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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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外伝 苗っち、幻想郷に来たいきさつ

 
前書き
発掘品がまだ出てきたので投稿します。削除も勿体無いし。 

 
 
それは、余りにも異質すぎる空間だった。

右を見ても左を見てもそこ置いてある物、又は天井から吊るされた物の悉くが遊具。まるで子供の為だけに用意されたような、しかしどこか現実味を感じないその部屋は気味が悪く、窓の外からは星の光が覗いていた。その星の一つ一つさえも現実味がなく、しかし宇宙の漆黒――生きとし生けるものを寄せ付けないその拒絶の黒だけが、強い現実味を見る者に与える。

「どうしよう、どうしよう、どうしよう……」

その空間の中にたった一人だけ、玩具でも遊具でもない存在が座り込んでいた。腰ほどまで伸びた長い黒髪。壊れ物の様に白く細い身体。年齢は凡そ中学生ほどであろうか。
少女は何かに追い立てられるように同じ言葉を呟きながら頭を振り、その度に彼女の頭に装飾されたカチューシャに付属する紫色の兎の人形が足を揺らした。しかし、その可愛らしい装飾は今この瞬間だけは何の役にも立たない。

蝉玉(せんぎょく)さん……ぽんず……玉鼎(ぎょくてい)さん……」

彼女の呼びかけに3人は応えない。いや、応えられない。何故なら、その全員が既に敵の術中に堕ちてしまっていたからだ。彼らの血が通うはずの身体は今や木や綿、布で出来た玩具に過ぎないものと化していた。――彼女の所為で。指揮を執っているである彼女が何の打開策も見いだせなかったが為だけに。

代わりに返ってくるのは、彼女の心を抉るような敵の声。

「でぇ?君はどうするの?遊ぶの?それとも遊ばないままずぅっとそこでめそめそしてるの?正直遊んでくれない子なんて要らないからさぁ……独りで遊んでいよっかなー……」

目の前には数分前まで蝉玉(せんぎょく)であった人形が動き、彼女の周りをくるくると歩き回っている。

この空間でゲームに敗北した物は、玩具に変えられる。
玩具に変えられたら本人の意識は封じられ、部屋の主に支配権を奪われる。
但し、部屋の支配者は”負けない”。
そこまでは分かっている。そして、相手が次に何を言うのかも彼女は”知っていた”。

「そうだ!そこで転がっている”元味方”の皆を使って君を爆殺させるっていうのはどうかな?」
「…………」
「あれあれぇ?無視しちゃうの?感じ悪いなぁー……僕ちゃん不機嫌になってきたよ」

知っている。こうして暗に”機嫌を損ねれば仲間がどうなるか分かっているのか?”と脅しをかけてくることも、そうして苦しむ顔を見て楽しんでいることも、そして結局”いつも”打開策が見つからないまま”毎回”敗北してきた。

何度も何度も繰り返した。何度も何度も3人を救おうとした。何度も何度も部屋の主を倒そうとした。しかし――辿り着く結果はいつも同じ。たった一つの場所にしか行き着くことはない。
”今回”だって、彼女は結局何の打開策も見いだせないままこの限りなく終焉に近い状況に陥っている。

何が足りないのか。
指揮官として無能であるがゆえに、彼らは皆玩具に変えられてしまった。彼女はそれを、いつもいつも何も出来ないまま見ているしかなかった。

――何度も何度も、この時間、この戦いを延々と繰り返しているのだ。
――何度やっても、同じ終わりしか見えないのだ。

結果は同じだった。蝉玉は何の勝負をしても必ず一回で負けるし、ぽんずも時間稼ぎしか出来ない。玉鼎(ぎょくてい)が何度この部屋の人形と天井を切り裂いても、敵を退ける事は出来なかった。

敵は、この部屋の中に必ずいる。それは何度も繰り返した戦いの中で分かっていた。勝負の内容、位置取り・・・回数を重ねていけばおのずと察することができる。この部屋に本体がいないのならば決して犯すことのないであろうミスと不自然な行動が、彼女にそれを確信させていた。

だがどうする。どうすればいい。何を考え、どう行動すれば答えが見つかる?
玩具にされた皆の目がこちらを見ているような錯覚を覚える。6つの瞳が私を見る。
責めているの?それとも私も同じ運命をたどることを望んでいるの。
わからない。
わからない。
わからない。
皆が見てる。

見てる?
見ていた。
皆、皆――玩具に変えられる前、私の事を見ていた。侮蔑や失望とは違う意味を込めた目で、見ていた。そう、それは思い返せば――

(何かを待っているような……何かに気付いているような……?)

ひょっとして。

「ねぇ、もう本気でヤッちゃっていいよねぇ?」

私は、とんでもない思い違いをしていたんじゃないだろうか。答えはかなり明確な場所にあって、実は手がかりも持っているのではないだろうか?私だけがそれに気付いていないんじゃないのか?

「カウントダウン始めるよ~!5!4!」

そもそも、玉鼎(ぎょくてい)さんはやり直すたびに部屋を斬っていたが、「切っても意味がない」と伝えた後でも斬っていなかったか?それにもしも意味があるとしたら?

「3!2!」

私が「どこかに本体がいる」「恐らくあの辺り」と口にした時は、余計に斬っていなかったか?
――!!!

彼女は弾かれるように自分の当たりをつけた位置にある玩具の方を向き、全力で凝視した。
そして、見つけた。

「1!」

「そっこだぁぁぁーーーーー!!!」
「何っ!?」

敵が反応するよりも一瞬だけ早く、彼女の結んだ”印”の効果が天井から垂れ下がる玩具の一つを光輪で力いっぱい縛り上げた。

部屋の支配者は玩具から玩具へと移り変われるが、本体だけはその例外に当たる。
そして、この玩具のようなそれは、もがくばかりで他の玩具に乗り移ることはしなかった。驚愕に顔を歪ませるおもちゃのような敵は光輪に縛りつけながら彼女の方を見た。

「馬鹿な!何故!?いつ気付いた!!」
玉鼎(ぎょくてい)さんは意味もなく斬仙剣を振り回してたわけじゃない!私が”いる”と踏んだ玩具群に絶妙な力加減で小さな傷をつけてたんだ!」

よく見れば、彼女が当たりをつけた一体の玩具にはすべて薄く小さな切り傷のようなものがあった。そしてもちろんそれは捉えられた敵にもだ。そして、敵の切り傷には他の玩具では決してありえない”あるもの”があった。

それは、血だ。生物にしか流せない筈の血を流す、それこそが玩具ではない存在の証拠。

「お前だけがその傷から血をにじませていた……つまり、お前だけが生身!!イコール部屋の主だ!!」


瞬間、部屋の四方から空間が崩れ落ち、晴れ渡る青空がのぞく丘へと周囲が姿を変えた。肌を擽る清涼な風が当たりを吹き抜け、彼女の髪をはためかせた。


周囲を取り囲むのは笑顔の人、そして捉えた敵と同じ人ならざる存在達。それらは一様に彼女を祝福するような笑顔を浮かべていた。


「おめでとう苗!!戦闘訓練上の下、『VS十天君その1』クリアーだ!!」
「漸くだな!」
「おめでとー!!」
「頑張ったなぁオイ!よくヒントに気付いたな!?見てるこっちも難しいと思ったのによ!」
「”ヒント”の”頻度”が少ないのに見事なもんだ!」

「やったぁぁーーー!!やったよみんな!」

「協力した甲斐があったわね!アタシのおかげよ?」
「ぅまーお」
「ふっ……まさか太公望のした作戦を私が再現することになるとはな」

訓練に手伝ってくれたメンバーの一人である孫天君を小脇に抱え、鳳苗(おおとりなえ)は声援を送ってくれた皆に笑顔で手を振った。

「いやークリアするのに10回もやり直す事になっちゃったよ……もう、師匠ったらこんな初見殺し簡単に突破できるかー!ウガー!!」
「太公望は初見でクリアしたぞ」
「……玉鼎さん、それマジ?」
「あの時は私が苗の役でな。もっとも命懸けだったからヒントを出さないなんて意地悪をする余裕は無かったが」
「おいコラ苗ちゃん?そろそろ僕ちゃんを解放してくれねーですかねぇ?あ、ちょ、拘束キツクしないでくださいお願いします!!」

師匠(おにいちゃん)頭脳ヤベー……と改めて実感した苗は、訓練で敵役をしてくれた孫天君を今まで馬鹿にされまくった腹いせにギリギリ光輪で締めつけながら「次からもう少し自分の師を敬おう」と決めたのであった。


ここは地球より離れた一つの惑星。その名を「スターシップ蓬莱島」。今となっては世界で最古の仙道の修行場所であり、今だ生まれ続ける仙人の素養を持った者と、その師が住まう場所でもある。



 = = =



ここに来てからもう2,3年経った。仙道の修行はなかなか難しく、特に思想面はこっちでも結構ゆるいのか分からないことが多い毎日だが、とにかく最大の目的である力のコントロールは割とちゃんとできている。最近は複数の宝貝(ぱおぺえ)を使った実戦訓練も行ってて、これが大変だけど面白い。

私生活の方も分身の私+太乙(たいいつ)さんの作ったコピーボディで過ごせている。道士になった苗と魔法使いになった苗で分離しながらも両方が使える私って実は凄く頭おかしいんじゃないだろうか?

こちらに来てからは驚きの連続だった。だって仙人界っていうからなんか空の上とかに行くのかなーって思ってたら……ワープゾーン通って地球の外だもん!宝貝は科学で作られた兵器?人類の始祖?妖怪仙人?最早知らないことだらけで頭がコんガらガっちだよ!お前らの様な仙人が居るか!!

私をここに連れてきた呂望お兄ちゃんにも驚かされた。
街の占い師だと完全に思い込んでたら、実は占いというより(まじな)いのガチ勢だったんだもん。あゆあゆの件のお礼代わりにおにーさん→お兄ちゃんに昇格させたんだけど……お兄ちゃんは仙人界ではとんでもなく偉い人だったらしい。だって辿り着いて直ぐに教主さんっていう超が付くほど偉い人が出迎えに走って来たんだもん。

皆お兄ちゃんにも驚いてたけど私にもすごく驚いてたみたい。燃燈(ねんとう)さんとか聞仲(ぶんちゅう)さんとかは最初凄い目つきでこっちを睨んできたからついついお兄ちゃんの背中に逃げ込んじゃったよ……


何でも私の仙道エネルギー(リンカーコアや魔力とも関係があるらしい)は洒落にならない位デカイらしく、間違った使い方をすれば星が滅ぶらしい。なにそれこわい。知ってたけど。

だって私はその力を御すために来たんだもん。

あの事件の時みたいな思いは……もう2度としたくないからね。

「ね、ぽんず?」
「まーお」

今日も私は修行を続けている。ぽんずはこっちに来てから身体がめきめき大型化し、今ではライオンよりさらに一回り大きいくらいのサイズと化している。お兄ちゃん曰くこっちにきて急激に”妖精化”が進んだらしいが……詳しい理由はよく分からない。

とは言っても普段歩き回る時は変身魔法で普通の大山猫形態に戻っている訳だが。空を飛ぶ時だけ大型化し、その背中に乗せてもらっている。

まぁおかげでぽんずは今は「使い魔兼幻獣兼妖怪道士兼ペット」という訳のわからない状態になっているのだけれども。

「おぉーい!苗ちゃーん!白額虎(はくがくこ)ー!!」
「あれ?白鶴さん?」
「まぅ?」

ふと空を見上げると、先輩道士の白鶴童子(はくつるどうじ)がこっちまで飛んできていた。名前のまんま白い鶴の姿をした仙人で、お兄ちゃんの同期みたいな人(……人?)らしい。
ちなみに白額虎というのはぽんずの事だ。ピエロのお兄さんが「さすがに『ぽんず』では皆も呼びにくいでしょう」とくれた名前で、公の場用の名前みたいなものかな?

ちなみに私もみんなの前ではお兄ちゃんの事を師匠と呼んでいたりするが、個人的にはお兄ちゃんと呼んだ時のリアクションの方が面白いのであまり使わない。

閑話休題。白鶴さんは私の前にストンと降り立つと、変化の術で青年の姿に変身する。これは白鶴さんなりの変化の修行で、地面に降りるときは人型、飛ぶ時は妖精型で使い分ける事で変身に磨きをかけているらしい。
本来妖精でありながら変化で常に人の姿を保てると仙人として一人前と認められる。なのに更に変化に磨きをかけるために敢えて仙人の認定を受けない白鶴さんはかなり努力家だと思う。

「いたいた!こんな所で休んでたんですか……」
「どしたの白鶴さん?」
師叔(スース)と教主様が呼んでいたので崑崙山(こんろんざん)Ⅱの教主様の部屋に至急向かってください!」
「師匠と教主さんが?何の用だろう……」


それが私の新たな冒険の始まりだったとは……流石に予想外だったと今でも思うんだよね。



 = = =



「では、気を付けてゆくのだぞ?」

そこは日本のド田舎のどこかに存在する山。周囲に人も殆ど住んでおらず、先ず人の立ち入ることのないその山に2人と2匹が立っていた。目の前にはなんの変哲もない岩が一つ立っている。

2人のうちの1人……太公望の声に、苗は人差し指と中指を立ててピースを作って応える。

「大丈夫大丈夫!修行、お使い、いいつけ!全部守るし忘れ物もないよ、お兄ちゃん!」
「いい加減その”お兄ちゃん”は止めてほしいもんだがのう……」
「いいじゃないッスかご主人。こんなかわいい子に慕われて何が不満なんスか?」
「うるさい!止めてほしいもんは止めてほしいのだ!」

太公望の霊獣である四不象(スープーシャン)の不思議そうな声に太公望はそう言ってぎろりと睨む。確かに彼女は明らかに太公望の娘とも言える「他3名」に比べれば随分可愛らしいし、実際仙人界でもどっかのロリを出し抜いてアイドル的な立ち位置にいるのだが……

「とにかくだ!向こうの管理者には話しを通してあるとはいえ、お主が苦戦するような相手も向こうにはおるだろう。油断と迂闊な行動は慎むのだ――お主の為を思って言っておるのは、分かっておるな?」

声のトーンが一段下がった。普段は軽いノリで課題を押し付けてくる太公望だが、今回のこれはいままでの修行とはわけが違う。今までの修行には苗が命の危機に瀕するようなことが無いよう安全性を確保して行っていた。だがこの先ではそれが無い。
苗が現時点で既に”切り札”抜きでも上位仙道に匹敵する力を持っているとは言え、命懸けの戦いを何度も潜り抜けてきた太公望は現実の非情さを知っている。実戦ではほんの些細な切っ掛けでその実力差がいとも容易く覆されるのだ――太公望自身がそうして勝機を勝ち取ったように。

そして苗はそれとは別に、心に大きな重りを抱えていた。それは誰に言われるでもなく自分で背負った重りであり、彼女はそれが自分の何を押さえつけているかを正しく理解していた。

「……分かってる。ちゃんと考えて、うんと悩んで行動するよ。もうぽんずのあんな姿は……見たくないもん」
「ぅまお」

ぽんずが苗の足元に寄り、その身体を彼女の細い足に擦り付ける様に寄り添う。ぽんずの手入れが行き届いた手触りのよい毛がもふり、と彼女の皮膚に触れた。

「……もふもふ、もふも……い、いけない!今は自重今は我慢……」
((急に大丈夫か不安になってきたのう(ッス)……))

大の「もふもふ狂」である彼女の一瞬だらけた顔に頭を抱えた太公望とスープーだった。

「まぁよい。向こうは観光する分には美しい土地だから直ぐに面倒事に出くわすことはないじゃろう……では」

太公望がすっとあげた手に呼応するように空間の一部が長方形に切り取られ、その向こうに周りの風景とは微妙に違う景色が広がった。それこそが、彼女がこれから向かう場所への入り口。

「行ってくるがよい。人も神も(あやかし)も、全てを受け入れる美しくも残酷な地へ」
「お土産待ってるッスよー!!」

「行ってきまーす!!」
「まーお」


こうして、私は幻想の土地に足を踏み入れたのであった。




その地の名を――「幻想郷」という。
 
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