魔王の友を持つ魔王
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
§37 古き魔王の狂信者
前書き
色々ごめんなさい(死
-----------------------------------------------------------------------------
時刻は再び前後する。
「あぁもう、しつこいなァ!!」
泥と埃で汚れた恵那は、息を整えながら悪態をつく。この程度の汚れで彼女の美貌は曇りはしないが、半日以上も戦っていれば疲労の色は隠しきれない。突如の襲撃。それも大規模な。入口近くで迎撃の体制に入った時には既に相当数の侵入を許している。これ以上の侵入を許すわけにはいかない。
「くぅ……」
突如現れた大剣に弾かれて後退を余儀なくされる。周囲を囲むは死せる従僕の群れ。大騎士でも絶望しか感じないような状況だが、諦めるわけにはいかない。自ら望んでここに来たのだから。それに―――
「前回の雪辱戦なんだから、恵那としては負けられないッ、よ!!」
気合と共に一閃。それで再び死せる従僕は無に帰る。前戦った時は敗北していたことを考えると確実に自分は強くなっている。それが実感できる。黎斗とのスパルタは無駄では無かった。だが、敵の物量はそれ以上に、圧倒的だった。
「はぁ、はぁ……まったく、どれだけいるのさ」
既に相当数倒した筈だが、敵の数は減る気配を全く見せない。無限に沸いてでてくるのではないか、という錯覚をさせる程に。僅かに休む間に倒した以上の敵が現れる。
「参ったなぁ。これじゃあ、幹彦さんに合流できないや」
全員相手にしていては力尽きることは明白だ。これを苦にせず易々殲滅するのは草薙護堂のような魔王、もしくは黎斗のような突然変異種ぐらいだろう。易々、という条件さえ付かなければ恵那の剣術の師、聖ラファエロとかいう聖騎士達、悪魔を従えたなんとか博士とかでもなんとかなるかもしれない。最後のは昔の物語に出てくるだけの存在だから信憑性は薄いのだけれど。
「……そう考えると意外と多いなぁ」
人外組と張り合うことの無意味さにも気づかず、どうやって殲滅しようか思考を巡らせる。斃すだけなら神懸りを視野に入れるのだが、宮が襲撃されたなら最優先事項は職員の撤退援護だ。この宮には非戦闘員も多い。というか、大半は戦えない。恵那を含めて戦力は二割にも満たないのではないだろうか。
「流石に恵那以外はこの相手はキツいよねぇ」
まして大騎士級の死せる従僕ともなれば相手取れるものは恵那以外にはおそらくいない。この状況下で神懸かりを発動させてしまうと時間切れで動けなくなったときが怖い、というのも積極的に神懸かりを使わない理由の一つだ。
「あっぶな……!」
騎士達が突き出してくる槍衾を寸前で回避、槍同士の合間に身体を捩じ込み己が剣で隙間を強引に抉じ開ける。体勢を崩した集団の中へ突入、円を描くように全方位に刃を走らせ、隊伍を一つ、崩壊させた。
「じゃっっ、まぁ!!」
境内を駆け抜けつつ立ちふさがる巨体の鎧騎士に唐竹割り。両断された騎士が倒れる瞬間には、別の敵に相対している。これだけ居るのに敵は全て戦士。魔術師が見えないことに疑問を感じつつも思考は後回しにして現状の対処を優先する。
「まずいなぁ」
死せる従僕はヴォバン侯爵の権能だ。つまり、この場には魔王が襲来しているということ。まだ従僕たちは梅雨払いであり、本人は来ていない可能性も高い。だが、だからといって安心は出来ない。そもそも恵那では逆立ちしたところで勝てるような相手ではない。
「黎斗さん呼ぶ……駄目だ。いくら黎斗さんが壊れているっていっても、羅刹の君に勝てるとは思えないしなぁ。草薙さんを呼ぶしかないか」
天気が荒れてきた。普段なら身内が原因だから暢気にしていられるが、今回は事情が別だ。これは本格的にヴォバン侯爵が襲来したか。魔王が動いていることがわかった以上、申し訳ないが幹彦に構っている余裕はない。
「あ、王様!?」
護堂に連絡を取ろうとした瞬間に本人から電話が入る。ナイスタイミングだ。
「清秋院、そっちは大丈夫か!?」
「よくこっちが大変だってわかったね王様!」
電話を左手に、剣を右手に。通話しながらも攻撃の手は緩めない。
「甘粕さんから連絡でそっちと連絡が途絶したって聞いたんだ。ついでにヴォバンの爺さんが再来していることも。俺を呼べ!」
「えぇ!? 何を言ってるの王様」
「いいから呼んでくれ!! 俺を信じろ!!」
説明している余裕は残念ながら無い。恵那もそれを感じ取ったのか、詮索することなく護堂に対して呼びかける。
「羅刹の君よ。我の下に降臨召されよ。我に加護を与えたまえ……!!」
一陣の風が、吹く。目をつぶり祈る恵那の前に護堂が現れる。
「え!? えぇ!?」
なんとなく展開は予想出来ていたが実際にやられてしまえばそれでも驚いてしまう。
「清秋院悪い、援護を頼む!!」
既にリリアナが飛翔術でエリカを連れてこちらに向かって飛んでいる。だが彼女達が到着するまでぼうっとしているわけにはいかない。
「りょーかいっ!!」
恵那が大太刀を振りかぶる。一閃。それだけで、眼前の騎士達は砕け散る。
「はあっ!!」
流れるように、護堂を囲む従僕を切り裂き、境内への道筋を作り出す。
「行って、王様!!」
己が役は、露払い。
「悪い、清秋院!!」
走る護堂もまた、己が役を理解している。黎斗が居ない今、彼の狂王を止められるのは自分だけなのだから――
「はぁッ!!」
激しさを増す斬撃は、死霊をもものともせず、なみいる敵をなぎ倒す。恵那の攻撃、洗練されたその一撃は聖騎士達にも匹敵する。だが、まだ足りない。彼はこんなものではなかった。傘でこの敵達を粉砕し、無人の野の如く駆け抜ける姿は依然として恵那の脳裏から離れない。自分はまだ、遠い。
「もっと、もっと先へ――!!」
「邪魔をするな小娘!」
怒声と共に上空から飛来する巨大な物体を水平に跳ぶ、と器用な芸当で回避する。
「今度は何!?」
前に聳える巨大な物体が尻尾である、と理解したころには恵那の身体は宙を舞う。
「くっ……!!」
咄嗟に刀で受け流したにも関わらず、飛ばされた彼女は三回程バウンドした。人知を越えた圧倒的な力。神獣を下し、神殺しとも戦える程のデタラメさ。
「くっ!」
神懸かりを視野に入れる。天叢雲が無いことに若干の寂しさを感じつつ、神の力をその身に取り込もうとして――
「おっと。悪いがそれをさせる訳にはいかないんだ」
背後からの蹴りが行為を中断させ、神懸かりの隙を与えない。
「誰!?」
恵那がここまでの奇襲を許す相手は多くない。
「やぁ、久しぶりだね。姐さん。今日は怖い人もいないようだし派手にやろうか」
「うわー。これはちょっとツラいかなぁ」
悠長な口振りとは別に、表情は硬い。冷や汗が頬を伝う。麒麟児、陸鷹化。黎斗に腕を奪われ隻腕になったとはいえ油断できるわけがない。手負いの獣程恐ろしい。万全状態ならいざ知らず、少なくとも今の恵那では苦戦は免れない。
「よそ見とは余裕だな!」
「しまっ――」
陸鷹化に注意をさきすぎた。この場でもっとも気を配るべきは、巨体と化した神祖だったのに。
「うあっ!」
「腕は立つがこの程度か。所詮冥王と競った私の敵ではなかったな」
余裕を感じさせるアーシェラの声を聞きながら、なすすべなく壁に叩きつけられ、肺の中がごっそり抜ける。意識が遠退いていく。
「うぅ……」
――力を、あげる。死なない為に――
黎斗の声が脳裏に響く。思考が塗りつぶされていく。全てを破壊しよう。破壊するの破壊しなきゃはかいさせてはかいさせてよはかいハカイハカイハカイ……!!
「あぁあアァアアア――!!」
黎斗の権能”葡萄の誘惑”は精神に干渉する。それは対象への精神攻撃・精神操作だけにとどまらない。精神に干渉することで、肉体に対して無意識下で行われている制限を解放、超絶的な身体能力を対象に付与させる。精神を通して対象の呪力をも操り、身体強化を最適な形で行使する。
「なんだこの力は!! 子娘如きが小癪な……!!」
ディオニュソスの信者は動物を八つ裂きにする程の力を得るという。すなわちこの権能は対象の精神に干渉し隔絶した戦闘能力を信者に与える、加護の側面も併せ持つ。これこそが黎斗が恵那が生存できるように施した保険。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
唯一誤算があるとすれば。この権能を使った状態で「緊急事態に恵那を強化し」「その記憶を消し」「権能が発動した際も自身の圧倒的な身体能力の違和感に気付かせない」「その記憶も消す」と、多重に重ね掛けしたことだ。複雑怪奇な精神操作は鈍っている黎斗には荷が重かった。度重なる戦闘で黎斗は自分が全盛期の力を取り戻していると錯覚していた。ディオニュソスのような直接戦闘に使用しにくい権能は使っていないのだから錆びついたままだと知らずに――
「ぐっ!?」
結果、無茶な精神操作に恵那が耐え切れず狂戦士化してしまう。大蛇に襲い掛かり嚙み千切る。
「……あは」
血塗れで哂う。嗤う。返り血に染まりながら笑みを浮かべるその姿は、正しく伝承通りの狂信者。
「……姐さんフラグ立てたなッ!? なんかヤバいぞ!!」
瞬時に飛び退く陸鷹化。一拍遅れて、大地に亀裂が走る。
「な、なんだこれ!?」
驚愕する鷹化を恵那は追い詰めていく。腕を振るだけで衝撃波が大地を舐める。もう片腕には太刀か光る。人間の限界を超越した動き。ただ速いだけでなく、人体でありえない動き。鷹化は後退することしか出来ない。アーシェラの尻尾の凪払いが背後から来たのを察して跳躍。見もしないで回避、ついでに尻尾に飛び乗って、巨竜の背後へ移動する。
「アァアアア!!」
「グアァアア!!」
振り上げた刃は鱗を易々貫通し、アーシェラは絶叫をあげてのたうち回る。本来の刃より明らかにリーチが長い。呪力を刀身として伸ばしているのだろうか。
「……どっちも絶叫してるから、声だけ聞いてると戦況がわかんないな」
驚きすぎて逆に冷静になった鷹化がふざけたコメントをするがツッコむ人間などこの場にはいない。
「狂化してるな、アレ。力に呑まれたか? ……だとしたら、誰だ?」
恵那の標的が神祖に逸れた彼は之幸いと傍観者に徹する。狂戦士化した少女は彼から見ても手強い。自我が侵蝕されているようだが、あの身体能力はそれを補って余りある。下手な神獣相手でも真っ向勝負出来そうな程。あれでは自身が万全でも厳しそうだ。
「……瞳の色、まさか」
葡萄酒色に染まる瞳は、彼女の保護者を思い出させる。彼もまた、時折この色の瞳をしていたような――
「……ここらが潮時か」
そこまで思ったところで、現実にふとたち返る。陸鷹化がここに居るのはただ義理のような物だ。本来、彼の師が噛んでいた計画だが彼女は突如放棄。これに焦った共犯者は別の魔王に計画を持ちかけた。しかし――
「この私が前言を覆すことなど本来あってはならぬこと。にも関わらず覆すのです。師の不始末は弟子の不始末。鷹児、そなた出来る限り協力なさい」
――哀れ陸鷹化は協力を続けることになったのだ。
「これだけ動けば義理は果たした、ってコトでいいや」
彼は恵那の怖い保護者とやりあう気は全く無い。勝てる気が全然しないのだから。あれが生物学上同類とか可笑しいだろう。師父にすがるしかない。折檻されそうではあるが、折檻されたほうが何倍もマシである。
「アァアアア!!」
見れば神祖の巨大な体は崩壊寸前だ。元々冥王との戦いでガタが来ていたのに、今度は狂戦士。よく持ったと思う。――だがそれも限界だ。
「アァアァアアァァ……!!」
奇声を上げる少女の刃が、蛇の顎に深々刺さる。轟音とともに倒れ伏す巨体。
「……さて。頃合いか」
今の音は何処かにいるであろう神殺しにも聞こえたはず。ここへ来るのも時間の問題だ。障らぬ神に祟りなし。
「それではここらでさようなら、っと」
陸鷹化、離脱。
「ほぅ」
死せる従僕をなぎ倒し、神祖をも屈服させる彼女に告げられたのは、災厄の声。
「我が従僕を歯牙にもかけぬどころか、神祖すら討ち果たすとはな。なかなかどうして、捨て置けん」
「――ッ!?」
本能的な恐怖が彼女の歩みを押しとどめる。野生が、絶対的な力の壁を感じ取ったのだ。
「……自我が無い、か。よくもまぁそれでここまでやったものだ」
暴風が、彼女に襲い掛かる。天賦の直感か、回避に動いた少女はしかし間に合わない。
「ぐっ!!」
吹き飛ばされ、巨体にぶつかり止まる。同時に狂戦士化が解けたのか、恵那の自我が戻ってくる。
「うぅ、ったぁ……」
護堂とすれ違ったのだろうか。威厳溢れるその佇まいは戦闘の後とは思えない。――第一、彼の侯爵が戦ってここが平穏無事な訳がない。
「見事な武だな。捨てるには惜しい」
悠然と佇む老侯爵。彼の瞳が怪しく輝く。
「――ッ!?」
おぞましい視線に射抜かれた、そう感じた次の瞬間、恵那の身体を違和感が襲う。
「え、嘘!? 何コレぇ!?」
全身の自由が奪われる。塩に変貌していく己の四肢は、脳からの命令を受け付けない。
「巫女よ、我が戦奴となるが良い」
有無を言わせぬ口調で断言する初老の男。さもありなん。彼の決定は絶対であり、異を唱えることなど許されない。
「くっ……」
天叢雲があれば、塩となっていくこの魔眼にあらがえるのに。
「……この気配。そうか。小僧がいるのか」
歯噛みする恵那を見ていた老王の笑みが、好戦的な笑みに変貌していく。
「ふむ。化け猿を解き放つのにも時間がかかる。退治の前に前菜を採るのも、悪くないな」
群れが、動き出す。死霊が、狼が、本殿の方へ向かっていく。かつての屈辱を晴らさんと。
「くっ……」
あとに残るのは、無力な少女がただ一人。精神的に摩耗した今では神懸かりも満足に出来ず、度重なる死闘に呪力も残り僅か。疲労で身体も満足に動かない。それでも、座して死を待つわけにはいかない。
「――ほう。お主、珍しいのう」
「誰!?」
足掻く少女の脳裏に響く、謎の声。超常存在であることだけはわかるのだが。
「娘っ子や。お主、そこから出たくはないか? ――――汝、力を求めるや否や?」
それはまさしく、悪魔の囁き。
後書き
風の件とかアーシェラの表現とかもうちょっとあったよなぁ、などと思いつつ反省しきりですハイ(汗
もうちっと原作確認出来ればよかったんですが。。。
余裕が出来たら表現修正するかもしれません、すみません(土下座
そしてよーかすまん。
キミは人間最強級がわかってるので噛ませにしやす……げふげふ、イジメやすいんだよ(鬼
しょうがないことなのですが戦闘ばっかなので一息入れたいところ。
……どーやって入れてくれようか(苦笑
ページ上へ戻る