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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百四十話 キルヒアイス家の人々

 
前書き
おまたせしました。 

 
帝国暦484年10月12日

■オーディン キルヒアイス男爵邸 エーリッヒ・フォン・キルヒアイス

今日も未だに慣れない朝が始まる。数年前まで単に司法省に勤務する下級官吏であった私だが、今では帝国貴族として男爵位を頂き生活している。元はと言えば皇帝陛下が何のお戯れか永年勤続者に帝国騎士を叙爵した事だった。

司法省でも私のような25年以上勤続者全員が叙爵し、俄帝国騎士が増えたのだが、昨今帝国騎士の価値は下がりっぱなしで有ったから、さほど気にせずに居たのだったが、その事がその後の男爵叙爵に繋がるとは思いもよらなかった。

一人息子のジークフリードは小学生の頃、隣りに引っ越してきたミューゼル姉弟と親しくなっていたが、姉の方が、皇帝陛下のお目にとまり寵姫として後宮へ入られたことが、ジークフリードの人生と私達夫婦の立ち位置も変えてしまったのだ。

アンネローゼ様がグリューネワルト伯爵夫人となった事で、弟ラインハルト君は軍人になるため幼年学校へと転入したのだが、ジークフリードまで一緒に行こうと誘ってきたのだ。息子の性格から軍人に向いていないと思っており、息子には教師になって欲しかった。

妻は、息子が軍人になるとは思わず。その事を聞いた時は反対する気であったが、息子の信念を判った私達は、断腸の思いで送り出すことにした。息子が旅立った日は、妻と二人で泣き続けたものだ。その息子も優秀な成績で卒業し、ラインハルト君と共に活躍をしたそうだ。

そして、私が憲兵隊に出向中にあの事件が起こったのだ。事の発端は息子が半舷上陸中にサイオキシン麻薬の中毒患者を逮捕したことからであった。その犯人から芋づる式に帝国を悩ませていた、サイオキシン密売組織を把握でき一気に撲滅する事に成功したのである。

其処までなら、息子よ良くやったと言えるのだが、サイオキシン事件最大の功労者の一人として息子が皇帝陛下より勲章と爵位を下賜され、しかも当時息子は私の影響で帝国騎士階級に有ったため、必然的に男爵位を叙爵される事となり、しかも当人だけでなく親である私達夫婦にも男爵位が下賜され、男爵と男爵夫人になってしまったのだ。

私も戸惑うやら、驚くやらであったが、未だ上司のグリンメルスハウゼン伯爵、ケーフェンヒラー子爵、モルト子爵が非常に良い方々なので、色々なフォローをして頂けたが、妻は完全に混乱して暫く寝込んだほどだ。

男爵に叙爵されてからが大変で、屋敷の下賜や何故か私の趣味を把握していたらしく、バルドル星系内惑星の一部を所領として下賜された。何が何やら判らない内に、モルト子爵の手はずで旧宅から蘭温室や庭木まで全てが、男爵邸に運び込まれていた。

屋敷を初めて見たときは驚きの連続であった。今までの家の数十倍を超える面積で重厚な煉瓦作りの建物で此ほどの建物でどう生活したらいいのだろうかと妻と途方に暮れたものだ。しかしその点はモルト子爵の手引きで、執事やメイドが既にスタンバイをしており、テキパキと迎え入れてくれた。

しかしいきなり『旦那様、奥方様、お帰りなさいませ』は面食らった。そんな事を言われるのは精々若い頃に通ったメイド喫茶でしか覚えが無かったから。

その日から、どう生活したらいいのだろうかと散々悩みながら今に至っている。

庭木を剪定しようとすると、庭師が『旦那様自分がやります』とやってくるし。妻は妻で掃除や洗濯をしようとするとメイドが、『奥様の御手を煩わす訳にはいきません』と来るし。至れり尽くせりなんだが、元々平凡な一庶民だった我々にはどうも勝手が行かない事ばかりだ。

余りに、やることがないので、執事やメイド達に休んでもらい自分達で庭仕事や掃除洗濯をしようとしたところ、執事やメイド長に散々諭されてしまった。

『悪いが今日はみんな休んでいて貰いたい』
『旦那様奥様、何故で御座いますか?』
『君たちも疲れただろうから、たまには私達夫婦が仕事をしようと思ってね』

私達夫婦としてみれば、普段働いて貰って居るので、たまには休んだらと言う事と、久しぶりに庭仕事や掃除洗濯をしたいと言うことも有って話したのだが、彼等の彼女らの答えは私達夫婦にとっては驚気であった。

『旦那様、旦那様は我々が要らないと仰っているのですか?』
『いやそんな事はない、普段から良くして貰って居るから、たまには休んだらどうかと言う事だよ』
『お気持ちはありがたい事ですが、我々は確りと休みを頂いております』

執事の強い拒否の姿勢に妻がフォローしてくれる。
『掃除洗濯とかばかりで大変じゃないのかしら?』
『奥様、私達はそれが仕事で御座います』

その言葉に続いて執事が諭すように私達夫婦に話しかける。
『旦那様、奥様、我々貴族に仕える者達はそれ相応の対処や行動を取れるように教育を受けております。更に皆が皆この仕事に誇りを持って居るのです。その仕事を取り上げると言うのは、我々にとっては放逐される事と同じ事なのです』

『いや、そんなつもりで言った訳ではないんだが』
慌てて否定した,私の答えを聞きながら、執事は諭すように話を続ける。

『判っております。旦那様、奥様は数年前までは平民でいらっしゃったのですから、しかし貴族社会では主に仕事を取り上げられた使用人は二度と他の家に仕えることが出来なく成るのです。何故なら主人に愛想を尽かされた、そう思われるからです。貴族とは我々のような使用人達に仕事を与えて下さる存在なのです。願わくば、我々の仕事を奪うような事はお止めくださって頂ければ幸いです』

『判った』
『判って頂ければ幸いで御座います。差し出がましい口を効き申し訳ございません』
こうまで言われては、それ以上強行する訳にも行かず未だに昔懐かしい雑用は出来ない状態だ。

今では精々私は趣味の蘭の栽培と食後の黒ビール、妻は偶の食事作りと息子のセーターを編んだりするのが趣味に成っている。それだから最近、妻と二人で敷地内に移設された嘗ての家でアフタヌーンの御茶を楽しむのが日課に成って居る。未だ息子が小さく賑やかだったあの頃が懐かしい。

憲兵隊へ息子達が転属してきて何回も会っているが立派に成ったものだと思うが、あの若さで既に大佐だ、出世と共に妬みも生まれるのだから、特にラインハルト君はグリューネワルト伯爵夫人絡みの良くない噂を聞く事も有り息子が心配で為らない。

しかし、何時も二人一緒に行動し下宿も一緒だ。せめてオーディンに居るときぐらい実家に帰れば良いものを、あれでは孫の顔を見るのが何時になるやら、手前味噌ではないが息子は良い男だから、女性ぐらい選り取り見取りであろうに、女性に興味がないのではと妻と心配している。まさかと思うが、怪しい関係では無いのかと勘ぐってしまう。




帝国暦484年10月13日

■オーディン 憲兵隊総監部  ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト

憲兵隊へ来て早くも4ヶ月が経ったが、デスクワークは非常に辛い、宇宙へ戻りたい。キルヒアイスは平然と書類作業をしているが、俺は段々飽きてきた。それに今俺達が調べている書類は廃止された社会秩序維持局の恣意的にねじ曲げられ冤罪になった者達の書類だと言うことも有る。

ルドルフ以来悪事を重ねてきた社会秩序維持局の汚泥と汚物にまみれた書類の整理だ、既に数百年経ってた書類など何の価値があるのかと言いたいが、此も奴等の罪を暴くためだと言われたので仕方なく書類整理だ。

「ラインハルト様、手がお止まりですよ」
「キルヒアイスも良く飽きないな。俺はいい加減飽き飽きしている」
「誰かがやらねばならない仕事ですから、それに新しい方は今なら流刑星から助けられる人々が見つかるのですから、やりがいがあります」

キルヒアイスは、何時もこうだ。ゴミための中でも美点を見つけようとしているのだから。
「そうだな、そう思えば辛くないか」
「そうですよ、ラインハルト様」



帝国暦484年10月14日

■オーディン 憲兵隊総監部  ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト

何時ものように書類整理中にTV電話が鳴った。
『此方はジークフリンデ皇后恩賜病院です、帝国軍中佐ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト男爵様でありますか?』
「そうだが」
なぜ病院から?それにこの担当者の言い辛そうな顔は何だ?

『御父君であらせられる、ライヒスリッター、セバスティアン・フォン・ミューゼル氏におかれては、帝国暦484年10月14日10時18分、当病院特別病棟にて死去されました。死因は肝硬変。当病院はミューゼル氏の回復に最善を尽くしましたが、入院時には既に手遅れのと言うべき状態でした。誠に残念では御座いますが、ご本人が入院直前までアルコールの摂取に対して自省して頂けなかったことが・・・』

「本人の健康管理に問題があったことは承知している。病院に責任がないことも、事態は了解した。御苦労だった」
『それでは』

心配したのかキルヒアイスが無言で俺の肩に手を置いてくれた。
「心配するなキルヒアイス、チャンと葬式には出るさ・・・・・・出ないと姉上に呵られる」




帝国暦484年10月15日

■オーディン ミューゼル家墓所  ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト

あの男の葬儀など出たくもなかったが、姉上が喪主では出ない訳も行かず参列したが、本当に少数の人間しか来ていないし、殆どが姉上の関係者だ。あの男の人望の無さがよく判る、地獄で苦しむがいい!

埋葬が終わり、参列者が帰ったので、やっと姉上と話す事が出来る。
「ラインハルト」
「姉上」

キルヒアイスは少し離れて姉上と俺の時間を作ってくれている。
姉上とは話す事が出来た、今度はキルヒアイスお前の番だ。

離れたところに居るキルヒアイスを呼びに行く。
「キルヒアイス、姉上が」
「アンネローゼ様」

「ジーク、今日は来て下さってありがとう」
「アンネローゼ様、宮廷で何かお困りのことが御座いましたら、どうかラインハルト様や私にお話し下さい。少しはお気が晴れるかも知れません」
「ありがとう、ジーク、本当にありがとう」

その話の最中にグリューネワルト伯爵夫人の執事が割って入ってきた。
「グリューネワルト伯爵夫人、誠にお気の毒な事で御座います。陛下の仰せにより今夜のオペラ鑑賞は父親の冥福を祈るために伯爵夫人には暫しの休養をとの事で御座います」

姉上も驚いている、此で姉上と暫く居られるのだろうか。皇帝もたまには良いことを言う。執事が続いて話をする。
「なお、伯爵夫人には一週間ほどノイエ・サンスーシから外出し、ご実家で父親の冥福を祈る様にとの事で御座いますが、伯爵夫人のご実家が既に存在なさらないため、シェーンヴァルト男爵邸も存在しないため、幼なじみのキルヒアイス男爵邸でシェーンヴァルト男爵共々冥福を祈る様にとの事に御座います」

更に姉上が驚く、俺もだ、キルヒアイスも驚いている。一週間か、姉上と何を喋ろう。


「ラインハルト様、宜しいのですか?」
「ジーク、良いのですか?」
「キルヒアイス、ご両親にご迷惑をかけるが、宜しく頼む」

キルヒアイスが張り切る顔だ、姉上は困った顔だが、大丈夫だろう。


帝国暦484年10月15日

■オーディン キルヒアイス男爵邸 エーリッヒ・フォン・キルヒアイス

大変だ、当家にグリューネワルト伯爵夫人が一週間も逗留なさるとは、母さん。たいへんだ!!


帝国暦484年10月15日

■オーディン オペラハウス    テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

ラインハルトの父親が亡くなったので、父様に頼んでアンネローゼを一週間キルヒアイスの家に泊めるというデンジャラスな事を仕込んだよー!

しかし、その為にオペラ鑑賞を母様と一緒と言う事に成って、母様が張り切って私まで参加させられるんだ!!オペラなんか眠くなるよ!!仕方が無いので、道連れにオペラ好きなメックリンガーを誘ったら、二つ返事で来てくれました。

途中で眠くなったけど、メックリンガーのお陰で何とか持った。メックリンガーは凄く喜んでいたよ。  
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