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最新鋭機

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1部分:第一章


第一章

                      最新鋭機
 ジャック=ド=オルレアン大尉は空軍でも名うてのパイロットである。その技量はまさに天才的であり空軍の中でもトップガンと言ってもいい。
 その彼であるが軍人らしく背は高く引き締まった身体をしている。薄茶色の髪に緑の目、それに涼しげな顔立ちが俳優の様である。
 それで空軍の軍服やパイロットスーツを着ているのである。もてない筈がない。
 実際に彼は結婚しているのに女の出入りが絶えない。それで妻のマリーはいつも焼餅を焼いている。
「あなたがもてるのは私もいいことよ」
「けれど浮気は駄目ってことか」
「そうよ。今迄どれだけ浮気したのよ」
 そのまだ幼さの残る可愛らしい顔を怒らせての言葉だ。女にしては背が高くスタイルもいいがその顔立ちは淡い金髪とライトブルーの目に童顔である。そんな顔をしているのだ。
「どれだけよ。言ってみなさいよ」
「今迄食べたパンの数よりは少ないと思うんだが」
「呆れた」
 思わず言ってしまった言葉である。
「そんなことしてたら何時か天罰を受けるわよ」
「汝姦淫するなかれか?」
「そうよ」
 モーゼの十戒の言葉である。
「何時か私のフライパンだけじゃ済まないわよ」
「あれも相当痛いんだがな」
「じゃあ少しは反省しなさい」
 こんな話はいつものことだった。だが彼は反省なぞしない。そのジャックに対してある日こんな話が来たのである。
「最新鋭機のですか」
「そうだ。テストパイロットをしてくれるか」
 こう上官に言われたのである。
「今度な」
「最新鋭機にですよね」
「そうだ。新たに開発されているのは知ってるな」
「はい」
 その上司に対して答えた。その話は彼も聞いていた。
「何でも相当凄いのらしいですね」
「性能が半端ではない。我が国が複数の同盟国と協同して開発したものでだ」
「そうでしたね。それでかなりのものだとか」
「そのテストパイロットになってもらいたいのだ」
 また言ってきたのだった。
「それでいいか」
「いいとかじゃなくて驚きですよ」
 軍人にしてはかなり砕けた言葉で返すのだった。
「私がですか。そのはじめてのパイロットに」
「それでいいな」
「ええ」
 返答は完結だった。
「是非やらせて下さい」
「よし。では頼んだぞ」
 こうして彼は最新鋭機のテストパイロットになった。ただしこのことは軍人として他言しなかった。軍事機密を守るのは当然のことだからだ。
 それでその日が来た。もう滑走路に出されているその最新鋭機を見て。既にパイロットスーツに着替えている彼はこう言うのだった。
「何かこっち側の機体じゃないみたいだな」
「そう思いますか?」
「っていうかこれあれじゃないか」
 その機体を見て周りにいる整備のスタッフに対して言った。
「太平洋連合のやつじゃないのか?」
「あの連中のですか」
「そうだよ、連中のだよ」
 ジャックは欧州連合の軍人だ。欧州連合は太平洋諸国の集まりである太平洋連合と対立関係にある。それが当然ながら軍事関係にも及んでいて冷戦に近い状況となっているのだ。
 その彼等の機体に似ていると。ジャックは思ったのである。
「何か翼の辺りが特にな」
「言われてみればそうですね」
 その整備スタッフの指揮官である将校が彼の言葉に頷いた。
「この機体は」
「そうだろ。向こうの技術を盗んで開発したのか?」
 こうも考えたジャックだった。
「こっちの技術だけじゃなくて」
「どうなんですかね。それで大尉」
「ああ」
 その整備将校の言葉に応える。
「そろそろですよ」
「ああ、乗るか」
 こんなやり取りの後でその機体に乗ってテスト飛行をはじめる。すると暫くして機体に通信が入って来たのであった。その通信は。
 
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