ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-6 圏内事件
Story6-10 笑う棺桶
第3者side
19層・十字の丘
ここには、彼女の、ギルド≪黄金林檎≫のリーダー、グリセルダの墓がある。
生前、彼女が好きだった景色だったと夫であるグリムロックがそう言っていた。
だからこそ、この場所に彼女の墓を作ったのだ。
だが、今そこでは最悪の出来事が起こっている。
その場所には倒れ付すシュミット、そして、突然の事で動けないカインズとヨルコ。
その3人に迫る魔の手。
ある意味ボスモンスターよりも仇敵である存在。
SAO最悪のギルド、殺人ギルド≪笑う棺桶≫の幹部がこの場所に現れたのだ。
攻略組であり、DDAの守備隊リーダーのシュミットは勿論全プレイヤーの中でも、トップクラスの実力者の1人だ。
その彼を動けなくしたその武器の正体。
それは毒のダガーによる一撃だった。
それを操る毒ダガー使い、ジョニー・ブラック。
そして、動く事が出来ないヨルコとカインズ2人を牽制する針使い、赤眼のザザ。
そして何よりも最悪なプレイヤー。
麻痺で喋れないが内心の絶叫を裏切るように≪それ≫は近づいてきた。
膝上までをつつむ、艶消しの黒いポンチョ。目深に伏せられたフード。
そして何よりも特徴なのが操る武器。
まるでそれは中華包丁のように四角く血の様に赤黒い刃を持つ肉厚の大型ダガー。
――PoH……
シュミットはその絶望的な名前を呟き絶望に彩られた。
「Wow。確かに、こいつはでっかい獲物だな。
DDAのリーダー様じゃないか」
フードに隠れて素顔は見えない。
それが一段と不気味にさせられるのだ。
「さぁて、It's show timeと言いたいことだが、どうやって遊ぼうか?」
「へへっ、あれ!あれやろうよヘッド!」
即座にジョニー・ブラックが甲高い声で陽気に叫んだ。
「≪殺しあって生き残った奴だけ助けてやるぜ≫ゲーム。まあ、この三人だとちょっとハンデつけなきゃっすけどね~」
「おいおい、ンな事言って、お前この間結局残った奴も殺したろうがよ」
「あ、あーっ!それ言っちゃゲームにならないっすよ!ヘッドぉぉ……」
それはまるで緊張感がないやり取り。
だが、その内容はおぞましいものだった。
動けないシュミット。
その鎧は確かに現時点で高レベルのフルプレートアーマーだ。
だが、PoHの装備しているそれは現時点での最高レベルの鍛冶職人が作成できる最高級の武器を上回る性能を持つモンスタードロップ。
魔剣と呼ばれるものだ。
その魔剣と呼ばれる武器ならば、そのアーマーを容易く貫くことができるのだ。
動けない以上、抗う術が全く無いのだ。
その刃を持ち近づくPoH。
それに続いて、ザザ・ジョニーが続く。
死が近づいてきた。
シュミットはそう思った。
だが、その時だ。
主街区の方向から一直線に近づいてくる白い燐光だった。
小刻みに上下する光が闇夜に溶ける様な漆黒の馬の蹄をつつむ冷たい炎であると見て取れたのは数秒後だ。
馬の背には、これも黒一色の騎手の姿がある。
その姿を見た笑う棺桶のメンバーは皆、数歩下がる。
その直後、いっぱいに手綱を引いていた騎手が格好良く、着地するものと思われていたのだが……
ドスン
っと尻餅をついていた。
それと同時に、「いてっ!」っと毒づいていた。
腰を摩りながら立ち上がった。
次いでヨルコとカインズを見て緊張感の無い声を出した。
「ぎりぎりセーフかな。ここまでのタクシー代はDDAの経費にしてくれよな」
この世界アインクラッドには所持アイテムとしての騎乗動物は存在しないが、一部の町や村にはNPCの経営する厩舎があり、そこで荷物を運搬する為の牛などが借りる事ができる。
だが、乗りこなすのにはかなりの高度なテクニック要する上にその使用料金は馬鹿高い。
だから、使おうとする者はそうそうはいない。
シュミットは、つめていた息をゆっくりと吐き出しながら、乱入者、攻略組ソロプレイヤー≪黒の剣士≫キリトの顔を見上げた。
キリトは馬を回頭させるとその尻をぽんと叩いた。
それがレンタルを解除させる操作だ。
その瞬間忽ち馬は主街区方向へと立ち去っていった。
「よう、PoH。久しぶりだな。まだその趣味悪い格好してんのか?」
「貴様には言われたくねえな」
答えたPoHは隠し切れない殺意を孕んでびんと響いた。
「ンの野郎!余裕かましてんじゃねーぞ!状況解ってんのか!テメー1人でオレ達3人を相手にできると思ってんのか!?」
ぶん!っと毒ナイフを振り回す配下を左手で制し、PoHは右手の肉切り包丁の背で肩をとんと叩いた。
「こいつの言うとおりだぜ?キリトよ。格好良く登場したのは良いけどな、いくら貴様でのオレ達3人を1人で相手できると思っているのか?」
シュミットは辛うじて動く左手を握り締める。
状況はまさにPoHの言うとおりだ。
いかに攻略組でもトップクラスの戦闘力を誇るキリトと言えども、ラフコフの幹部3人を纏めて倒せるわけが無い。
だが……
「キリト、なぜアイツを!?」
シュミットはそう思った。
「ま、確かに無理だな。解毒ポーションも飲んできたけど。確かに≪1人≫なら、な」
キリトはにやりと笑う。
「何ィ?」
PoHはその言葉に不快感を覚えた。
この顔、ハッタリじゃない。
「それにさ、前ばかり気にしちゃ駄目だな?ラフコフの皆さん?」
キリトがそう言うと……
その次の瞬間、全身を貫かれるような感覚に襲われ、横を青い筋が通った。
「「「ッッ!!」」」
それはPoHも例外ではない。
体の反応に任せて振り返る。
そこには、倒れ付すシュミットに解毒結晶を掲げている者がいた。
その男は、あたりはまだ闇に近しい薄暗さだと言うのに、はっきりとその輪郭が解る。
突出しながら現れたキリトとは似ているようで少し違うその姿。
それがPoH達には死神に見えていた。
黒と青の死神に見えたのだ。
自身のギルドの名前は笑う棺桶。
どちらかと言えば、死神の名に相応しいのは自分達だ。
だと言うのに、その自分達でさえ死神を彷彿させるその姿。
「てめぇ、蒼ッ!!」
そう、それは笑う棺桶のメンバーにとっては忌々しい存在。
あの攻略組との大規模戦争の時、笑う棺桶壊滅の一手をしたのは正に目の前のこの男の所業だった。
『蒼藍の剣閃』シャオンだ。
「目の前しか見えないのはいつも同じみたいだな」
シャオンは、シュミットに解毒を施した後、徐に立ち上がった。
「さて、どうするかな?」
キリトは同様に剣を構えつつ一歩前へでる。
「オレ達2人を相手にしてみるか?久しぶりに、黒と蒼の剣技、たんと堪能できるかもしれないぜ?」
キリトは3人を見ながら、にやりと笑う。
シャオンとキリト、2人が合わさる剣技が如何なるものなのか。
それは、アインクラッド上層部を根城にしているものなら、誰でも知っているといっても大袈裟ではない。
一撃に重きを置き、素晴らしい反応速度を見せるキリト。
手数で圧倒し、絶対的な始動速度で攻めるシャオン。
個々で相手にするより遥かに死角がなくなる。
そしてシャオンもPoHに、他の2人にも視線をやると
「お前達は死を恐れないんだろう? それに時間稼ぐくらいなら、俺らだけで十分だ。
時間が立ちゃ他の攻略組の連中もここに集まる。
弱者はどっちだろうな?
それとも……ひとっ走り、付き合うか?」
「てめーら調子に……」
ジョニーが毒ダガーを構えつつ、飛びかかろうとした時、PoHがそれを止めた。
「確かに、キリトだけならまだしも、貴様が、そして他にも蛆虫が集まるようじゃ、コチラに分が無いな」
PoHはシャオンの目を見てそう言う。
眼だけが蒼いはずなのに、体を覆いつくすかのようなオーラを放っているかのような蒼い眼。
周囲を凍てつかせるようなその色。
PoHは武器をしまうと、撤退を促す。
そして左手の指を鳴らすと、配下の2人が数m退く。
赤いエストックから解放されたヨルコとカインズがその場にふらふらと膝をついた。
その後、2人を退かせたPoHは、シャオンとキリトを一頻り見ると。
「黒と蒼。貴様らは、貴様らだけは、いつか必ず地面に這わせてやる。あの時以上の苦しみを与えてやる。
貴様らの大事なお仲間の血の海にゴロゴロ無様に転げさせて、その黒と蒼の二種に血の赤を追加してやるから期待しといてくれよ」
悪意の塊の様な声を発する。
シャオンは、それを軽く受け止めると。
「恨みあんなら直接来なよ」
負けずと劣らずの迫力を持ってPoHの言葉を跳ね返すが如くだった。
「楽しみだ。貴様の顔をゆがめるのは……くっくっく」
そう一言だけ最後に言うと、巨大な肉切り包丁をを指の上で器用に回すと腰のホルスターに収める。
黒革のポンチョをばさりと翻し、悠然と丘を降りてゆく頭首に続く二人。
毒ダガー使いのジョニー・ブラックは、先ほど言っていた攻略組が気になるのか、やけに足早に立ち去って行き、
赤眼のザザだけは、その場で振り返り2人の方をじっと見ていた。
その髑髏マスクの下で妖しく光る両眼を二人に向け、囁く。
「格好つけが。次はオレが馬でお前らを追い回してやる」
「なら、練習をしておくんだな。見た目ほど簡単じゃないぜ?」
キリトはそう還した。
「ケッ、オメーはオレと色以外キャラかぶってるんだよ。その眼、いつか抉り取ってやる!」
「俺のスピードについてこれるならな」
シャオンに少し呟くと低い呼吸音だけを残して、消え去っていった。
Story6-10 END
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