ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-5 触れあう手たち
Story5-5 討伐戦へ
シャオンside
今日、ラフコフ討伐戦のために依頼or志願で集まったメンバー。人数は五十人規模。
量も質も、間違いなくこちらが圧倒しているだろう。
だが、俺はそれを分かっていながらも、『絶対に勝つ』という気持ちはわかなかった。
攻略組は、あくまでも敵を降伏させるという考え……極端な言い方をすれば、理想に甘えた考えで動いている。メンバーの中には、これだけのレベルが有れば無血投降すら可能だと本気で信じているプレイヤーもいる。
俺は、奴らのアジトが発見された低層フロアのダンジョンを進みながら、考える。真夏とはいえ時間は深夜零時、その風は涼しく、どこか心を休ませてくれるように感じた。
そして進むこと数分。
辿り着いた安全エリア……奴らの根城には、誰一人としてラフコフのメンバーは居なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先頭を行っていた偵察の一人によって奴らの不在を告げられ、『攻略組』の面々が急行した先は、見事なまでにもぬけの殻だった。同時に、ざわめき出すメンバー達。数人の顔に、明らかな恐怖と動揺が生じる。慎重に慎重を期して行われた奇襲が、どこからか情報が漏れていたのだ。
「奴らはどこだ!?」
「くそっ、アイテム類すらねえ!」
「ったく、肩透かしかよ」
口々に不平を言うメンバー達。ある者は怒り、ある者は武器を下ろし、ある者は呆れたように額を抑える。
だが、そんなものをしている余裕はない。
俺は、その空間に何かを感じた。
数々の迷宮を潜り抜けてきた俺の勘がそれを感じさせた。
「後ろだ! 皆構えろ!!!」
直後、背後からキリトの声が響き、真っ白な煙幕が、四方八方から俺達を包み込んだ。
広間は、一気に混乱に包まれた。
明らかに、奴らが襲撃を予測して仕掛けたであろう罠。
しかし奴らの罠は、この視界を遮る白煙だけでは無かった。
「うわあ!?」
「足が、足がっ!!!」
白煙と同時に発動したのは、俺が直前に見た安全エリアに設置されていた無数の罠。
トラバサミのような、足を挟んで固定し、継続ダメージを与えるものだった。
本来安全エリアには、モンスターのPOPが無いだけでなく罠なども存在しない。
奴らは誰にも知られていないスキル『罠設置』スキルとでも言うべき技で、奴らが設置したのだろう。
逃げるのではなく、迎え撃つために。
完全に罠の索敵を怠っていた俺達。
こんな低層フロアのダンジョン、『攻略組』の面々が油断していたのも仕方がない。
本来存在しない罠によって、数人のメンバーが動きを止められる。
罠の嵐は、まだ収まらない。
「な、なんだ!? HPが!」
「落ち着いて! 恐らく貫通継続ダメージと、毒の複合罠よ! 打撃系武器の人、すぐに捕まった仲間の元へ! 罠を破壊して!」
「だ、だめだ! この煙でカーソルが出ない! 誰がどこだか…………」
「アスナ!」
「シャオン!?」
かろうじて確認していた場所に一つに走り込むと、そこにいたのはアスナだった。
純白のブーツが無骨なトラバサミに挟まれており、そのHPゲージが徐々に減少している。『HP減少毒』と
『貫通継続ダメージ』だ。
この手のトラップを破壊する方法は主に二つ。
一つは今アスナが指示しており、自身も実行しているように、罠自体を攻撃して破壊する方法。
彼女の手にあるのはこの手の隙間の多いオブジェクトとは相性最悪の細剣だが、自前の技量で以て正確に刺突を当てて耐久値を削っていく。
だが…………この方法では、例え最も相性のいい打撃武器でも十秒以上はかかるだろう。
二つ目はそれよりも早い破壊手段。罠解除スキルだ。
しかし、俺たちは攻略組。そんなスキルを持ってるプレイヤーはいない。
でも、俺には三つ目の手段がある。
神速剣スキルには、罠解除に特化したソードスキルがある。多分、速さを阻害されたくないが故のスキルだろう。
一つは片手剣でないと使えないが、広大な範囲を持つそのソードスキルなら大丈夫だろう。
もう一つは剣系なら何でも使えるが、一人分しか使えない。
俺はとりあえずアスナの足を捕らえている罠に向けて放った。
神速剣スキル3連撃技〔セイリング・ノーション〕
罠はアスナの足を解放した。
「ありがとう、シャオン」
「礼は後だ! ここから広範囲罠解除ソードスキルを使う」
煙の中何がどうなっているか分からない。
部屋中央付近では罠に囚われたのだろうメンバーの悲鳴が聞こえ、更にはキリトの叫んだように後ろからの奇襲をかけてきたラフコフメンバーとの戦闘音まで聞こえる。
こういった状況でどうすればいいか分からないために、的確な指示を出せる人間が必要。
すぐにアスナを見つけられたのは幸運だ。凄腕の細剣使いであると同時に、優れた指揮官でもあるアスナ。
その彼女に指示する。
「アスナ! 全員伏せさせろ!」
「お願い! 皆伏せて!!!」
神速剣スキル広範囲技〔フェザースコール〕
そこに連続で繰り出す連二刀流スキル広範囲技〔ラウンドサークル・スレッジ〕
遠距離の剣撃波を円状の攻撃に合わせてうつ。
凄まじい勢いの風と剣撃波は一気に煙を掻き消してくれた。
それによって、フロアの惨状が露わになる。
慌てて身を伏せる者、罠に苦しむ者。
そして幾つかの脇道からの襲撃に、果敢に反撃する者達。
「部屋中央付近の人は罠の破壊と回復を! 戦線近くの人たちはいったん下がりつつ前線を何とか維持して! 最低四人は固まって、スイッチしながら戦うのよ!」
素早く状況を判断したアスナが、的確な指示を飛ばす。
流石のカリスマだ。
すぐさま皆を統率し、体勢を立て直していく。
「アスナ。俺は戦闘時の対応を取ればいいんだな?」
「お願い! シャオン君には無理かけるけど一人で!」
「その一言を待ってた!」
他のメンバーの悲鳴にアスナの注意が逸らされる。
と同時に、俺は一気に走りだす。発動する軽業スキルの技によって地面を激しく踏みしめ、宙に体を踊らせる。
行く先は、剣戟の交差する最前線のさらに奥。
片手剣を対オレンジプレイヤー用の高レベル麻痺毒付きに変える。
「コリドーオープン!」
回廊結晶を使い、コリドーを開いた後フェザースコールと神速剣スキル広範囲技〔スピニングライド〕で次々麻痺にしていき、吹っ飛ばしてコリドーに無理やり入れる。
だが…………ラフコフ討伐戦は、ちょっとしたボス戦よりも大変な戦いになった。
Story5-5 END
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