遊戯王GX 〜プロデュエリストの歩き方〜
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エピソード28 〜野生解放、SALデュエル〜
前書き
※デュエル中のミスを訂正いたしました。
制裁タッグデュエルから数日、特に何事もなく過ごせ、ホッとしていたのもつかの間、なにやら巻き込まれそうな予感がするなと紫苑は不安を感じでいた。その理由はつい先日、入学式の日の夜中にデュエルを仕掛けてきたオベリスク・ブルーの万丈目とラー・イエローの三沢という男子生徒が寮の昇格をかけてデュエルをしたらしい。そして、そのデュエルの勝敗がついた翌日ある噂が飛び交っていた。
「なぁ……聞いたか?万丈目の奴、失踪したってよ」
「あぁ、大方イエローの三沢に負けたのが恥ずかしくて、見せる顔もないから逃げ出したんだろうな。」
「これだから、負け犬は……」
授業が始まる少し前、ざわざわと騒がしくなる。だが、どの話題も"万丈目失踪"についてだ。しかもその話を中止となり、万丈目の事をあれやこれやとないことを言い合っているのは、つい最近まであいつの取り巻きをしていた輩だ。
『まったく……見事な手のひら返しですね〜。』
「同感だな……。」
いつの間にかエアトスが隣に来ており、見事な裏切り行為に呆れたと肩を竦めている。
余談だが、ものすごく久々に見た気が……。
『それは紫苑さんが呼んでくれないから、こうしてわざわざ来てるんでしょう!?』
ぷく〜っと頬を膨らませ、ご機嫌斜めです。とアピールするエアトス。
「まぁ、色々忙しかったからな〜。……早く休みにならんかな。」
『そうですね、私もたまには実体化して紫苑さんの手料理を味わいたいものですよ……。おっと、誰か来たようですよ?』
ぐてんと机に突っ伏し、エアトスの愚痴を聞いていると忠告が飛ぶ。突っ伏した姿勢のままで顔だけ横に向けると訝しげな視線を向けている女子三人組。言わずもがな、明日香とその取り巻き、モモエとジュンコだ。
「あら、紫苑君、誰と話しているのかしら?」
「ただの独り言だよ。」
それ以上言及するつもりがないのか、そう。と短く呟く。
「それで……?なんのようだよ。」
こっちは貴重な睡眠じかん……じゃなくて、リラックスタイムを邪魔されて、割と不機嫌なのだ。しょうもないことだったら、どうしてやろうかね?
ジト目で睨むと明日香はニヤリと笑みを浮かべて……
「ちょっと、授業サボらない?」
「『へ??』」
予想外の言葉に思わずエアトスと声が重なる。
◆◇◆
明日香たちに誘われ、授業をこっそりと抜け出し、来た場所はアカデミアの門前。そして、そこには同じく抜け出して来たらしい十代と翔が居た。
「あなたたち、そこで何やってるのかしら?」
明日香が軽くドスを効かせながら問いただすと目をむいて驚く二人。おぉ、怖い……。
二人曰く、失踪した万丈目が心配になったらしく探しに行くとか。そして、明日香たちも十代たちと同じく万丈目の事が気がかりでそこで二人と一緒に行こうと思いたったらしい。
「なぁ……俺、ついてくる意味あったか?」
「人数は多い方がいいでしょ?」
トボトボと五人の後ろを歩きながら愚痴を漏らすが、明日香にざっくりと切り捨てられる。隣ではエアトスが苦笑いを浮かべている。ちなみにこの中で自分除いて、唯一精霊を認識できる十代がエアトスを見た時は三度見されたのはご愛嬌だ。
「お〜い!万丈目!どーこーだー!!」
「万丈目く〜ん!どこに居るんすか〜!」
各々が声を張り上げて万丈目を探す……のはいいが、なぜ森なんだ!?
皆の後を歩いていたら、いつの間にかアカデミアの側に鬱蒼と繁る森まで来ていた。こんな所に人が居るわけないだろ。
居るとしたら、猿くらい……。いや、それもないか。
「万丈目!出て来なさい!!デュエルで負けたくらいなんて情けないわよ!!」
突如、明日香がスピーカーを使ったと思うほどの大音量を響かせ、それに驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。
「に、人間スピーカー……」
「う、うるさいわね!それにこれくらい出さなきゃ見つかる者も見つからないわよ。」
いや、第一森なんかに居ないだろ!と突っ込もうとした矢先、近くの茂みが揺れる。
え、マジで?
「万丈目、俺だ!出てこいよ!デュエルに負けたくらいでいつまでもうじうじしてないでよ〜……。」
恐る恐る近づいて行くと、ひときわ大きく茂みが大きく揺れ何かが飛び出して来る。それは頭にヘルメットのような装置を被り、腕にデュエルディスクを装着した……
「ウキッーーー!!」
「「「「「「猿!?!?」」」」」」
「や、藪を突いたら、猿が出た!?」
「た、大変っす!ま、万丈目くんが猿になっちゃったっす!?」
突然の猿の襲来に驚き、怯む一同。そして、変な装置をつけた猿はそのまま突っ込んで来て何かを引っ掴むとまた森の奥の方へと去って行ってしまう。
「猿よね……?今のって……」
「え、ええ」
皆、突然のハプニングに唖然とする。
『まさかのフラグ回収しちゃいましたね。』
まったくめでたくないがな⁉︎
そして、しばらくすると複数人の足音が聞こえ、麻酔銃を持った黒服の男二人と博士っぽい老人が姿を現す。
「ちっ、逃げられたか。」
「いやー!離しててぇーー!!?」
男の舌打ちの後にジュンコの叫び声が猿が去った方向から聴こえて来る。そして、そちらの方には猿に抱えられ木々を移動するジュンコの姿が……。
「あ、ジュンコさんたら。いつの間に……」
「きっと、さっきの変な猿に攫われたのよ!」
矢鱈と落ち着いているモモエに明日香が冷静に切り返す。
「あそこだ!追え!」
「「ハイッ!」」
博士の喝が飛ぶと黒服二人が猿の後を追いかけ始める。
「おいっ!お前ら、行くぞ!」
いち早く状況を察した十代が声をあげ、他が我に帰ると連れ去られたジュンコの後を追う。
ーーー数分後。
どうしてこうなった……。
ポカンと見つめる先には断崖絶壁から生えた木の幹に奇妙な装置をつけた猿に抱えられたジュンコ。叫ぶ言葉は「離してぇ!」から、「いやー!離さないでぇ!」へと代わり、必死に落ちないように猿にしがみついている。
「もう逃げられんぞ!大人しくお縄を頂戴しやがれ!」
麻酔銃を構え、猿を脅すが当の本人……いや、本猿はガン無視だ。
「いやー!明日香さん、助けてぇ!」
「くっ、猿のくせに生意気に人質なぞとりおって……。」
標的を目前にして、手を出せない事に歯噛みする博士。
あの猿、頭いいな……。
『感心してる場合じゃないでしょう!?助けなきゃ!』
助けろ、って言ったって……何をどーしろと?
「あ、兄貴!あの猿、デュエルディスクをつけてるっす!」
翔が猿の左腕に装着されたデュエルディスクを指差し、叫ぶ。
「あの猿は、ただの猿ではない。」
博士がポツリと呟く。
「アレは我々が訓練を重ねて育てあげたデュエリストザルだ!」
「でゅ、デュエリストザル!?」
えっへんと得意そうに胸を張る博士の言葉に一度の声がハモる。
「その名も『Super Animal Learning』。略して『SAL』じゃ。」
「まんまじゃん。」
翔が至極真っ当な指摘をする。
「博士」
「おっと、喋り過ぎたようじゃの。」
黒服のうち一人に忠告を受け、口を閉じる。
デュエリストザル……ねぇ?本当にそんな事ができるのか?
サルもといSALを眺めていると視線が合い、SALはビクリと体を震わせる。なぜ、と考えていると十代が
「俺に任せろ!」
と、胸を張って言う。当然、男たちに何ができるのだと鼻で笑われるが、そこは十代気にもとめず、ニッと笑い言葉を続ける。
「当然、デュエルに決まってるさ。」
「あ、あ兄貴。デュエルってまさか!?あのサルとデュエルするって言うんすか!」
「あぁ、もちのロンだぜ!誰だってデュエルをすれば、心が通じ合える。それがサルだってな。」
そう言うと、男たちを通り越し、サルの下へと近づいていく。
「おーい、サル!」
「ウキ?」
「お前もデュエリストならデュエルで決着つけようぜ!」
「ウキッ!」
サルもとい、SALと普通に会話をする十代を見て、一同唖然とする。
「兄貴、サルと会話してるっす。」
「それだけサルに近いって事じゃない?」
翔は関心し、モモエはだいぶ失礼な言葉を発する。
十代がサル並って事はあながち間違ってない気が……。
「多分、あいつらが人の言葉が通じるようになんかしたんだろ……。どんな方法を使ったかはわからんが」
「そうね。だって、デュエルできるほどですもの。」
多分、あいつらは動物虐待になる事をやってんだろうが……。
「俺が勝ったら、ジュンコを解放しろ!」
「ま、負けたら?」
ジュンコが不安そうに切り返すと「考えてなかった」と気まずそうに頬を掻く。
「じゃあ、お前が勝ったら……お前は自由だ!」
「ウキっ!」
十代の提案を了承したSALはこくりと頷く。そして、ジュンコは「訳がわからないわよぉ〜」と悲痛な声をあげている。
「大丈夫だ!俺は絶対に勝つ!!」
なんの根拠もない言葉だが、なぜか十代言うと本当に勝つようなそんな気がしてくる。
SALはジュンコを木の幹に置くと、十代の前へと立ち、デュエルディスクを構える。
「人質を離した!」
「待て、面白いデータが取れるやも知れん。このまま、やらしてみよう。」
黒服の男が麻酔銃を構えるが、博士がそれを手で制する。
「いくぜ、決闘!」
十代がノリノリで声をあげ、
「『決闘!』」
「ふわぁ!?」
「しゃ、喋った!?」
十代たちが驚きの声をあげる中、博士は一人得意そうな顔をする。
「驚いたかね?あの猿……じゃなくて、SALにはデュエルに関する言葉が全てプログラムされておるのだ。」
恐らくはSALが頭につけているヘルメットのような物と背中に背負っている装置がSALの脳波を読み取り、機械が代わりに発音してるのだろう。それは動物との意思疎通が可能となる装置だ。だが、少し見方を変えれば、虐待紛いの事がされてるとわかってしまうのが残念だ。
「へぇ〜、お前スゲ〜んだな!さて、気を取り直して……俺のターン、ドロー!」
十代は感心したと声をあげるもすぐにデュエルへと意識を戻し、デッキからカードをドローする。
十代:LP4000
SAL:LP4000
「俺は『E・HERO エアーマン』を攻撃表示で召喚!効果デッキからレベル4以下のHEROを手札に加えるぜ。俺は『E・HERO スパークマン』を手札に加えて、カードを一枚伏せて、ターンエンドだぜ。さぁ、どっからでもかかってこい、猿野郎!」
『E・HERO エアーマン』
☆4 ATK1800
両肩に付けられたプロペラで風を起こしながら、登場する。
「ウキー!『ワタシのターン、ドロー!手札から『怒れる類人猿』を召喚!』
『怒れる類人猿』
☆4 ATK2000
猛り狂ったゴリラがドラミングをしながら、登場する。十代は威嚇するゴリラに気圧されるどころかより一層楽しそうに表情を明るくする。一方で、翔はその攻撃力の高さに情けない声を上げる。
「ひぇ〜、いきなり攻撃力2000のモンスターっす!ヤバいっす!」
「別にただ攻撃力が高いだけだろ。守備表示にすれば、簡単に戦闘破壊できるし、罠でも、魔法で対処すればいいだろ。」
「紫苑の言う通りね。それにあのモンスターは必ず攻撃しなければならないデメリットがあるから、カウンターも狙い易いしね。」
「な、なるほど……。頑張れ、兄貴!そんな脳筋モンスター返り討ちっす!」
紫苑に加え、明日香の説明を受け、納得すると十代に勇ましい応援を送る。
「バトル!『怒れる類人猿』で攻撃!ゴリラリアット!」
縄のように膨らんだ右腕を振るい、エアーマンを殴り倒す。
十代:ATK4000→3800
「くぅぅ⁉︎やるな、サル!」
「ウッキッキ!」
SALはモンスターを倒した事に喜び、手を叩いて喜ぶ。
「カードを二枚伏せ、永続魔法『補給部隊』を発動!ワタシはターンエンドする。」
SAL
LP4000
手札二枚
魔法・罠伏せ二枚
『補給部隊』
場
『怒れる類人猿』
「俺のターン、ドロー!『E・HERO スパークマン』を召喚し、装備魔法『スパークガン』を装備させるぜ!そして、『スパークガン』の効果発動!三回までモンスターの表示形式を変更させる。俺は『怒れる類人猿』を守備表示に変更!さらにこの瞬間、『怒れる類人猿』は自身のデメリットによって自壊する!」」
「ウキっ!?だが、『補給部隊』の効果で一枚ドローする!」
「くっ、ドローさせちゃったか。だけど、これでダイレクトアタックできるぜ!行け、スパークマン!スパーク・フラッシュ!」
「ウキャァァァ!?」
SAL:4000→2400
スパークマンの放った電撃をモロに浴び、その場に崩れ落ちる。
「二度目の『スパークガン』の効果を使ってスパークマンを守備表示に変更!ターンエンドだ。」
十代
LP3800
手札5枚
魔法・罠伏せ一枚
『スパークガン』→『E・HERO スパークマン』
場
『E・HERO スパークマン』
「ウキー!『ワタシのターン、ドロー!手札から『スクラップ・コング』を召喚!』ウッキー!」
廃材でできたゴリラが召喚され、勇ましくドラミングを行うが自身の体が逆にボロボロと崩れていく。
『スクラップ・コング』
☆4 ATK2000
ただのビートダウン……?いや、ゴリラデッキ?
「ま、またレベル4なのに攻撃力2000っす!?」
「けど、『スクラップ・コング』は召喚された時、自壊してしまう……。なんで召喚権を使ってまでそんなモンスターを?」
「ただのプレイングミスじゃないですか〜?やっぱ、お猿さんはそんなものですよ。」
プレイングミスと笑われ、博士は怒る所か、逆に偉そうにふんと鼻を鳴らす。
「我々の研究成果であるSALを侮ってもらっては困るな。」
「どういうことよ、それ?」
博士の意味深な発言にはてなマークを浮かべる一同。
『ワタシは永続トラップ『エンペラー・オーダー』発動!召喚時に発動される効果を無効にし、無効にされたプレイヤーはカードを一枚ドローする。
さらにワタシは『エンペラー・オーダー』の効果にチェーンして、『カゲトカゲ』の効果を発動!
そして、もう一度『エンペラー・オーダー』の効果を発動!』
瞬くなにチェーンが組まれていく。十代は『サイクロン』のような『エンペラー・オーダー』を破壊するカードやカウンター罠は伏せられていないらしくいきなりのコンボに唖然としている。
『チェーン処理に入る。『エンペラー・オーダー』の効果で『カゲトカゲ』の効果を無効にし、一枚ドロー!そして、『カゲトカゲ』は手札へと残る。さらに『エンペラー・オーダー』の効果で『スクラップ・コング』の効果は無効にし、一枚ドロー!そして、自壊効果を無効にされた事により、『スクラップ・コング』はフィールドに残る!』うっキー!」
二枚のドロー加速に加えて、デメリットを見事打ち消したSALは手を叩いてはしゃぐ。
ご、強欲なゴリラ……。
『なんかこんな動き……紫苑さんのデュエルでも見た気が……』
何かのデジャブを感じたのか額を抑えるエアトス。
確かに『ナチュル・コスモビート』使えば、似たような動きはできるけどさ……。アレは一枚しかドローできないし、相手が通常召喚してくれないと発動できないコンボだからそこまで強欲じゃない!と結論つけたところで翔からの疑問の声が上がる。
「あれ?無効になった『カゲトカゲ』は墓地にいかないんすか?」
「『エンペラー・オーダー』は効果を"無効"にするだけで"破壊"まではしないから、手札に残るんだよ。」
「へぇ〜、流石ね。紫苑くん」
分かり易い説明の為か明日香に褒められたがよく使ってますから、なんて口が裂けても言いたくないと思う紫苑だった。
『バトル!『スクラップ・コング』でスパークマンを攻撃!スクラップ・フィスト!」
鋼鉄製の拳がスパークマンを直撃し、いとも簡単に吹き飛ばす。
幸い十代はスパークガンの効果で守備表示にしておいた事でダメージはない。
『カードを一枚伏せて、ターンエンド。』
SAL
LP2400
手札4枚
魔法・罠伏せ二枚
『エンペラー・オーダー』
『補給・部隊』
場
『スクラップ・コング』
「やるな、SAL!俺も燃えて来たぜ!俺のターン、ドロー!魔法カード『強欲な壺』を発動して、デッキから二枚ドローするぜ!来た!」
俄然やる気の出てきた十代は威勢良くカードをドローし、今度は十代が二枚のドロー加速を行う。お目当のカードが手札に加わったのか、嬉しそうに声をあげる。
「手札から『融合』発動!手札の『E・HERO バースト・レディ』と『E・HERO フェザーマン』を融合!来い、俺のマイフェイバリット!『E・HERO フレイムウィングマン』!!」
火と風の戦士が渦へと吸い込まれていき、左腕に真っ赤な竜の口を模した砲塔を装着したHEROが登場する。
『E・HERO フレイムウィングマン』
☆6 ATK2100
「来た!兄貴の融合HEROっす!これであのゴリラを倒せるっすね!」
「バトルだ!フレイムウィングマンでゴリラに攻撃!フレイム・シュート!」
竜の砲塔から火炎が放射され、スクラップ・ゴリラを焼かんとする。だが、このタイミングでSALも伏せていたカードを発動させる。
『リバースカードオープン!『幻獣の角』!このカードは発動後、獣族モンスター一体に装備され、その攻撃力を800ポイントアップさせる!』
幻獣の角は装備魔法のように速効性はないものの奇襲とさらにモンスターを戦闘破壊した時にカードをドローできる効果を持つ。発動タイミングも申し分ないと密かにSALを関心する。
けど、その研究の方法がほぼ確実に虐待物なんだよな……
「やべっ!?俺はチェーンして、速攻魔法『サイクロン』を発動させて、『幻獣の角』を破壊だ!」
突風がゴリラの頭部にセッティングされた二本の角を吹き飛ばす。破壊された事で攻撃力上昇もなくなり、フレイムウィングマンに破壊される。
「ウキッ!?」
SAL:LP2400→2300
「さらにフレイムウィングマンの特殊能力発動!破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」
「ウキャァ!?」
豪ッと火炎球が吐き出され、SALを火だるまにする。
SAL:LP2300→300
追加ダメージが発生し、SALの残りライフを3桁の値までに減らす。だが、博士たちが育てあげた猿もといSALもただでは転ばない。
『『補給部隊』の効果でドロー!さらに墓地の『怒れる類人猿』と『スクラップ・コング』を除外し、手札から『森の狩人 イエローバブーン』を特殊召喚!ウッホッホ〜イ!』
『森の狩人 イエローバブーン』
☆7 ATK2600
SALがゴリラだが、猿なのかわからない鳴き声をあげると、大弓を肩に担いだ体毛が黄色味かかった獣人が森の方から駆け出してきて、十代の前へと立ち塞がる。
「ウゲェ!?また出てきた!
俺は『フレンドッグ』を守備表示で召喚して、ターンエンドするぜ。」
『その瞬間、手札の『ナチュル・コスモビート』の効果発動!このカードは相手がモンスターの召喚に成功した時、手札から特殊召喚できる。さらにこの効果にチェーンして『エンペラー・オーダー』の効果を発動!』
十代はまたそのコンボかよ⁉︎と表情を歪める。
『やっぱり、見たことある気がしますんですけど……、あの動き。』
…………。
『チェーンの処理に入る!『エンペラー・オーダー』の効果でコスモビートの効果は無効となり、一枚ドロー!そして、無効となったコスモビートは手札に残る。』
「ま、またドローっす!?」
これで、SALは最上級モンスターを召喚しているのにも限らず、手札はさっきのターンの終わりよりも一枚増え、5枚となっている。爆発力がある分、手札消費の激しいデッキである十代にとって、攻めあぐねているのは中々よろしくない。
「くっ、やるな……あのサル。」
「ふっふっふ。SALにはありとあらゆるデュエリストの戦術、データを学習させているのだよ。それこそ、そのタクティクスの高さはプロデュエリストに匹敵するのだよ。」
フフフと自慢気に笑う博士。
『ゼッェェェタッイ、データの中に紫苑さんの戦術ありますよね!?戦術とかほとんど同じじゃないですか!ほら、相手の行動を逆手にとって、アドバンテージ稼ぐえげつない戦術とか!』
主人のデータを勝手に利用された事に怒ったのか、興奮気味のエアトス。
えげつないって……。主人に対して、酷すぎやしないか?
『そうですかね?褒めてるつもりですけど……。てか、あのおっさん、訴えれませんかね?または物理的に抹殺しますか?紫苑さんのデータ勝手に利用するとか、万死にあたいしますよ!』
俺の事で怒ってくれる事は嬉しいんだが、内容が理不尽過ぎだろ……。
隣で何かぶつくさ言っているエアトスはスルーしてSALの方を見るとこちらの方を見て、何かに怯えていた。
「そして、知っているかね?人間よりサルのが精霊の声を聞く能力が高いことを。」
だから、俺の方を見るたびに怯えていたわけか……。
現在、隣にいるエアトスは仮にも最上級モンスター。そして、俺の力も相まってそこらへんの精霊よりもはるかに強い力を持っている。多分、それを感じたんだろう。
もしくは……邪神の方か?
まさかな……。
「ウキッ!『ワタシのターン!』」
気を取り直したSALはデッキからカードをドローする。
まだまだデュエルは続きそうである。
◆◇◆
時間は少し戻り、三年生の授業が行われる講堂。三年生の間でも少なからず万丈目失踪に関する様々な噂が飛び交っていた。
「もっとも私は興味ないんだけどね〜。」
『翠はもうちょい話題に興味を持とうか。』
白い布のような衣を纏った女性、というかアテナが側に現れる。
『あ、そうそう。紫苑も友人に連れられて万丈目だっけ?その子探しに行ったみたいだね。』
それを聞いてまたかとため息が出る。
あまり人と関わりたくないのに、なぜか色々とトラブルを持ち込んでくる……我が弟の巻き込まれ体質には困ったものだと苦笑いする。
まぁ、ここは優しいおね〜さんが快刀乱麻の如くパパッと解決してあげようかね〜?というわけで、アテネよろしく。
『はぁ〜〜……。なんとなくそうなりそうな気がしてた。』
大きくため息を吐くと眷族である梟を一羽飛ばす。
これで見つかるのは時間の問題だ。
『で、その子探してどーする気?』
ん?まぁ、自殺でもしようなら止めるけど。とりあえず、話するくらいじゃない?
『……の、ノープラン』
口元を引きつらせてアテナが答える。
失敬な臨機応変に行動するつもりなんですよ。などと文句を垂れていたら、梟が戻ってくる。いくらなんでも早すぎじゃないだろうか?
『んー、どうやら船着場の方に向かってるみたいね。けど、どーする?もう授業始まるけど……』
そりゃ、もちろん……。正面突破でしょ!
アテナにそう言うが早いか立ち上がると視線がこちらに集中する。あまりやりたくない手だが、ニッコリと営業スマイルを作り……
「先生〜!少しお花摘みに行ってもいいでしょうか?」
「え……え、あ、はい。どうぞ、ごゆっくり」
一瞬だけ間があったが、先生は少し顔を赤くし、控えめに返答する。周りを見れば、男子は言わずもがな、女子生徒も少し顔を赤くしている。チョロい。
『全く……。翠ってたまに大胆になるよね……。』
呆れたとため息混じりにつぶやかれる。
まぁ、いいんじゃないかな?減るもんじゃないし、それに使える物はなんでも使う派だからね。
先生の了解を得た事で悠々と講堂を出て行く。
後書き
お帰り、子征竜。さらば、親征竜。
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