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こけし

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第六章

「仕方ないわ」
「そうなのね」
「ただ、こけしはね」
「そうしたものだったのね」
「確かにここ寒いからね」
 梨紗も東北に生まれ育っているからこそ言うのだった。
「それで作物が育ちにくい昔は」
「医学も発達していなかったし」
「子供の早死とか多かっただろうし」
「その。間引きとかもね」
「あったわよね」
「それでこけしが生まれた」
「そういうことだったのね」
 こけしというものが出て来たこのことが、というのだ。
「それで私はものごころつく前に誰かからこのことを聞いて」
「それでだったのね」
「こけしが怖かった」
「そういうことね」
「こけしは怖いわ」
 このことは今もだった、千代にとって。
「けれどね」
「これからどうするか」
「そのことはじっくり考えていくわ」
 克服するなり避け続けるなりどうするかにしてもというのだ。
「今はまだ聞いたばかりだから」
「これからね」
「ええ、これからよ」
 まだ考えはじめる段階でもなかった、今の千代は。それで梨紗に対してこうも言ったのである。
「考えていくわ」
「本当にこれからね」
「このことについてはね、けれどわかったことは嬉しいわ」
 何故こけしが怖いのか、そのことがというのだ。
「そのことだけはね」
「その通りね、それじゃあ」
「何もかもこれからよ」
「はじまったばかりね」
 二人でこう話すのだった、そうしたことを話してだった。 
 千代は梨紗と共に大学での講義を受けてサークルを楽しんだ後下校した。そして通りがかった商店街でだ。
 ある店でこけしが売られているのを見た、千代はそのこけし達を見て梨紗に言った。
「怖いわ」
「じゃあここは」
「こうするわ」
 こう言ってだ、こけしから顔を逸らし見ないことにしたのだった。
「今はね」
「今はそうするのね」
「怖いことは確かだから」
「本当にこれからね」
「理由はわかっても怖いものは怖いわ」
「その怖さを克服しようにも」
「これからだから」
 今すぐには出来ない、それでというのだ。
「今はこうするわ」
「それしかないわね」
「ええ、そうするわ」
 こう話してだ、そしてだった。 
 千代はこの場はこけしは見ないことにした、そのうえで梨紗と共にその店の前から姿を消した。そうしたことがあってだった。
 暫くしてからだ、千代はこう梨紗に言った。
「やっぱり怖いものは怖いから」
「だからなのね」
「こけしはこれからも見ないことにするわ」
 そうするというのだった。
「避けていくわ」
「怖いものはどうしようもないわね」
「怖い理由がわかってもね」
「感情はどうしてもなのね」
「ええ、何とか見ようとも思ったけれど」
 怖いこけし、それをだ。
「無理だったわ」
「それじゃあ仕方ないわね」
「これからもね」
 少し苦笑いになってだ、千代は梨紗に答えた。
「こけしは見ない様にしていくわ」
「そうしていくのね」
 梨紗は千代のその考えを受けた、それならそれで仕方ない怖いものはどうしても怖いと思ったからである。
 それでだ、千代に今はこう言ったのだった。
「じゃあ今からね」
「今から?」
「何か食べに行こう」
 こう言うのだった。
「これからね」
「じゃあハンバーガーでも」
「マクドナルド?」
「そこに行こう、今から」
 笑顔でこう言ってだ、二人で商店街のマクドナルドに向かうのだった。こけしは怖いままだがそれでも笑顔で梨紗と共に行く千代だった。


こけし   完


                            2014・10・17 
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