少女の加護
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9部分:第九章
第九章
「相手が離しちゃくれねえ。こんな時だけ女にもてるな」
「今から俺も行く」
同僚はそう言ってきた。
「それまで持ち堪えろ。いいな」
「前向きに善処するぜ。まあやられたら極力脱出するからよ」
「わかった、その時は拾ってやる」
「頼むぜ」
彼だけでなく数機がエリザベートのエインヘリャルに向かう。忽ちのうちに五機ものタイガーキャットに取り囲まれてしまった。
「幾らエース中のエースでもな」
取り囲んだタイガーキャットの中の一機に乗る男が言う。
「五機のタイガーキャットに適うかよ」
「これならいけるぜ」
「ワルキューレの最後だ」
五機はエリザベートを完全に包囲した。それからそれぞれドッグファイトを挑む。
「タイガーキャットは攻撃力だけじゃないんだぜ!」
「スピードも格闘性能もこっちの方が上だ!それを教えてやる!」
その巨体に似合わぬ旋回性能を活かして攻撃を仕掛ける。ビームバルカンが続けざまに放たれる。
「これなら!」
「逃げられるかよっ!」
それぞれのポジションから一斉に攻撃を仕掛ける。これには流石のエリザベートも駄目かと思われた。
だが。やはり彼女はワルキューレであった。
「!?」
「なっ!?」
消えた。突如として消えたのだ。彼等が気付いた時には。エリザベートは上にいた。
「おい、上だ!」
「何っ!?」
仲間の一人の声に他の四人が慌てて顔を上げる。
「何時の間に!」
「上にすり抜けたのか!」
何故彼女が自分達の上にいるのかわかった。咄嗟に急上昇しビームバルカンの攻撃をかわしたのだ。それも紙一重で。まさしく神業であった。
それは彼等のコクピットのコンピューター映像にはっきりと出ていた。その動きの軌跡が。それを見ているからこそ驚きを隠せないのである。
今度はエリザベートの番だった。上から攻撃を浴びせる。
「この位置なら!」
上から下へ弧を描きながら攻撃を仕掛ける。二機はそれを運よくかわすことが出来たが後の三機はそうはいかなかった。
「うわっ!」
「くっ、エンジンをやられた!」
「おい、脱出しろ!」
「悪いがそうさせてもらうぜ」
攻撃を受けた三機のうち二機は小破で済んだが一機はそうはいかなかった。エンジンに攻撃を受けていたのだ。見れば最初にエリザベートと戦ったあの男の機だった。
「ったく、運がないぜ」
仕方なさそうにそう呟く。
「この戦いで敵を三機位撃墜してボーナス貰おうと思ってたのによ」
「それで俺に借りた金を返すつもりだったんだな」
「いや」
それはすぐに否定した。
「まさか」
「まさかっておい」
「それで女の子の店に行くつもりだったんだよ。それがパーになっちまった」
「そのまま命までパーになっちまえ」
思わずその言葉が口に出た。
「俺に金を返す方が先だろうが」
「冷たいな、おい」
「そういう言葉はまず金からだ、金は命だ」
「さもしいねえ」
「さもしいのは借りた金を返さないその根性だ」
「ちぇっ」
彼は何だかんだで救出された。その間にエリザベートは次々と敵機を翻弄し撃墜していく。その技量は見事の一言であった。誰も近寄せない。
「ワルキューレがどうしたってんだ!」
その彼女に向かう者達もいる。
「俺達だって義勇軍だ!」
「その名にかけて!」
漆黒のタイガーキャットが数機正面から向かう。不意にその前から消えた。
「!?何処だ!?」
「何処に消えた!?」
咄嗟にレーダーを見る。そこに示されたエリザベートの機体に気付いた時。彼等は負けていた。
エリザベートのワルキューレは下にいた。そこから急上昇を仕掛けビームバルカンを放つ。それで彼等は終わりだった。
「だ、脱出する!」
「覚えてろよ!」
愛機を撃墜され止むを得なく脱出していく。生存能力の高いタイガーキャットだからこそ助かっている。そうでなくてはこれで死んでいただろう。彼等は実に運がよかった。
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