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ルドガーinD×D (改)

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三十八話:偶には旅もいいよな



「我が料理を見よ……そして食し、世界中に広めろ…我がトマトの食堂を!」


発動! 『招き蕩うトマト食堂』


俺の掛け声とともにトマトに染まった食堂が展開される。この技の効果はトマト料理を全て食べつくすまで出ることが決して出来ないトマトに染まった食堂を展開して、対象を閉じ込めるといものだ。因みに脱出方法は料理人つまり俺が満足するまで出されるトマト料理を食し続けるしかない。

と言っても、今回創り出したのは別に誰かにお仕置きするためじゃない。まあ、それを説明するにはまずは俺がどこにいるかからだな。現在俺達はヴァーリ達と一緒にヨーロッパ各地を回りながら神話に出てくるような怪物たちを『一狩行こうぜ!』的なノリで倒して回っている最中だ。今日も元気にバジリスクとかいう危険な奴をシバキ倒しました。因みに昨日はマンティコアだ。普通はこうも簡単には見つからないらしいけど俺が来てからは必ず見つかるというのがヴァーリ達の談だ。……俺の不幸スキルは怪物も引き寄せてしまうのか……。


まあ、とにかくだ。なんでこうなったかというと、
取りあえず、黒歌から離れよう→遠くの方が良いだろ→じゃあヨーロッパで→ヨーロッパって何かいる?→怪物がいるぜ→じゃあ一狩行こうぜ! という感じでとんとん拍子に話が進んで行った結果だ。俺にも良く分からないが取りあえず黒歌から離れられるならそれでいいかとなってこうしてヨーロッパ中を旅している。

そのせいで宿を取れないこともあるので今日は野宿をすることになったのだ。そして野宿なので当然台所がない、だが俺のこの溢れるトマトへの情熱を止めることは出来ない!
というわけで『招き蕩うトマト食堂』を使って台所を確保しているわけだ。ふざけるな? こっちは大真面目だぞ。日々の生活が懸かっているんだから仕方がないだろ。


「いつ見ても凄いわね、これ。戦闘では使わないのかしら?」

「料理は料理どこまで行っても料理なんだ。戦闘に使うなんてコックのプライドが許さない!」

「そう、残念だわ。毎度アーサーと美候は死にそうな顔になるから使えるかと思ったんだけど」


ヴァーリの言う通り、何故かお仕置きでもないのにアーサーと美候はこれを発動すると死にそうな顔で突っ伏すんだよな。まあ、突っ伏したところで食べる物はトマトしかないから食べるしかないんだけどな。そんな事を考えながら俺は料理の準備を進める。

取りあえず、トマトの塩レモンカルパッチョでも作ってみるか。俺はトマトを薄く輪切りにしながらついこの間、黒歌に料理を教えていた時の事を思い出す。包丁を握る時は猫の手にしろって言ったら本当に猫になったからあの時は笑ったな。

思い出に浸りながら作っているといつの間にかトマトの塩レモンカルパッチョが出来ていたので、どこかに行っていたのかは知らないけど帰って来るなり死にそうな顔になったアーサーと美候を無視して鹿肉のトマト煮を作り始める。

因みに鹿は昼の間に俺が狩ってきたものだ。これはトマトの酸味を少し抑えて肉の油で甘みを出さないとな、黒歌はそっちの方が好きだから……って、今は居ないんだったな。俺はそのことに今更ながらに気づいてフッと息を吐き出す。

自分から離れるって決めたのに……俺の心はいつまでたっても黒歌から離れられないんだな。俺は本当に情けない男だな……君を守りたいのに君を危険な目に合わせようとしてしまう。本当に……情けない。俺は自己嫌悪で溜息を吐きながら料理を作っていった。





「ヴァーリ……何でお前はこのトマト地獄に耐えられるんだよぉ……」

「美候の意見に同感です……なぜ飽きないのですか?」

「あら、美味しいじゃない。美味しい物には飽きないわ。それよりそんな事を言って大丈夫なのかしら?」

『……身体はトマトで出来ている(I am the bone of my tomato)

「「まことに申し訳ございませんでした!」」


俺が『無限のトマト料理(アンリミテッド・トマト・ディッシュズ)』の詠唱を始めるとすぐに土下座をして謝って来る美候とアーサー。もはや恥も外聞もないその格好にそんなにも嫌なのかと逆にこっちが引いてしまう。兄さんなら嬉々として受け入れそうなんだけどな。ん? 俺達が可笑しい? そんなことはない、トマトが毎日食卓に上がるのはごくありふれた家庭の日常なんだ。異論は断じて認めない、嫌というなら『絶拳』だからな。


「ねえ、私のお嫁に来るのをもう一度考え直してくれないかしら?」

「俺が愛しているのは黒歌だけだ。それと、何度も言うけど俺は男だ! 婿だ!」

「そうは言っても一家に一人あなたが居れば大丈夫な家事能力を持っているんだから嫁でいいじゃない」


ヴァーリがいい加減諦めなさいよ的な顔でそんな事を言ってくるが俺は決して認めないぞ。例え、家の家事のほぼ全てを俺がやっているとしても、近所の奥様方達とどこどこのスーパーで今日は特売があるとかの情報交換をしているとしても、この旅の最中でも破れた服やら汚れた服の修復や手入れを全て俺がやっているとしても俺は認めない! どちらかというとお母さんとか言うのもなしだぞ。俺は男だ、黒歌の婿なんだ!


「まあ、いいわ。それより修行の方は順調かしら?」

「ん、骸殻の修行か? ああ、部分的に発動するのは、大分コツは掴めてきた」


俺も何も旅をしている間、遊んでいる訳じゃない。ヴィクトルに勝つ確率を少しでも上げるために俺だって修行をしているんだ。今は骸殻を部分的に解放して生身の状態での戦闘能力を上げようと奮闘しているところだ。ヴィクトルに出来るんだから俺にも出来るだろうと始めてみたけど今のところは順調に進んでいる。まあ、偶に失敗して全身に展開しそうになるけどな。


「じゃあ、精神的な部分は順調かしら?」

「……どういう意味だ?」

「彼女さんと離れて大丈夫かって意味よ。昨日も寝言で五十五回も黒歌って呟いていたわよ」


ヴァーリからの指摘に思わず黙り込んでしまう。俺そんなにも黒歌って呟いていたのか……なんか恥ずかしいな。起きている時には隠せていても寝ているときには本音が出ているんだろうな。黒歌に会えないのが大分きているんだろうな。というか、他人に聞かれるなんて理由を抜きにしても恥ずかし過ぎる。

……ん? 他人? 昨日は宿に泊まっていたから確か女性であるヴァーリとは別の部屋だったはずだ。俺はアーサーと美候と相部屋だったから二人がヴァーリに伝えたのか。そう思って二人を見るが二人はそんなことは知らなかったとばかりに首を横に振る。……どういうことだ? 俺はジト目でヴァーリを見つめる。


「ヴァーリ、何でそれを知っているんだ?」

「もう……女の子にそんなこと言わせないでよ」

「まってくれ! 一体全体、俺に何をしたんだ!?」


俺が尋ねるとポッと顔を赤らめて頬に手を置くヴァーリ。そう言えば、今朝起きた時にパジャマのボタンが全部空いていたような気がする……あの時は熱くて外したんだろうとしか思わなかったけどまさか俺、襲われていたのか!?
再びヴァーリに問いただす。頼む……どうにか一線で踏みとどまっていてくれ!


「昨日寂しかったから寝ているあなたを私の部屋に連れ込んで―――」

「頼む……添い寝で終わってくれ」

「あなたの上着を脱がして―――」

「もうだめだぁ……おしまいだぁ」

「あなたが彼女さんの名前を呟き続けるから諦めて部屋に帰したわ」


ヴァーリの最後の言葉に安堵して崩れ落ちる俺。良かった……寝ている間に浮気をさせられていたなんて黒歌に何て言って謝ったらいいか分からないからな。というか、黒歌の名前を呟かなかったら俺は何をされていたんだろうか? ……ダメだ、考えようとするだけで頭痛と悪寒がするからこの考えは中断しよう。俺はフラフラと立ち上がりながら食器を洗いに行く。その過程でヴァーリがアーサーに何やら耳打ちしていたがどうせ碌でもないことだろうと思って聞かなかった。


「アーサー、それでルフェイ達は今どこに居るのかしら?」

「今現在は夏休みの為にグレモリー眷属と共に冥界に行っています。先程、美候と一緒に冥界に調べに行ったので間違いはありません」

「そう……それじゃあ、時期が来たら冥界に行かないとね。
 このままじゃ、ルドガー君は戦う前に―――壊れちゃいそうだから」





夏休みになったために里帰りの為に冥界にやってきたグレモリー眷属と黒歌達は現在、グレモリー本邸にある屋敷のリビングルームにてソファーに座ってそれぞれの修行方法が書かれた数枚の紙を持っているアザゼルを前にして自分の修行内容を言い渡されるのを立って待っている。若手悪魔の会合が終わった後すぐに修行を始める予定だったのでこうしてイッセー達を呼び集めて修行を始める準備をしているのである。


「さて、これからお前らに修行の内容を通達するんだが……この修行はすぐにでも効果が出る奴とそうじゃない奴がいる。そのことは十分理解しておけよ」


そう言って、さっそく一枚目の紙をリアスに渡す。それを見てリアスは少しばかり眉をひそめる。なぜならそこに書いてあったのはいわゆる基本的なことばかりだったからである。ところどころに応用的なことが書いてあるがそれでも基本的な事には変わりがない。そのことに意見を求める様にアザゼルを見るリアス。


「お前はそれでいいんだ。いいか? お前の才能と力はすでに上級悪魔でも結構高位のものだ。放っておいても次期に最上級悪魔の筆頭には上がれる。だが、今すぐに力が欲しいんなら徹底的に基礎を磨くしかねえ。お前は『王』だ。『王』は時にして力よりも知恵、眷属を導く統率力が必要となる。これは何も『レーティングゲーム』の時だけでなく実戦においてもだ。その為には基礎を固めるのが先決だ。基礎が脆けりゃ、どれだけ高度な技術を身に付けてもあっという間に崩れるだけだからな」


アザゼルの説明に納得したのかそれ以上は、文句は無いとばかりに頷いて引き下がるリアス。そしてリアスが下がった後に朱乃がアザゼルの前に立つ。その目には強い意志が宿っておりアザゼルはそれだけで朱乃が何を決めたのかを悟った。しかし、それを少したりとも表に出すことは無く、敢えて確認するように声を大きくして修行内容を言い渡す。


「お前は自分に流れる血、堕天使の血を受け入れろ」

「大丈夫ですわ。私は受け入れます」


朱乃は朗らかな笑みを浮かべながらアザゼルから手渡された紙を受け取る。朱乃はほんの少し前までは自分の血に流れる忌々しい力の事を嫌っていた。かつてライザーとの『レーティングゲーム』でもその力を使えば相手の『女王』を難なく撃破出来たはずだがそれを使わなかった。

ただ、自分が嫌いだからという我儘で自分の『王』を、仲間を敗北の危機にさらしたのだ。そのことに気づいてはいたが朱乃は決心を決められなかった。ただ、難しく考え込んでドツボに嵌っていたのである。しかし、今の彼女は単純明快なことに気づいたのだ。


「意外だな。どういう心境の変化だ?」

「変化というより……気づいたんですわ。力を使えば守れた人を使わずに守れないなんて余りにもバカバカしいということに」


そう、バカバカしいのだ。守りたい人達を守れる力があるのにそれを使わずに失って後で後悔するなど余りにもバカバカしいのだ。守れるなら使ってしまえばいい、所詮、力は力でしかなくそこには良し悪しなどない、それをどう使うかが重要なのだ。朱乃はそう思う事にしたのである。そんな朱乃の返事にアザゼルは満足げに頷き、次に祐斗を呼ぶ。


「お前は神器(セイクリッドギア)禁 手(バランス・ブレイカー)の持続時間を伸ばすことが課題だ。時間はそうだな……最終的には一ケ月続けられる様になれ」

「わかりました」

「それとだ……これは出来たらだがお前の中にあるもう一つの力も使える様になれ。詳しくは紙に書いてある」


祐斗はその紙を見て少し驚いたような顔を浮かべるが直ぐに納得して下がっていく。そして、次は待っていましたとばかりに進み出るゼノヴィアである。そんなゼノヴィアに対してアザゼルは少し厳しめの言葉を投げかける。


「ゼノヴィア、お前は今以上に聖剣デュランダルに慣れろ。今のお前は完全にはデュランダルを使いこなせていない。それと少しはテクニックを磨け、お前はパワー一直線過ぎる」

「むぅ……しかし、パワーこそ私の強みだ。それを今更変えろと言われてもだな」

「変えるんじゃない。付け加えるんだ。今のままじゃ相手に一撃も与えられないまま終わるのが関の山だぞ」


そう言われてゼノヴィアはヴィクトルにやられたことを思い出す。確かに何も出来ずに瞬殺であった。コカビエルにしても当てることが出来なかった。どれだけパワーがあっても当たらなければ意味がないかとゼノヴィアは渋々といった感じで頷き、紙を受け取ってから元いた場所に戻る。

そんなゼノヴィアの次にアザゼルは未だに段ボール箱の半径一メートル以上には出られないギャスケルを見る。アザゼルに見られたギャスパーはビクッとして段ボール箱の中に逃げ込みたくなるがそれを何とか抑えて立ち止まる。


「ギャスパー、お前は引きこもり、対人恐怖症を克服、さらには神器(セイクリッドギア)の更なる操作を可能にしてもらうぜ。そのための専用プログラムは組んでやった。頑張れよ」

「は、はいですうぅぅ!」


コクコクと凄い勢いで首を縦に振るギャスパーにアザゼルは若干、苦笑いを浮かべながら紙を投げ渡す。これは別にぞんざいに扱っているわけではなく、近づいたらギャスパーが逃げてしまっていつまでたっても渡せないという理由での苦肉の策である。

そしてギャスパーの次は同じ『僧侶』のアーシアである。アーシアの修行についてはアザゼルは少し悩んでいた。アーシアは優し過ぎる程に優しいので敵であっても傷つけることは出来ない。その為にアザゼルはとにかくアーシアには回復の術を広げさせようと考えた。


「アーシア、とりあえずお前はリアスと同じく基本トレーニングを重点に置け。それと俺の考えたメニューでは回復範囲を大きくすることと……もう一つは回復のオーラを弾丸のように放ち、遠くに離れた味方を回復する方法を覚えて貰う」

「はい! 分かりました!」


アーシアはアザゼルの言葉に力強く返事をする。その返事に満足してアザゼルは次に小猫と黒歌を見る。小猫のメニューに関しては簡単にしか作っていない。何故なら、小猫は今回、姉である黒歌から直接、仙術の修行をつけて貰う予定だからである。


「小猫のメニューに関して俺は『戦車』としてのものしか書いていない。後はお前らが自由に考えてやってくれ。頼むぜ、黒歌」

「白音が仙術に怯える様になったのは元はと言えば私のせいにゃ……だから、私が責任をもって教えるにゃ」

「……私も頑張ります」

「よし、じゃあ頑張りな。さてと……ラストはイッセーだな」


そう言って、イッセーの方にニヤリと笑って向くアザゼル。そんなアザゼルの様子に思わず何かがあるのかと身構えてしまうイッセー。アザゼルはそんなイッセーを無視してソファーから立ち上がりリビングの窓に向かっていき大きく開け放つ。その瞬間、巨大な振動がイッセー達を襲う。何が起きたかが分からず取りあえずイッセーが窓の外を見てみるとそこには巨大なドラゴンが居た。


「おい、アザゼル。まさかあのポカンと口を開けて俺を見上げている小僧がドライグを宿しているのか?」

「ああ、そうだぜ、あいつが今代の赤龍帝だぜ―――タンニーン」


タンニーン、それが巨大なドラゴンの名前だ。元龍王であり、魔  龍  聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)と謳われるドラゴンにして悪魔に転生した最上級悪魔である。そして今回イッセーに修行をつけるのはこのタンニーンなのである。このタイミングで現れた事でそのことに気づいたイッセーは軽く顔を引きつらせるがすぐに頬を叩いて気合を入れなおす。自分は友を連れ戻すために強くならないといけないのだと。


「タンニーン! 俺を鍛えてくれ! 俺は強くなって友達を連れ戻さないといけないんだ!」


タンニーンに向かってそう言って深く頭を下げるイッセー。そんな様子をタンニーンは興味深そうに見つめて口を開く。


「……小僧、名を何というのだ?」

「兵藤一誠だ」

「今代の赤龍帝は中々面白そうだ。リアス嬢、その辺の山を好きに使うが……良いか?」

「ええ、いいわよ」


タンニーンはリアスから山の使用許可を得るとすぐにイッセーをその巨大な腕で掴んで飛びたっていった。イッセーはその腕の中で若干の恐怖を感じながらも強くなる覚悟を決めていたのだった。

 
 

 
後書き
次回はルドガーとの再会になると思います。
因みにこの章でスリークオーターを出します。つまりこの章のボスは……。 
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