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第六章

「いい娘ね」
「そうね」
「一緒にいて悪い気にならない」
「見下したところのない」
「普通なところも多くて」
「悪い娘じゃないわね」
 このことがわかってだ、そしてだった。
 寿子の周りに次第に人が集まってきた、そのうえで。
 友人も増えていった、それでだった。
 休日、學校も塾もない日にだ。寿子は雅にこんなことを言った。
「お昼出て行っていい?」
「お昼に?」
「晩御飯までに帰るから」
 こう母に言うのだった。
「ちょっとね」
「今日塾ないわよね」
「うん」
「それに茶道部って休日は」
「部活ないわ」
「それで何処に行くの?」
「野球観に行くの、阪神対広島ね」
 雅も言う。
「その試合に」
「そうなの」
「甲子園行くのね」
「駄目?」
「いいわよ」
 雅は微笑んで娘に答えた。
「行ってらっしゃい」
「いいのね、遅いけれど」
「皆と一緒よね」
「うん、郁子ちゃんのお母さんも一緒に来てくれるから」
「郁子ちゃん?」
「同じ二年の茶道部の娘なの」
 寿子はすぐに説明した。
「その娘のお母さんも一緒だから」
「保護者同伴ね」
「そのこともあるから」
「それじゃあ余計にいいわ」
「どちらにしてもいいのね」
「ええ、ただ試合が終わったらすぐに帰って来るのよ」
 理由は簡単だ、夜の街は危ないからだ。
「まあ今日は巨人相手じゃないからましだけれど」
「負けた時は?」
「勝ってもよ、巨人相手の試合は特別なのよ」
 甲子園におけるそれはだ。
「うちだって皆阪神ファンじゃない」
「私甲子園行ったことないけれど」
 実ははじめて行く、しかしそれでもだった。
「そうなのね」
「噂は聞いてたでしょ」
「まあ、有名な話だから」
 実は寿子はこれまで野球に興味がなかった、韓戦はテレビでもなかった。だが同じ茶道部の娘達に誘われてなのだ。
「阪神ファンが巨人嫌いなことは知ってるわ」
「だから勝ったら騒いでね」
「負けたら暴れるのね」
「そう、けれど今日の相手は広島だから」
「勝っても負けてもなのね」
「そんなに騒がないから」
 安全だというのだ。
「安心していいわよ」
「そういえば阪神ファンって巨人以外には優しいわね」
「巨人は別なの」
 永遠の宿敵なのだ、そもそも巨人は禍々しい邪悪な瘴気を常に放っているチームなので多くの者が嫌っているが。
「あそこだけはね」
「広島には負けてないの?」
「負ける時が多いわよ」
 これが現実である。
「それもここぞっていう時にね」
「それでも嫌いじゃないのね」
「確かに悔しいけれどね」
 だがそれでもなのだ。 
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