双子の勝負
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第一章
双子の勝負
「俺は天才だからなあ」
「また兄貴は馬鹿言うんだな」
松山秀巳はいつもだ、むっとした顔で双子の兄の松山恒夫に言うのだった。二人は小学校時代から野球をしていて同じチームでやってきた。秀巳はピッチャーで恒夫はサードだ。それぞれのポジションのレギュラーだった。
それは八条高校でも変わらない、秀巳はエースで恒夫はサードだ。しかも恒夫が四番で秀巳が五番を打っている。兄弟で部の主力だった。
顔は二人共父親似で太い眉にはっきりとした顔立ちだ、背も高くしっかりとした体格だ。だがその性格は正反対だった。
恒夫は明るいお調子者だ、自分を天才と言っていつもにやにやとしていてすぐに悪戯をする。しかし秀巳は生真面目な努力家で冗談なぞ言わない。その秀巳がだ。
練習の中ふざけてこんなことを言う兄にだ、口を尖らせて注意したのだ。
「もう少し真面目にやれないのか」
「俺いつも真面目だぞ」
「何処がだ」
こう返す恒夫だった。
「自分で自分と天才とか言うな」
「駄目か?」
「駄目に決まってるだろ、ふざけてる暇があったらな」
「練習しろっていうんだな」
「折角練習は出てるんだからな」
それで、というのだ。
「ちゃんと真面目に練習しろ」
「いや、俺の練習はさ」
野球のそれは、と返す恒夫だった。
「楽しむ為なんだよ」
「野球をか」
「やっぱりあれだろ、野球はな」
「楽しむものだからか」
「練習だって楽しまないとな」
バットで素振りをしつつの言葉だ。
「駄目だろ」
「守備もか」
「ああ、守備も楽しいだろ」
そちらもだというのだ、恒夫は守備にも定評がある。打球反応は速くグラブさばきもいい。強肩で守備範囲の広いサードだ。
「だからな」
「守備練習も楽しいんだな」
「野球は楽しいからやるんだよ」
「強くなる為じゃないのか」
「ああ、俺はな」
恒夫は、というのだ。
「楽しんでるんだよ」
「だからだっていうんだな、兄貴は」
「御前も野球好きだろ」
「当たり前だろ」
これが秀巳の返事だった。
「だからやってるんだろ」
「そうだよな、だったらな」
「楽しめばいいっていうんだな」
「俺はそう思ってるんだけれどな」
「好きだから真面目にやるんだろ」
真剣そのものでだ、冗談も悪ふざけもなしでだ。
「さもないと怪我するだろ」
「リラックスしないとかえって危ないぜ」
「兄貴はリラックスじゃないだろ」
ふざけているというのだ。
「全然違うんだよ」
「やれやれだよな、この石頭は」
「何がやれやれなんだ」
肩を竦めさせる兄にまた言う。
「本当に少しは真面目にやってくれ」
「いいじゃないか」
「よくないに決まってるだろ」
こう言い合いながらも野球をしている二人だった、しかし二人はそれぞれタイプは違うが実力は本物であり。
甲子園にも出て活躍した、そしてその活躍が注目されて。
プロにもドラフトでスカウトされた、とはいっても日本プロ野球機構の組織ではなく八条グループが運営している八条リーグの中でだ。
恒夫は福岡のチームに、秀巳は大阪のチームにそれぞれドラフト一位で入った、この時恒夫ははしゃいで自宅で言った。
「よし、福岡を日本一にしてやるぜ」
「日本一になるのは大阪だ」
すぐにだ、秀巳は目を怒らせてその恒夫に言い返した。
「俺が入るんだからな」
「シリーズで俺に決勝アーチを打たれて負けるんだな」
「負ける筈がないだろ」
秀巳は目を怒らせてだ、恒夫に言い返した。
「俺が兄貴に打たれるか」
「そう言って結構俺にホームラン打たれてるよな」
これまでの練習においてだ。
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