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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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容体

「「「一輝(さん)(君)!?」」」
「おー、ヤッホー三人とも。一気に賑やかになったな。」

清明に診察されている一輝は、部屋の開く音と同時に入ってきた三人の声からすぐに誰が来たのかを察し、そう声をかけた。そして、

「って、この期に及んでふざけている場合ですか!?」
「黒ウサギ、ストップや。今一輝君にダメージを与えるのはやめといてや」

軽すぎる一輝の対応に対して反射的にハリセンを取り出した黒ウサギと、それが構えられる前にとめた清明。そんな様子を一輝は見ずに想像していた。

「う・・・スイマセン・・・」
「全く、ダメよ黒ウサギ。病人にハリセンを向けるなんて。」
「全くだよ。これだから箱庭の貴族(笑)は。」
「って、誰が箱庭の貴族(笑)ですか!?」

そして、その分なのか飛鳥と耀の二人が黒ウサギにハリセンでたたかれた。
妙にバランスが取れている。

「悪いな、心配かけて。この通り俺は意識を取り戻したから。」
「あら、それにしては全然大丈夫そうにみえないのだけれど。こちらに顔を向ける様子もないのだし。」
「体が全然動かないんだよ。目を開いたり眼球を動かしたり口を動かしたりは出来るんだけど、他が全然動かない。首をひねることすらできないんだ。」

と、その一輝の言葉で三人は一輝の体が後遺症を負ってしまったのかと思ったが、

「ああ、大丈夫や。今一輝君の体は休みたがってる(・・・・・・・)んや。だからこそ、こうして体が動くことを拒否しとる。」
「ああ、そう言う事ですか・・・って、体がそこまでなるほど酷使したのですか!?」
「体よりも呪力、生命力の類やな。とはいえ・・・」

と、そこで清明が全ての診察を終えて立ち上がり、リリとサキの二人が一輝の体を支えて背もたれを外し、ゆっくりと横たわらせる。

「ま、また無茶したら今度こそ死ぬやろうな。体が動くようになるまでは絶対安静。食事とか体を拭いてもらうとかは子供たちにでも頼むんやな」
「食べさせてもらい、拭いてもらい、か・・・マジかぁ・・・」

ちょっとアレな状態に一輝はどんよりとする。が、他の方法もないためにそれを受け入れた。

「で、体が動くようになってもしばらくは絶対安静。そやなぁ・・・せめて檻の中のやつらを全回復して、君自身の生命力と呪力も最低半分が回復するまではベッドの中や」
「それ、何も変わってねえよな?」
「そうでもないで?食事は自分で取れるし、体も背中以外は自分でふけるやろ。」
「なるほど、ね・・・結局、当分の間は暇になりそうだな。」
「そやな。ま、多少歩くくらいは体がもつかもしれんし、何かあった時のために杖ぐらい準備しといたほうがいいで。」

とはいえ、そんな状態で歩いているのを見つかったら怒られるだろう。よっぽどのことがない限りはベッドの中である。

「そんで、さっき言ったくらいまで回復したらベッドの中で無くてもええで。」
「まあ、それくらい減るのはよくあることだしな。」
「せやな。といっても、それは呪力の話であって生命力の話とはちゃう。ベッドから出ることは許可するけど、体の一部が動かんようにしよか」

一気に一輝の表情がうげっというものに変わった。よっぽどいやらしい。

「ちなみに、どんな感じに・・・?」
「そやな・・・基本的には腕を封印。食事中やトイレなんかでは足に変更。お風呂や寝る時なんかはなしでええやろ。」
「それ、ずっとなしじゃダメか?」
「ダメやな。一回ちゃんと回復させとかんと、どうなるか分からんし。よっぽど両方解かないと出来なくてどうしても自分でやらな開かんことがある時はええけど。」

つまり、基本的には完全封印である。そして・・・

「とりあえず、一輝さんには誰か年長組の者を付けましょう。サキ、貴女にお願いしていいですか?」
「は、はい!頑張ります!」

急に黒ウサギから任されたサキという少女が驚きながら了承を返す。その場でそうなってからのサキの仕事をどうするかをリリと話し始め、一輝は完全に封を解くのは基本ないな、という事を理解した。
まあ、一輝に隷属している四人がいればあの中の誰かに任せる形になっただろうから、それと比べればまだかなりマシだろう。いや、ヤシロは見た目的には大丈夫かもしれない。それ以前に、黒ウサギもそこを考えたからこそ子供を付けたのか。

「・・・それで結局、一輝は大丈夫なの?」

と、最初に入る時に喋ってからここまでほとんど喋っていなかった耀が、清明に結論を求める。

「ま、そやな。今無茶をすれば九十パーセント以上死ぬし、歩けるようになってからであっても無茶をすれば後遺症がなにかしらの形で残るかもしれへん。そんな感じや。」
「・・・つまり、しばらくの間一輝は能なし?」
「間違ってはいないけど、その言い方はやめてくれ。・・・明後日には、檻の中のやつを一人子どもたちの手伝いに回すよ。」
「でも、それはきけんなのでは・・・」
「いや、そいつを出す分には俺の方に負担はないみたいなんだ。・・・つっても、完全な状態で出せばかなりの負担になるんだけど。」

と、そこで一輝はリリに向けて、

「そう言うわけで、明後日にはそいつをだすからこき使ってくれ。力仕事か大暴れか、物を壊すくらいしか能がないやつだけど。」
「えっと・・・では、力仕事をお任せしますね。」
「そうしてくれ。名前とかはまた本人に直接、で。」

一瞬悪戯者の顔をした一輝に黒ウサギはいぶかしげな眼をするが、さすがにこんな時に何かをすることはないだろう、と判断した。・・・それが正しいのかはともかく。

「まあ、とりあえず今言えるのはそんな感じや。明日にでも封印用の呪具は持ってくるから、回復したらそれを使ってな。それと、ついでに霊薬なんかもテキトーに見つくろっとくわ。」
「悪いな、清明。代金なんかは俺が回復したら払うから、つけといてくれ。」
「とらへんよ、そんなもん。君のおかげでこの箱庭は救われたんやから、そのお礼や。・・・それにしては、かなり安くなってもうてるけど。」

そう笑った清明は荷物を持ち、部屋を出て行こうとする。
そして部屋を出る直前、

「そや、お見舞いなんかの申し込みもあるやろうけど、せめて自分で起き上がれるようになるまではダメやで。今は精神的負担もあかん。その時になれば、そう言う疲れくらいなら問題ないけどな。」
「・・・分かりました。では、今来ている申し込みもその時まで待っていただきますね。」
「え、もう来てるのか・・・?」

意外そうな顔をした一輝に答える者は誰もいなく、清明はそのままリリとサキの二人に見送られて出て行った。

「それにしても・・・良かったわ、一輝君の意識が戻って。」
「あはは・・・それについては、皆様にご迷惑、ご心配をおかけしまして・・・」

飛鳥の言葉に対して一輝は割と本気で申し訳なさそうに謝った。とはいえ、言葉だけで頭を下げる、の様なモーションはつかないのだが。

「ううん、気にしなくていい。一輝はそうなっても仕方ないだけのことをしてたんだし。」
「YES!今や、一輝さんのことを知らない人はいないくらいの勢いでございます!」
「あんまり有名になってもなぁ・・・それ、他の人の名前に置き換えられない?」
「いえ、それは無理でしょう。」

どう考えても無理だ。というか、ここまで広がったものを変えることはどう頑張っても出来るはずがない。

「はぁ・・・まあ、コミュニティの事も広まるだろうし、よしとするか。それに、人の噂も七十五日って・・・」
「いえ、結果として一輝さんはほぼ一人で人類最終試練をクリアした形になりますから・・・」

と、黒ウサギの言いにくそうな様子に一輝はいやな予感を募らせ、

「かつて人類最終試練(ラスト・エンブリオ)である『閉鎖世界(ディストピア)』が討伐されましたが、その際に参加した主要なコミュニティの事はいまだに語り継がれています。ですので・・・」
「俺のことも、語り継がれるだろう、と?」
「それどころか、様々なコミュニティで『人類最終試練の一つ、絶対悪(アジ=ダカーハ)を討伐した英雄』として子供たちに語られ続ける可能性も・・・」
「・・・もう嫌だ、何だそれ・・・」

今一輝が動けたのなら、orzのポーズになっていたかもしれない。それほどに、一輝は落ち込んでいた。
 
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