老いても永遠に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
2部分:第二章
第二章
「まあ精々生き残れ」
「ふん、華々しく戦死するのだな」
四人の最初の出会いはこうしたものだった。互いにつっかかり合いそれからはじまった。実際に最初の出会いから何度も殴り合いの喧嘩もした。しかし訓練においては。
浜北があまりもの厳しい訓練が続き訓練が終わった滑走路でへたれこんでいた。予科練は航空兵の養成の為のものである。だから滑走路もあるのだ。
その舗装された滑走路でへたれこんでいるとだった。そこに安永が来て言うのだった。
「どうした、もう終わりか」
「終わりかだと?」
「この程度でへばったというのか?貴様は」
こう彼に問うてきたのである。
「この程度でな」
「俺がこれで終わるような男だというのか」
「違うのなら立つのだな」
安永は立っていた。そのうえでへたれこんで座っているその浜北に対して言ってきたのだ。顔は彼を愚弄したような笑みを見せていた。
「そうでなくて御国を護れると思うのか」
「御国をか」
「戦場はこんなものではないぞ」
これは彼等が常に言われていることであった。
「こんなものではな。わかったら立つのだな」
「貴様に言われずともだ」
すぐにムキになった顔で立ち上がった浜北だった。顔は意を決したものだった。
「この程度で終わる俺ではない」
「では来い」
安永はその浜北を誘うのだった。
「既に待っているぞ」
「むっ!?」
安永の言葉に応えて見るとだった。すぐ傍に津田と赤西もいた。彼等は立ってそこにいた。
「ふん、立ったか」
「終わっていればいいものを」
二人はその浜北に対して言うのだった。
「存外しぶとい奴だ」
「根性だけはあるようだな」
「根性だけではないぞ」
浜北はわざと不敵な笑みを作って彼等に言い返した。
「俺がどれだけのものか見せてやるわ」
「では来い」
「その様でよくそんなものが言えるものだ」
二人は自分達の方に来た彼に対してまた告げた。
「へたれこんでいた癖にな」
「それができるのか」
「俺はできんことは言わん」
こう言い切りさえする浜北だった。
「では行ってやる。むしろ追い抜いてやるわ」
「では来い」
「負けぬぞ」
四人は駆け出した。そしてそれからは止まることがなかった。そうした予科練時代だった。
七つボタンの彼等はいつも四人一緒だった。何時でも共にいた。そして訓練課程を終え配属されたのは鹿屋の航空隊であった。
そこには特攻隊の者達が集まっていた。しかし彼等は特攻隊ではなく普通の航空隊として鹿屋にいた。だが日々最後の出撃をする特攻隊の者達を見ていた。
「今日も行ったな」
「うむ」
「また沖縄に向かった」
もう航空機も残り少なく燃料はさらに少なかった。彼等は訓練ですら碌に飛ばせなくなったそれぞれの乗る零戦を後ろにしていつも彼等を見送るのだった。
鹿屋は暑い。まだ夏でもないというのに何処までも暑い。その暑さの中最後の出撃をする特攻隊の者達を見て日々思うのだった。
「津田よ」
「どうした安永」
「俺も特攻隊で行くことになるのか」
安永は今飛び立つ特攻隊の零戦を見ながら津田に問うた。その零戦には爆弾が積まれている。その爆弾を抱いたまま敵艦に特攻するのである。
「やがては」
「行きたいか?」
「わからん」
今の安永の返答はこうしたものだった。
「そう問われるとな。わからん」
「そうか。わからんか」
「死ぬのは怖くないつもりだ」
こうも言うのだった。
ページ上へ戻る