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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§62 後顧の憂い

「ん……」

 慣れぬ感覚を味わいながら、水羽黎斗は目を覚ます。いつも使っている布団と違い、ふかふかする上に心地よい。圧迫感が若干強いがそれでも最上級の代物だと一発でわかる。ぶっちゃけおバカな学生には勿体ない代物だ。

「知らない天井だ」

「何馬鹿な事言ってるんですかマスター」

 汚れ一つない見事な白天井を見てお決まりの台詞を呟けば、頭上から降り注ぐのはふさふさの尻尾。

「エル……?」

「恵那さんに感謝してくださいよ、ホントに」

 そういえば、恵那に全部丸投げして意識を失ったのだったか。ドニの登場という超展開があった以上苦労したのは想像に難くない。エルを呼び寄せたのも、恵那だろう。

「完全に落ちたの久々だったな、と今はそんな事どうでもいい。恵那は……そこですか」

 圧迫感に身体を上げられず、首だけ持ち上げ様子を見れば、黒髪が掛布団に埋没している。寝ながら見ようとしても、恵那の頭は布団に完全に埋まっていてちっとも見えない。人間の頭が埋没して違和感ゼロとかこの布団やわらかすぎじゃなかろうか。人を駄目にするソファーとかそんなカンジのコンセプトでもあったのだろうか。これでは熟睡も無理はない。そして何もかけずに寝ていては風邪をひくだろう。本来は黎斗自身が彼女に上着をかけるのが礼儀なのだろうが、生憎起き上がることすらままならない。

「……エルさんや、恵那に毛布でも掛けてあげてくれんかね」

「自分で出来ないとか流石に情けないですよ……」

「うん。僕もそう思う……」

「まぁ、状況的に動けないですしね」

 そういうとエルは床に飛び降りる。着地の瞬間に人化、そのまま毛布を恵那にかける。

「ん、ありがと」

「お礼なら恵那さんに。ついさっきまでマスターの世話やってたんですから。服の着替えとか」

「マジか。女の子にやらせるとかかなり恥ずかしいんすけど、ってそうじゃない。そっちも大事だけどさ。エル、ここはドニの館?」

 全裸見られたキャー、的な動揺は一瞬。そんな話題よりもこっちが先だ。事実の把握が今一追いついていない。

「その通りです。マスターが倒れられてから恵那さんはサルバトーレ卿に拾われたようです。その後、卿の邸宅の一室をお借りしているようでそこに私が合流しました。ちなみにマスターが倒れられてから15時間程経過しています」

「……ふむ」

 よかった。とりあえず三日間寝たきり、などの事態は回避出来たようだ。半日意識不明は十分大きい気もするけど。

「あの魚モドキ、次はちゃんと殺らないと」

 黎斗の物騒な発言に、エルが大きく目を開く。

「……珍しいですね。マスターが殺す宣言なんて。何か激怒したくなるようなことでもされました?」

「能力奪われた」

 起きてすぐわかった。自分の体に何が起こっているのかはわからないが、能力は未だに封印されている。自分の今の体は普通のカンピオーネのもので、死人(ヤマ)ではない。眼も、邪眼の力を振るえる気がしない。おそらく全ての権能が封印されているのだろう。

「今の僕はちょっと身体が頑丈なだけの一般人です」

 本当に。逸般人なんて称号を得ることはちょっと出来そうにない。いつまでこの状態が続くのか。時間制限で解放される気配はない。なんとなく、封印している大本を破壊しなければならないタイプの気がする。

「まぢですか」

「その発音なんか女子高生っぽい」

 全く無関係だけど、そんな事を思う。女子高生というよりギャルか?

「……ふざけてる場合ですかマスター!!」

 案の定怒られる。自分で言ってても今の発言は酷いと思う。だが、謝る前に言うことが一つ。

「恵那寝てるから静かに」

「あぁすみません、ってマスター!!」

「わかってる。ゴメンゴメン」

 しかし、どうしよう。

「おそらく最後に僕の顔を掠ったナニカが能力封印に関係してる。問題はそれが「何なのか」という点と「何処に行ったのか」という点なんだよね」

 探し物はなんですか? 見つけにくいとか見つけやすいとかそういう次元じゃありません。何を探すのかすら知りません。

「……絶望的だなこりゃ」

 封印の大本を壊すのは不可能。ならば、どうするか。

「スサノオに封印の力事態を封印してもらう、ってのも手なんだが今の僕は幽世に行っても長くはもたない。まして、幽世に行くだけの呪力すら確保できてない」

「天叢雲に頼んでみる、というのはどうですか?」

 天叢雲は確か権能をコピー出来たり奪えた筈。その方針も悪くないのかもしれないが。

「……やめておこう。呪いの力事態は叢雲より圧倒的に僕を封印している力のほうが強い。おまけに相手の神格がわからない。呪いを解呪しようとした側にまで呪いが伝染しない保証はない」

 天叢雲が呪いを解呪しようとして逆に呪われたら。

「仮に叢雲が木偶の坊になったら、護堂の戦力が激減する。日本にカンピオーネ不在の状況を作るわけにはいかない」

「じゃあどうするんです?」

「あの魚モドキを探して倒すしかない」

 果たしてそれが出来るのか。神を初めて倒したとき、あれは仲間の姿があった。今は----

「まぁ、大丈夫だろう」

 結局楽天的な結論に落ち着く。今から焦ってもどうしようもないのだから。

「あ、エル。ドニかドニのおつきのイケメンさん、呼んできて」

 回復したのだから知らせねば。

「あ、はい! りょーかいですっ!!」

 あわてて駆け出すエルをしり目に、護堂へ電話しようとケータイを開く。国際通話になってお金がかかるが、まぁしょうがない。マモン使えないからバイトしなきゃだよなぁ、めんどうだなぁ、などと所帯じみたことを思いながら電話帳から護堂を選ぶ。コイツいい加減グループをイケメンからカンピオーネにしてやるべきだろうか。

「イケメングループはドニにアレクに……全員魔王じゃん。くそぅ」

 なんかカンピオーネ♂とでもグループ変更しても問題なさそうだ。そうした場合にヴォバンが微妙な扱いになるが。

「ダンディ♂イケメン魔王、とか? ……ねーわ」

『もしもし、黎斗か!?』

 くだらない話をしていれば繋がる日本との通話。

『やほー、元気してた?』

『馬鹿野郎いきなりどっか行きやがってお前心配してたんだぞ!?』

『開幕直後にそれかい』

 思わず笑みが浮かぶ。お互い非日常なのに、日常みたいな会話ではないかこれは。

『アテナとランスロットが来てるすぐこっち来い!!』

『why?』

『ほわぃはてな、じゃねーよ馬鹿野郎早く来い!!』

 どうやら現場は相当混迷を極めているらしい。色々事情を聴きたいが、そんな余裕あちらのほうがないだろう。この時間だって惜しいはず。

『あー、ごめん無理。能力奪われた』

 一瞬、世界が静止する。

『は?』

『敵に能力封印くらった。今の僕足手まとい。だから帰れないわごめん』

『ちょ、おま、マジか……!?』

『ネタでこんなこと言うか。とりあえず復活したら戻るけど、それまでは無理だわ』

 行ったところで巻き込まれて死ぬ。

『いや、お前ならエリカやリリアナに匹敵する戦力として動いてくれそうな気もするんだが』

 普段なら素で戦えば正直、エリカやリリアナに陸鷹化、人間程度が何人来ても負ける気はしない。でも、今は。

『呪力もほとんど底をついてる。エリカさん5人分程度の戦闘能力しかない』

『いや十分すぎるだが……』

『”少年”によるドーピング前のエリカさん、な。今の僕だとドーピングエリカさんと戦うと負ける』

『……』

 つまりは、そういうこと。

『つまりお前にも”少年”の加護を』

『おいばかやめろおまえ』

 何を言い出すこの男は----!!!!

『冗談だよ。俺だって男とキスする趣味はないさ』

『美少女とキスしまくってるくせに爆ぜろリア充。……まぁ、どうしてもキスしたいならよーか辺りに頼んでみれば?』

 なんか「叔父上の頼みならしょうがないですね……」とか言いながら目をつぶる陸鷹化の姿が再生される。双方イケメンだし絵にならないこともない。学校で高く売れそうだ。

『ふざけんなお前!!』

『ですよねー』

 まぁ期待はしてなかった。

『とりあえず、今はドニのとこにいる。ある程度戦力になりそうになったらそっちに戻るわ』

『おう、わかった』

『死なないでよ?』

『まぁ大丈夫だろう。お前がいれば楽できたんだが、いなくてもやりようならあるさ』

 頼もしいヤツだ。

『じゃあすまんね、任せる』

『任された。ゆっくり休んで来い』

 通話を切る。呪力は雀の涙ほど。なけなしの呪力を振り絞る。幽世へと繋がる扉を開く。

「ジュワユーズ」

 呼び出した少女は浅葱色の長い髪を臙脂色に変色させながら、こちらを見やる。その瞳に色は無い。

「……海を渡り単身死地へ行けというのか、主よ」

「頼めないかな?」

 無茶苦茶を言っていることはわかっている。だけど、打てる手は打つに越したことはない。

「今、僕が送り込める最大戦力は間違いなくジュワユーズだ」

 だから頼む、と頭を下げる。

「……しょうがない、な。死地に送り込むとは全く最低な主様だ」

 苦笑とともに気配が揺らぐ。

「……ありがとう。とりあえず倉庫の中身は全部使っていいから」

「大盤振る舞いだな」

「そんくらいしか出来ないからね。護身用に残しておく意味もないし」

 第一今の黎斗では扉を開くことすら困窮する有様だ。そこから護身用装備を取り出すことも苦労する。

「ロンギヌス、ジュワユーズと共に」

「! 兄上を、だと……正気か」

 驚きに目を見開くジュワユーズだが、これが最善手だろう。

「ロンギヌスがあれば共鳴効果でジュワユーズも性能上がるでしょ」

 ベッドの隣にあったメモ用紙をとって書き込んでいく。タラリア、鬼切、蜘蛛切、ダーインスレフ、オハン、愚者の翼(イカロス)、三枚のお札……

「ここにあるのは全部持ってって。あとはジュワユーズの判断で」

 書いたのは倉庫の中でもジュワユーズに扱える範囲で最上級の装備品たち。これらがあれば神といえどもそう簡単に遅れはとらないだろう。

「配慮痛み入る」

「無事に帰ってきてよ」

 死地に自ら送り出しておきながら酷い言いぐさだと我ながら思う。

「任せておけ。草薙の王もいるのだろう。彼らと合流して私は露払いをしていこう」

 流石、歴戦の名剣というべきか。己の限界と役割をきちんと理解している冷静な判断だ。

「そうだね、お願い」

「任されたよ、わが主」

 その言葉と共に、ジュワユーズが倉庫へ戻る。

「さて」

 打てる手は打った。後は護堂がなんとかしてくれることを願うのみ。

「僕は僕で復活できるように調べないとなぁ……」

 とりあえずは、あの魚の情報を収集しなければ。アレクやヴォバンに借りを作りたくはないのだけれど、背に腹は代えられない、か。

「事情を話して協力要請、かな。……戦力外ってのは堪えるなぁ」

 なんと言われるか、考えたくない。

「大丈夫だよ」

 独り言のつもりで放った一言に返事が返ってきたせいで、思わず身体がビクッ、と跳ねた。

「!?」

「ごめんごめん。なんか起きだすタイミングが掴めなくって……」

 うわ、ヤバい。超ハズい。

「あははー顔真っ赤だ」

 恵那に笑われるも気恥ずかしさのあまり目をそらすことしかできない。

「うるせぇやぃ」

----身体が前に倒れこむ。目の前が白一色に染まる。

「大丈夫だから」

 ぎゅっ、っと。恵那に抱きしめられていると気づいたのは数拍遅れてから。

「権能がなくても、恵那はれーとさんの傍にいるから、ね?」

 何を言ってるんだろう。僕は別にそんなこと気にしてはいな----

権能(いままであったもの)がイキナリ無くなって不安なんでしょ?」

 それは、そうだ。だけどそんなに動揺はしてないはずだ、

「----権能が無いと、みんなの助けにならないと。捨てられるかもしれないって不安なんでしょ? 戦い以外何も出来ないから」

 身体が、震えた。そんなこと、考えたことなかったはずなのに。否、考えないようにしていただけ? 戦い以外に出来ることがないから、戦いを渇望していただけ?

「れーとさんから権能とったら確かに何も残んないかもしんないけどさ」

 引きこもりのダメ人間だし、と笑みを含ませながら、彼女は言う。

「大丈夫だよ。みんなれーとさんのこと見捨てたりしないから」

「……うん」

 戦いしか無い。権能が無いことも不安だ。だけど。不安が無くなった気が、した。 
 

 
後書き

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卒論終了&遅くなりましたすいません!

最後無理やり過ぎ?
……正直僕もそう思います(死
 
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