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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第67話 クレインの考え

「魔神剣!!」

剣を抜いたと同時に、衝撃波をクレインに向かって放った。

「うぐっ!?」
『零治、どんどん行きなさい!!』
「分かってる!!虎牙破斬!!」

魔神剣を更に喰らい、攻撃に移れないクレインにそのまま連続して上下に斬りかかる。

「邪霊一閃」

そして更にL字にクレインを斬り裂く。

「まだまだ行くぞ!!」

全てを出し切るつもりで、身体に鞭を打ち、無理矢理動かす。

「やられているばかりで……!!」
「何もさせやしない!!紫電滅天翔!!」

紫電滅天翔の高速の連続突きでクレインに反撃させないように防御に徹しさせた。

「幻魔衝裂破!!」

バツの字に斬り裂いたと同時にその衝撃波がクレインを襲う。

「はあああああ!!!」

それを何度と繰り返した。

「零治!!クレインのアーマーが!!」

そんな中、クレインのアーマーにひびが入ったのをエリスが確認した。

「エリス、来い!!」

攻撃している流れの中で再び刀となったエリスを掴む。

「空破絶掌撃!!」

風牙絶咬の様な高速の突きを2回、相手を挟むように連続で行う。

「双幻乱舞!!」

そして更に二刀による絶え間ない攻撃を与えた。

「くうっ!!」

タイミングを見計らい、攻撃を受けながらもがむしゃらに剣を振るったクレインだが、当然当たるわけもなく無駄な足掻きだった。
但しこちらとしてももうこのチャンスしかない。いつ身体が本当に動かなくなってもおかしくない。
だからこそこの流れを止めるわけには行かなかった。

「虎牙連斬!!」

虎牙破斬の上下の動きの間に連撃を織り交ぜ、攻撃する。

「秋沙雨!!」

高速の突きを相手に浴びせる。
最早アスベルの技からかけ離れているが二刀ならではの技を憶えている範囲でぶっつけ本番で繋げる。

『よし、零治!!』
「魔王炎撃波!!」

アギトの声と共に、二刀からなる炎の斬撃を1回、2回と何度も続けて斬りつける。

(行け、行け……!!)

この技でもう限界だった。これ以上新たな技を繋げる力は残っていない。

「はあああああ!!」

3回、4回と繋げたが、クレインの反撃はもう無い。この時なら反撃に出れば俺も危ういのだが、恐らくダメージが大きいのだろう。

(あと少しなんだ………!!)

無駄でないと感じた俺に力が湧いてくる。

「これで………ラストだ!!」

俺は最後に渾身の力を込めて一撃を与えた………
















「んんっ………?」

少し揺れる感覚と風が自分に当たり、ヴィータは目を覚ます。

「ここは………?」
「気がついたか?」

身体が重くあまり動かせなかったヴィータは首だけを動かし声の主を確認する。

「はやて………?」
「違いますよヴィータ」
「えっ……あれ?星?それじゃあ………」
「意識が戻ったと言うことは取り敢えず最悪の事態はなさそうだな」
「夜美?でも私は確か………」

そう思い出しながら現在の状態を確認する。

「………!!!」

ヴィータは顔を真っ赤にして降りようと身体を動かすが、痛みがヴィータを襲い、言葉に出せないまま悶絶した。

ヴィータは子供の様に夜美におんぶしてもらっていたのだ。

「大人しくしていろ。自分自身で思っている以上に重傷なのだぞ」
「そうだよ!!ヴィータあの数1人で戦ったの?」
「うん………」
「桐谷はどうしたのですか?」
「桐谷は途中転移させられて………だから私1人でも何とかしないといけないのに………それなのにそれなのに………」

そう言いながら悔しさからか涙が溢れてくる。

「私、皆に会わせる顔が無いよ………」
「何を言っているんですか、ヴィータは頑張ってましたよ」
「頑張っただけじゃ駄目だろ………もう時間も無いし、これじゃあ世界が……」

弱音を溢すヴィータ。事実もう捜索する殆ど時間も残されておらず、絶望的な状況に間違いなかった。
しかし………

「大丈夫だ」
「えっ……?」

そんなヴィータの言葉を聞いて夜美がハッキリと答えた。

「レイが何とかしてくれる」
「零治?それじゃあ……!!」
「うん、僕達は成功したよ」

その言葉を聞いて、ヴィータにも笑みが見えた。

「で、でも零治は何処に………?」
「桐谷と同じで転移で消えちゃった………だけどレイならきっと!!」
「………と優理は言いますけど、レイの身体は既にボロボロだろうし、私達も早く助けにと移動していたのですが………」
「ここで行き止まりとなるともしかしたら別の場所に隔離された場所と言う事になる………」

実を言えば星達も追い詰められていた。零治がこの先にきっといると信じて進んで来た4人。しかし結果として空振り。時間も残されておらず再度探し直す余裕もない。

「じゃあ………」
「と言っても諦めませんけどね」
「えっ………?」

ヴィータが重々しく話そうとした瞬間、星が力強くそう答えた。

「そうだね、せっかく助けたのにまたさよならなんて絶対にしない」
「で、でももう時間が………」
「例え助からないとしても我等は最後までレイと一緒にいるつもりだ」
「夜美、お前………」

夜美の顔を伺い、それが冗談ではない事がヴィータにも分かった。

「私もそうだよ……レイが居ない世界なんて………」
「優理はヴィータと一緒にここを出て下さい」
「!?何で!!」
「あなたの気持ちは分かります。でもあなたにはもっと世界の色々な部分を見て欲しい」
「僕達ほど優理は目覚めて時間が経っていないしね」
「それに外で奮闘しているキャロにも説明して欲しい」
「そんな………私はレイや星達みんなが居ないと………」
「生きて下さい盟主。それが私達の願いです」

盟主と言われ、優理は何も言えなくなってしまった。

「………まあまだ時間はあるし、それまでにレイとクレインの場所を見つければ良いんだしね!!」
「そして恐らくそこにこのゆりかごの中枢部もあるだろう」

そう互いに言い合い頷くライと夜美。

「私も諦めない。盟主とか関係無く、絶対に家族みんなで帰るんだ………!!」
「優理………」

そんな頑固な優理の答えに星も自然に笑みが溢れた。

「分かりました、だったら絶対にレイ達を見つけましょう!!」

星がそう言い、来た道を戻るのだった………


















「………」

はやてが無言で戦場を見つめる。
外の戦いは最早はやて達の勝ちとも言える状況だった。ブラックサレナ達は聖王を失った影響からか、修復速度が遅くなり、起きた武装隊の戦力でも充分抑えられる程度になっていた。

一方はやて達空のメンバーは大悟を固めるように配置し、守りに徹する戦法を取っていた。もっともキャロのヴォルテールは星達が侵入した入口を守るように戦っていた。

「………エローシュ後時間は?」
「30分。それを越えたら月のエネルギーを得て大悟さんでももう止められない。それまでに最悪攻撃に移らなくちゃいけないです」
「後30分………」
「脱出は絶望的です」
「エ、エローシュ!!」

淡々と答えたエローシュにフェイトが慌てて注意した。

「いいんや、フェイトちゃん。実際そうなんやし………せやけど私はギリギリまで待つつもりや。………駄目やと思う?」
「いいえ、俺もそうします。脱出する方法も俺の予想外の方法で脱出してくる可能性も考えられますし………」
「素直に皆を信じるとは言わないのか?」
「言わなくてもみんなもそうだと思ったので」

からかう様に言ったシグナムの言葉もエローシュは淡々と答える。

(………やっぱりもう限界みたいだね)
(ああ、だがそれでも戦いが終わるまでは居続けるだろうな………)

いつものおちゃらけた雰囲気は全くなく、普通の口調で淡々と返すエローシュ。精神を集中しないと倒れてしまうかもしれないと考えたエローシュは集中力を継続させていた。その為、口調も変わっていたのだ。

(全く、普段の訓練からしっかりやっておけばこんな事にはならなかったのに………)
(それでも凄いと思うよエローシュ。天才って言われていたのは伊達じゃないね)

そんなエローシュに関心しながら念話で話すフェイトとシグナム。2人は戦闘経験の差からか、今まで戦闘してきたのにも関わらずまだまだ余力があった。

「加奈、まだまだ行けるか?」
「大丈夫ですよトーレさん、私は防御に徹していたお蔭でみんなよりは余裕があります。それよりトーレさんは………?」
「伊達に戦闘機人では無いさ。………尤も相方の方はフラフラだがな………」
「無茶言わないで下さいよ………俺は六課のメンバーみたいな高ランク魔導師じゃないんだら………」

と苦笑いを浮かべながら向かって来たブラックサレナを撃ち落とすティーダ。

「ですけど2人が来てくれたお蔭で私も大悟の守りに集中出来ました。武装隊がみんな離脱してしまったときは私も身体を張る覚悟でしたから………」
「それをやったら神崎大悟が許さないだろう。………にしても神崎大悟は目を瞑ったまま微動だにしないな」
「恐らく集束した魔力を漏らさない様に集中しているんだと思います」

目を瞑り、動かない大悟を見ながら加奈は呟く。

「SSSランクの魔力を全て使うんだよね?………正直どの位の威力があるのか想像出来ないな………」
「ドクターも計算こそした事があるみたいだが、砲撃にすれば中規模の街なら消し去れると言っていたな………」
「本当に………?」
「あくまで計算上だがな」

トーレの答えに唖然とするティーダ。

(大悟、あなたも頑張って……!!)

そう思いながら加奈は再び戦闘に集中するのだった………






















「はぁはぁはぁ………」

現在の俺が今出来る精一杯の攻撃。その全てをクレインにぶつけた。いつもとは違い、威力は低いだろうがその分数で攻めた。

『大丈夫?』
「正直もう限界………」

ホムラを突き立てて何とか立っている状態である。

「アギトはまだ大丈夫か?」
『私も限界………何とかユニゾン保ってるけどそれが精一杯かな………』

疲れた声でそう答えるアギト。今回の戦いはアギトの方が負担が多かった。アギトがいてくれて本当に助かった。

「取り敢えず座ったらどう?」

人の姿に変わり俺を支えながら提案してくれた。

「そうしたいのところだけど、今座ったら立ち上がれるか不安だからな………それにまだ勝ったか分からないしな」



「その通り」



不意に聞こえた声の後、エリスの方へ伸びる細い何かが見えた。

「エリス!!」

咄嗟にエリスを押し倒す。

「ぐっ!?」

その瞬間左肩に激痛が走った。

『ああああ!!』
『零治、アギト!!』

アギトの叫び声と共にユニゾンが解け、アギトは地面へと落ちた。

「くっ……まだ動けるのか………!!」
「お陰様で、アーマーは破壊されたが、まだ武装を展開する事は可能さ。………さて」

そう言ってクレインは静かに零治に近づく。

「君には本当にお世話になった。まさかここまで追い詰められるとは思わなかったよ」

そう言いながら俺を蹴り、倒すクレイン。

「ぐっ………!!」
「だけどここまでだよ」

そして俺の肩の傷を思いっきり踏みつけてきた。

「ぐがあああああああああああああ!!!」

激しい痛みに叫ばずにはいられなかった。

『零治!!』
「零治から離れろ!!」
「エリス逃げろ!!」

エリスがクレインに殴りかかるが、片手で魔力の剣を作り出し、斬り払った。

「きゃ!?」
「っ!?この!!」

しかしエリスのお陰でクレインの踏みつけていた足の力が弱まったので、その隙を突き、何とかホムラを振った。

「おっと!!」

流石のクレインもアーマー無しでは相手からの攻撃が怖いのか大きく俺から離れた。

「驚いた、まだそんなに動けるんだね」

余裕そうに話すクレインだが、俺は見逃さなかった。

(こいつ、ビビってる……?)

今振るった攻撃だって攻撃と言えるか怪しい威力しかなく、普通の敵だったら受け止める事だって出来たはずだ。

(だったら動けさえすれば俺にだって勝機がある………!!)

そう確信したものの、身体は動きそうにない。さっきの一撃だって火事場の馬鹿力みたいなものだ。

(………帰るって約束したんだけどな)

このままではどちらにしてもクレインを止められず星達も不幸にしてしまう。だったら………

「さて、君の場合何が起こるか分かったものじゃないからね、これで終わりにしよう」

そう言ってクレインは双剣を作り出した。

「そうだな………俺も諦めるよ………」
「ほう、とうとう折れたかな?」
「ああ、俺も含めてみんなで帰るって事をな!!ホムラ、フルドライブ!!!」

その瞬間、魔力が一気に放出される。

「なっ!?」
「俺の身体がボロボロなだけで魔力はそこまで減っていない。大悟やはやてには及ばないが俺もSランクの魔導師なんだ!!」
「零治!!あなた………」
「エリス、後は頼む………!!」

身体を起き上がらせ、立ち上がる。

(何時ものフルドライブ状態とは程遠いが動く!!)
『………零治、私は本来のあなたのデバイスとは違うわ。自分で言うのも何だけど一応聖王器として今までのデバイスと比べても指折りの性能を誇るわ。その聖王器でフルドライブ稼働は………』
「エリスの時より負担がかかるだろ?……分かってる、俺も覚悟を決めた。俺の大事な人達を、大事な家族を。そして愛する人達を護り、明日を迎える為に!!俺自身どうなろうともこの戦い、絶対に勝つ!!!オーバーリミッツ!!!」

フルドライブ状態が完了し、先程の身体が嘘のように動くようになった。

「まさかその状態でフルドライブだと………?君は勝負に勝つために死ぬつもりかい!?」
「それが俺の覚悟だ!!このまま終わりにしてたまるか!!!」

そう言って俺は駆け出した。フルドライブの時間は短いだろう。だからこそ時間は無駄にしない。

「く、来るな!!!」

クレインは俺の目の前に分厚い魔力の壁を作り出した。

「邪魔をするな!!獣破轟衝斬!!」

魔力を帯びた斬り払いからの斬り上げ。アスベルの一つ目の秘奥義で壁を粉砕した。

「喰らえ!!」

それを待っていたかのように双銃から魔力弾を発射してきた。

「なっ!?」

だが正面から向かってくる弾なら例え今のフルドライブ状態でも難なく避けれる。

「そんな攻撃で今の俺を止められると……ガフッ!?」

不意に身体の中から熱いものが込み上げ吐き出してしまった。

『吐血!?』
「構うな!!」

俺は自分を鼓舞するように大きな声で気合を入れ、覚悟を鈍らさないようにする。

「行くぞ白夜殲滅斬!!」

目にも止まらぬ高速の連続斬り。アスベルの2つ目の秘奥義だが、やはり本来使う時と比べてスピードが圧倒的に遅かった。

「くっ!?だがこれ位なら!!」

今度のクレインは先程よりかは冷静だった。俺の白夜殲滅剣を何とか懸命に凌いでいた。

(くっ、身体が………!!)

先程の吐血がきっかけだったのか身体がまた少し重く感じた。

「それでも!!」

最後の斬り抜け。そこは最早気力で攻めた。

「がっ!?」

凌いでいたクレインの双剣を砕き、僅かだが右肩を斬った。

「あああああああ!!!」

斬り抜けて終わりにはしなかった。着地したと同時にクレインの方へ、方向転換し、再び斬りかかる。

「なっ!?」

クレインは耐えきったと安心したのか完全に油断していた。

「斬空!!」

光を纏った刀で斬り上げ、斬り下ろす。
そして………

「天翔剣!!」

そのまま斬り上げた……………



















「そっちです」

なのはを支えながらイクトが後ろから指示を出し、バルトがヴィヴィオを背負って進んでいた。

「妨害が殆どねえな」
「聖王がいなくなり、出力が落ちた為、無駄にエネルギーを使えないんだと思うわ。だから動くなら今がチャンスなのよ」
「いや、思うわって、お前もこの事件の当事者だろうが………」
「確かにドクターは色々と指示を出してくれたわ。………だけど本当に重要なことに関しては全部自分でやっていたの。だから私もゆりかごに関しては殆ど分からないわ。………よくよく考えれば私を信頼していない証拠よね………」

と悲しそうな顔で最後の言葉を呟くイクト。

(あの時はああ言ったが、やっぱりそう簡単には切り替えられねえか………)

そう思いながらもバルトは特に声を掛けなかった。単に何と声を掛ければ良いのか分からなかったのも理由の一つだが、幾ら妨害が殆ど無いと言っても敵には何回か遭遇している。先程までのヴィヴィオとの戦闘にヴィヴィオとなのはが動けない状態で戦うとなると苦戦するのは目に見えていた。

「だけどあなたが居てくれたお蔭でこうしてヴィヴィオも助けられたし、道も案内してもらえる。………私達だけじゃ例えヴィヴィオを助けられたとしても帰れたか分からないから」

と、優しく声を掛けるなのは。

「そうだよイクトお姉ちゃん。だから元気だして!!」

バルトの背中からヴィヴィオが元気よく励ました。

「………ってかお前本当は動けるんじゃねえのか?」
「そ、そんな事無いよ!!バルトのせいで身体がだるいよ~!!」
「いや、ダメージの大半はなのはの無茶苦茶な砲撃だからな………」
「わ、私のせいですかバルトさん!!」
「確かになのはお姉ちゃんの砲撃は………」

そう呟いて身震いするヴィヴィオ。どうやらトラウマになったようだ。

「それよりもヴィヴィオ」
「身震いしている女の子をみてそれよりもとか………」
「い、いやそう言う意味じゃ無くて………ヴィヴィオがまだお姉ちゃんって呼び方なのが気になって」
「ああ、そう言えば………もしかしてママって言うのが恥ずかしいのか?」
「うっ………」

痛い所を突かれたのか苦笑いするヴィヴィオ。

「ませてんなぁ………あのアホの影響か?お前位の歳だったらママって呼び方も普通じゃねえのか?」
「そうですね………あっ、でも私はお母さんだったかな………でもそれはお兄ちゃんやお姉ちゃんの影響もあるのかな?」
「俺は親もいなかったしなぁ………こういう事に関しては全く分からねえ」

(………あれ?なんだろこの雰囲気)

いきなり2人で呼び方に関して真面目に話し合う光景にヴィヴィオは嫌な予感を感じた。

(これってもしかして色々と言わされるパターンじゃ………)

「よしヴィヴィオ、試しに色々となのはを呼んでみろ。最初はマミーからだ」
「初めて聞いたよ!?それ本当にお母さんの事を呼んでるの!?」
「うん、そうだよ。実際に聞いた事無いけど………多分外国だと普通だと思うの!!」

(だめだ、絶対に面白がってる………!!)

2人の様子を見て、なのははともかく、バルトに関しては少し笑いを堪えている様にも見えた。

「ほらヴィヴィオ、マミーだよマミー!!」
「ちょ、ちょっとなのはお姉ちゃん!?」

疲れている筈なのに、何故か元気に見えるなのは。

「あの………ブラックサレナやガジェットに捕捉されるので静かに………」

ゆりかごが上昇していき、猶予が無い中、緊張感の無い一家であった………
























「はぁはぁ………」

身体が異常に重い………先ほどよりも酷い気がする………
フルドライブ状態も切れ、どっと疲労が襲ってきたが、それを何とか根性で倒れない様に耐えていた。

クレインが倒れていれば問題無いのだが………

『甘いわ………殺傷設定にしていればあれくらいでも致命傷になったでしょうに………』

そもそも聖王器には非殺傷設定は無いらしい。桐谷の戦闘中にふとホムラに聞いた時に説明された。
だが桐谷のブランバルジェはセレンを元に復元された様で、セレンの非殺傷設定が残っており、ホムラに関しては先ほど、ホムラが作戦を提案した際、エリスがインストールしていた。

「躊躇している状況で無いのは分かっている。………だが、このゆりかごを止めるには勝手に弄ったクレインを問いたださなくてはならない。それかもしくは探す方法を聞きださなくてはならなかった」
『………それは分かるわ。だけどこの状況下で考えればクレインを止めるのを優先するべきだと私は思うのよ』

確かにそうかもしれない。だけど、心の内で殺人と言う行為に躊躇している自分もいる。

「とにかくクレインに届いてればいいんだけど………」

連続での秘奥義による攻撃。今俺自身に出来る最高の攻撃だった。
だが………

「最後の斬り上げを外さなければ………」

最後の斬り上げ、その時に、身体に痛みが走り、クレインを掠める程度に終わってしまったのだ。そしてタイミングの悪い事にそこでフルドライブは強制終了。時間はまだ少し残っていたが、危険に感じたホムラが強制的に止めたのだった。お蔭でその反動によるダメージも重なり、立っているのがやっとの状態になってしまった。

『クレインはまだ動かないか………』

攻撃が外れた後、倒れるクレイン。彼は魔導師でもなければ戦闘の経験もほぼ無い上に鍛えているわけでも無い。
このまま終わってもおかしくはないが………

「まっ、まだだ………」

弱々しい声ながら身体を起こすクレイン。かなりボロボロのようで動くのも辛そうだ。

「くっ………!!」

ふらつきながらも無理矢理刀を構える。

『休むのは、倒れるなら奴をしっかり倒してからにしなさい有栖零治!!』
「ああ、分かっている!!」

ホムラに鼓舞され、自分自身でも喝を入れる。
まだ終われない、まだ倒れるわけのはいかない!!

「はあああああ!!」

クレインにしては珍しく声を出しながら剣で斬り掛かってきた。剣筋もスピードも普段の俺でなくても最小限の動きで避けられるような攻撃だ。

「くっ!!」

だが俺はホムラで受け止めた。移動するだけでも負担がかかる今、避けるより攻撃を受け止めた方がマシだと思ったからだ。
そして何より………

(剣が軽い!!)

これが一番幸いだった。威力こそありそうなものの、使っている本人がふらついている状態なのに重い攻撃など出来るはずもなかった。

(これなら耐え切れる!!)

やっとクレインとの戦いに光が見えてきた。………と言ってもこちらはクレイン以上に疲労している状態であり、無闇に攻撃に移ることも出来ない。更に時間も無い状態なので時間もかけられない。

(隙を見つけてそこを突く。………恐らく最後の攻撃になるな………)

今度こそ失敗は出来ない。

「私は負けるわけにはいかない………!!負けるわけにはいかないんだ………!!」

そう叫ぶと共にクレインの攻撃に重みが増してくる。

「くっ………何故だ!!そこまでして自分の欲望を叶えたいか!!」
『………違うわ零治、クレインの本当の目的はそこじゃない』
「何………?」

攻撃を受け止めながらホムラの話に耳を傾ける。

『不思議に思わなかった?クレインの目的、それはまるで………』
「黙れ!!!」

そこで大きな叫び声と共に剣を振り下ろしてきた。

「うぐっ!?」

今までで一番強い衝撃。思わず足が崩れそうになるが、何とか耐えきった。
だが、今の反応でホムラの言いたい事が分かった。………いや、引っかかっていた疑問が解消されたと言ってもいいだろう。

「お前は昔のスカさんの言っている事と全く同じ事を言っているんだ」
「それがどうした!!」
「それはお前自身がスカさんよりも上だと見せつけたいが為なんじゃないか?」

そう俺が答えると同時にクレインの動きが止まり、ゆっくりと距離を取り始めた。

「わ、私はそんな事………」
「本当にそうか?昔、スカさんの下に居た頃、このゆりかごの所在を知った。スカさんを超える為にスカさんの研究しているものと同じ研究をして見せつけ、そして最後に出し抜く。だけどスカさんは既に足を洗っていて、、足を洗った事を後悔させたかったんじゃないのか?………いや、そんな細かい理由じゃないな、単純に勝ちたかっただけじゃないのか?」
『自分と殆ど同じ存在………だけど何故こうも違うのか。そう考えると自然と競ってしまうのは普通よね』
「………」

俺とホムラの推測を聞き、押し黙ってしまった。
もちろんこれは推測でしかない為、本当の心の内は違うのかもしれない。だけど今までのクレインの行動を思い返すとこうなのではないかと思えたのだ。

「だけど残念だったな、敵視していたスカさんは今や、子煩悩の良い科学者だ。このゆりかごを見ても自分の家族を守るために動くだけだ。お前の思うような反応は決してしないだろう」
「…………………黙れ」
「そう考えればスカさんはより人間らしくなったと思う。………けれどお前の場合はどうだ?」
「人間らしさなど………」
「それがお前の限界だ。スカさんはこれからもっと世界を広げていく。その結果お前の想像も出来ない凄い発明だってやり遂げるだろう。お前のブラックサレナの様なパクリとは違った発明をな」
「黙れ!!!!」

今までに見た事の無い形相でクレインが怒鳴った。最初の余裕そうな表情は既に消え去り、般若のような怒りに満ちた顔へと変わっていた。

「貴様に何が分かる!!望んでも居ないのに造られ、欠陥品扱いされ、蔑まれる。その様な状態から私はここまで来たのだ!!!人間らしさ?そんなものどうでもいい!!私は、私自身の価値をこの世界に示す為に戦っている!!!」
『悲しい人………』
「何とでも言うがいい!!私は欲望の限りを尽くし、スカリエッティを超える!!」

しっかりと地に足を付け、再び双剣を展開し、構えるクレイン。どうやらダメージも多少なりと抜けた様だ。

「零治!!」

そんな中、エリスがこちらへとやって来た。

『代わりましょう。零治も使い慣れたデバイスの方が戦いやすいと思うわ』

そう言って待機状態に戻るホムラ。色々とあったがこいつが居てくれて大いに助かった。

「ありがとうホムラ。………エリスセットアップ!!」

人型から刀へと変化するエリス。

「さあやるぞエリス!!」
『ええ!!』

エリスに変わっても無闇に動けないのは変わらない。………それでも僅かな可能性でも諦めないと決めた。

「クレイン、お前に勝って俺達は明日を掴む!!」
「望む明日を迎えるのは私だ!!」

両者満身創痍の戦いは佳境へと進んでいくのだった……… 
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