日向の兎
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1部
34話
カブトが抜けた直後、第一回戦の対戦者が中央のモニターに表示された。
サスケとカブトの班にいた輩、名は赤胴ヨロイというらしい者の戦いとなった。
試合開始前にカカシがサスケに何かしら耳打ちしたようだが、サスケは渡しておいた薬を飲んでいたらしく随分と反応が薄いようだ。
とはいえ、その状態でも不機嫌そうな表情を浮かべたということは……なにかあれば試験に介入すると言われたのだろうか?サスケは自分の行動に介入されることを嫌うからな。
さて、対するヨロイは……肉体面、チャクラ面でも特筆すべき事は無いな。ならば、その性能でここまで生き残ったということは何かしらの特殊な術なりを持っているということはだろう。
この試合、ヨロイの隠し持つその術が勝敗を分かつのだろうよ。
「あの、ヒジリさん」
「どうした、サクラ?」
「サスケ君、大丈夫なんでしょうか?」
「知らん。が、ただ黙って負けるほど無様な男ではあるまいよ、あれは」
「随分とうちのサスケを買ってくれてるね、君」
後ろから声をかけられたので、以前テンテンに言われたように振り返って相手を確認すると、そこにはサスケの担当上忍であるはたけカカシが立っていた。
「当たり前だろう。センス、才、素質、そういった類に関して言えばサスケはずば抜けた男だ。
加えて私は彼を気に入っている、サスケを評価するのは何かおかしな事か?」
一瞬サクラが妙な表情を浮かべたが、正直訂正するのも面倒なタイプの感情だ。一応言っておくが、私はそういう眼で異性を見ること自体無いので、気に入っているというのはサクラの想像する意味では断じて無い。
「いーや、全然。ただ君の話はガイからも聞いてたし、ナルトからも聞いてたけど、俺個人としては君の事を全然知らない。
だから、君がどういう人間でどういう目的でサスケとナルトの相手をしているのか気になった。あいつらの担当上忍として間違ってないでしょ?」
「確かにその通りだ。で、私に何が聞きたい?」
「俺はガイの教師としての素質は詳しくないんだが、いくら不意打ちに近い形でガイも加わっていたとはいえ鬼兄弟に俺、再不斬を一瞬で制圧できる程までに下忍を育てられる程の育成に秀でた忍じゃ無い事くらいは分かる。
となれば、誰かしらが指揮、育成をやったって事になるんだが……君以外のアカデミーの成績、身辺調査をしてもそれらしいものがない」
「ふむ」
「で、残る君はアカデミーでも頭一つ抜けて優秀だったってだけならまだしも……経歴に不明な点が多すぎるんだよね」
「だろうな。経歴に関しては親父殿が色々とやってくれた事もあって、興味が湧いた程度の気構えで調べられる程には私の秘密は安くないぞ?」
「ま、女性の経歴を本気探るような趣味はないから安心してくれ。
ただ、君がリー君達に一体どういう事をしたのか教えて貰えるかな?」
「私がやった事か?なに、全員たった一つの事だけを極めるように助言し、道を示しただけだ。
人間、あらゆる技術を極めるには人一人の一生ではどうあっても足りない。千年生きられるような者がいるというのならば別だろうが、そんなものは人間ではない。
ならば、ただの人間である私達はたった一つの事に対して極めるべきだろう。あらゆる他を圧倒し、道理を叩き潰すような一を得るべきだ。
加えて、その経験は大抵他の技術にの有用に使えるからな。下手に他の物に手を出して中途半端な技術を身に付けるより数段効率がいい。
とはいえ、ネジとテンテンは兎も角、リーに関しては私は何もしていないがな。流石に剛拳に関しては畑違いなものでな」
「つまり、柔拳と忍具はあの二人をあそこまでしたのは君って事でいいのかな?」
「言ったはずだ、私は道を示しただけだとな」
私は手段と方法を提示するだけだ。選ぶのは何処ぞの誰かだ。それを栄光の架け橋とするか、滅亡への引き金とするかは私の知ったことではない。
「で、そんな君からサスケは一体どんな道を示したのかな?」
「私が教えたのは弱者の道、つまり相手が自分より勝っている場合の時の戦い方だ。
サスケはあの優秀さ故に強者として扱われる。だからこそ、王道とでも言うべき戦い方を皆教える。
だが、あれの倒そうという相手はサスケを上回る才を持ち、凄まじい研鑽を経た男だ。王道ではサスケに勝ち目などありはしない」
イタチは今のサスケの年齢で暗部入りしていたような男だ。実力のみで認められる暗部に入った事から察するに、イタチとサスケの才はイタチの方に軍配が上がるだろう。
加えて、サスケが今のイタチの実力に追いつくまでの間、イタチがあらゆる鍛錬を放棄してくれるかと言えばそれは無い。それどころか指名手配犯ということもあり修羅場を年柄年中渡り歩いているだろう。
場数も実力も劣るサスケがイタチを倒す方法などそう数ある訳ではない。
「だからこそ私が教えたのは……」
「ぎゃあああ!?」
試験場中にヨロイの絶叫が響き渡った。どうやらサスケがヨロイに関節技をかけると同時に、そのまま手首を苦無で切ったようだ。
あの出血量と噴き出し方から見るに動脈をやったな。となれば、すぐにヨロイの体は言うことを聞かなくなりサスケの勝利が決まるだろう。
「相手の長所を悉く潰すことだ」
その後、半ば錯乱状態のヨロイがサスケに殴り掛かったが、サスケはその拳をするりと避けて懐に潜り込んだ。そして、彼はそのままヨロイの無防備な胸目掛けて渾身の肘打ちを当て、心臓に衝撃を与えることによって動きを止める。
その隙を逃さず、彼は普段の動きからすればゆっくりではあるものの背後をとって、静かに首に掌を当ててチャクラを打ち込みヨロイの意識を刈り取った。
どうやら最後の一連の動き、私の柔拳を写輪眼でコピーしていたようだな。確かに何度も見せていたから当然といえば当然なのだが、ああも容易くやられるとは思ってもみなかったぞ。
「で、その結果があれと?」
「ああ。サスケには勝つことよりも確実に相手の動きを鈍らせられる、動脈や関節を狙うように教えた。
そこさえダメージを通せれば一気に相手の優位性を崩せるからな。
そのまま戦えば勝ち目などありはしない相手ならば、命を賭けてでも戦って勝ち目がある状況まで持ち込めるようにするべきだ。勝敗を論ずるのはそうなってからだ、違うか?」
「……今の話でなんとなくだけど君の事が分かった気がするよ。サスケやナルトと関わるなとは言わないけど、あんまりそういう事は教えないで欲しい」
「ほう?」
「君の言うことは忍として正しいけど、君は忍も人間だって事を忘れてるんじゃないのかな?」
カカシはそう言って私から離れると、サスケの元へ向かっていった。
ふむ……忍も人間か。私には全く理解できない言葉だが、理解すべき言葉なのだろうな。
……いかん。これ以上考えを巡らせるのはやめにしよう。
死の森で下手に考えを巡らせた結果、肩に傷を負う羽目になったばかりだろうに。
…………少し、頭を冷やすとしよう。
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