ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-9 新婚生活
Story9-10 未来の種
第3者side
「だめだ!そのまま進むな!」
虚しくもシャオンの声はユリエールには届かなかった。
その時だった。
直角に交わっている道の右側死角部に、不意に黄色いカーソルがひとつだけ出現した。
表示名は『The Death-scythe』
死の鎌と言うその名には定冠詞がある。ボスモンスターの証だ。
「だめーーーっ!! ユリエールさん戻って!!」
アスナの絶叫が通路に響く。
黄色いカーソルは、すうっと左に動き、十字の交差点へと近づいていた。
――このままじゃ、あと数秒でユリエールと衝突するっ!
「!」
シャオンが走ろうとするより早くキリトが動いた。
瞬間移動のような勢いで数mの距離を移動したキリトは、背後から右手でユリエールの体を抱きかかえると、左手の剣を床石に思いっきり突き刺した。
凄まじい金属音と共に、大量の火花が散る。
空気が焦げるほどの急制動をかけ、十字路ギリギリで2人が停止した。
その直前の空間を、地響きと共に、巨大な黒い影が横切る。
姿の見えないモンスターは、左の通路に飛び込むと、
10m程移動してからゆっくりと向きを変え、そして再び突進してくる気配を醸し出していた。
キリトはユリエールの体を離すと、床に突き刺さった剣を抜き、左の通路に飛び込んでいく。
シャオンも慌ててその後を追った。
呆然と倒れるユリエールを抱え起こし、交差点の向こうへと押しやるとフローラとアスナは子供たちを彼女に預ける。
「子供たちと一緒に安全地帯に退避してください!」
「子供たちを頼みますよ!!」
アスナたちの言葉に、ユリエールは蒼白な顔で頷き、2人を抱き上げて部屋に向かった。
それを確認して、シャオンたちはそれぞれの武器を抜きながら左へと向き直る。
二刀を構えて立ち止まったキリトの姿が目に入った。
その奥にいるのは、身長2m半くらいの、ボロボロのローブを纏った人型のシルエット。
フードの奥と袖口から覗く腕には、密度のある深い闇がまとわりつき、蠢いていた。
暗く沈む顔の奥には、生々しい血管の浮き出た眼球がはまり、ギョロリとシャオンたちを捉えている。
右手には長大な黒い鎌が握られており、その湾曲した刃からはポタリポタリと赤い雫が血のような粘着質をもって垂れ落ちていた。
全体的に見れば、死神に近いその姿は女性陣の心に暗雲を立ち込めた。
「なあ、キリト……こいつヤバイな」
「ああ…………
みんな、今すぐクリスタルで脱出しろ!俺とシャオンが時間を稼ぐ!」
突然のキリトの言葉に呆然とする2人。
しかし、いち早く言葉を飲み込めたアスナがいった。
「どういう、こと?」
その声には力がこもっていない。
「こいつさ、俺の識別スキルでもデータが分からないし、カーソルが赤黒い。ということは、こいつの強さはおそらく90層後半レベル。現段階で俺たちの勝てる相手じゃない」
「だったら、キリト君やシャオン君だって」
必死に言い返そうとするアスナだが虚しくもキリトによって打ち砕かれる。
「俺1人、もしくはシャオンとならなんとか時間を稼ぐことができる。けど、全員を守りながらでは無理だ」
冷たく言い放たれた言葉に二人は動揺を隠せないようだ。
「頼む。脱出してくれ。君たちを死なせたくない」
キリトは必死にだが力なく訴えた。
キリトは、振りかぶられた鎌をエリュシデータで払いのけ戦っている。
結局二人はキリトの指示に従わずに戦いに参加している。
だが、直撃は避けているとはいえもともと軽装である女性陣はあっと言う間にイエローまでゲージを削られている。
キリトもうまく攻撃をかわせているいるとはいえ、すでに4割を削られている。
シャオンは攻撃をした。
「ツインソード…………トランズレイド!」
しかし、目の前にいたはずの死神は突然姿を消し、剣を振り下ろしたシャオンの横に出現した。
鎌が振り下ろされた。
「ぐっ…………」
シャオンは硬直で動けずにまともに一撃をくらった。
一気にHPバーが危険域であるレッドゾーンまで減る。
もう一度、鎌が振り下ろされた。
フローラたちが受け止めてくれた。
しかし、レッドゾーンまで削られる。
そして、もう一度、フローラたちの頭に鎌が振り下ろされた。
次の一撃は防いでもみんな死んでしまう。
「だめだ……死ぬな…………だめだぁぁぁぁ!」
その瞬間、シャオンの持つ二つの剣が光りだした。
そして、シャオンの体が強く蒼色に光りだした。
キィィィン
「…………なんだろう…………この安心感…………
ソードユニゾン」
シャオンは導かれるようにエターナリィアクセルとスターライトクリエイターを握り、ソードユニゾンを発動した。
シュッ ガキン
シャオンは恐るべきスピードで武器を弾いた。
髪に青いメッシュが入り、瞳は暗い青。
コートの色は蒼が強くなる。
「シャオン君?」
「みんな、下がっていてくれ」
「何で!?」
「大丈夫だから、心配すんなって」
シャオン自身もなぜ、そんな言葉が出たかは分からない。
ただ、これなら大丈夫という安心感がシャオンの中にあった。
その時、とことこと、歩いてくる音が聞こえた。
はっとして視線をそちらに向けると、危険に気づかない子猫のようなあどけない歩みが、眼に飛び込んできた。
安全地帯においてきた、子供たちだった。
恐れなど微塵もない視線で、真っ直ぐに巨大な死神を見据えている。
「ばかっ!!はやく、逃げろ!!」
しかし、それにより死神の注意はシャオンたちから子どもたちに逸れる。
必死に上体を起こそうとしている、キリトが叫んだ。
死神は再び重々しいモーションで鎌を振りかぶりつつある。
やめろ…………
キリトの声にならない叫びが響くが…………無情にも鎌は振り下ろされた。
しかし、次の瞬間。
恐るべきスピードを発揮したシャオンが武器を弾いた。
「さあ、ひとっ走り……付き合えよ!!
フォースソード・スクエアロンド!」
連二刀流スキルの技のラッシュが始まった。
〔エンドレス・ホーリーラッシュ〕〔フルアクセル・ストライクエンド〕〔サークリング・クレッシェンド〕〔メテオリッター・スタードライブ〕
BossのHPは残り2割まで減り、シャオンのHPは危険域残りわずかになっていた。
「くっ…………力が……」
さすがに体力がもたないのか、シャオンはその場に膝をつく。
「くそっ……だめか…………
いや、まだだ!!
トップスピードで…………振りきるぜ!!」
その瞬間、子供たちの体がふわりと宙に浮いた。
ジャンプしたわけでも、攻撃を受けたわけでもない。
見えない翼があるように、ふわりと移動し、2mほどの高さでぴたりと静止したのだ。
あまりにも小さな右手と左手を2人は片方ずつ上げて、宙に掲げる。
「やめてっ!逃げてユイちゃんっ!!」
「レイ、逃げて!シャオン君も!」
一瞬の静寂の中にフローラたち2人の母親の叫びが響き渡る。
しかし、2人の必死の叫び嘲笑うかのように鎌は子供達とシャオンを直撃する軌道を描きながら振り下ろされる。
その直前、鮮やかな紫色の障壁に阻まれ、大音響と共に大鎌が弾かれた。
2人の掌の前にはシステムタグが浮かんでおり、アスナたちは愕然とそれを凝視している。
【Immortal Object】と表示されたタグには不死存在と書かれていた。
それは絶対にプレイヤーが持つはずのない属性。
ゴオッ
という響きと共に、ユイの手からは漆黒の炎が、レイの手からは蒼藍の炎が巻き起こった。
炎が辺りに拡散したあと、
ユイの手にはキリトのエリュシデータを模した剣、
レイの手にはシャオンのエターナリィアクセルを模した剣が出てきた。
「鳴り響くは聖なる協奏曲…………
奏でるは四剣の旋律…………!
ライトスピード・ホーリーカルテット!!」
子供たちは自分の身長をはるかに超える剣をぶんと一振りした。
シャオンは最大級の一撃を放つ。
死神は鎌の刃でなんとか受け止めようと防御の姿勢をとる。
しかし、2人の同時に振り下ろされた剣には耐えることができなかったようだ。
鎌ごとモンスターを真っ二つにした。
ボスは爆発するように消滅した。
キリトは女性陣を守るように覆った。
衝撃波が過ぎ目をあけると、通路のそこかしこに小さな残り火が揺らめき、パチパチと音を立てている。
その真っ只中に、互いに手を繋ぎながら子供たちが俯いて、立ち尽くしていた。
床に突き立った2つの剣が、出現した時と同じように炎を発しながら溶け崩れ、消滅したのだった。
「よく分かんないけど…………もう気力残ってないや」
蒼く光るシャオンは輝きを失い、その場にへたりこんだ。
Story9-10 END
後書き
反応速度だったらキリトの方が上なんですねー……
シャオン「負けてらんねーぜ」
頑張れシャオン! 今回もチートだったけど。
シャオン「もう否定できない」
さて、次回、ユイとレイの正体が明らかになります。
じゃあ……
シャオン「次回も、俺たちの冒険に! ひとっ走り……付き合えよな♪」
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