わないのですか?
 屋敷の“壁側”にいる者たち全員が誰一人として
 “瞬きすらしていない”ということに」

それを聞いて、全員が騒然とした。
彼らはこの世界は自分が中心だと思っている。
故にここで誰かが人形に変わっていたとしても気付かない。

「そして、ここに座している主の正体は‥‥‥‥‥」

私の次の動作に全員は驚愕した。
屋敷の主の首が、音もなく外れたのである。
その衝撃に全員が立ち上がり、その衝撃で
屋敷にかけられた私の魔法は解けた。


 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!


次々と周りに居た使用人が音を立てて崩れ落ちた。
その全員の首も、体と独立して床に落下した。
よく見れば、首は人形の頭であった。
しかし、身体は確かに人だった。

「き、きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッ!!!」
「し、死んでる!それも全員!!」
「ワシらは亡霊の食事会に付き合わされたのか!?」
「いやああぁぁぁぁぁぁあッ!ワタシ死にたくない!!」

今まで貴様らの茶番に付き合って
何人の奴隷たち(ひとたち)が死んだだろう。
弱者の気持ちは強者には分からない。


貴様らも知れ。

命を奪われて、知れ。


「ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいッ!!」

 ガタッ! ゴトンッ

一人の女性が恐怖のあまり、机の上の料理に手が当たり
銀色のドーム状の蓋がカーペットの敷かれた床に
そのまま落ちて、鈍い音を立てた。
そして、その中の料理が女性の前に露わになった。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

女性の悲鳴と中の料理の正体に驚き
後ろに退いた拍子にテーブルに身体が当たって
他の人たちの蓋の中身を露わとなって行った。

 ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトッ

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!」

蓋の中に入っていたのは、すべて貴族たちの体だった。
大人や子供の頭や腕や脚、内臓などが丁寧に盛り付けられていた。
周りに控えていた使用人たちは全員、実は殺した貴族だったのである。
服装でしか人を見ていない貴族たちを騙すには十分なものだった。

「ここに座る屋敷の主も、すでに亡くなられています。
 住んでいた貴族たちは全員、誰一人残らずです」


 パチンッ!


私は指を鳴らした。周りからガサゴソと音が鳴り始めた。

「な、何?何なのよ!?」

女性がヒステリックに私に訊いてきた。
私は教える義理も何もなかったが、正直に教えてあげた。

「ここに愚かな貴族(ケモノ)が放たれていました。
 彼らは奴隷(ひとびと)にいつも酷い事をしていました。
 さて、ここで問題です。危ない獣たちがいる場合
 私たちは大抵の場合どうするでしょう?」

 バサッ!

そう問うと同時に2階から数十人の男女が
中にいる数百人の貴族の前に顔を出した。

「正解は、害獣駆除です」

そう言うと、全員の両手にある機関銃の銃口が
屋敷に追いつめた獲物たちに向けられた。

「ま、まて!何をしている貴様ら!私たちは貴族だぞ!!
 お前らのような下等なクズ共が反逆することなど断じて許さんぞッ!!」
「そ、そうよ!そんなことをしたら、後で酷いお仕置きが待ってるわよ!!」
「貴様らは、私たちに蔑まれなければならない存在なんだぞ!!」

彼らは私達に罵詈雑言を浴びせて来た。
自分たちの立場をまるで分かっていなかった。



命を奪われて、知れ。
自らのしてきた事の愚かさを。

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!


弾は螺旋を描きつつ飛んで行き、頭部を、腕を、足を
耳を、鼻を、眼球を、指を、心臓を、骨を、胃を、腸を
ありとあらゆるものをズタズタにして、辺りに散らせた。
その光景をあえて例えるなら、人間の花火とでも言うべきだろか。

 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ!

機関銃の連射により、大量の薬莢が地面に不規則に音を立てて落ちた。

「‥‥‥‥‥‥終わったか」

私は2階にいる彼らの方を向いてつぶやいた。
全員は駆け下りて来て、それぞれ歓喜の声を上げた。

「ありがとう!君のおかげで僕たちは自由になれた!
 感謝してもしきれないよッ!」
「まさか、あなたがこんなことをするなんてね。
 でもおかげでスッキリしたわ。ありがとう!」
「あのクソ共の最後の顔を見たか?悲鳴を上げることもなく
 はじけていく無様な姿!死んだアイツ等もこれでようやく逝けるぜ。
 お前は俺たちの人生の恩人だ!本当にありがとな!!」

全員から投げかけられた言葉が俺の中に広がって行った。
少しだけ、視界が滲んで見えた。


 ぽろっ‥‥‥‥


「何よ、泣いてるの?」
「そんなに嬉しかったのかよ!」

無意識に涙が流れた。泣くというのは久しぶりだ。
久しぶりすぎて‥‥‥‥‥‥‥言葉も出てこない。

「これが‥‥‥‥感謝ってヤツなんだな‥‥‥‥‥‥」

嬉し涙。これにはそれがふさわしかった。
今まで生きてきた中で初めて感じたものだった。
私は涙を袖で拭うと、建物内に響き渡る程の声で叫んだ。

「これから私は、世界の理を打ち砕く!!」














「アスラのほっぺたプ二プ二~♪」














「‥‥‥‥‥んん」
「あ、起こしちゃった?」

アスラの視界の上側にマリーが顔を出していた。
何だか、後頭部が柔らかかった。
起き上がってみると、頭があったと場所には彼女の太ももがあった。
つまり、彼はひざ枕をされていたのだ。

「あれ、アスラ。どうして泣いてるの?」

彼女にそう問われ、自分の頬に手をやった。
涙が、彼の指先に触れた。

「私のひざ枕がそんなに嫌だった?」

マリーが泣き顔になったので、アスラは弁解した。

「いや、何か変な夢見ててさ。それで泣いてただけで
 別に嫌だったとか、寝心地が悪かったとかは‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥本当?」
「うん、本当」
「‥‥‥‥‥‥それなら良かった」

マリーはすぐに泣き止んだ。
それを見てアスラもホッとした。

「雨ちゃんが豪さんによくひざ枕してたらしいから
 私もいつかアスラにやってあげたかったの!」

彼女は嬉しそうに、ひざ枕をしたことの経緯を話してくれた。
それを聞きながらアスラは考えていた。

『さっきの夢は‥‥‥‥‥‥‥一体何だったんだ?』



    **********



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

高貴なイスに腰掛けた男は、ただ虚空を眺めていた。

「どうなされました?″(ミカド)″様」

彼に仕えているであろう女性が帝に声をかけた。
しばらく何も答えなかったが、不意に返事をした。

「‥‥‥‥‥‥‥あぁ」

彼は涙を拭った。

「″皇帝″であるあなた様が何故、急に涙を流されたのですか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

またしばらく黙り込んでいたが、ようやく口を開いた。

「少し、昔の事を夢見ていた‥‥‥‥」

女性はその一言を聞いて、安堵によるものか微笑んだ。

「たいそう素晴らしい夢だったのですね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ」

彼も笑った。

「かけがえのない素晴らしい夢だった」

そう言いながら、彼は再び瞳を閉じた。 
 

 
後書き
場面転換がもう一回やりたかっただけの一話でした。
ちなみに9420字です。非常に長くなりました。

今回は“衛兵”、“将軍”を超える階級、“皇帝”である"(ミカド)"の話でした。
彼は見事に貴族制度を無くし、世界の理を打ち砕いたのである。
何故、彼の夢をアスラも見たのか。それは偶然?それとも‥‥‥‥‥
当然ながら、後々この男は話に関わってきます!
不死の能力に対する対策は‥‥‥‥‥現在、検討中ですww

次の話で第Σ章は最終回です。
やっぱり、プロフィール発表は大事ですよね!
この話の前にするか後にするかで悩みましたが結局こうなりました。

次回 第13.5話 終戦のクサナギ お楽しみに! 
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