君は僕に似ている
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1部分:第一章
第一章
君は僕に似ている
見るとだ。同じだった。
俺はそいつを見てだ。すぐに思った。
そいつはがむしゃらだった。とにかく戦場に出て銃を握ってだ。
「死ね!全員死んじまえ!」
叫びながら敵を撃ってだ。殺しまくっていた。
セルビアの奴等を殺しまくっていた。そうしていた。
そいつと話をしてみた。歳はだ。
俺より三つ下だった。黒髪に黒い目でだ。気の強い顔をしていた。その黒い髪と目も俺と同じだった。俺もどちらも黒い色をしている。
けれど同じなのは。その目にあるものだった。
黒い目には赤いものがあった。憎しみだった。それがいつも燃えていた。
俺達はアジトにしているビルの中でだ。コーヒーを飲みながら話した。それでそいつの話を聞いた。
「セルビアの奴等の砲撃で」
「家族がやられたんだな」
「はい、そうです」
こうだ。俺に話してくれた。
「父さんも母さんも妹も」
「皆なんだな」
「俺のいた村にセルビアの奴等が来て」
それでだと話してくれた。今じゃよくある話だ。
俺達の国のクロアチアはユーゴスラビアから独立した。それを許さないユーゴスラビア、セルビアの奴等がだ。俺達に攻撃を仕掛けてきた。
俺の母親はその時にセルビアの奴等に殺された。ベオグラードにいたが家族で逃げる時にだ。俺達の乗っていた車が撃たれた。
その銃弾が母親に当たってだ。車の中で血まみれになって死んだ。俺はそれからセルビアの奴等を怨んでだ。こうして戦っている。
それが三年前で今じゃ立派な軍人だ。それが今の俺だ。
そして目の前にいるこいつも。同じ理由で戦っていた。
「砲撃で三人共吹き飛ばされました」
「そうだったんだな」
「俺だけは助かりましたけれど」
顔を俯けさせての言葉だった。
「けれど。何もかもなくなって」
「兵隊になったんだな」
「はい」
その通りだった。まさにだ。
「俺の家族を殺したセルビアの奴等を全員」
「殺すか」
「はい、そうしてやります」
冷たいコンクリートの中でだ。その熱い、それでも暗い言葉が響いた。
「それは皆ですよね」
「そうだな」
その通りだった。俺もそうだった。今のクロアチアは皆セルビアへの憎しみの中にある。向こうもそうだろうが俺達はそうだった。
その憎しみを感じながらだ。俺は答えた。
「皆だな」
「セルビアの奴等、絶対に」
憎しみの言葉がまた出た。目の前にいるそいつの口から。
「許さない、目についたら片っ端から殺してやりますよ」
「そうだな」
俺は言葉は応えた。けれどだった。
これまで確かにセルビアの奴等が憎かった。俺自身何人も殺してきた。しかしだった。
最近何か違ってきた。空しい。殺すことばかり考えてきた。憎くて仕方がなかった。けれどそれがだ。何かが違ってきていた。
殺し合ってもだ。何にもならないんじゃないかって思えてきた。それでだった。
目の前のこいつを見た。するとだ。
鏡を見ているような気がした。少し前までの俺が映っている様な。
その俺を見てだ。俺は言った。
「何を目指してるんだ?御前は」
「俺ですか」
「ああ。クロアチアが完全に独立したらな」
どうなるのか。それを尋ねた。
「何が欲しいだ?それで」
「平和に決まってるじゃないですか」
返答はこれだった。俺の予想通りだった。
「それですよ」
「平和か」
「はい、セルビアの奴等を皆殺しにして」
こう言うのもわかっていた。実は。
「それで平和をです」
「そうか、わかった」
俺はその言葉を受けた。
「戦いのない世界が欲しいんだな」
「それ以上に幸せな世界なんてないですよね」
今度は希望に溢れる目になっていた。これまでの憎しみが少しだけ薄らいで。その目になって俺に話してきた。
「平和だったら。父さんも母さんも」
「妹さんもだな」
「死ななかったですし」
だからだというのだった。
「だから俺は」
「平和か」
俺はその言葉をまた口にした。
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