道を外した陰陽師
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第三十九話
夏休み初日
「さて・・・呪校戦までは三日しかない。ついでに俺にも指導の依頼が来たわけなんだが・・・文句のあるやつはいるか?」
目の前にいる1、2、3年生の選抜メンバーは誰ひとり文句をあげなかった。少し意外だな、これは。
「なら、メニューは俺が考える。出場種目に合わせて、同時に少しでも優勝できる可能性が上がるようなメニューを心がけるが、無茶だけはしないように。体壊したやつは罰ゲームが待ってるからな」
言った瞬間、雪姫にハリセンで叩かれた。痛い・・・
「で、次の確認だ。・・・代表者として伊空に聞くが、何でもする覚悟はあるか?」
「何でも・・・?」
「ああ、何でも。今回俺が考えている作戦は大きく分けて二種類。一つは、普通の方法。何の変哲もない、基礎や本人の得意分野を磨く方向だな」
「・・・二つ目は?」
「陰陽術、妖術、魔術、魔法・・・そう言ったものの常識に喧嘩を売る方法だ。どちらかと言うと、相手が驚いた隙を突く手法になるかな」
そう言うと、全体に驚きが走った。まあ、仕方ないかな。たかが高校一年生が、そんなことをしようとしてるんだから。
さて、一日置いた方がいいかな、これは・・・とか考えていると、どうにも雰囲気がおかしい。これ、乗り気じゃね?
「・・・もしかして、皆乗り気?」
瞬間、全員が肯定を示した。マジか・・・
とはいえ、このままこっちが驚かされてるわけにもいかないしな・・・
「・・・なら、妖怪組は俺の方に。それ以外はとりあえず今からバラまく練習メニューを。スタッフは今日から呪校戦用の呪符の作成が許可されてるから作成を始めてくれ。誰に対しても使える治癒札を優先的に、お札、五行札も作って行ってくれ。はじめ!」
そして、練習が始まった。
夏休み二日目
「さて、と・・・んじゃ、始めますか」
今私は、零厘学院の校庭に来ています。
昨日、呪校戦に参加する五人に封印がかけられたのですが・・・その状態でどれだけ戦えるのか、と言う事で五人で集まったんです。
「まずはくじ引きの結果通り、俺と鈴女。殺女と匁でやるぞ」
四人が手合わせをしている間、私は結界の維持、です・・・結構頑張らないといけないので、気を張っていき、ます・・・
「えっと・・・私たち、見ててもいいですか?」
聞き覚えのない声で話しかけられてつい逃げ出しそうになってしまいますが・・・ぐっと我慢、です。
「は、はい・・・結界の中でも外でも、ご自由に・・・」
「結界の中でもいいんですか?」
「はい・・・死んじゃうかも、しれないですけど・・・」
そう言うと、結界の中に踏み込もうとしていた人たちが踏みとどまり、ました。
今気付きましたけど、中に入れちゃいけないから結界なんですよね・・・うぅ、動転してる・・・
周りの人に涙を見られないうちに四人の方を向いて、結界を張って・・・その瞬間に、手合わせが始まりました。
一輝さんたちの方は・・・
「「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン」」
ただひたすら火界咒を唱え、火の塊どうしをぶつけあわせています。
あれ、何千度くらいなんでしょう・・・?もっと上、なんでしょうか・・・?
で、もう片方は・・・
「力よ!」
「刀よ!」
拳と刀をぶつけ合わせて、ぶつけ合わせて、ひたすらそんな感じ、です・・・う~ん、結界がなかったら・・・周りの、景色がなくなってましたね・・・
「これ・・・封印、かなりかかってます・・・」
「・・・え、これでなんですか?」
「はい・・・いつもなら、もっと、こう・・・地面の形が整ってない、です・・・」
何ででしょうか・・・絶句され、ました・・・
う~ん・・・普段ならこんなじゃない、んですけど・・・まだ、見た目が地面ですし・・・
夏休み三日目
「はぁ・・・眠い・・・」
「一体何時までやっていたのですか?」
「一分前まで」
「なるほど、朝食・・・昼食?をとったら寝てください」
一輝さんが頷いたのを見て、わたくしは安心しました。さすがに、今無茶をする気はないみたいですね。
さて、どうしましょうか・・・お布団、もう洗ってしまいましたし・・・誰かほかの人の物を使おうにも、それも全て洗ってしまいました・・・
「ふぁ~・・・zzz・・・」
「一輝さん、お食事をとりながら寝るのは危ないので止めてください」
「あ、ゴメン・・・」
それにしても一輝さん、一日寝てないくらいでここまでなるお方ではなかった気が・・・
そう言えば、ここ数日少々眠たそうでしたね・・・つまり、ここ数日寝不足だったところに徹夜を・・・?
「・・・一輝さん、夏休みが始まってから三日目なのですが、睡眠時間はどれほど・・・?」
「あー・・・今日は徹夜で、昨日は二時間、一昨日は・・・三時間、かな・・・」
夏休みが始まってからの睡眠時間、およそ五時間。
・・・眠くもなりますわね・・・その上、呪校戦の練習に教える側として参加されたり、席組みの方々との手合わせをされたり・・・よく倒れなかったものです。
となると、お布団は準備したいところですね・・・ふとした思いつきで全て洗うのは、これからはやめましょう。と、反省は後回しにして、今どうするか・・・
「zzzzzz・・・」
「・・・一輝さん、口を開けてください」
とりあえず、眠りながら食べていたら何を食べだすか分からないので、一輝さんの手からお箸を取って口元まで運びます。
ひな鳥にご飯をあげる親鳥はこんな気分なんでしょうか?自己主張してこないので、荒々しさはないですけど。
・・・なんだか楽しいですね、これ。
結局その後、一輝さんには私の膝枕で寝てもらいました。
普段なら絶対にできませんし、普段は見られない眠そうな一輝さんは可愛かったですね。
「ふぁ~・・・あれ?今何時?」
「そうですね・・・大体七時くらいでしょうか?もう殺女さんも雪姫さんも帰ってきていますよ」
「・・・かなりゴメン」
「いいんですよ。わたくし幽霊ですから、脚は痺れませんし」
家事についても、この家の中にある者は自由に操れますから。ずっと膝枕していても問題なくやれますし。
「にしても、本当に寝たな・・・九時間くらいか?」
「そうですね・・・食事中にウトウトしていたのも含めれば十時間くらいです」
「・・・・・・まあ、いいか。呪札はもう必要分完成してたし」
そう言いながら一輝さんは立ち上がり、伸びをします。
その顔を見た感じでは・・・もう、大丈夫そうですね。疲れも取れているようですし。
「・・・あ、そうだ。穂積に渡しとく物があったんだった・・・ちょい待っててくれ」
一輝さんはそう言いながら部屋を出て行きました。
さて、一体何を取りに行ったのか・・・と、そんなことを考えていたらすぐに戻ってきました。手に何か細長い物を持って・・・
「匕首・・・ですか?」
「そう、匕首。九頭原家に依頼して作ってもらった特注の、な」
一輝さんはわたくしにその匕首について説明してから、電話で呼び出されて練習相手をしに行きました。
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