ワンピース~ただ側で~
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番外20話『アッパーヤードに触れてみて』
空島で船を止めた場所。
丁度そこに建てられてあった家の住人、パガヤとその娘のコニスに出会った麦わら一味は、早速彼らにとって興味のひかれる未知のものと出会っていた。
それは雲で形成されたソファであったり、あまりにも皮が硬すぎるカボチャのような果物であったりしたのだが、今現在彼らの興味を引いているのはそれらとはまた違うもの。ダイアルという特殊な装置を動力とした空島文化特有の文明による代物であり、現在注目を浴びているのはウェイバーというもので、帆や自然の風を必要とせずにダイアルという動力のみで海を渡れる一人用の小型ボートのようなものだ。
「アクセル? これか? これを踏めばいいんだな?」
まずはルフィが乗ってみようと、パガヤのウェイバーを借りたルフィが言葉と共にアクセルを踏んだ。
それと同時。
「わ」
ウェイバーから爆発的な風が吐き出されて推進を開始した。
「うわぁぁぁ、おお! 走ったぞ!」
「わあ、やったぁ!」
チョッパーの歓声を背に雲の海を走り出したルフィのウェイバーだったが、残念ながらそう簡単に操作できる代物ではないらしく、すぐさま激しい蛇行運転になったかと思えば数秒と立たないうちにウェイバーからはじかれて空の海へと落ちることとなってしまった。
「俺もウェイバー乗ってみたいなぁ」
呟きながらも、とりあえずルフィを助け出そうと雲の海に潜ろうとしたハントだったが「そういや能力者にこの海はどうなんだろうな」というサンジの言葉と「そうか、普通の海とは違うからなぁ……もしかして浮くかもしれねぇ」というゾロの言葉に「ああ、なるほど」と頷いて彼らと同じく海に落とされたルフィの動向をのんびりと見つめる。
が。
「……あぶ」
やはり青かろうが白かろうが海は海らしい。ハントたちの淡い期待もむなしく結局は海へと沈んでいってしまった。
「沈んだ」
「ダメか」
「じゃ、ちょっと行ってくる」
もちろんハントによる救助はすぐさま行われてルフィは無事に回収されたわけだが、戻ってきたハントが「おし、じゃあ次は俺がウェイバーに――」と言ったところでパガヤがそれに待ったをかけた。
「ウェイバーの船体は動力を十分に活かすためとても軽く作られているのです。小さな波にさえ舵を取られてしまうので波を予測できるくらい海を知っていなければならなくて、すいません!」
「え゛」
ハントも海で生きてきただけあって海には強い。だが波を予測できるほどの知識があるかと問われればもちろん答えはNOだ。パガヤの言葉に肩を落としてその動きを止めた。
「そんなに難しいのか、俺も乗ってみたいのに!」
「訓練すれば10年ほどで」
「なげぇよ!」
パガヤの親切だか乗ることを諦めろという宣告なんだか、わからないような言葉にウソップが突っ込みを入れてそれを聞いていたハントとチョッパーがやはり無理だと肩を落とす。
と。
「おーい!」
ふと雲の海から聞こえてきた声に呼ばれてそちらを見やる。
「乗っとる!?」
目が飛び出さんばかりの勢いで吐き出されたウソップの言葉通り、ナミが自在にウェイバーを操る姿がそこにはあった。
「何と、すごいですね! 信じられません!」
「んナミさん! 君がサイコー!
「何で乗れるんだ、あんなのに!」
順にパガヤ、サンジ、ルフィの言葉。目を丸くする全員の横で、小さな声をもってハントがルフィへと問いかける。
「やっぱ難しかったのか?」
「あぁ、めちゃくちゃ揺れてあんなの普通は乗ってられねぇぞ!」
「へー、さすがナミってことなんだな、じゃあ」
ルフィやパガヤの言葉を聞いて自分なら乗れるという想像はできなかったらしいハントが素直に頷き、感心した様子でウェイバーを乗りこなすナミへと視線を送る。
「おいナミ! おっさん家にすぐ行くからはやく降りろ! あーほー! あ~ほ~!」
「あたんな!」
「ナミにアホ言うな!」
まるで子供のようにナミに嫉妬するルフィへとサンジの蹴りとハントのげんこつがルフィの頭部へと降り注ぐ……もちろんゴムの彼にはそれが効くわけではないが。
ルフィの言葉を聞いたナミだが余程ウェイバーに乗るのが楽しいらしい。
「先行ってて! おじさん! もう少し遊んでていい!?」
「ええ、どうぞ気を付けてください!」
ナミにしては珍しく一人になることすら厭わずにまたウェイバーを操船することへと集中を始めた。
「なんであいつ、あんなスイスイ……ものすごい揺れるんだぞアレ」
やはりどこか未練たらしくナミのウェイバーを操るサマを見つめるルフィと、それを横で眺めているハント。
「……」
黙って見つめていたハントだがフと何かを思いついらしく、珍しく意地の悪そうな笑顔に。
「なぁ、ルフィ俺も後で行くよ、悪いけど先行っといてくれ」
「ん? いいけど……なんかすんのか?」
「まぁまぁ、ほら。サンジがきっと空島特有の料理作ってくれるぞ?」
「お、そうだな! んまそーだなそれ!」
ルフィとしても別にハントがここに残ること自体は大して興味を惹かれることではない。ハントの言葉を想像して涎を垂らしながらパガヤたちの後へと慌てて走り出した。
「……さて、と」
ルフィの後ろ姿を見つめたハントがどこか彼らしくない笑顔を浮かべたまま、軽い準備運動を始めたのだった。
「夢みたい! 風向きも気にせずにこんなに自在に走れる船があるなんて! 普通の海でも使えるのかしら!」
ルフィたちがパガヤの家へと入っていくことにすら気づかずに、ウェイバーを操るナミだったが、岸にもう誰もいなくなっていることに気付いた。
「……」
彼らがパガヤの家に行ったということに……いや、正確には彼もがルフィたちと一緒に自分の側から何も言わずに離れていってしまったということ自体に少しだけ不満げな表情を浮かべたナミだったが、いなくなってしまった人間のことをグチグチと考えても仕方がないのも事実。またウェイバーを操縦することに集中を始めた。
風を切り、海を自在に滑るウェイバーにはそれに乗れる人間にしか味わえない爽快感があるのだろう。
僅かな時間が経つ間もなく、ナミの表情はまた楽しそうなソレへと戻る。
時折跳ねる水しぶきすらも楽しみながら徐々に陸地から遠のいていく彼女だったが、その彼女の視線が、とある一点でとまった。ウェイバー進路直進方向の海面に小さな影があることに気付いたからだ。
「……なに?」
空に何かが浮かんでいるわけではない。となるともちろんそれは海中にあるナニカということだが、それはナミからしても脅威を感じるほどの大きさではない。ウェイバーを操っていることに影響もなく、海面に影響を与えるようなナニカというわけでもない。
「……?」
気にせずに突っ切ってしまおうと考えたナミが影からわずかに外れて通り過ぎようとしたその時――
「――だああああああああああ!」
「きゃああああああああ!」
盛大な水しぶきとともにナニカが海上へと出現した。ナニカが発するその大音量といきなりすぎる出現に、ナミもまたその大音量に負けないぐらいの悲鳴をあげる。よほど驚いたらしいナミは波の予測にも乱れを生じさせてしまい、その結果。
「あっ」
ウェイバーから弾き飛ばされて空中へと放り出されることになってしまった。ウェイバーが結構な速度を出していたため、その勢いのままに海面に叩き付けられることになっては下手をすれば怪我を負うことになるかもしれない。
とはいえナミにそれらを回避する手段があるわけもなく、自分の身に何が起こったのかわからないまま目を閉じて衝撃に備えた。
が。
彼女に襲い掛かってきたのは衝撃というよりもどこか柔らかい感触、それと「ごめん、ちょっとふざけすぎた」という聞き覚えのある優しい声だった。
「……ハント?」
ナミがよく知っている声だ。目を開けるまでもなく耳元で聞いただけでその声の持ち主を判別することは難しいことではない。慌てて目を開ければやはりそこにはハントがいて、左手でウェイバーを支え、右腕でナミを己の胸へと抱えている彼の姿が映った。
「一応聞くけど……今のはアンタが?」
いきなり海中から現れて自分を驚かしてくれたナニカはハントだったのか、というナミの質問。よく見ればナミが頬を引きつらせており、それが間近にいるハントにとってナミに叱られるかもしれないという恐怖の感情を刻み込ませていく。
「うん、そのごめん……ちょっと驚かせてみようと思っただけなんだけど、まさかウェイバーから弾き飛ばされるなんて思ってなくてさ」
言い訳がましく、とはいえナミに素直に頭を下げるハント。
――あぁ、また失敗したかなぁ……モックタウンでも失敗したし……こんなの多いなぁ俺。
そんなことを内心で思いつつも、とはいえ今のハントに出来ることといえば頭を下げることぐらいでそのままナミの返事を待つ。拳骨ぐらいで許してもらえたらいいんだけど、というハントの思いとは裏腹に、なかなかナミから返事がこない。
「……?」
ハントが疑問に思った時、ふと彼の眼前にナミの手が。
――これはビンタかっ!
慌てて歯を食いしばるが、次の瞬間にはナミの手が優しくハントの頬へと添えられていた。
「え?」
「……驚いたけど、何もなかったから許す」
「……え」
あまりにもナミらしからぬ言葉を受けて、最初はホッと安堵の色を見せていたハントの表情がただひたすらに困惑のそれへと変わっていく。
「いいのか?」
「うん」
ナミが笑顔で頷き、それからハントが左手で支えていたウェイバーへと体を移動させる。
「それより、私もう少しウェイバーを楽しみたいんだけど」
一旦言葉を切って、それからナミが笑って言う。
「ハントなら私の側で泳ぐのって簡単よね」
ナミの笑顔に、ハントもまた笑って「もちろん!」と嬉しそうに頷く。
「ほら、ちょっとそこまで競争ね!」
「ぶふっ!?」
言うや否やナミがウェイバーのアクセルを踏み込み、ちょうどウェイバーの真後ろにいたハントがその煽りをうける。
「なんかそれずるくね!?」
「きこえなーい」
「聞こえてるよねそれ!?」
ハントとナミが楽しそうに笑う。
空島に来て、計らずしも海で二人っきりというシチュエーションを、二人はただひたすらに楽しんでいた。
さて、ウェイバーに乗って遊ぶナミと素の能力でそれをはるかに凌駕する速度で海を泳ぎ回れるハントがこの白い海を遊びまわっているうちに、いつしかとある場所へとたどり着いていた……いや、たどり着いてしまっていた。
「でっ……かい……これ何?」
「いや、普通に島……なんじゃないか? さっきのおっちゃんたちがいたような」
「でも、見てハント……地面がある」
「……ほんとだ……どういうことだ?」
そこは絶対に足を踏み入れてはいけない聖域。神の住む土地『アッパーヤード』。
空島でおそらく唯一無二であろう大地があるその土地で、ハントとナミが不思議そうにその土地を見つめていた。
「それにこの木の大きさ……樹齢何年の木なの、これ全部」
あくまでもウェイバーから島を観察するナミは、その島そのものに対してどこか不信感を抱いているのかもしれない。決してその土地に上陸を果たそうとはせずに遠巻きからそれらを見つめている。
「てっぺんが見えないなぁ」
対照的に島に足を踏み入れているのがハントだ。
地面を触って見たり、大木を触って見たりして、本当にハント自身青い海で見てきたそれと同じものかを確認している。
「どう、ハント?」
「……うーん。違いがあるとは思えない、かな?」
元々知識が豊富とはいえず、頭の回転も早い方とは言えないハントが地面を触っただけでそれらのすべてを理解できるはずがない。首をひねって、少なくとも自分よりは賢いであろうナミに見てもらおうとその地面の砂をナミに手渡そうと歩き出そうとして「ん?」と声を漏らして足を止めた。
いきなり動きを止めたハントの動きに首を傾げたナミだが、彼女もまたすぐにそれに気づいた。
「何かの音がしてるの?」
「……ああ。それに声も聞こえる」
「ど、どうしよう……なんだか気味悪いんだけど」
徐々に彼らに近づいてくるよくわからない音。
何が来るのかとわくわくした表情を見せるハントとは対照的にナミが不安そうな表情をにじませる。その表情の変化に、ハントはしっかりと気付いた。
「……先戻ってるか?」
「……う、うん、そうね」
ウェイバーのアクセルを踏もうとして、だがすぐにハントが動こうとしてないことに気づいて足を止めた。
「……ハントも一緒じゃないの?」
ハントも一緒に戻ってくれるものと考えていたらしいナミの不満げな言葉を受けて、ハントは困ったような笑みを浮かべる。
「いや、俺は挨拶でもして――」
問いに答えようとした時だった。気の抜けるようなどこか力の入っていない表情だったハントの表情が初めて鋭いそれになり、叫び声をあげていた。
「――ナミっ! 後ろ!!」
あまりに鋭い声に、ナミもそれに気づいた。
大地の中から聞こえてくる地響きのような音とはまた異質な音。まるで兵器が構えられたかのような、そんな鉄の音がナミの背後からかすかに届く。振り向けば、その鉄の音の主。空の海に来た時に麦わら一味を襲った牛の面をした男が大砲のような武器を身構えていた。
「なんでいきなりこんなっ!」
ほんの一瞬前まであったお気楽なデート気分から一転。気付けばナミが危険にさらされていることに、ハントは唇をかみしめつつもナミを庇おうと動こうとしたところで牛の面の男の大砲が射出されてしまった。
「まだ……ん?」
まだ間に合う。
そう考えたハントだったが、砲弾の射線がナミから外れていることに気づいた。足を止めて、つられるようにして砲弾の向かう先を見つめる。
直後、着弾。
爆発音が響くと同時に空気が痛いほどに震え、肌に突き刺さる。広がる煙に視界が覆われて、何も見えない。
「どういう状況だよ! これ!」
急すぎる展開に、苛立ちの声を漏らしたハント。気づけばその近く。そこに血まみれになった男が息も絶え絶えに倒れこんでいた。反射的に身構えようとしたハントだったが、それが自分に敵意がないことがわかると警戒もそこそこにその男のそばへと近よる。
「助けてくれ……船に……乗り遅れたんだ、頼む……礼ならいくらでも」
「いや、いきなり助けてくれって言われても……そん――」
「――うわぁ、ゲリラ!」
「ゲリラ?」
血まみれの男の視線の先にいる牛の面の男。それがどうやらゲリラらしいことはハントにもわかったが、それがわかったところでこの状況を理解できるはずがない。
「なに? なに?」
ほとんどベソをかきだすような様相で呟いているナミと同様ハントもまたこのついていけない状況にひたすら混乱してしまっていた。どうすればいいのかわからずに、どこか呆然とそれを見つめてしまっている。
だからこそ。
「……え?」
ふと、あたりが光に包まれて――
おそらくは平常時にあってもそれに対する反応はできなかっただろう。なにせそれはあまりにも唐突で、一瞬のことで、明確な敵としてそれを認知していなかったのだから。いや、もしかするとハントが警戒時にあったとしてもそれに対しての反応はできなかったかもしれない。それほどにそれは一瞬の出来事だった。
「っ゛!?」
――血まみれの男を中心として、一気にすさまじいまでの光量が一帯へと落ちた。
ほとんど、同時。
「――――っ!?」
ナミのハントを呼ぶ声すらもかき消すほどの轟音が世界を揺さぶる。
「……」
ナミの呼ぶ声に、彼の返事はない。
「は……ハント?」
もしかして今の光に巻き込まれたのか?
そう思ったナミが慌てて様子を確認しようとして「びびったぁ」とハントの声が聞こえた。
「は、ハント! 大丈夫なの?」
「あ、ああ……ぎりぎりで俺には当たらなかったけど……これ直撃したらちょっとシャレにならないぞ」
どうやら先ほどの衝撃で木々の茂みへと吹き飛ばされてしまっていたらしいハントがひょっこりと顔を出して、先ほどの光が落ちた一帯を見つめている。
「ハント……はやく行きましょ! もう嫌なんだけど私! さっきのゲリラっていう牛の面をした男だっていなくなってるし、私たちもはやく行かないと絶対にやばいわよ!?」
もはや恐怖が臨界点に達したナミが逃げることをハントへと提案するものの、ハントは動かずに先ほどの光によってえぐれた大地を見つめている。
「ハント!」
動こうとしないハントに業を煮やしたナミが彼に近づこうとして「――待て、女」
新たな声に、ナミがびくりとその動きをとめた。おそるおそるそちらを振り向いたナミと同様に、ハントもまた声をした方向へと顔を向ける。ナミと違って驚いた様子を見せないのは気配を察知していたからだろうか。
「貴様ら……青海人か」
「青海人?」
「空の騎士って人が言ってたでしょ、私たちのこと」
「あ、そっか」
サングラスをした坊主頭の男の問いかけに、こそこそと二人で話す。まるで話を聞いていないかのような態度だが、坊主頭の男は坊主頭の男で近くにいた他の3人の男たちと言葉を交わしており、、それを気にする様子はない。
「青海人の不法入国者8人とはこいつらのことか」
「だろうな」
「ほほう! こんなところにその内の2人がいるようだが」
順に背の高い腕を組んだ男、まるで飛行機に乗るかのような恰好をしてゴーグルをしている男、丸い男の3人が言葉を漏らす。そんな彼らへと、あくまでもウェイバーから降りることなく、ハントの背中に隠れるような位置に移動したナミが「あ、あの」と声をかけた。
「不法入国者って私たちのこと……ですか?」
「なんで敬語?」というハントの小さな言葉にナミもまた小さな声で「うるさい!」と小さく叱り飛ばす。
「アマゾンばあさんから送られてきた写真には確かに貴様らが映っていたぞ」
「そ、そんな!」
「どうせこいつらももうすぐ神の試練を受けることになる……今のうちに俺が仕留めてやろう」
「待て、どうせそうなるとわかっていてもまだ神の試練にまで至っていない以上、俺たちが勝手に仕留めてよいものではない」
勝手に進んでいく会話に、未だにハントは状況を掴めていないらしく不思議そうに首を傾げている。横にいるナミはそれを感じ取っているものの今はそれに反応している余裕はない。
「じゃ、じゃあ私たちはこれで!」
そう言ってハントを手招きして、ソソクサとその場を去ろうとウェイバーのアクセルを踏みこ――
「――待てと言ったろ、女」
「……な、なにか?」
坊主頭の男の呼び止める声に、まるで機械がさび付いたかのような動きで動きを止めたナミだったが、どうやら坊主頭が用があるのはナミではなくハント。
「女には用はないが、俺がお前らを呼び止めた理由は一つ。ここは神の住む土地……アッパーヤード。許可ないものが立ち入ることは許されぬ」
そう、既にその足を大地へと踏み入れているハント。
「……!」
「……?」
坊主頭の言葉に、ナミが顔を青くさせてハントは首を傾げる。
「あ、なんかごめん」
どうにもお気楽に頭を下げるハント。ナミが慌てて「あ、あの」と言葉を漏らそうとするが、もうナミが介入できるような状況ではない。
「ほっほう! 謝って済む問題じゃあないぞ」
「ここは聖域、貴様ごとき青海人が足を踏み入れて良い場所ではない」
「いや、だからごめんなさい」
玉のように丸い男とゴーグルをした男の高圧的な態度に、ハントはやはり本当に悪いと思っているのかもわからないような態度で頭を下げる。
「8人のうちの1人なわけだが……どうする?」
「……どうもこうもさっきの男と同様、早い者勝ちでどうだ」
「ほほう、面白い」
「構わん」
坊主頭、ゴーグル、丸い、腕組み。それぞれが順に答えて、ここに来てやっとハントも状況を理解した。
「ナミ、どうやら俺が狙いらしい」
「……うん」
「先、行ってくれ」
「え……で、でも――」
「――俺が負けるとでも?」
小声で会話する中、ハントにしては珍しい真面目な声だ。だが、ハントらしからぬ自信に溢れた声でもある。自身がいたほうが足を引っ張ると判断したナミがすぐさまウェイバーのアクセルを踏み込んでそこからの離脱を計る。
「助けはいらない、後から俺も合流するさ」
背後から聞こえてくるハントの声に、無言で頷いたナミがそのまま遠ざかっていく。もちろんナミを狙いに入れていない4人の男はそれに関して咎めようという腹積もりはないため、それは簡単にスルー。
「さて」
ナミが無事に離脱したことを確認したハントは、手首足首を軽く回しながら少々不機嫌そうにつぶやく。
「ナミとのデートを邪魔しやがって……こっちだってケンカを売られたら買うっての」
神の住む土地、アッパーヤード。
4人の男と、ハントによる戦闘が始まった。
ハントが戦闘を始めたアッパーヤード。そこから少し離れた地点。
白い海を、ウェイバーに乗ったナミが突き進んでいた。
その表情は当然だが、つい先刻まであったように明るいそれではなく深刻なソレだ。当然だろう、恋人たるハントが4人の男に囲まれていたのだ。
だが――
「私たちが不法入国者って……しかもあの4人ってなんか結構偉いっぽかったし……あぁ、ハントが倒しちゃったらまた大ごとになる予感が」
――ナミの表情が深刻な理由はハントのことを心配して、というわけではないらしい。
彼女の口ぶりから察するにナミはハントが4人に負けるという可能性すら考えていない節すらある。それに関しては素晴らしい信頼関係といえるのだろうが、それはともかく。
ナミが心配しているのはこれから先のこと。
せっかく空島に来るというという夢のような体験をしている最中だというのにここの海軍のような機構に狙われるなどせっかくの空島が単純に楽しいというだけのものではなくなってしまう。
ウェイバーを丁寧に操りながらも体をソワソサとさせていた彼女の視界についにパガヤの家が見える位置にまでたどり着いた。
すぐにでもルフィたちにこのことを知らせて今後の動きを考えなければならない。
そう思って声を張り上げようとして、だが海岸にいる顔ぶれに気付いた。
「あ、まずい! もう既になんかいる」
残念なことに不法入国者としてもう手配されてしまっているらしく、ベレー帽をかぶった多数の人間がルフィたちと対峙していた。
「さっきの奴らの仲間かしら……ただでさえハントが戦いを始めちゃってるんだから、下手に手を出してこれ以上ややこしくしないでよ、みんな!」
彼らの状況は今まさにややこしいことになりつつある。
後書き
覇気についての設定について載せ忘れてたので、投下しないといけない(汗)
一応設定読まなくてもわかるようにうっすらと描写してるものの、けっこうな独自設定(主に見聞色で)が入っててて、やっぱり載せてあった方が戸惑わなくて済むだろうなと思うので次話に見聞色についての設定を投下したいと思います。
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