ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-3 転機の連続
Story3-10 消えない過去
シャオンside
第46層・アリ谷
名の通り、その谷に現れるのは大アリ。数も非常に多い。
けど……決してアリみたいな雑魚じゃない。
安全マージンをとっていたとしても、あっちの方が量的有利。囲まれてしまえば忽ちHPバーがイエローになる事もある。
でも……アリは攻撃力は高いが、防御力とHPは思いのほか低い。
だから、攻撃さえ受けなければ短時間で大量に倒す事ができる。
それで、今、最も効率の良い狩場となっているのだ。
…………パーティプレイの場合だけど。
ソロの場合、囲まれる可能性が高い為に決して効率が良いとは言い切れない。
少しの油断で囲まれ、その高い攻撃力でゲージを一気にHPをもっていられるからだ。
…………俺はどうかって? もちろんソロで狩れるよ?
だって遅いもん。
この場所は、人気スポットなので1パーティ1時間までと言う協定が張られている。
そんなとこなんで、時間帯によればプレイヤーの数も多い。
まぁ、俺の探してる人は1人でその順番待ちの列に並ぶから探すの苦労しないけどな。
その人物?
もちろん……キリト。
少しの間、俺はキリトの狩りを見ていた。
「ぐっ……ッ!!」
キリトはアリたちの酸性の粘液を被弾してしまい、バランスを崩す。
自分自身の脳でプレイしているも同然。
集中力が切れれば、動きにキレは無くなり、被弾する可能性が増加する。
何時間もぶっ通しでやってたら……必然だろう。
キリトは、アリの多数と言う最大の武器を持って攻撃を仕掛けてくるアリに向かって武器を盾にするように構えた。
……助けに行ってやるか。
キリトの背後、そして前方から襲いかかろうとしていたアリ達を衝撃によって吹き飛ばした。
…………いや、周囲の群を一掃しちまった。キリト、すまん。
「……まだ1時間たってないだろ?」
キリトは、振り向かずにそう言う。
「悪い悪い。お前が随分無茶な狩りをしてたんでちょいと手を加えた」
邪魔するつもりはまったくないが、万が一と言う事もありえるからな。
他にも理由はあるけどな。
「時間もうないだろ?」
協定にある時間制限。
キリトは頷いた。
もう既に過ぎつつあるからだ。
俺たちはその場から離れていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
キリトはぼろ切れの如く真冬の地面に突っ伏していた。
「俺入んなかったらお前……」
「大丈夫だ……あれくらいさばける。確かにお前が入ったから時間は短縮できたが」
……強がりじゃないみたいだけど……ま、こいつなら大丈夫か。
そんな時だ。
「ほれっ」
俺の他に来訪者が1人。
後ろから、キリトに向かってポーションが跳ぶ。
それを受け取ったキリトはありがたく頷き、栓を親指で弾いてむざぼる様に呷る。
ポーションを渡した相手は、俺の知る限り一人。
このデスゲームが始まったときからの付き合いである、
ギルド『風林火山』のリーダー、クライン。
「シャオンの言うとおりだろ?いくらなんでも無茶しすぎじゃねェのか、キリトよ。今日は何時からここでやってんだ?」
「ええと……夜8時くらいか?」
「…………はぁ……無茶にも程があるぞお前」
「いや無茶を通り越してんだろ! 6時間は篭ってるじゃねえか!こんな危ねえ狩場、気力が切れたら即死ぬぞ!」
クラインは興奮したように顔を近づけてくる。
「疲れとるやつにその顔は劇薬だぞ」
剣を鞘に入れたまま使ってクラインを押さえつける。
「むげっ! それどころじゃねえだろっ!」
「こいつは簡単にくたばったりしないさ。
それに、こいつにもこいつなりの考えがあるだろうし」
キリトを視ながらそう言う。
何があったのかは俺も知らないけどな…………
「ああ、平気だ。待ちがいれば、1、2時間休める」
「……何嘘ついてんだお前」
「なに?」
キリトは少し驚いていたようだ。
「あのな、こんな時間帯でそんなに待ちがいるわけないだろ…………
お前それが目当てだろ…………最も効率よく稼げる時間帯だぞ?。……1+1を2って答えられないやつでも分かるって」
「はぁ……おめーらが強すぎるって言うのは初日から嫌って程知っているけどな、そういえば……お前ら今レベルはどれくらいになってるんだ?」
クラインがキリトと俺に聞く。
「今日で上がって69だ」
キリトは自身のHPバーの下に表示されているレベルを見てそう言う。
俺答えたくねーんだけど…………しょうがねーや。
「74かな」
「お前俺より上にいたのか……?
そこまで離れているとは思わなかった……せいぜいあっても3ぐらいだと…………」
キリトは驚いているようだが…………妬ましそうな嫉妬の様な表情はしていない。
それが……俺がキリトを信頼する最大の理由だ。
「……それ言ったらオレはどうなるんだよ。……キリトはオレより10は上だし、シャオンに関しては15は上かよ…………
シャオン…………お前どこでレベリングしてるんだ?」
「ん? 基本適当。
最近は…………ここでフル回転することもある」
「はぁ……常軌を逸してるな。キリトは勿論だが、シャオンもいろんな意味で」
何か聞こえてきたけど…………無視無視。
「ってかよぉ!ここ最近キリトはよく見かけるぞ。レベル上げの仕方が常軌を逸してるっだ感じだぞ?マジで。
なんでそんな無茶をしなきゃなんねぇんだ!?
ゲームクリアの為……なんてお題目は聞きたかねえぞ。
お前ら2人がどんだけ強くなったとしても、Boss攻略のペースはKoBとかの強力ギルドが決めるんだからな」
「ほっとけよ。レベルホリックなんだよ。経験値稼ぎ自体が気持ち良いんだよ」
「なわけねえだろが……そんなボロボロになるまでする狩りがどんだけキツイか、それくれぇオレだって知ってるつもりだ。それがソロなら尚更だ。
幾ら70や80あったとしても、この辺じゃソロだったらまだまだ安全マージンなんてあってないようなもんだぞ。綱渡りもいいところだ。
向こう側に転げ落ちるギリギリの線でレベル上げを続ける意味が何処にあるんだって聞いてンだよ」
クラインは、SAO以前からの友人達が中心となって結成したギルド『風林火山』のリーダーだ。
メンバーはみんな仲間思いのいいやつだ。
良い奴ではあるが、そんな男がここまで言ってくる…………
「…………クライン、お前も知ってるのか。キリトが狙っているものを」
「んな!お……オリャぁそんなつもりじゃ……」
いや、そんな表情をする時点でアウトだ。
「この際ぶっちゃけようぜ?
オレがアルゴからクリスマスボスの情報を買った、って言う情報をお前が買った……という情報をオレも買ったのさ」
そのキリトの言葉を聞いて……クラインはもう一度目を見張る。
「んだと……!くそっ……アルゴの野郎……鼠の仇名は伊達じゃねぇな……」
「……今更気づいたとしたら遅すぎだって」
とりあえず呆れ顔で言う。
「だから、オレ達は互いに相手がクリスマスボスを狙っていることを知ってるわけだ。現段階でNPCから入手できるヒントも全て購入済だって事もな。
なら、オレが何でこんな無謀な経験値稼ぎしている理由、そしてどんなに忠告しても止めない理由もお前には明らかだろう」
キリトはクラインにそう伝える。
「……悪かったよ。カマかけるみてぇないい方してよ……」
クラインはあごから離した手でガリガリと頭を掻き、続ける。
「24日の夜まであと5日きったからな。Boss出現に備えてチッとでも戦力を上げときたいのは、どこのギルドも一緒だ。さすがにこんなクソ寒い真夜中に狩場に篭るようなバカはすくねえけどな。
だが……うちはこれでもギルメンが10人近くいるんだぜ。十分に勝算あってのBoss狙いだ。仮にも年イチなんていう大物のフラグMobがソロで狩れるようなモンじゃねえことくらい、お前ェにもわかってるだろうが!」
「………」
キリトは反論できないようだ。
「まぁ…………『普通』ならそうだろうな」
「あん?」
クラインは俺の言葉に引っかかっていたようだ。
それはキリトも同様だったようだ。
「たまにはパーティーもありかな…………って」
キリトのほうを視た。
「は……?」
――俺にはそんな誘いも……受けるわけにはいかない
何しろ、1人じゃないと意味が無いのだ。
100%アイテムを入手するのには…………
「心配すんなキリト。
俺の目的は背教者ニコラスを倒す事だ。キリトが狙うようなドロップアイテムには興味ない。だから仮に俺にドロップしたとしてもキリトに譲る」
ニコラスが落とすと噂されている蘇生アイテム。
俺も最初は欲しかった。けど……ひとつしかないとしたら、俺が再び会えるのはたった一人だけだろう。
フレンドシッパーは5人そろって成り立つのに、一人だけだとな……
それに、なんか命を軽く見てる気がして……蘇生アイテムは俺にとって要らないもののような気がしたんだ。
それと……キリトが異常なまでにレベル上げに邁進してきた理由、それを俺は知らない。
けど、なんとなく分かる。キリトの纏う空気が僅かに黒くなるからな……きっと俺と同じ……いや、それ以上の経験があったのだろう…………
「やっぱりあの話のせいかよ…………蘇生アイテムの。
まぁ気持ちはわかるぜ?正に夢のアイテムだからな。
≪ニコラスの大袋の中には命尽きたものの魂を呼び戻す神器さえも隠されている≫
でもな、大方奴らが言ってるとおり、ガセネタだと思うぜ。SAOが大元の……普通のVRMMOとして開発されてた時に組み込まれていたNPCのセリフがそのまま残っちまった……本来は経験値のデスペナルティなしにプレイヤーを蘇生させるアイテムだったんだろうさ。
だが、今のSAOじゃありえねえ。ペナルティ……それは即ち、プレイヤー本人の死なんだからよ。
思い出したくねえが……あの時茅場の野郎が言ってたじゃねえか。
それによ……死んだ連中が実際にどうなるのか知っている奴はここには1人もいねえ。
死んだら向こうに戻ってて、『全部は嘘でした!なーんちゃって』とか、茅場が言うのか?ふざけんなよ手前ェ。
そんなの1年も前に決着が付いている議論だろうが。
それがほんとだって言うなら、速攻で現実の連中が皆のナーヴギアを剥ぎとりゃ一瞬で終わりだ。
だが、出来ないってことはマジってことなんだよ。
HPが0になった瞬間……ナーヴギアが電子レンジに早変わりして、俺らの脳をチンするんだよ。
じゃなけりゃ、これまで糞モンスにやられて、死にたくねえって泣きながら消えていった連中は何の為に……」
「……それ以上言うな、クライン」
キリトの表情が暗く……冷たくなってゆくのを感じた。
「……俺やキリトがそんな事わかってないと思ってるのか?
もしそうなら、俺達はお前と話すことはもう何も無い」
俺はキリトのほうを見た。
「俺も………蘇生の可能性は1%でもあれば十分だと考えている。確かめもしないで結論付けるのは逃げてるだけだ。
俺とキリトなら2人でも十分に狩れる。
それに、キリトが必要とするアイテムは俺には必要ないんだ。
ま、組むのを断るのなら、無理にとは決して言わないけどな」
「俺は…………」
目を瞑ったまま……キリトは考えた。
「……よろしく頼む。シャオン」
「考え直せ!2人とも無茶なことはやめるんだ。
お前らの実力は疑わねえよ。そりゃそうだろう、この世界でトップクラスのプレイヤーだぜ?
でもよ……いくらなんでも無謀すぎるだろ! たった2人で、年イチのBossとやるなんてよぉ!」
クラインはきっと心配してくれているのだろう。
プレイヤーの利害を越えて、純粋に、だ。
フラグMob……Bossクラスのモンスターをたった2人狩る。
それが、いかに無茶な行動なのか、それぐらい俺も知ってる。
それでも…………
「確実に狙ったモノを獲るならこの方法しかない。
やるって言った以上、キリトが了承してくれた以上、俺はやる」
「悪いな……シャオン」
「……気にすんな。あくまでも個人的なアレだからな」
とりあえずその場を去る。
「俺の目の前で…………俺の知ってるやつが死ぬのは…………もう、嫌なんだよ」
俺にとって……一番の理由は多分…………それなんだ。
Story3-10 END
ページ上へ戻る