ガンダムSEED 不死鳥の転生

〈ーーでは次に、激戦の伝えられる華南(カオシュン)戦線、その後の情報を……〉

キラ・ヤマトとレン・ソウリュウは、いつのまにかあらぬ方をさまよっていた視線をコンピュータに戻し、投げやりぎみにキーボードを叩いた。キラは黒い髪、黒い目の小柄な少年、レンは、銀髪、灰色の目の目つきの悪い少年だ。どちらもまだ幼さを残す繊細な顔立ちは、東洋系のようだが、一見して人種を判別できない。

ここは工業ガレッジのキャンパスだ。緑したたる中庭、あふれる陽射し、楽しげにたわむれ、行き過ぎていく若者たちーー地球のどこでも見られるような、ごくありふれた日常風景。

だが彼らが踏みしめている芝生の下には、暑さ約100メートルに及ぶ合金製のフレームがあり、その外には真空の宇宙が広がっている。

ここは“ヘリオポリス”。地球の衛星軌道上、L3に位置する宇宙コロニーである。

コンピュータ画面の上方に開いた別窓の中では、アナウンサーが相変わらず深刻そうな顔でしゃべっている。

〈ーー新たに届いた情報によりますと、ザフト軍は先週末、華南宇宙港の手前六キロの地点まで迫り……〉

きらり、と、小さな翼で日光をはね返し、キャンパスの上空を一巡りして、トリィが戻ってきた。メタリックグリーンの翼を羽ばたかせてキラのコンピュータにとまる。トリィは小鳥を模した愛玩ロボットだ。キラとレンの大切な、小さな友達。

トリィを見るたび、二人の脳裏にはこれをくれた親友の面影が浮かぶ。

『ーー父はたぶん、深刻に考えすぎなんだと思う』

別れの日、少年は十三歳とは思えない大人びた口調で言った。黒い髪、穏やかで物静かな面差し、伏せられた目は印象的な緑だった。

彼とキラとレンは四歳のときから、月面都市“コペルニクス”で幼年学校時代をともに過ごした。三人はいつも一緒だった。

『“プラント”と地球で、戦争になんてならないよ』

うん……とキラが頷き、あぁ……とレンが頷く。

『でも、避難しろと言われたら、行かないわけにはいかないし』

キラはずっと、うつむきレンは少年を見ていた。

彼らは賢明な子供だった。それでもしょせん子供でしかなく、社会の情勢や親の意向に従うしかない。別れを受け入れることしかできなかった。

友はうつむいたキラを励ますように言った。

『キラとレンもそのうち、“プラント”に来るんだろ？』

その言葉に込められた希望が、少しキラをなぐさめてくれた。やっと目を上げて見ると、友は綺麗な緑の目を細めて笑った。その色が、キラとレンはとても好きだった。

ーーきっとまた、会える。

そう信じて別れた。あのときからもう三年ーー。