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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第一話「交差する世界」

1,







「………ま」


「…………うま」


「…………」


「とうまっ!!!」
「……う、うにゃ!?」

 突然、耳元で響いた声に反応して、上条当麻は目を覚ます。

 起きたばかりの寝ぼけ眼をこすりながら、顔を上げると、そこには純白の修道着をまとった少女、インデックスが頭に飼い猫のスフィンクスをちょこんと乗せながら睨んでいた。

「とうま!!いつまで寝てる気なの!?もうお腹がペコペコで背中とくっついちゃいそうなんだよ!」

 と、浴槽に顎をのせながら、頬をぷくーっと膨らませるインデックス。

 ようやく目が覚めてきた上条は慌てて携帯電話を取り出し時間を確認する。

「げっ!もう8時かよ!」
「そうなんだよ、とうま!!早くごはん作ってよ!」

 念のために言っておくが、今日は土曜日で、特に上条は何の用も無い。朝8時という時刻はそれほど慌てて起きる時間じゃないかもしれない。

 だが、この居候(インデックス)にとってはそんなものはお構いなしだ。平日だろうが休日だろうが、朝早かろうが何だろうが、お腹がすけば上条に容赦はしない。

「分かった!分かったから今にも噛みつきそうに歯をギラつかせるな!!話せばわかる!!」

 このパターンはインデックスに噛まれるパターンだと今までの経験から予測した上条は、すぐさま浴槽から立ち上がり、風呂場から急いで避難する。

「む、おはよう。上条」

 そのままキッチンへと入るとリビングのコタツの上から新聞を広げ読んでいる、15センチほどの少女から話しかけられる。オティヌスだ。

 服装は無地の長袖シャツにGパンというものになっている。コタツの横には彼女が使っている布団がきちんとたたまれ、ちょこんと置かれていた。ちなみに服も布団も、上条のクラスメイトの姫神の作品だ。

「おお。おはよう、オティヌス……お前、それどうやって広げたんだ?」
「簡単だ、禁書目録に広げてもらった」
「あ、成る程」

 オティヌスが上条家に来てから早2週間。今では彼女もすっかりインデックスとも仲良くなり、上条としては嬉しい限りである。スフィンクスとはまだ若干距離があるが。

「悪いな、朝飯遅くなって。何か食べたいものとかあるか?」

 オティヌスとコタツに入り込んだインデックスにいつものようにリクエストを聞く上条。

「ハンバーグ!」

 と、インデックスから帰ってきた返答はある程度予想していた物だった。

「朝からそんなヘビーなものは食べれません」
「却下」
「えへへ。冗談なんだよ。ホットドッグが食べたいんだよ!」

 即座に却下した上条、オティヌスに対し、インデックスは笑いながらもう一度リクエストをしなおした。

「あれか。ロールパンを縦に切ってウィンナーを挟んだ…あれなら私も賛成だ」
「よし来た。んじゃ、まずはパンに切り込みいれてから…」


 ⚫︎


インデックス「ごちそうさまでした!」

 ロールパンを使ったホットドッグを16個、平らげたインデックスは、元気良く手を合わせると「ごちそうさま」を口にする。

「……念のため昨日コンビニで2袋買ってきといてよかった…。あやうく追加で買いに行くところだったな」
「相変わらずすごい食欲だな…16個ペロリと平らげたぞ」

 半ば呆れながら、上条とオティヌスは皿を重ね始める。

 ちなみに一袋に入っていた個数は6個。それウィンナーと共にを半分に切って計24個の一口サイズのホットドッグを作ったので、実にインデックスはその3分の2を1人で口にしたということになる。

 体が小さなオティヌスは1個、上条は7個と2人の食べた数を足してもその2倍は食べていることになる。居候のシスターだと言うのに配慮も質素もクソッタレも無い食べっぷり。相も変わらず、すごい食欲だ。

「ホントお前は少しくらい『遠慮』って言葉を知った方がいいぞ…」
「それは朝ごはんを遅れたとうまが悪いんだよ!まったくも〜!」
「禁書目録、こいつにはこいつの事情があるんだよ。そこんところを分かってやれ」

 流石は人の何倍も長く生きている元魔神である。大人だ、と上条は素直に感心していた。

「って言ってもねオティヌス。とうまがたびたびわたしのごはんを忘れて、自分だけ美味しい物を食べてるのも事実なんだよ!」

 しかしすかさず反論してくるインデックス。上条はすぐさま否定しようとするも(主に「自分だけ」美味しい物を食べているというところに)、実際に当てはまるところもあるのも事実だ。思わず「うっ」と声を漏らす。

「もっととうまがわたしのごはんのことを忘れないで、文句も言わずに作ってくれると嬉しいんだよ!例えばクラスメイトの女の子みんなが自分の料理を食べたそうな目をしていたら、何も言わずに作ってくれるくらいに──」


 ⚫︎


「ぶえっくしょい」


「む、シドー。どうした?風邪か?」
「いや、なんでもない。ただのくしゃみだよ」
「そうか…それなら早く昨日デパートで貰ったクジでクジ引きに行こう!!今回も大当たりが引ける気がするぞ!!」
「はは……いくらなんでもそれは──」







2,







「──大当たり!!」

 夕焼けの商店街に自らの存在を主張するかのように鳴る鐘の音と横にいる目を輝かせている十香からの 「シドー!やったぞ!大当たりだぞ!」というはしゃいだ声を聴きながら、五河士道は漠然と後ろに貼ってある賞品ボードを目にした。

「おめでとうございます!1位はなんと、学園都市特別見学会の特別招待チケット4名様!!」

 学園都市。

 士道も耳にしたことならある。たくさんの教育機関が密集した科学の街で、その中と外とでは30年近い科学技術の差があると言われている街だ。 その超能力開発という研究が推奨されている特異性や高い技術力から、外部とは高い壁を持ってして完全に隔絶された都市。

 超能力者が実在する街。それが士道の知る学園都市だ。

「シドー!学園都市がどこだかは知らないが、面白いところなのか?」
「う〜ん。俺も詳しく知ってるわけじゃないけど…ん」

 と、士道は手渡された4枚のチケットを見ながら呟いた。

「十香は学園都市に行きたいか?」
「シドーが行くというのなら私もついて行きたいぞ!」
「あと1枚は琴里の分として……」


「──残り1枚で誰を誘えばいいんだ?」


 ⚫︎


「面倒なことになったわね」

 夕食後、士道がこのことを琴里に話すと、帰ってきた第一声がこれだった。

「…やっぱりそうだよな」

 机の上に置かれた4枚のチケットを見ながら士道は苦笑する。

「士道と一緒に旅行。そんなことを言ったら十香も、四糸乃も、耶倶矢も、夕弦も、美九も、七罪も、行きたいって言うに決まっているわ。もしその中で「2人だけ」ってなったら他の行けない4人が不機嫌になるのは間違いなし」
「どうしたものか…」

 実際、前にも似たようなことが天央祭のミスコンでもあったその際はうやむやになったおかげで誰も不機嫌にならなかったが今回はそうは行かないだろう。

「ったく。なんでこんな物引いてくんのよ馬鹿」
「いや、俺に言われても」
「……仕方ないわね」

 そう言うと琴里はポケットからタッチパネル式の携帯電話を取り出して、電話を掛ける。

『司令ですか?』
「神無月」

 電話を掛けた先は神無月恭平。ラタトスクの副司令で琴里の右腕でもある男だ。

「至急、学園都市特別見学会の招待券を5枚揃えて。どんな手を使ってもね」
『了解しました』
「あと見学会の時には学園都市の上空にフラクシナスを配備したいんだけど…できる?」
『フラクシナスはあそこの科学技術とほぼ同じレベルで作られていますが…上空2万6千メートルが学園都市の防空システムに発見されない限界でしょうか』
「それでいいわ。任せたわよ」
『了解です。頑張りますから是非踏んでもら』

ピッ

「?5枚って…」
「後1枚は令音の分よ。引率が必要でしょ」
「あ、ああ。そうだな」

 ラタトスクの解析官である村雨令音はこういう旅行なんかのイベントに必ずついて来る女性だ。付き合いは長いのに今だに士道を「シン」と呼んでたりする。

「そうと決まれば準備しなくちゃね。行くのは11月3日からでしょ?」
「ああ。1日から大型連休だし一週間かけて学園都市の様々な場所を巡るらしい」
「そう。なら明日は買い物に行かなきゃね。付き合いなさいよ」
「おう。了解」

 手を上げる士道。 何だかんだで琴里もノリノリではないか、とは言わないでおく。

「そういえば風呂沸いてたわよ。先、入ってきなさい」
「ん。じゃあ遠慮なく」

 そう言うと椅子から立ち上がり、士道は風呂場へ向かった。服と体を拭くタオルは準備してあるし、すぐに入ることができるだろう。後がつかえるし、早めに入ろうと士道は風呂場の扉を開けた。


 まる


 それを見送った琴里は、口の中に新しいチュッパチャプスをくわえ、もう一度携帯電話を取り出す。

「令音?」
『琴里か』
「すぐに調べて欲しいことがあるの。学園都市の──特別見学会について」
『……気になるのか』
「先月の25日に世界中で感知された謎の霊力反応。それに外部の人間を決して寄せ付けなかった学園都市の、いきなりの特別見学会。偶然にしては出来すぎているわ」
『──了解した。できる範囲内で調べておこう』
「……しかし、ほっんとあいつもそろそろ女の子が不満にならないように言いくるめるスキルと女の子に対する度胸くらい持って欲しいわね…言葉で女の子の事を自在に操れる…いや、それは求めすぎ──」


 ⚫︎


「ぶえっくしょん」


「なによ、キンジ?あんた風邪?」
「いや……気にすんな。ただのクシャミだ」
「キンちゃん、季節の変わり目だからホントに風邪かも。ちょっと熱測ろう」
「むっ!ゆきちゃん!おでこで熱を測るつもりですな!!じゃあ理子も測る測る!!」
「…………」
「ちょっとあんたたち!ちゃんと仕事の説明聞きなさい!!」







3,







「コホン……じゃ、気を取り直して説明するわよ」

 二丁拳銃を出してとりあえず場を収めたアリアは無事にガバメントをケースに戻した。ホッ、と息を着くキンジ。本当に、こいつの乱射癖はどうにか修正した方がいいと思う。

 ……いつか公の場で乱射しだしたら収集がつかなくなるしな。

 現在、午後5時26分。今、キンジとレキは東京武偵校第三男子寮にあるキンジの部屋にてバスカービルの面々に、2人が東池袋高校に転入している内にバスカービルが受けた、ある「厄介な仕事」の説明を受けていた。もちろん、キンジは授業後に無理矢理連れてこられた口だ。

「依頼主は武偵校のスポンサーの1人、並河(なみかわ)製薬会社の経営専務。本人の頼みで名前は伏せておくわ。依頼内容は並河薬品会社の学園都市支部の内部調査──」
「内部調査?」

 並河製薬会社と言えばキンジも聞いたことがある。ここ数年で急成長している製薬会社で、数ある東京武偵校のスポンサーの内の一つ。更にその代表取締役は武偵連盟の理事会員をしているという。

「元々、あの会社は数年前まで中小企業で事業規模もたいしたこと無かったんだけどね、かといって歴史が浅いってわけじゃなくて発足は戦後だったらしいよ」
「…確かにあの会社を聞くようになったのもここ数年だしな。けど、それがどうしたんだ?」
「……」

 並河製薬会社についてそこまで詳しいことはキンジもレキも知っているわけでは無いが、別に長年続いている企業がここ数年で急成長することなど、珍しくもなんとも無い。会社など経営者が変われば当然良くもなるし、悪くもなる。

 しかしここでの問題は、その急成長への道筋が法に従った方法か、法に背いた方法か。ということであった。

「うん。でも並河製薬会社の中で会社が急成長した理由についてある噂が流れているんだって」
「噂?」
「……?」
「──生物兵器よ」
「………!」
「……まさか」

 アリアが発した物騒な言葉に思わず絶句する2人。

 にわかには信じがたい話である。

「依頼主も最初はただの噂だと思ってたらしいわ──けど、火の無い所に煙は立たないって言うし、調べてみたらしいわ。そしたら──」
「ここ数年、社長と一部の上層部、そして学園都市支部が極秘のプロジェクトを行っていることが判ったんだって〜」
「並河製薬会社は一つ一つの部署が独立した形で、特に研究・開発部は社長自ら指揮をとっているんだって。今回の依頼主は営業部の専務だから開発についてはあまり知らないらしいの」
「専務すら知らないプロジェクトか……けど極秘プロジェクトがあるってだけじゃ生物兵器を作っているって理由にはほど遠いぞ」
「そこで問題になるのが支部があるのが学園都市ってことなのよ」

 学園都市。その都市の名前はキンジでも知っている。様々な教育機関が集まった科学の街である。確か東京武偵校の最大スポンサーだったはずだ。

「学園都市。東京西部の多摩地域に位置し、東京都のほか神奈川県・埼玉県・山梨県に面する完全な円形の都市。総面積は東京都の3分の1を占める広さを持つ。総人口は約230万人で、その8割は学生というまさに学生の街よ。外部でも、超能力開発の先端都市として有名ね」

 手元にある資料を読みあげるアリア。そう。確かにあの街には多くの能力者がいることで有名な都市だ。

 が、キンジは学園都市に行きたいとは思わない。

 ……行ってヒステリアスモードのことがバレたら、すみからすみまで調べられそうだからな…。

 ヒステリアスモード。キンジの実家である遠山家の者に代々遺伝しているとある体質のことだ。

 特殊な体質で、今までもキンジはそれに助けられたことが多い。いや、その体質に助けられたことしかなかったしかなかった。

 ──ただ、それに切り替わるきっかけとそれ中の自分の言動故に、キンジはあまりヒステリアスモードを心から受け入れるということができずにいた。

 閑話休題(それはともかく)だ。アリアの話に集中しよう。ちゃんと聞かなければまた銃口を向けられる。

「学園都市の内と外じゃ科学技術に20、30年の隔たりがあるって話よ。それに、あの街のセキュリティーはそこらの研究機関とは比べ物にならないわ」
「並河製薬会社の社長さんはそこに独自の研究施設を持っているんだけどね。その研究施設、学園都市外との連絡手段が月1の製品出荷のトラックだけなんだって〜。並河製薬会社は学園都市にて薬の販売が認められてるわけでも無いし、セキュリティーは確かに凄い科学技術も進歩してるけど、逆に言えば製品の出荷がしにくいあの街に社員にも隠すようにして作られた謎の施設!理子には怪しい匂いがプンプンしてならないんだよねー」

 言われてみれば、確かに怪しい。

 学園都市に施設を持つには土地を借りるためや何やらで都市側に払う莫大な費用がかかるらしいし、その割りには学園都市で販売できるわけでもなく、完成した製品を運び出すだけでもこれまた費用がかかる。明らかにメリットとデメリットが釣り合わない。

 キンジは知らないが現に学園都市と協力関係にある企業や都市は、そう言ったことを理由に学園都市内に研究施設を作ることは殆どない。あるとしても学園都市の技術をいち早く大元に伝えるための小規模な研究施設くらいだ。

 だが、殆ど陸の孤島と化している街のセキュリティーで人目を避け、その維持にかかる莫大なコストを度外視できるレベルの製品を作っている、そう考えればこの研究施設に意義が見出すことができる。

「万が一、公的機関に依頼を調査して黒だったら会社が受ける被害は計り知れない──そう考えた専務は武偵校に調査を依頼することにしたんだって」
「なるほど……一応、話の筋は通っているな…」

 もしも本当に生物兵器が作られているとしたらほっておくわけにはいかない。この依頼を受けたアリアの判断は正しいだろう。

「人数は最高でも10人以下を予定してるわ。リーダーは私。私たちバスカービルメンバーが潜入するとして逃走用の「足」と本部の連絡係、待機要員を他に集めるつもりよ。これで説明は終わり。判った?」
「はい」
「久しぶりの任務だ。役に立てるかどうかはわからんが全力を尽くそう」

 うなづく2人。これでバスカービル全員の意思は一致した。

「まずは問題の研究施設に乗り込むわ。その上で白なら良し。万が一黒だったらそれ相応の対処をしなければならないでしょうね」

 と、なれば問題は学園都市に乗り込まなければならないことだ。あそこのセキュリティーは本当に凄まじいとの話だ。以前、武偵校生が追っていた元武偵の犯罪者が、学園都市に乗り込もうとし、逆に学園都市のセキュリティーにコテンパンにやられ引き渡されたのは、武偵校でも語りぐさだ。

「さて、どうしたものか…」

 静かに思案しようとするキンジ。が、それを遮るかのように口角を上げた理子がキンジの顔を覗き込んできた。

「と〜こ〜ろ〜で〜キーくーん?武偵校にいない間、レキちゃんと何があったのか根掘り葉掘り聞かせてもらいたいんですけどね〜」
「何って…何も無かったけど?」
「…………あんた何で目を逸らすの」
「何言ってんだよ。何も無かったよ」
「レキちゃんどうだったの〜?」
「……」
「なんでそこで無言っ!?」
「私はキンちゃんのことを信じるよ!!キンちゃんのこと……」
「いやいやいや!何も無かったからな!!本当だからな!な、レキ!」
「………………」
「だからなんでそこで無言っ!?せめて弁明くらいしてくれないかな!」
「あんたねぇ………………私たちが心配していたときに何やってたのよ…………」
「えっ…………」


 ⚫︎


 何が割れる音やら何が倒れる音やらが錯乱する部屋のベランダに腰掛け、金平糖を口に含みながら、玉藻は呟いた。

「あやつももうちょい女子(おなご)の扱い方に慣れてもらわんとな……前の遠山侍みたいに……。いっそ1日での連続の逢い引きでもさせてみるかのぉ──」







4,







「えっきし」

「あれキリトくん風邪?」
「いや……そもそもダイブしてるんだから風邪は関係ないと思うけど……」
「大分寒くなってきたから、気をつけなきゃ。キリトくん、免疫なさそうだから」
「あはは……」
「それじゃ試合頑張ってきてね」
「おう」


 ⚫︎


 ──10月27日。ALO内、新生アインクラッド15層。

 オンラインゲームALO内の天空にそびえ立つ新生アインクラッドの15層にて、ある大会が行われていた。

 魔法や弓が使えるALO内だが、1番人気の使用武器はやはり剣や槍が多かった。やはりこのようなファンタジックな世界では、剣や槍を使ったバトルがしたいと考える者も多いのだろう。

 この大会はその剣のみ使用できる大会。 言わば、剣術大会と言えよう。

 そしてこの大会の決勝、ここまで勝ち進んで来た男は勝利を確信していた。

 男が得意とするのは空中戦。相手の上を取り、確実に一撃で仕留める戦法を使う男だった。 簡単な戦法だ。スキルを地面目掛けて使って目くらまし。その土煙でできた相手の隙を突いて確実に仕留める。 今まではまったく逆の戦法を使い、これを察知させないような手回しもしておいた。全ては、この決勝の為だ。

 ……地上での猛攻のせいでなかなかチャンスに恵まれなかったがもう大丈夫!これで──仕留める!!

 男は勝利を確信していた。この一撃で仕留められると。

 頭上は人間にとっての最大の死角。ましてや目くらましされ相手の位置すら分からない相手の攻撃を受け止められるわけがない。

 しかし、男は考えてなかった。 頭上が死角になるのは

「なっ……!」

 ……いない!?

 宙にいる自分も同じだと。


 ⚫︎


 ──11月1日。ダイシー・カフェ。

「「「「カンパーイ!!」」」」

 複数のジョッキの音が貸し切り状態のダイシー・カフェに鳴り響く。

「いやーまさか空中戦術使いの上を取るとは…さっすがはキリト!期待を裏切らねぇな!」
「…お前は俺にどういう期待をしていたんだ、クライン」

 肩を叩いてくるクラインにキリトは呆れる。確かに決勝の相手は空中戦に強かったらしく上を取られたことが無かった。だからこそあの状態で勝つことが出来たのだろう。

「キリトくんらしいじゃない。そういうとこ」
「で、肝心の賞品は何処なんだ?」
「急かさなくてもここにあるよ。エギル」

 するとキリトは、バックの中から6枚のチケットを取り出す。

「それが学園都市へのチケットね?!あたしも〜らい!」
「あ、リズベットさんずるいです!私も!」
「2人とも、焦らなくても人数分あるわよ」
「そうそう。アスナさんの言う通り。ちなみに私はもうお兄ちゃんから貰っちゃいました!」
「しっかしエギル。オメェホントにいいのか?いくら俺が連休中仕事ないからとは言え…前に行きたいって言ってただろ?」
「行きたいのはやまやまなんだが、店もあるしな」

 エギルの言葉に「そうか…」と納得するクライン。エギルとしても学園都市へのチケットは欲しい物だろうが、店と彼女をほっとくわけにもいかない。

「だけどよぉキリの字。学園都市って結構危ない噂もあるんだろ。第三次世界大戦にグレムリン。間違いなく騒動の渦中にいるような街だぜ?」
「確かにそうだけど…あの都市の科学技術は凄いからな。ユイが現実世界を認知できるようなシステムを作る時の何か参考になることもあるかもしれないし、ちょうどいいと思うんだ」
「そうか」

 「んじゃあ皆さん!明後日、東京駅に集合ですよー!」と言うクラインの声に「「「「はーい!」」」」と答える女性陣。それを横目にしながら、キリトはふと思った。

 ……そういや学園都市は外部からの人間を極力受け付けないようにしてるのに…なんで特別見学会なんて組んだんだろうな…。

 そんなことを考えながら後ろを見ると学園都市について話しているアスナや直葉、シリカやリズベットの姿が見えた。どうやら、学園都市訪問を楽しみにしてるようだ。

 ……ま、…いっか。







5,







 ──その場所は、空の上、地上の山脈すら小さく見えるほどに高い場所だった。
 彼らは知らない。その場所がかつて『ベツレヘムの星』という、巨大な空中移動要塞の中央、白のような『本体』が鎮座していた場所のだということを。
 「右方のフィアンマ」という人物の『救済』が、『幻想殺し』によって壊された場所だということを。
 

『──今のが、貴方達が見たという『映像』を繋げて、実際に目に見える物にしたものです』
「…………一つだけいいか?」
「なんなのだ?」
「……俺様はもうちょいかっこいいだろ!もうちょい爽やかなイケメンっぽくあべしっ!!?」
「うるさいぞ。三代目」
「その読み方も辞めてくんない!!俺様には稲荷・D・智樹っていう、正式に襲名した名前があるんだよ!!ディエゴ家舐めんな!!」
「んだ!んだ!」
「先生の言うとおりだ!」
「どうでもいい」
「私も同意見だね」
「…っていうか、僕、ドラムなんて出来ないんですけど…」
『これが予知だなんて誰も言ってませんし、ま、あくまで気になったっ言われたから、あなた方の記憶をデータ化して繋げたわけで』
「けどこの出来事は実際に起きているのよね?」
『ええ。現にこの四つの世界は『錬成』さちゃいましたし、五河士道は福引で、桐ヶ谷和人はつい七時間前に大会で優勝して、学園都市特別見学会のチケットを手に入れてますし』
「──これまで来たらこの映像が予知って信じざるを得ないわね…」
「とりあえず俺様はこの因幡一馬って人物に、アイラックは四葉圭助に化けとくか…アーク、この2人どっかに拉致ってくれる?」
『分かりました。18時間後にメールでそれぞれの会社側から因幡一馬と四葉圭人に有給を取るように偽の連絡。その後、智樹さんとアイラックさんが因幡一馬と四葉圭人としてそれぞれの会社に乗り込んでください。因幡さんと四葉さんには、それぞれ家族で温泉旅行でもプレゼントしておきます』
「サンキュ。それじゃ、シノ、イノ。変装用のマスクや衣装作るから手伝え」
「「了解だ!!先生!」」
『この2人の顔のデータは貴方の部屋に送っておきました』
「相変わらず仕事早いな。あんがとな」
「んじゃ、僕の採寸も必要みたいだし、僕も行くとするよ」
「オイ、翠。とりあえず俺がドラムの使い方くらいは教えてやる」
「は、はい…」
「まっ!ヴィランくん!教えるのはいいけど若い衝動を爆発させて翠に襲いかかるなんてバゲシッ!?」
「黙れこの変態腐女子科学者が。大体、俺がこいつに発情するわけねぇだろ」
「こんなに可愛いのに!?」
「ちょ…キーナさん辞めてください!ひゃ…ちょ!!そこっ……らめぇ…っ!」
「おや?私のメイド兼助手であるキミが!ご主人様に「やめて」と!?礼儀をしらんメイドにはオシオキが必要なようっぎゃぁぁぁ目がぁぁぁぁ!!!」
「『セクハラ、ダメ、絶対』」
「このッ……アークなんか私に作られた存在のくせ偉そーに………」
『──とにかく…桐ヶ谷和人や五河士道、遠山金次を見て、「中々の逸材」とか「女装しての絡みもイケる」「可愛いは正義」とか鼻息荒くしながら悦を漏らす人には、今回はサポートに回ってもらいましょう』
「賛成だな」
「私もだ」
「ええっ!!?そんなー!!」
『ま、自業自得ってことで』





『では…各自、"作戦"の為に、全力を尽くしてください』







第一話 「交差する世界」 完
 
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