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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第三十六話

 ・・・光也を呼んでみるんじゃなかった。
 伊空を諦めさせるために呼んだんだけど、その前にこいつの性格についてしっかり考えとくんだった・・・!

「て、寺西くん。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も!この御方たちに失礼のないように、」
「オイコラ光也。お前何したいんだこれは!?」

 教頭が横で何か言ってるが、そんなものは無視して光也にそう聞いた。
 なんか怒ってるけど、教頭とか本気でどうでもいい。俺の方が上司だし。
 ・・・あー、うっとうしいな。

「教頭、邪魔。式神展開、つまみだせ」

 今来ている人たちが中々に立場のある人なので来たんだろうが、もう本気で邪魔でしかない。本来、光也以外の誰よりも俺の方が立場は上なんだから。細かいことは気にする必要もないし、最大の理由としてあの教頭が大嫌いだ。

「何がしたい、ですか。個人的には関係のある人間を全員集めたつもりなのですが」
「ああ、確かに今回の案件に対して関わりのあるのは、これで全員だ。だが・・・わざわざここでやらずに、他で集合させればいいだろ・・・」

 むしろ、一番重要な立ち位置の伊空が何もしゃべれなくなりそうだな、これは。
 そう考えながら抱えていた頭をあげ、雪姫とラッちゃんが出した紅茶、茶菓子をそれぞれ飲んだり食べたりしている四人を見る。

 一人目は、ここにいて当然の席組み第九席、『金剛力』土御門殺女。
 二人目は、この前も俺の手伝いでここに来てもらった席組み第六席、『化け猫交じり』匂宮美羽。
 三人目と四人目は、この学校に来るのは初めてのはずの席組み第七席、『刀使い』九頭原匁に、席組み第八席、『式神使い』星御門鈴女。

 凄いや、一学校の一室で席組み四人がお茶してる。この間のパーティで慣れたのか、雪姫とラッちゃんも加わってるし。
 はぁ・・・席組みが五人も集合してるなぁ・・・今なら何が起こっても、被害者ゼロでの解決が簡単すぎるんだけどなぁ・・・こんな日に限って、何も起きないんだよな。

「さて・・・伊空~?さっさと用件言ったら?」
「・・・ねえ、これって意見して大丈夫なの?名家でも旧家でもない、一陰陽師の家系の人間なんだけど」
「大丈夫だろ。陰陽師課のトップの意見が心底気に入らないからさっさと改定しろ、って言うだけなんだし」
「そこまで言う気はないんだけど!?」

 そして、俺が言っていることを伊空が言っていないことくらいは分かっているのだろう。光也は一つ頷いて、

「何にしても、用件は元から聞いてるんですよね。呪校戦への席組み並びに寺西さんの出場許可、でしたか」
「まあ、正確にはこれを説得してほしいんだけど。俺達が出たら他の参加者に勝ち目がなくなるのは目に見えてるし」
「ですねぇ・・・席組みの人間に勝てる見込みなんて、席組みと・・・ランク持ちの上位者くらいですか」

 最後につけたしたのは、俺が勝ってしまうことへの対策だろう。やっぱり、正体を隠してるのって面倒だな。

「今年って、高校生の中にランク持ちいたっけ?」
「そうですね・・・五十位、四十八位・・・あ、二十三位もいますよ。この三人だけですね」
「で、十五位の俺か・・・」
「というか、他校のランク持ちは出場できて、寺西くんは出来ないんですね・・・」
「卵でなれてる時点で色々な事情があることを理解してくれ」
「言われてみれば・・・」

 言われるまで気付かなかったのか、こいつは。

「まあでも、面白い意見ではあるんですよね。ちょうど学生の席組みは全員が高校生ですし」
「オイ光也?」

 チッ、コイツの悪い癖が出たか・・・

「確かに呪力量から何まで高校生のレベルを遺脱しています。身も蓋もなく言ってしまえば、普段から施されている封印があっても呪力を解放するだけで呪校戦は勝ち抜けるでしょう」
「え・・・」
「それに、真言や言霊なしで呪術を使えてしまったりしますし」

 席組みのなかには唱えずに使う事が出来ない人も二人ほどいるのだが、それでもかなり省略出来てしまう。
 同じ術を撃ちあうにしても、スピードだけで勝ててしまう。そんな規格外だらけ。
 で、視線を向けられた鈴女は光也の言い分を証明するようにいくつかの呪術をカップを傾けながら使って見せ、伊空はその光景に目を丸くした。
 鈴女、頼むから室内で火界呪はやめてくれ。絶対に火事にならないとはいえスプリンクラーが作動しかねないから。

「とまあ、そんな感じの人たちなのではっきり言ってしまえば呪校戦には出すことができません。我々陰陽師課が主催していますので、そう言った白けてしまいかねないものは全力で避けたいんです」
「な、なるほど・・・」
「ですが、今年のような学生の席組みが全員高校生で、ランク持ちがいるという状況を生かさない手はないんです」

 あ、この笑顔はダメだ。完全に面白がってる時の笑顔だ。

「ですから、色々と条件を付けた状態であるのなら、出場を許可できるかと」
「・・・それ、俺もか?」
「参加禁止してるんですから、当然でしょう。一括りにランク持ちと言っても、寺西さんは格が違うんですから。言ってしまえば、席組み予備軍ですよ?」

 ま、そうなるよな。そして、席組み予備軍って言われ方は初めてだ。
 この際だからそういうことにしてごまかす気なのか?

「えっと・・・頼んでおいてなんですけど、いいんですか?」
「ええ。盛り上がりそうですし、皆さんにも一度くらいは参加していただきたいですし」

 そう言いながら、光也はもはやお茶しに来ただけになりそうな三人を見る。
 あ、うん。もうあっちはこっちでの決定に従う方針なんだな。なら俺もそれでいいや。

「とりあえず、普段からかけられている封印を強め、呪力量も一般の高校生レベルしか出せないよう封印を施し、言霊や真言を全て唱えない形での呪術の使用禁止に、奥義の全面的な使用禁止、参加できるのはこちらが指定する一種目だけというルールを設けます」

 つまり、真言や言霊という面では他の選手よりも不利になり、有利なのは経験だけ。
 うん、結局負ける可能性がないな。抜け道あるし。

「ああ、それと。ここにいる五人が戦う時に限って、封印を今の状態まで変更する、という方向で」

 つまり、パフォーマンスのために全力で戦え、と。
 奥義込みでの席組みバトル。うん、なかなか見れないし盛り上がること間違いなしだろう。

「そう言った方面でなら許可を出すことができますけど、いかがでしょう?」
「そう、ですね・・・まず、封印の解除はそんなに簡単にできるものなんですか?」
「本人たちの意思で簡単に解けるレベルですよ、普段のレベルまでなら」

 それ・・・少し感情が高ぶったら解けちまうんじゃないか?

「さて、こんなところなのですが・・・どうでしょう?」
「・・・まさか、許可されるとは思ってもいませんでした・・・」
「覚えておけ、伊空。現陰陽師課のトップである闇口光也は、面白いことが好きな問題児だ」
「いや、寺西くんが言うのはダメだと思う」

 失礼だなぁ・・・
 その後、席組み関係者だけでの話し合いがある、という事で雪姫にラッちゃん、伊空の三人は帰って行った。

「さて、そう言うわけですので皆さん出場してくださいね」
「手加減は?」
「まあ、一応しておいてください。封印したところでみなさんが桁違いなのは変わらないんですから」

 さて、そう言うことなら手加減してやるとするか。どうせ圧倒できるだろうし。

「あ、それともう一つ。先ほどは国の安全関連で簡単に解けると言いましたが、正確に申しますとそんなことはありません。というか、皆さんクラスの方に封印をかけるのですから、そう簡単に解けてしまうようなもので封印できるわけないでしょう」
「え・・・それくらい頑張れよ、陰陽師課」
「無茶言わないでください。皆さんはそろそろ、日本でトップ十人だという自覚をもっていただけませんか?」

 まあ、俺達より強い封印が本業の陰陽師はいないわけだしな。
 仕方ない。それくらいしっかりした封印を受け入れるとするか。

「で、ですね。封印の鍵につきましてはいつも通りとさせていただきますので、先ほど言った条件に合う試合の前にどうにかして封印を解いてください」
「・・・ま、いいや。試合前に俺に電話してくれれば、どうにかするから」

 席組みに施されている封印は、トップ三人に封印を解く術式を渡されている。
 つまりは、俺がどうにかして封印を解け、と。で、その場面を見られるとバレるから見つからないようにしろ、と。
 面倒だなぁ・・・面倒だけど、仕方ないなぁ・・・

「あ、最後にもう一つ。一輝さんにつきましては、呪力から家を悟られる可能性と、顔から悟られるパターンを避けるために仮面をかぶっていただきます」
「・・・狐面?」
「呪具として持ち込みますので、そうなるかと。・・・とはいえ、席組みとして全体の前に出る時の話ですが」
「だよなぁ・・・般若面よりはましか。・・・ん?席組みとして?」

 日本全体でみれば他の面を使う家もあるし呪具としても存在しているけど、それでも一番分かりやすいのは狐面だ。
 だから、俺の正体を知られないための術を込めて呪具として持ち込む以上、狐面が一番適している。
 だがしかし、席組みとしての仕事とは何のことだろう?

「とりあえず、言い出したのはこちらなのでこちらで準備しておきます。明日にはお届けしますので、一度つけて呪力を流してみて、不備がないか確認しておいてください」
「分かった。苛立ちながらつけることになりかねないから、耐えられるものを作っとけよ」
「もちろんですよ。いや~、一体幾らかかるのか」

 何故か楽しそうにしている光也。いや、経費で落とすから自分の金ではないんだろうけど、それでも楽しそうにするのはいかがなものか。

「あ、そうだ。寺西さん。ここからはこちらの四人に話がありますので、退室してもらってもいいですか?」
「四人に・・・?ま、いいか。殺女、鍵預けとくから施錠よろしく」
「はいは~い」

 殺女に鍵を預け、俺は久しぶりに一人で帰路についた。
 さて・・・久々に一人だし、本屋とか行ってみるか。ラノベ買いたいし。
 
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