問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
お見舞い客、一組目
「邪魔すんで、一輝君。」
「邪魔するなら帰れ。ほらサキ、扉閉めて追い出していいぞ。」
「用があって来とんねん!ってか、見舞客を追い返すなや!」
まあいつも通り過ぎる一輝に対して、蛟劉は軽くどなった。上層からせかされながらも起きるまで待ち、心配してきてみたらこれである。そりゃ怒るだろう。
しかし、まあタイミングも悪かった。ずっと退屈をしていたのだから、誰でもいじるくらいの勢いになっても仕方ない。そんな中、弄れば面白そうなのが来たのだ。何をするかなんて、火を見るよりも明らかである。
「まったく・・・相変わらず問題児なのですね。あの時は自分にとって都合の良い方向へ話を進めるためかと思いましたが、常日頃からそのようにしているとは。」
「確かに、こんなのが今や誰も知らぬ者のいない大英雄とは、信じられないものね。」
「まあそう言うなよ、ラプ子に迦陵ちゃん。これでも俺はここ“ノーネーム”でも一二を争う問題児なんだから。」
「迦陵ちゃんと呼ぶなッ!!!」
その瞬間に病室であるにもかかわらず金色の炎が放たれるが、その全てが一輝によって操られ、最後に火取り魔が喰らう。何ともまあ素晴らしいほどの手際だ。
「ハハハ・・・まあ、一輝殿は普段はこんなだが、やるときにはちゃんと働く。事実、アンダーウッドでの巨龍騒動、魔王連盟とのゲームに、そして今回のアジ=ダカーハ。その全てで何かしらの手柄を立てているだろう?」
と、最後にサラがちょっとしたフォローを入れた。一輝の部屋に入ってくるのはこれで最後。三人の階層支配者と鵬魔王という大物四人である。お見舞いの最初のメンバーが豪華すぎる。
「それにしても、最初がこのメンバーかよ・・・面倒な話とかありそうだから、最後の一番疲れた時に半分寝ながら済ませるつもりだったんだけど。」
「そういうやろうって話になったから、こうして一番最初に持ってきてもらったんや。」
「まあ良く分かっていますねぇ、嫌になるほどに。で?話ってのは」
『スマンが、邪魔をするぞ。』
と、一輝が話を聞こうとしたその時に割り込んでくる声があった。それが誰なのか分かっている一輝を除いて全員が扉の方を見るが・・・そこには誰もいない。
「今の声、どこから・・・」
「ああ、下下。視線を下に。」
一輝に言われたとおりに四人が視線を下にずらすと、そこには勝手に動くトレーがあった。その上には、水の入ったコップと薬がいくつか乗せてある。
「トレーが勝手に動いている・・・これは式神か付喪神の類かな、一輝殿?」
「いやいや、そんなちんけなやつじゃない。悪いんだけど、そのトレーそこの台に乗せてもらってもいいか?あと、殿はやめてくれ。前みたいに一輝でいいから。」
「そうか。では、そのように。」
そう言いながらサラはしゃがんでそのトレーを持ち上げ、一輝のさした台へ置く。それによって、台を運んでいたものの正体が分かった。トカゲである。
「・・・トカゲ、やな。」
「トカゲ、ですね。」
「トカゲ、ですわね。」
「いえ、これは・・・ッ!?」
一人ラプ子だけはその正体に気付いたようで一輝に対して攻めるような視線を向けるが、一輝は素知らぬ顔で薬を飲んでいた。それが分かったからか、それとも諦めからなのかため息をひとつついたが、気づいたのは一輝だけだった。
「えっと、このトカゲがさっき喋ってたん?」
「ああ、そういうこと。これで星の一つや二つは持ちあげれそうなくらい力あるうえに出してても俺に負担がないから、動けない間子供たちの手伝いさせてる。」
「ほう、話に聞く『檻』とやらの中から出したのですね。ということは、ただのトカゲではなく何かしらの妖怪ということでしょうか?」
迦陵はそういいながら、壁を登って台の上へ向かうトカゲを見る。約三名何という妖怪だったかと記憶の中から探していると、トカゲの方から声をかける。
『トカゲとは失敬な・・・と言いたいところだが、この姿では致し方あるまい。ともあれ久しぶりだな、火龍の英傑に混天大聖、覆海大聖、ラプラスの悪魔よ。』
「ん?何や、僕ら君と会ったことがあるんか?」
『会った、等というほどちんけではない。それに、さすがの私でも自分を討った英雄が現れた戦いに参加していた実力者のことくらいは覚えるさ。』
「・・・ん?」
と、ようやく違和感を覚えたらしい蛟劉は、そのトカゲをいぶかしげな眼で見る。いや、正確にはまだこのトカゲの正体を知らない三人にも、一つ可能性として頭に浮かんでいる名前があるのだが・・・それを口に出すことは出来ないでいた。いやまさか、さすがにそれはないだろう、と一輝の問題児性はそこまでではないだろうと、信じていたがゆえに。
だからこそ、実際にはどうなのかを、確かめずには居られなかった。
「なあ、一輝。この、えっと・・・トカゲ。名は何というのだ?」
「ん?このトカゲの時は、アジ君。」
「そ、そうか。なら・・・」
「って、ちょっと待ちなさい。このトカゲの時はと言いましたね?」
「ああ、言った。」
「つまり、この姿が本来の物、というわけではないのかしら?」
「うん、違う。」
笑顔で、しかし何か企んでいそうな笑顔で一輝がそう言うので、三人は一気に固まり、冷や汗を流す。この笑顔から、危険を感じ取ったのだろう。
「じゃ、じゃあ何て名前なんや?」
「それはやっぱり、本人に聞かないとな。ほらアジ君、自己紹介。」
『ふむ、では元の姿に戻ってもよいのか?どうせ名乗るなら本来の姿で名乗りたいものだが。』
「んー、さすがに負担がでかいからやめてくれ。人間体ならまあいけると思うけど。」
『ならば、まだこの姿の方がよいだろうな。欲を言うなら、首だけでも戻したいものだ。』
「あ、それなら負担掛けずに出来ると思う。ちょっとでかく・・・大体コモドオオトカゲよりちょっと小さいくらいになら出来ると思う。」
コモドオオトカゲはそこそこにでかい。十分すぎるくらいには大きくなるだろう。それが分かったからかアジ君も頷き、一輝は檻の中から微調整して輝く霧を出す。それを吸い込んだアジ君はだんだんと大きくなっていき、一輝の言っていた通りコモドオオトカゲよりちょっと小さい程度で止まると、今度は新たに首が生え始めた。合計二本、結果三つ首になる。
「三つ首って、確か・・・」
「ええ。あの魔王と特徴が一致しますわね。」
「いやでも、まさか・・・いや、一輝だからな・・・」
「お、察しがついたか。では、自己紹介、どうぞ。」
一輝が本格的に楽しくなってきたという表情をしながら、アジ君に手で促す。
『では、私を追い詰めた英傑たちよ。改めて名乗ろうか。私は元“人類最終試練”の一角、“絶対悪”を担っていたアジ=ダカーハだ。今は私を討った英雄である一輝の檻の中に封印され、使い魔の様にこの本拠に手力仕事を担当している。トカゲの姿の時はアジ君と呼んでくれ。』
「というわけで、“ノーネーム”の新しい御手伝い、アジ=ダカーハことアジ君でした!他にも執事服を着せた人間体のアジさんver、そして本来の姿のアジ=ダカーハver等がありますが、まあそれは俺が回復してからのお披露目ってことで、ひとつよろしく!」
わーぱちぱちー、と一輝が拍手をしていると、四人はシンクロした動きで頭を抱え、床に膝をついた。下層の平和を守るというのが仕事である階層支配者からすればアジ=ダカーハがいるというのは頭の痛くなる話だろうし、そうでない迦陵としてもこんな頭の痛くなる話はないだろう。
「・・・せめてもの救いは、隷属の形である分霊格も減ってるやろう、ってところやろなぁ。ほとぼりが冷めるまでの間に外に漏れたら、まあ面倒になるやろうけど・・・」
「ああいや。コイツについては箱庭の力による隷属じゃなくて、俺がこの手で殺して檻に封印したわけだから、それには当てはまらないんだよ。」
「では、どのような形なのでしょう?私は階層支配者ではありませんが、あの戦いに参加したものとしてそれを知る権利はあると思いますが?」
「ま、おっしゃる通りだ。じゃあ教えてやるけど、驚かないでくれよ?」
そう言うと、一輝は聞かない方がいいのにとでもいうような態度をとってから、
「俺が殺すまでの間の、最も強い状態で、だ。だからまあ、そうだな・・・疑似創星図、アヴェスターと覇者の光輪が同時に使える状態、かな?」
『その上、私に施されていた頭蓋と双肩の封印は解かれた状態で、のようだ。邪魔な封印であったからか、檻に入る際に取り除かれたようだ。』
「なんやそれ・・・そんなん、下層にいていいのとちゃうやん。ってか、“ノーネーム”に最強種がとか、頭痛くなるで・・・」
まあごもっともである。ついでに言うならば、“ノーネーム”が東側に本拠を構えるコミュニティだからか、南と西の階層支配者である自分は関係ないといわんばかりに顔をそむけているため、蛟劉はなおさら頭痛がしていることだろう。
だがまあ、これで済ませてはくれないのが一輝なわけで。
「あ、ゴメン。アジ君の前に俺の中に蚩尤いるから。」
「あぁ、何やねん。下層の“ノーネーム”に属するプレイヤーの一人が、最強種を二柱も従えてるって・・・というか、危険なんとちゃうんか?」
「ああいや、そうでもないぞ。蚩尤はもう大分俺の面白さに満足したみたいで言うこと聞いてくれるし、アジ君・・・アジ=ダカーハについては俺がこの手で殺したからな。外道・陰陽術で捕らえた異形については、殺した張本人は絶対遵守の命令を出せるから。」
まあつまり、この二柱が下層で暴れるようなことは基本的にはないということである。一輝が命令すれば話は別だが、そんなことは基本起こり得ない。起こり得る可能性はあるから心配な要素こそ残るかもしれないが、それでもまあとりあえずは安心できる。
「ま、まあええわ。じきに第六層への昇格の話も出とるんやし、まだ何とかなる。最強種が二柱とか本気で五層か四層に所属するコミュニティに移動してほしいくらいやけど、どうにか使い魔ってことで誤魔化していけば、まあ何とかなるやろ。少なくとも、どれだけアジ=ダカーハを倒していたとしても人間なんやから、まあ何とか、」
「あ、ごめん。確かに俺純百パーセントの人間として生まれてるけど、同時に純百パーセントの神霊としても生まれてるんだわ。」
「「「「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」」」」
さらっと投下された爆弾に対して、四人は同時に声をあげる。まあそれはそうだろう。一輝の発言をそのまま信じれば、生まれながらに神霊であり、それが百パーセント、という事なのだから。
「・・・いえ、ちょっと待ちなさい。だとするならば、アジ=ダカーハがその霊格を自らに上乗せ出来たはずでしょう。」
「まあ普通ならそうなんだけど、俺の方はまあ色々と特別製でな。まず、そうだな・・・俺には“Boostrap Paradox”が適用されない。純粋に神霊として存在してるけど、そこには前提として民からの信仰があったから神霊になった。」
「・・・もうとりあえず、大概の事は驚かんことにするから、驚く分の時間はとらんでくれてえで?」
「そう?それは楽で助かる。」
そう言いながら一輝は、自分の中で表現できる言葉を探す。
「だからまあ、俺の持つ神霊としての霊格とか最後に使った疑似創星図、“百鬼矢光”なんかも、人類の作り出した、人類の遺産ってわけだ。」
『私の疑似創星図“アヴェスター”では、人類の遺産は上乗せ出来ないからな。一人分ならばなんとかならなくもないのだが、コイツの場合はコイツのいた世界の全ての民の信仰からなるうえに、代を重ね継承する一族ということもあってか、一人で一人分の霊格ではないという、まあ私にとって不利でしかない相手だったわけだ。』
「とかいいながら俺をこんなになるまで追い込んでるんだから、人類最終試練ってのは無茶苦茶だよなぁ。いやホント、良く勝てたもんだよ。」
「無茶苦茶言うなら、君も大概やろ・・・」
「“ノーネーム”が異世界から呼びだした人材はどれも辺りばかりとは思っていたが。」
「全員大当たりクラスだというのに、彼は一人でここまでの戦力を手にしてしまいましたし。」
「彼と逆廻十六夜については、私がいくら調べようとしても情報が集まらないような存在です。もう無茶苦茶です。アンビリーバボーです。」
「そいつはどうも。」
「「「「褒めてない!」」」」
皆さん大変元気である。何かいいことでもあったのだろうか?いや、逆か。大変困ったことがあったのだ。
「全く、みんな元気だなぁ・・・お見舞いの他にも何か話すことがあって来たんだろ?ほらほら、話してみろよ。もうお前たちのおかげで今日の分は満足できる位弄れたから、ちゃんと聞くぞ?」
「次兄。今更ではありますが、来るなら二番目が良かったのではないかしら?そうすれば、彼も中々に満足していてすんなりとはなしに入れた気がするのだけれど。」
「うん、そやな。またなんかあったら、この反省を生かすことにしよか。」
もう諦めたのか、それとも一輝がまじめに聞く体勢をとっているうちに話を済ませたいのか、蛟劉は話を進める方向に入った。どうやら、メインで話をするのは蛟劉一人のようだ。
「まあ、と言っても話があるのは僕らやないんやけど。」
「あ、そうなのか?階層支配者として、あの主催者権限について制限をかけるとか、そんな話だとばかり。」
「いやいや、別にそんな話はせえへんよ。というか、僕らが束になってかかっても勝ち目がないのに、そんな一方的なことはいえんし、とりあえず君の人間性を信じる、ゆうはなしになったんや。あそこまでのものなら、悪戯には使わへんやろ?」
「それはまあ、さすがにな。」
さすがにあの主催者権限は一族の歴史そのものであるので、そんなことでは使えないのだ。一輝自身のプライドにも関わる。
「せやけど、まあ仕事の一環として上層に今回のことを報告したら、まあ色んなところの神軍がうるさくなってなぁ。やっぱり、『主催者権限によるゲームを強制的に終了させられる主催者権限』というのを無視するわけにはいかんみたいや。」
「そりゃそうだ。俺だってそんなものの話を聞いたら気になるだろうし。」
「そういうことや。ついでに今日の話で分かったことも報告することになっとるから、神霊やってことも伝わるし。」
「え、それ伝えない訳にはいかないの?ほら、そんなこと言ったらスカウトとかありそうで面倒極まりないんだけど。」
「無理やな。あともう一個、その色んな神軍から『一度話がしたいから本拠まで来い』っていう旨の手紙を預かっとるんやけど、ちょっと行ってきてくれるか?」
蛟劉はそういいながら大量の手紙を取り出してお見舞い品を乗せるための台に乗せて行く。そこには本当に神軍から届いたということを証明する各神軍の旗印が押されていて、旗を取り戻したとはいえ最下層の“ノーネーム”に届くようなものではない。が、
「えー、面倒くさ。用があるならテメエが来いよこの駄神ども、って連絡返しといてくれ。」
「戦争になるわ!」
「絶対にやめなさい!縁起でもない!」
全部の神軍が全部、というわけではないかもしれないが、大体の神様はブチギレるだろう。結果として戦争になってもおかしくはない。そうなったとしたら、間違いなく七天戦争以上の数の神軍を相手にすることになるのだ。蛟劉と迦陵が声を荒げるのも無理はない。
「というか、あなた言いましたわよね!?もうふざけずにちゃんと聞くと!」
「いやだから、俺本気で面倒だからテメエが来いよこの駄神、って思ってるんだよ。」
「そんなこと言ったら戦争になるいうとるやろが!神軍を相手取るいうんがどれだけのことか、ホンマにわかっとらんのとちゃうか!?」
「ふぅん・・・アジ君、そんなに大変なのか?」
『そうだな・・・』
一輝に問われたアジ君は少し考え、
『まあ、普通なら大変では済まないであろうな。しかし、神軍側も切り札は主催者権限。それを無効化し、自らのゲームに引きずり込む事の出来る一輝ならば、勝利することもそう難しくはないかもしれんな。』
「ほうほう。」
『それに加えて私の疑似創星図も合わせれば、あらゆる神仏は相手ではない。一輝のゲーム盤に引きずり込めば下層にも被害は出ず、自らの手で殺した分は自らの力となるのだから、戦力強化できるかもしれんな。』
「・・・なあ、アジ君。結論としては、なんなんや?」
ちょっとこわごわという感じで、蛟劉がアジ君に問う。まあ、ここまでの流れでは怖いと思うのも当然ではある。
『そうだな。仮に上層の神軍の多くに喧嘩を売り、戦争になったと仮定するのなら。』
「「「「仮定するのなら?」」」」
『一方的に一輝が得をする、という可能性は極めて高いだろう。強いて言うのなら主神クラスを相手取るのが難しくなる可能性こそあるものの、それすら殺した者の霊格を取り込んでいくうちにどうとでもなろう。』
「とか言ってるけど、頼むから神軍に喧嘩売らんといてな。本間に頼むわ。ちょっとトラウマクラスやねん。」
蛟劉はすぐさま判断し、一輝にそう言った。まあ、七天戦争の経験者としては、トラウマになっても当然というものだろう。
最終的にこの件は、『一輝が各神軍を回るのにかかる費用等を全て神軍側が負担。この件自体は階層支配者からの依頼』という形に落ち着いた。日程については一輝の都合を全面的に優先する、ということに。
『下層の平和を守護する』というのが仕事である階層支配者としては、これ以上ない仕事っぷりと言えるだろう。
ページ上へ戻る