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FOOLのアルカニスト

作者:刹那
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初めての仲魔と実戦

 
前書き
チェフェイについての『裂帛の響き』についての解釈は、本作独自のものなのでくれぐれも本気にならないで下さい。
スキル『雄叫び』を女神転生仕様にしたので、『タイラノスエタケ(SWORD)』のスキル『雄叫び』をスキル『挑発』に変更しています。  

 
 その日、少年は死にかけていた。まあ、ぶっちゃけそれはどうでもいい。少年にとって死に掛けるどころか、死ぬこと自体が日常茶飯事であったから。
 だが、今この時に限って、少年は死ぬわけにはいかなかった。初めての『仲魔』が悪魔に喰われようとしていたのだから。正直、体は満身創痍で動くのは億劫だし、現状で選ぶべき選択肢は間違いなく『逃亡』が正解だ。それでも、少年はそれを選ぶことはできない。本来ならば、現実世界での悪魔の死とは、肉体を一時的に構成できなくなるに過ぎないので再召喚は可能であるが、目の前で行われようとしている事は違う。捕食は、存在そのものを生体マグネタイトに分解して吸収するものだ。ましてや、彼の仲魔は本体だ。あれをされたら最後、契約が切れ再召喚は叶わないだろう。

 だから、諦めるわけにはいかない。ここで膝を屈しているわけにはいかない。もう、失うのは嫌なのだから。ならば抗うしかないのだ。少年は満身創痍の体に鞭を打ち、静かに立ち上がったのだった。

 「へー、凄いですね。まだ立てるとは思いませんでした。私の一撃を受けて生き延びただけでも大したものだっていうのに、この上でまだ立つとは。坊やは、そのままオネンネしてた方が楽だったと思いますよ」


 徹の仲魔の首を片手で締め上げたまま、興味深げに徹を見つめる絶世の美少女。その姿は、少女であるにもかかわらず、妖艶と言うほかない美貌であった。一方で、人あらざる証であると二尾の尻尾と狐面が不思議に似合ってもいた。

 「うるさい、化け狐。これでも、体は頑丈な方でね。あの程度じゃ死ねないし、死ぬつもりもない。何より、俺は負けるつもりはないんだからな!」

 声高らかに宣言すると、徹は異界の主たる化け狐へと距離を詰めた。死に抗う為に、何よりも勝つ為に!



 「徹よ、お前ちょっと行って、異界の主殺して来い」

 きっかけは、雷鋼に軽い口調で言われたそんな言葉だった。内容はどう考えても、口調とつりあっていなかったが……。 

 「はい?いきなり何だよ?」

 その日を訓練を終え、調整に屈伸をしていた徹は、突拍子のない言いつけに雷鋼の真意が見えず、訝しげに疑問を返す。

 「正式な修行を始めて、早二年。お前も大分形になってきたのでな。そろそろ、実戦をと思ってな」

 「はっ、今更だな。実戦どころか、日常茶飯事で死にまくっている俺がそんなものを恐れるものかよ」

 「喝!それが甘いというんじゃ。死を経験しているとはいえ、お前は死んでも儂が蘇生させると思うて、甘えがあるじゃろう。お前の死に対する感覚は甘い。いや、甘くなっておる。ここらで、実戦の厳しさと死というものの取り返しのなさを改めて識るがいい」

 「まあ、確かにそれがないとは言わないし、師匠以外とじゃ、師匠の仲魔としか戦ったことないから、実戦経験がないといわれりゃそれまでなんだが。今更、必要あるのか?」

 雷鋼の指摘はもっともなものだし、徹も認めるものだが、それでもなお、徹には己に必要なものであるとは思えなかった。確かに、純粋な実戦経験といえば、桐条の実験でのシャドウとの一戦くらいしかないが、徹は訓練とはいえ、遥かに格上である雷鋼とその仲魔に模擬戦という言葉を借りた地獄を見せられてきたのだ。今更、それ以下の悪魔と戦ったところで、何の益があろう。

 「ふん、まだまだ未熟じゃな。実戦の恐ろしさをまるで分かっておらぬ。まあ、ここで言うても詮無いことじゃ。それは己が身で味わい知るがいい。とにかく、これは決定事項じゃ。儂が管理する異界の主を殺してこい。……珍しさから生かしておいたが、いい加減うっとおしいのでな」

 雷鋼はそう言って、それ以上は問答無用と未だ疑念を抱く徹を縛り上げると、強引に異界に放り出したのだった。

 「いてて、最後は力づくかよ。あの糞爺……。俺の装備はっと」

 放りこまれたとはいえ、雷鋼も鬼ではなかったらしい。拘束されていた縄は、異界に放り出される時に切られていたし、徹の愛刀である『長篠一文字』と、ポケットベルを模したアナライズと召喚機能のみがついた最低機能のCOMPに加え、僅かな道具が入ったポーチが置かれていたからだ。加えて、訓練直後であったことが幸いした。徹が着込んでいるのは特殊な繊維で作られた防刃服であり、そのうえに羽織っているのは、衝撃を吸収するのに優れた防護服だ。彼自身のMAG力場ともあいまって、並の攻撃では破られることはない。

 「うわ、道具しょぼっ!宝玉は1個だけ、傷薬が3個にチャクラドロップが1個……。これで格上の異界の主を殺せとか、あの糞爺、俺を殺す気かよ。……しかも、費用は俺持ちとか、マジでないわー」

 ポーチの中身を調べ、あまりの悲惨さに愕然とする。ペルソナ召喚が精神力によるもので、魔力を使わないからといって、魔力回復手段がチャクラドロップ1つだけである。しかも、体力回復手段は、軽傷用の傷薬が3個に完全回復できる宝玉が申し訳程度に一個と、変わらない酷さだ。己より力量が高いと分かっている上に異界の主である悪魔に挑むには、些か以上に心許ない内容であった。
 さらに、ダメ押しと言わんばかりに、ポーチの底に入っていたメモの内容は『この費用は全てお前持ちじゃ』であり、徹を心底げんなりさせた。

 「ギヒヒ、イキテルヤツ、ニンゲンニンゲンダ!イチネンブリノゴチソウダ!ウマソウナガキダゾ!」
 「オレガクウ」
 「イヤ、オレダ」

 徹の心境をよそに現実は待ってくれない。それが異界の中なら尚更である。メモを見つめながら、ぷるぷると小刻みに震える徹を囲むように3体の悪魔が現れる。幽鬼ガキ、LV3程度の雑魚悪魔だが、普通の人間にはどうすることもできない十分な脅威である。それが8歳児を囲むように3体。普通なら、少年の命は風前の灯火である。

 「人が苛々しているのに、横でごちゃごちゃうるさい!」

 だが、件の少年『水原 徹』は当然のようにただの8歳児ではない。言うが早いか、徹は愛刀を鞘走らせると振り向きざまに一閃。見事に一体を両断すると、返す刀でさらに一体。残り一体となったガキが状況を理解するに至った頃には、すでに勝敗は決していた。なにせ、その首は宙を舞っていたのっだから。

 「しまった。つい反射的に斬っちまったが、物理反射とかだったら洒落にならんかったぞ。アナライズする癖をつけないとな」

 悪魔には物理攻撃を反射したり無効化するものも存在する。そういう意味では、敵がなんであるかも確かめずに斬撃をお見舞いしたのは、けして褒められた行為ではない。

 「これも実戦か。そうだよな、敵が待ってくれるわけじゃないし、何が来るかも不明なのが普通か。いや、そんな状態で戦うことになったら、駄目だろ。今回は仕方ないにしても、事前にある程度の下調べはすべきだろう。それに今回だって、素直に受けていれば、師匠からこの異界についての情報を聞けた可能性もある。くそ、色々迂闊すぎるな!」

 なるほど、実戦でしか学べないことはあるものだと徹は思った。

 (訓練ではいかに厳しくとも、最低でもいつ来るか、何が来るかくらいは分かるからな。それに繰り返す内に、それは既知なものに変わる。それを考えれば、何が来るかもいつ来るかも不明な実戦は、訓練とは比べものにならない未知ゆえの厳しさがある。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」とは孫子の兵法だが、なるほど敵を知らないということは、それだけで己の身を危うくするんだな。幸いにも、己を知っているとはいえるから、一勝一敗にはもっていけるところが救いか?いや、この場での一敗は、絶対の死であり人生の終焉なのだから、何の救いにもならんな……。)

 そんなことを考えながらも、ガキの死体が消えていくのを見守る。勿論、警戒も怠らない。この様な時に気を抜いての奇襲が何よりも怖いからである。徹は、雷鋼に勝利を確信した際の隙を突かれたのは一度や二度ではないから尚更であった。

 「とりあえず、見かけだけは美味そうな餌にひっかかった低能は、こいつらだけか……。他の連中は気づいていないのか、様子見なのか?はあ、やれやれ。こりゃ確かに甘く見てたわ」

 さらなる襲撃がないことを確信た後、改めて現状を認識した徹は、やるべき事の多さと己の矮小さに辟易する。実際、こうして放り出されてみれば、我が身のなんという心細さか。訓練の場では必要がなかった全方位に対する警戒、否応なく強いられる緊張、背中の寒さを嫌でも実感せざるをえない。

 「こりゃ、とっとと仲魔を見つけたほうが良さそうだな」

 孤独の寂しさではなく一人という戦術的・心理的な不利から仲魔を求める徹であったが、中々ことはうまくいかない。最初に派手にやらかしたせいか、同レベル帯の悪魔が全くよってこなかったからである。

 「寄ってくるのは、理性を失くした屍鬼や幽鬼、低脳な邪鬼連中ばかり……。どいつもこいつもDARK悪魔で仲魔にしようがないじゃねえかよ!」

 徹は襲い来る悪魔達を斬り殺しながらぼやくが、それは当然である。現実はゲームのように甘くない。都合よくピクシーが仲魔になってくれたりはしないし、行く先に必ずしも仲魔になる悪魔がいるとも限らないのだから。運良く見つけたと思った妖鬼アズミは、徹が持つ鬼斬りの特性か、話にならず襲い掛かってくるし、散々であった。まあ、実際には今宵の月齢が満月だったというだけなのだが、修行漬の毎日で、外に出ることもまれで、日付の感覚を失って久しい徹に気づけようはずもなかった。

 「おかげでそれなりにLVも上がったし、MAGとマッカもそれなりの量が手に入ったが、肝心の仲魔ができない……。ああ、もうこの際何でもいいから仲魔になりやがれ!」

 半ばヤケクソ気味に言葉を吐き捨て、異界をうろつく徹。その目は、仲魔という名の生贄を求めて、爛々と輝いており、自身の身の丈程もある抜き身の日本刀を担ぐように持っている。どう、見ても危ない奴にしか見えない。とはいえ、中身は30歳程度でも、実際は8歳児だ。そういう意味で、なんとも現実味のない、この上なくシュールな光景であった。

 異界を徘徊すること3時間余り、じきに陽が沈もうというといいう時になって、ようやく徹は目的の物『仲魔』を手に入れた。半ば無理矢理に。いや、はっきり言おう。それは脅迫以外のなにものでもなかったと。

 この時、いい加減一人での戦闘にも慣れ、正直このLV帯の仲魔は最早必要ないだろという域になっていた徹だったが、半ば意地になって仲魔を得ようとしていた。

 しかし、この異界内で散々悪魔を当たると幸いに斬殺してきた徹に、近づこうとする者など、すでに皆無であった。DARK悪魔ですら力の差を理解して、避けるようになっていたのだから、徹の所業の凄まじさが分かろうというものである。

 だから、純粋にその悪魔は運が悪かったのだ。久々に地上で遊ぼうと魔界から異界へと繰り出してきたのだが、異界へとついた瞬間、目前に鬼を見た。妖精ゴブリン、それが徹の被害者であり、最初の仲魔となる悪魔だった。

 「うん、お前はなんだ?」

 突然、目前に現れた悪魔に警戒もあらわに、愛刀を突きつけながら詰問する徹。予想だにしない事態に困惑と驚愕でいっぱいいっぱいのゴブリンだったが、目の前の鬼の如き人間に不用意なことをすれば、己がただではすまないことを瞬時に悟った。ゆえに、彼は全力で保身に走る。

 「あっしは妖精族のゴブリンっていう、けちな者です。今、地上にでてきたばかりで、何の罪も犯しておりやせん。だから、この物騒な物を引っ込めていただけやせんかね」

 「妖精ゴブリン?この異界にいたのか?いや、逃げ去っていく中でも見なかったし、本当に今来たというのは間違いないらしいな。しかし、ゴブリンか……」

 自身の記憶を探りながら、目の前の悪魔の言を吟味する徹。最終的にゴブリンは、補助魔法が優秀な中々便利な悪魔だったということをゲーム知識から思い出し、さらに己が考えにふける。その間も、寸分足りとも突きつけた刃は動いていない。ゴブリンが何かすれば、一瞬で切り伏せれる状況であるのには何ら変わりはなかった。

 「あのー、坊ちゃん?何をお考えで?あしに御用がないんなら、逃がして頂けるとありがたいんでやすが」

 一方、ゴブリンは戦々恐々としていた。いつ、殺されるかわかったものじゃないのだから、当然である。目の前の少年との力の差は歴然としていたし、必死で逃げる隙を伺っているのだが、肝心の隙が全くないのだ。徹が考えこんでいる間、ゴブリンは正直生きている心地がしなかった。

 「よし、決めた!お前、俺の仲魔になれ」

 「は?仲魔ですかい?考えなおしましょうや、坊ちゃんにあし程度の悪魔が今更必要とは思えやせん。というか、坊ちゃんサマナーだったんで?」

 いきなりとんでもない提案をされて、驚天動地なゴブリンだったが、何とか断ろうと足掻きを試みる。彼からすれば、折角地上まで来たのだ。束縛されずに遊びたいのが本音であったから。

 「ああ、まだ見習いだけどな。悪いが、お前の見解は聞いていない。答えはYESかNOかだ。で、どうする?」

 だが、それに対する徹の返答はにべもない。しかも、その目はNOと答える代償が己の命であることを明確に告げていた。これが分霊であったなら、ゴブリンもNOといえたかもしれないが、悪魔の中でも最下級に属する彼は本体であった。つまり、ここで殺されたら、本当に死ぬ。仮初の死ではないのだ。ゴブリンだって、命は惜しい。死ぬのは御免だ。すなわち、彼の答は一つしかなかった。

 「分かりやした。YESです、坊ちゃん。あしは妖精ゴブリン、今後ともよろしく」

 心中で諦観の溜息を盛大につきながら、答を返したのだった。

 その後、契約により即座にCOMPから召喚されるゴブリンだったが、主となった少年の所業を聞いて頭を抱えたくなった。

 「何やってくれてるんですか、坊ちゃん!それじゃあ、この異界内じゃ、あし達は指名手配犯のようなものですぜ!」

 「おお、指名手配とか知ってるんだ、博識だなー」

 とうの召喚主のどうでもいいことへの感心に、ゴブリンは頭が痛くなる。

 「ええ、これでも地上には何回か来てるんでって……そうじゃないっすよ!それだけやりたい放題したら、絶対に異界の主に目をつけられてるすっよ!」

 「ふむ、ちょうどいい。俺も異界の主に用があったんでな」

 ゴブリンの苦悩をよそに、徹は我が意を得たりと頷く。

 「ちょうどいいって……、坊ちゃん何考えてるんすか?」

 「うん、異界の主を殺すことだけど」

 「はあ!何いってるんすか?!異界の主になるような悪魔は、あしらのようなケチな悪魔とは格が違います。元々の強さもさることながら、異界からMAGを吸収して溜め込んでいるんで、元より強化されていることがほとんどっすよ。それに生身の人間が挑もうなんて、死ににいくようなもんですぜ」

 主を翻意させようと必死に異界の主についての情報を教え込むゴブリン。言っている最中にも、自身の置かれた絶望的な状況に後悔の念がとめどなく溢れていく。だが、肝心の徹には何の効果もなかったのだが。

 「そうか、なるほどな。情報、ありがとなゴブリン。あ、これ種族名だろ?なんか別に名前をやろうか?」

 恐れるどころか、いい情報をもらったといわんばかりの徹の態度に、ゴブリンは天を仰いだ。

 「ハア、もう、好きにしてくれていいっすよ。あしはどうせ契約で逆らえやせんし、異界の主でもんなんでもお供しやすよ」

 「おう、心強いな。じゃあ、早速…「その必要はないですよ」…!!」

 その時だった。徹の言に突如妖艶な女性の声が割り込んだのは。警戒も露に瞬時に声の方向に視線を巡らすも、背後から凄まじいまでの衝撃を腹部に受けて、弾き飛ばされたのだった。

 そして倒れ伏した徹が、どうにか顔を上げて見たのが、仲魔にしたばかりのゴブリンが、狐面をつけた妖艶な美少女に片手で吊るし上げられているところであった。

 「あら、分霊かと思ったら、貴方本体なんですか?私の縄張りでオイタをしている坊やに礼儀を教えてあげようと思いましたのに、これはとんだ拾い物ですね。ちょうどいいから、あの糞爺に削ぎ落とされた力を取り戻すための滋養になってもらいましょう」

 「……!!!」

 首を捕まれ、喋ることもできないのか、必死に全身で拒絶を表すゴブリン。その顔にははっきりとした恐怖が刻まれていた、

 「うふふ、暴れても駄目ですよ。むしろ、光栄に思ってください。私の滋養になれるんですから。この傾国の大妖女『桀妃(チェフェイ)』たる私のね」

 『桀妃(チェフェイ)』、中国において殷の紂王と並んで暴君の代名詞とされる夏の桀王の妃である「末喜」のことである。美女である末喜に溺れた桀王は彼女に言われるままに放蕩を尽くして国を傾け、最終的に殷に攻め滅ぼされてしまった。つまり、桀王も悪いがそれ以上に末喜こそが夏王朝滅亡を招いた張本人、というわけである。この桀妃のエピソードは、後世の傾国である妲妃、褒姒と関連付けられ、最終的に彼女は本来人でありながらも、白面九尾の妖狐へと貶められることになった。その具現が少女の正体であった。

 (チェフェイ?!女神転生ifの貪欲界におけるBOSS。開けた宝箱の数で力を増す妖獣チェフェイか!なんで、貪欲界どころか魔界ですらない地上の異界にいるんだよ!とはいえ、まあ今更か……。)

 徹は体が訴える痛みを無視しつつ、考えを巡らす。ペルソナ3の世界にもかかわらず、女神転生ifのBOSSがでてきたことに理不尽を感じるも、今更すぎると思い直す。なにせ、徹自身が理不尽の塊だ。少なくとも彼にだけはどうこういう資格はないだろう。

 まあ、それはさておき、現状は最悪である。尻尾が二尾であることを見るにチェフェイの強さは、幸いにも最低クラスだ。とはいえ、それでもLV20はあるのだから、洒落にならない。いや、異界の主であることを勘案すれば+5くらい考えたほうがいいかもしれない。それにひきかえ、こちらは徹がLV15、ゴブリンがLV9である。正直、絶望的な差である。原作ゲームにおいて序盤でのLV差は、雑魚敵でも致命的だった。だというのに、現実では相手は格上で、その上異界の主というBOSS補正が付いているのだから、詰んでいるとしかいいようがない。これがゲームなら、諦めてリセットしてやり直せばいいだろうが、現実には不可能だ。死ねば終わりだ。いつものように、雷鋼が蘇生してくれるとは限らないし、そもそもあの美少女悪魔が己の死体を蘇生可能な状態で残してくれるかも甚だ疑問であるからだ。

 (くそっ!異界の主をゲームのBOSSのように考えていたから、まさか自ら場を出てくるとは思わなかった。なんたる考え違いか!自分の縄張り荒らされりゃそりゃ出てくるよな。ゲームと現実は違うっていうのに、全くつくづくなってないな。俺は……。)

 己の考えの浅さ、認識の甘さを呪うが、今更後の祭りである。今は、手持ちの札でどうにかするしかないのだ。でなければ、なにもかもここで終わるのだ。

 (幸いこの異界内ではペルソナを使ってないから、奴はペルソナに気づいていないはずだ。とはいえ、一度使えばばれるだろうし、逃げようにもこの異界内では奴の手の内だ。なら、露見する前に現状で最強の攻撃をぶち込んで、一気に勝負を決める!その為には……。)

 原作知識どおりなら、あの形態には物理攻撃が効くはずである。また、ゲームの知識かといわれそうだが、悪魔の戦闘相性や所持スキルが原作と殆ど変わらないのは、ここまでの道中でアナライズして、すでに確認済みである。まあ、それでも確実とは言えないのが辛いところだが、どのみちこのままなら殺されるのを待つだけである。多少なりとも勝算があるなら、賭けに出ることも必要だと徹は己に言い聞かせる。そして、少しでも勝算を上げるために、確実に勝つために、ゴブリンの助力が必要だ。ならば立たねばならない。己の仲魔が喰われる前に。また、何かを失う前に。




 「へー、凄いですね。まだ立てるとは思いませんでした。私の一撃を受けて生き延びただけでも大したものだっていうのに、この上でまだ立つとは。坊やは、そのままオネンネしてた方が楽だったと思いますよ」

 満身創痍の体をどうにか立たせた少年を、悪魔は素直に賞賛する。実際、彼女は少しの手加減もせずに致命傷を狙った奇襲をしかけたのだから。それを僅かにでも反応し、重傷を負いながらも致命傷をさけた手腕は、彼女をして十分に賞賛に値した。同時に、少年の身でありながら、それ程の技巧をもつ少年にどうしようもなく興味が惹かれた。彼女の悪い癖だ。人の身であったときから、彼女は美しく強い者が好きだった。目の前の少年は、容姿だけでは美たりえないが、その強さと意思まで含めれば十分以上に合格点だ。この少年が何者なのか、興味は深まるばかりであった。

 「うるさい、化け狐。これでも、体は頑丈な方でね。あの程度じゃ死ねないし、死ぬつもりもない。何より、俺は負けるつもりはないんだからな!」

 しかも、その身で立ち上がり、負けるつもりはないと言い放ったのだから、悪魔『妖獣チェフェイ』は喜悦にその身を震わせた。ああ、何たるその美しさか。救出の対象が醜い悪魔であることを除けば、そのシチュエーションは文句なしであったし、絶体絶命の状況で諦めずに仲魔を取り戻さんとするその清廉で純粋な意思は、チェフェイにはどこまでも美しく感じられたのだ。

 だが、それゆえにチェフェイには油断はない。彼女は目の前の少年の力量をけして過小評価していなかったし、その技巧に感嘆しつつも冷静に評価していたからだ。
 そして何より、チェフェイは己が美しいと感じたものが壊れる様が好きなのだ。彼女の悪行として知られる『裂帛の響き』。絹を裂く音を好んだため、国中から高価な絹が掻き集められたとされるが、実際には少し異なる。彼女は美しい絹を好んだゆえに、それが引き裂かれる際の音、断末魔ともいうべきそれを好んだのだ。それをは美しいものを汚したいという感情の発露であったのかもしれないし、一風変わった破壊衝動の発露だったのかもしれない。まあ、どちらでもよいことだ。彼女が己が美しいと感じたものを壊すことに喜びを覚えるのになんらかわりはないからだ。

 自身へと距離を詰める少年を横目に見ながらも、チェフェイは少年を引き裂く喜悦を思い、光悦に身を震わせる。醜いゴブリンの本体など気にならなくなり、邪魔と言わんばかりに放り出す。とはいえ、それは油断でもなんでもない。少年を認めたからこそ、四肢を自由な状態にしたのだ。10以上のLV差で、自分に傷一つつけることもできないゴブリンを拘束しておくより、目の前の少年相手に片手では不覚をとるかもしれないと思ったからこそである。

 「タルカジャ」

 だが、それは結果的にマイナスであった。解放されたゴブリンはあろうことか補助魔法を少年にかけたのだ。LV差ゆえの侮りを突かれたのだ。チェフェイは僅かに歯噛みするも、表情を変えない。なぜなら、それでも結果は変わらないからだ。
 確かにチェフェイがゴブリンを拘束したままで、片手だけであれば、少年の渾身の斬撃は補助魔法の効果もあいまって、彼女の身を切り裂いただろう。しかし、現状彼女は両腕を使えるのだ。チェフェイのMAG力場の密度なら、少年の刃を防ぎ切ることは十分に可能なのだから。

 「ふふ、残念でしたね」

 少年の渾身の斬撃を、チェフェイは両腕をクロスして受け止めた。僅かに肉に食い込み、切り裂かれたことに少々の驚きと感嘆を覚えながらも、彼女は妖艶に微笑んだ。終焉を告げる死神の笑を。





 チェフェイの笑を見た時、徹は勝利を確信した。勝利するのは、今この時しかないと。

 「スエタケ!」

 あの時よりさらに研鑽された召喚技術により、それは瞬時に顕現した。ペルソナ『タイラノスエタケ』。小アルカナSWORD(剣)に属する射撃攻撃を得意とするペルソナだ。超密着状態のこの距離ならば、ましてや百発百中の特殊能力を持つタイラノスエタケならば、絶対に外さない。満を持して、放たれるスキル『百将匹敵』は狙い過たず、チェフェイを蜂の巣にしたのだった。

 「ふう、危ないところだったが、どうにかってところだな……。そっちは大丈夫か、ゴブリン」

 胸を撫で下ろすように一息ついた徹は、未だへたりこんでいる仲魔に声をかける。 

 「へえ、お陰様で。それにしても、坊ちゃ……いえ、旦那は最初からあれが本命だったんですかい?」

 徹の力を認めたのか、呼び名を改めて尋ねるゴブリン。

 「旦那ね、まあ坊ちゃんよりはよっぽどいいか。まあ、そうだ。あわよくば『鬼断ち』で殺れればとは思わんこともなかったが、受け止められるのは最初から織り込み済みだった。本命は、至近距離からの最大火力での飽和攻撃さ。補助魔法もその強化のためだしな」

 密かに宝玉で全快させた体での渾身の斬撃を囮にしたペルソナでの本命攻撃。それが徹の描いた勝利への絵図であった。本来、全方位への全体攻撃である『百将匹敵』を至近距離から放つことで、防御不可能な飽和攻撃にしたのだ。
 ちなみにダメ押しの補助魔法「タルカジャ」の指示は、マグネタイトのラインによる声なき指示だ。不思議なもので、契約した仲魔とはCOMPを介したマグネタイトのラインで結ばれ、それを通して意思の疎通ができるのだった。原作ゲームで自分も戦いながら、戦場で声を出して指示をするというのは無理だろうと疑問に思っていたことが解消された瞬間だった。

 (正直、咄嗟の思いつきだったが、うまくいったようで何よりだ。それに何より運が良かった。もし、降魔していたのが物理耐性持ちのスエタケじゃなかったら、最初の奇襲で死んでたかもしれない……。)

 結果だけ見れば徹の圧勝のように見えるが、実際のところ本当に薄氷の勝利であった。一つ間違えば、逆の立場であったことは想像に難くない。ゲームとは違う実戦の恐ろしさを、徹は否応なく思い知らされることになった。

 「大したものでさ。その年で切り札を限界まで隠しておくとはね。正直、もう駄目かと思いやしたからね」

 「ははは、はらはらさせてすまないな。俺もできれば使わずに済ませたかったものでな。正直、使わせられたのは誤算だった。まだまだ未熟だな」

 「その年でそれだけやれれば十分だと思いやすよ」

 「うん、この感覚は……」

 そんな風に言葉を交わしていると、周囲の空気が変わったのを徹は感じた。

 「主が倒されたんで、異界が崩れたんでさ。元の世界へと回帰して空気が変質したんでしょう」

 「なるほどな…なっ!」

 ゴブリンの言に納得して、首肯しかけた徹だが、突然に刀を一閃させた。キンキンと金属音が響き、火花を散らす。刃に散らされて落ちるのは、巨大な針のようなものだ。

 「なんで?!異界が崩れた以上、あしみたいに契約している悪魔以外は、魔界に戻されるか消滅するはず」

 ありえない事態に驚愕するゴブリンだが、徹はなんでもないことのように答える。

 「ふん、要するに倒されてなかったってことだろ。出てこいよ、妖獣チェフェイ」

 「あらあら、残念。お見通しでしたか」

 徹の声に導かれるにように姿を現したのは、狐面をつけた妖艶と言う他ない美少女の悪魔。先ほど、他でもない徹自身が蜂の巣にした異界の主、妖獣チェフェイであった。残念といいながらも、その表情は楽しげで、少しも残念そうには見えない。

 「なっ!異界の主!旦那に蜂の巣にされたはずじゃ?!」

 実際、穴だらけになったチェフェイを見ただけに、ゴブリンの驚きは並のもののではなかった。どう考えてもあれは死んでいたのだから。生きているのがおかしい状態だったのだから。

 「ええ、ええ、凄く痛かったですよ。私が唯の分霊だったら、この異界の主でなかったら、間違いなく死んでました。でも、幸いにもこの身は本体で、私は異界の主でした。
 だから、穴だらけにされた体を今まで溜め込んでいたマグネタイトと、異界を維持する為に使っていたマグタイトを全て使って、修復したんですよ。おかげで、あと少しで3尾まで戻せた力も、再び2尾の最低ラインです。どうしてくれるんですか!ぷんぷん」

 頬を膨らませて怒ってみせるチェフェイ。妖艶な美少女のあどけない姿になんとも和やかな心境になる徹だったが、一方で彼女が攻撃してきたことも忘れていない。

 「で、先の攻撃は何のつもりだ?第2ラウンドといくか?」
 
 そう言って、表情を一変させて、再び構えをとる徹に慌てた様子でチェフェイは首を振った。

 「いえいえいえ、これ以上貴方と殺り合うつもりはありませんよ。異界内でかつかつての私ならともかく、地上の通常の空間で現状の私では、これっぽちも勝てる気がしませんからね。人間である貴方と違って、悪魔である私は異界内でなければ、常にマグネタイトを消費しますから。供給がない今の状態では、どうしてもジリ貧になります。
 先の一撃は最後の確認です。まあ、あわよくば殺せたらという気があったことも否定しませんが」

 「確認だと?」

 「確認?まさかっ!」

 チェフェイの答に訝しげな徹。その一方で、ゴブリンは何かに気づいたように声を上げた。

 「ふふふ、妖精さんは気づかれたようですね。我が主様はいつお気づきになられるでしょうか?」

 ゴブリンのそれ以上の言を遮るように艶やかに笑うチェフェイ。ともあれ、流石にここまで言われれば徹も気づく。

 「お前が俺の仲魔になるというのか?」

 「ええ、その通りです主様。何かご不満がおありでしょうか?」

 「不満と言うよりは疑問だな。なぜ俺の仲魔になろうなどと思った?」

 「貴方が私より強いからです。そして、その在り方を美しいと思ったからです。それが理由です」

 「俺の在り方ね……。強いって言っても、俺はお前よりLVが下だぞ。それでもいいのか?」

 「ふふふ、主様は変なことを聞きますね。こうして真っ向勝負で負けた以上、格の差などと大した問題ではありません。それに私を仮初とはいえ倒した際に少なからず生体マグネタイトを吸収したはずですから、現在の私とならさして変わらないかと思いますよ?」

 「なるほど、確かにな……」

 言われてみれば、体にみなぎる力はこれまでと比べものにならない。COMPで自身をアナライズしてみるとLV20になっていることから、チェフェイの言は正しいのだろう。

 「それでは私を貴方様の仲魔としていただけますか?主様」

 「ああ、構わないが……!!そうだ、どうせなら……。チェフェイ、直接契約って分かるか?」

 「COMPを介さないでの契約ですか?葛葉のライドウでもないんですから、止めておいたほうがいいですよ。余程の力量がないと、一体制御するので精一杯になりますよ」

 「そうですよ旦那。この女狐と直接契約なんかしたら、骨の髄まで生体マグネタイトを絞りつくさちまいますよ」

 マグネタイトの制御をCOMPに委ねず自ら行う直接契約などと、とんでもないことを言い出した徹にゴブリンも心配して翻意を促すが、徹の決意は固かった。

 「大丈夫だ、やってくれ」

 「後悔しないでくださいよ。忠告はしましたからね」

 そう言うと、徹とチェフェイの足元に両者をつなぐ魔法陣が描かれ、光り輝き消滅する。

 「これで問題なく契約はなされました。妖獣チェフェイと申します。今後とも末永くよろしくお願いします。うーん、それにしても素晴らしい生体マグネタイトですね。質量共に申し分なしです。なるほど、これならば直接契約も頷けます。それで普段はどこに入っていればいいんですか?ライドウみたいに管ですか?まさか出しっ放しにするおつもりですか?」

 「いや、そんなつもりはない。封!」

 「へ?わわわわっ………」

 徹の短い言葉と共にたちまちに徹の影に吸い込まれて消えるチェフェイ。これこそ、雷鋼や卜部が所属していた一族が秘伝した悪魔召喚術『影封じ』である。もっとも、封じておけるのは精々が3体まで、同時使役はどんなに頑張っても2体までなのだから、現在のCOMPによる悪魔召喚プログラムにも葛葉の管による召喚術にも劣るものでしかない。まあ、それらを凌駕する利点も存在するのだが……。

 「影封じとは驚きやした。旦那は本当にびっくり箱みたい方ですね」

 驚愕と感嘆をもって徹を見つめるゴブリン。そんな時、情けない声が下から響く。

 「うう、出して、出してくださいよ」

 「はいはい、今出してやるよ。現!」

 「ふう、やっと出られました。いきなり閉じ込めるなんて酷いですよ、主様!
 それにしても、影封じとか……もしかしなくても、主様は雷鋼の糞爺の縁者なんですね?」
 
 「ああ、雷鋼の爺さんはおれの師匠だけど、知っているのか?」

 よもや、チェフェイが雷鋼を知っているとは思わない徹は驚く。

 「ええ、ええ、よく知っていますとも。本体の私がこんな所で異界の主やっていたのも、最低ランクまで力を削ぎ落とされたのも、元はといえば全てあの糞爺が原因ですから!」

 恨み骨髄と言った感じで語るチェフェイに、徹はこれ以上聞かないほうがいいいことを本能的に悟った。

 「でも、いいのか?俺はその原因の弟子だぞ。そんな奴の仲魔になって、不満じゃないのか?」

 「全くないとは流石に言いませんが、不満はありませんよ。雷鋼への恨みはあくまでもあの糞爺個人へのもの。その弟子だからといって、主様までその対象にする程、私は狭量な女ではありませんよ」

 「そうか、それならいい…「でも」…が…。でも?」

 「いきなり影に封じ込められたのは不満です。怒っちゃいます。ですから、これはその慰謝料ということで」

 言うが早いか悪戯っ子の表情で艶やかに微笑むと、軽く唇を徹のそれと合わせると、口を挟む暇も与えずに影に溶けこんで消えた。いや、逃げ去ったというべきだろう。

 「な、キス?!あいつ……」

 わけがわからず目を白黒させる徹の肩をゴブリンがそっと叩いた。

 「やあ旦那。とんだ悪女にひっかかっちまいましたね」

 中国における初代「傾国の美女」の化身ともいうべき悪魔チェフェイ。高々、前世含めて30年程度生きた男に簡単に御せるはずもなし。 
 

 
後書き
[アイテム・スキル解説]
宝玉:MAGの封じられた小さな玉。どのような傷も死んでない限り癒す←HPを完全回復 
傷薬:裏の世界にのみ流通する特殊な傷薬。ある程度の傷なら、容易く癒す←HPを小回復

チャクラドロップ:最大MPの25%を回復

タルカジャ:味方全体の攻撃力を上げる

百将匹敵 :百将に匹敵すると称された豪勇の証たる弓射術(敵全体に投具属性中ダメージ+高確率でクリティカル)
 
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