ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
策謀
「つ、対消滅……爆弾?」
「何なの?それ。爆弾、は……爆弾なんだよね」
どことなく不吉すぎる響きがするその単語を口の中で転がしながら、ユウキはそう問う。
それに対し、どうやら溜めて溜めてドーンと驚愕の事実を突きつけたつもりらしかったリラは、予想のリアクションを得られなかった事実にふんすと荒い鼻息とともに解説に入った。
「対消滅爆弾ってのは、現実世界でもまだ机上の空論レベルの反物質の対消滅現象で得られるエネルギーを核とした最強爆弾ってこと」
はぁ、と生返事しかできない解説だった。というか、それ以外どんな反応をすれば良いかもわからない。
とりあえず。
「どれくらいの威力なの?具体的に」
「反物質一グラムで、広島に落とされたリトルボーイ一個分くらいって言ったら分かる?」
「………………………………ちょっと待って」
いや、本当に。
ちょっと待って欲しい。
リトルボーイって確か、広島に落とされた原子爆弾の呼称ではなかっただろうか。第二次世界大戦中、大都市一つをまるまる消滅させた滅びの炎。
通常の爆発が、熱せられた爆風によって臓器を傷つけたり、破片で殺傷するのを目的に製造されているのに対し、原爆の爆発は格が違う。核だけに、とかいう冗談ではなく、まったく文字通り格が違うのだ。否、次元が違うといっても決して過言ではない。
まず一口にどれくらいの違いがあるかというと、原爆はそもそも爆発によって生じる熱や風、破片などのマクロ的な現象で人体を破壊しない。爆心地にほど近い人々は、原子爆弾が起爆してから百万分の一秒単位で発生した中性子とガンマ線によって全滅する。注釈しておくが、この百万分の一秒の時、まだ炎や風は発現してすらいない。
原爆は既存の爆発物と違い、根幹のところで正しく爆発しなくてもいいのだ。そこから、もう次元が違うといわざるを得ない。爆心地にいた人々は、自分に何が起こったのか、そもそも何が落下してきたのか考える間もなく、細胞単位で死滅する。
そして、その圧倒的な百万分の一秒の三秒後。
実に摂氏250万度のエネルギーが出現し、空気を凄まじい勢いで叩き、周辺八キロに及ぶ衝撃波を生み出す。この辺りから、やっと視認できる映像が閃光から火球へと変換できる。その中では、人体は焼けるのではなく、溶けるのでもなく、《焼けつく》というのが正しい。人肉は瞬時に細かな灰となり、床なり壁なりに人型の影が残るのみとなる。
その二秒後、やっと表面温度六千度の炎が正しく襲ってくるのである。ガンマ線が多量に放出され、空気と反応して紫色のスパークを散らす。
そこからさらに三秒。熱線から生じた莫大な衝撃波が地表を、秒速約五百メートルの速さで薙ぎ倒していく。その後、起爆から百万分の一秒で発生した中性子とガンマ線は一分もの間照射を継続。
そして超高温の空気は猛烈な上昇気流となって巨大なキノコ雲と局地的な火事嵐を形成し、三十分後には放射性降下物を凶悪なまでに吸い込んだ黒い雨が降る。
決して、熱や風だけなのではない。
放射線、熱線、衝撃波、黒い雨。
列挙しただけでこれだけの災厄を撒き散らす原子爆弾を、それでもまだ超えるというあの鉄製卵(に見える爆弾)。
先刻の話が本当ならば、反物質なるもの一グラムであの災厄まるまる一個分が再現されるという。あの卵は全長三十センチ。どう考えても、あの中に一グラムしか入っていないなんていう希望的観測はさせてもらえそうにない。
「大分前にやってたイベントボスが持ってたアイテムでね。どっかのバカがしくじった時に、個人用に用意されたイベントマップごと吹き飛ばされたらしいわ」
淡々としたリラの口調が、比喩や誇張ではないことをまざまざと伝えてくる。
「――――ってことは、人質立てこもりじゃなくて」
「自爆テロ、だね。完璧」
ミナとレンが深刻そうに言い交わした言葉をもってして、そうかとユウキは思う。
これだけの人数を《捌く》には確かに重火器がいるのは確かだが、何もここまで強力なものを出す意味はない。
殺した、という行為をはっきりと確認させるのは意外に困難ではあり、その手段として爆発物というのはお手軽でポピュラーなのだが、大型船を丸ごとチリにするような爆発力ははっきり言ってオーバーキルすぎる。
つまり、本当にいざとなったら、ていうかぶっちゃけ面倒くさくなったら、徹底的にプレッシャーをかけていって勝手に自滅するのを待っていればいいことになってしまう。結果的にいえば彼らの要求は棄却され、さらに自軍の頭数を減らすという、あらゆる意味でデメリットしかないことになる。
ということは、そもそも最初から黒尽くめ達はここに死にに来ていることとなる。
見方が違うのだ。
要求ありきで来ているのではなく、最初から政府高官達の殺害が目的。要求はあくまで、叶ったらいいなくらいのものなのだから。
この違いはかなり大きいと言わざるを得ない。
要求を主目的とした立てこもりの方向ならば、まだ要求が通じるか否かの説得の応戦があるのだが、自爆の場合はそれがない。もともとあんまり期待していない要求が通りそうにないと悟った時、彼らは容赦なくドクロスイッチなり信管なりを押すことだろう。
おそらく、会話役を担っていたのはレンが真正面から撃破したあの大男リーダーだろう。リーダーが亡き者にされてまであの爆弾が起爆していないのは、単純にまだ事実が伝わってきていないのだろうか。アタマが撃破されてまで黒尽くめ達に要求を押し通すつもりはない。さらに、反撃する者達を無理に追撃する必要もない。なぜなら、どんなものでもあの卵の爆発ボタンでも押せば、すべてカタがついてしまうからだ。どっちみち死ぬ奴らに、どっちみち死ぬ奴らが攻撃することくらい虚しいこともないだろう。
今から思い出せば、操舵に必要不可欠な計器類が備わる船主室で対人ではなく対物弾をブッ放していたのも、陸に二度と戻らないという決意の表れだったりしていたのかもしれない。
「アンタ、リーダー潰したんでしょ。ボタンとかスイッチとかなかったワケ?」
「う~ん、色々機械でゴチャゴチャしてたしなぁ。リモコンとか持ってても、それを調べる前に誰かさんが邪魔してきたしね」
横目でジロリと睨むと、誰かさん(約二名)はわざとらしく顔を背けた。
「ま、まぁ、仮にあったとしてもあたしのトラップで引っ掛かるでしょ」
「だ、だね。念のためエレベーター落としてきたし」
「…………非常階段は?」
「「あ」」
あ、じゃねーよ。テメェらどっから入ってきたと思ってたんだ。
バカ二人は放っておいて、状況の危険度は限りなく増したと言っていい。いつ船主室に置きっぱなし――――というのもどうかと思うが――――になっている黒尽くめリーダーの巨体のどこかにあるかもしれない起爆スイッチを様子を見に来た構成員のうちの一人が、状況を理解して押すとも限らない。
つまり、いつ眼前にある鋼鉄の塊が眩い光に包まれるとも限らないということである。前述の通り、原子爆弾の場合は起爆から百万分の一秒後には死亡するので、反応するしないの次元を超えている。身体を動かすという信号が正しく脳から返還されてくるのかさえ疑わしい。
「とにかく、あれを一刻も早くどうにかしないと」
「でも、どうにかできるものなの?あれ。海に投げ込んでも、たぶん船が転覆するくらいの水柱が上がると思うよ」
「そこら辺は、あたしの領分ね」
ふふん、と鼻を鳴らしながら身を乗り出すリラの顔には、かなり得意げな色が浮かんでいた。
「《爆発物処理》のスキル、ばっちりカンストしてるから。即席爆発装置から、指向性地雷、収束爆弾に燃料気化爆弾まで何でもござれ、よ」
「あ、うん。リラちゃん、爆弾"だけ"に関してはすっごく詳しいから。信じてあげて」
「「わかった」」
「ミナぁ、その言い方ケンカ売ってるようにしか聞こえないんだけど?」
そんなことないよ~、という少女達の会話を聞き流しながら、レンはとりあえず口を開いた。
「じゃあとりあえず、爆弾処理は信号の受理部分から潰してくってことで」
「ま、妥当なところで電波式とかだから、大丈夫でしょ。この場合、問題なのは――――」
あの中にあるものなんだよねぇ、と。
意味ありげにリラは目を細める。
「中身?」
「普通の火薬に火をつけても、爆発はしないって聞いたことある?爆弾ってのは、ただ火薬を詰め込んだだけじゃデカい爆発なんて起こらない。せいぜい静かに燃焼して燃え尽きるのがオチね。だけど、爆薬にもいろんな種類がある。あの中に入ってる反物質ってのは、その威力も桁違いなら性質も例外なのよ」
「例外?」
「そ。解かりやすいトコだと、ニトロかな。あれは本体そのものに爆発力があるから、ちゃぷちゃぷシェイクしてブン投げるだけで即席の手榴弾になる。反物質もそれで、他の物質と反応してエネルギーを生み出すのよ。振動にさえ気をつければ何てことないニトロと比べて、反物質の場合はあらゆる物質と触れるだけで反応しちゃうから危険度は桁違い。本来は保存も困難な夢物質よ」
なるほど、と立て板に水で流暢な説明を脳裏で反復思考させながら、ユウキは慎重に言葉をつむぐ。
「つまり……できるだけあの卵モドキに流れ弾を行かせないようにってこと?」
「とーぜん、作業中のあたしにもね」
「「「…………………………」」」
「ちょ、ちょっとぉ!そこはカシコマリマシターでしょーがッ!!」
わめく少女の声には耳を貸さずに、残りの三人はそっと中を再度覗い見た。
最大の難関は、敵対NPCが二手に分かれているということだろう。しかもさらに嫌な点は両者が、ちょうどレン達が潜むドアを挟んで部屋の両側に陣取っているということである。
この場合、優先して撃滅すべきなのは当然爆弾のお守りをしている二人組なのだが、しかしそれだと人質の見張り役トリオが爆弾が置いてあるステージ側に躊躇なく銃撃することだろう。
既存の物質と触れるだけで反応してしまうという反物質の特性上、その保管は限りなく困難だ。そのため、あの卵の外殻もかなりの先端技術や硬度を要していると推測される。
しかし、推測はあくまで推測だ。確証がある訳でもない。
何らかの事故で、爆弾の何らかの部位を著しく損傷してしまったら。
何らかの手違いで、安全装置的なものを破壊してしまったら。
そんなバッドエンドはさすがにごめんである。
なまじブツが気密性を要するものだから、余計に心配事は多い。ぶっちゃけ、うっかりで全身スッ飛ばされるようなことにもなりかねない。
「……ちょーっとキツいかなー」
「ここは分担で行こ、レン」
「分けるの?」
こくり、と頷くユウキは真剣な面持ちでドアの隙間を睨んだまま密やかな声を発する。
「うん、レン達は二人を最優先で。人質側の三人はボクがやる」
「はぁ!?じょ、冗談言わないで……!単純に数を比較すれば二対三よ!アンタが一人で二の方に向かうってんならまだ分かるけど、何でわざわざ多いほうに行くのよ!」
「単純な優先順位。クエストクリアフラグは明らかにあっちのタマゴだと思うし、それに――――」
ふふん、とどこか得意げに少女は言う。
「ボク、結構強いから」
「んなムチャクチャな――――」
「わかった、それでいこ」
即断した少年は二人の少女(主に気が強いほう)の反論を意に返さずにスッとドアを開け放った。
「「…………………………ぇ?」」
唖然、としか言いようのない声を背に受けながら、少年は静かに発声する。
「さぁて、とっとと終わらせよう」
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「またとんでもないアイテムが出てきたな」
なべさん「んー、GGOは基本SFだからね。これくらい夢のあるモノだしたっていいじゃない、という感じで出してみたよ」
レン「まぁ、レーザーガンやライトセーバーあるんだったらこれくらいありそうだ」
なべさん「正直GGO編はほぼ九割方通常フィールドや通常の諸機能について話してないような感じだしね。ここら辺はやったもんがち?かな」
レン「まぁ分かるっちゃ分かる」
なべさん「はいはい、自作キャラや感想を送ってきてくださいね~」
――To be continued――
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