ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start your engine in Aincrad
Chapter-4 シリカとピナ
Story4-7 思い出の丘にて
第3者side
赤レンガの街道を只管進み、小川にかかった小さな橋を超えた。
「あれが思い出の丘だよ」
シャオンが指をさし伝えた。
その言葉を聞き、シリカは笑顔になる。
目的の場所についたのだ。
――ピナを助ける為に必要なアイテムがある場所に……
「みたところ、分かれ道は無いみたいですね?」
道中を簡単に見たシリカはそう聞く。
「なんだけど……モンスターとのエンカウント率が上昇するんだ。
気を付けてくれよな」
シャオンは、肩に片手剣を担ぎそう言う。
「はいっ!」
――本当にもうすぐ、もうすぐピナを救える
そう考えると自然と歩みが速くなる。
色とりどりの花が咲き乱れる登り道に踏む込むと、シャオンが言うとおりモンスターのエンカウント率が上昇していた。
四方八方囲まれることも多い。
「これぐらいなら……俺一人で……」
「シャオンに任せる」
シャオンがキリトにそう言うと……殆ど一瞬だ。
シャオンは一瞬で、無数のモンスター達の行動を削いだ。
動けない状態にして、トドメをシリカに任せる。
効率よく進め、かつ経験値も得る事が出来る、
想像以上のエンカウントにも驚いたが、シャオンとキリトの実力も想像以上だった。
――『底が見えない』
その言葉、よくアニメなんかで聞くけれど……本当に、よくわかる。
初めて会ったとき、あの層最強種のドラゴンエイプをまるで問題にしなかった。
その時からキリトさんはかなりハイレベルだってわかってたけれど……
シャオンさんもキリトさんと同じぐらいなのはよく分かる。
でも……それならお2人は、なんでそんなハイレベルなのに35層あたりに?
ま、いいか。この冒険が終わったら、聞いてみよう
シリカはそう思い、考えるのを止めてこの思い出の丘攻略に再度意識を集中させた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、高く繁った木立の連なりをくぐり
「うわぁ……」
シリカは目を輝かせた。
そう、そこが丘の頂上だった。
それだけではない。一面が美しい花々が咲き誇っているのだ。
「こ、ここにその花が?」
シリカは、中心を見ながらそう聞く。
「そうだよ」
シャオンは頷いた。
「真ん中辺りに岩があって、そのてっぺんに」
キリトが指をさした。
シリカはそれを聞いた途端に走り出す。
もう、待ちに待ったから。
そして、中心に行って覗き込むと……
「え……ない、ないよ、シャオンさん!」
「慌てるなって。よーく見ればあるんだよ」
シリカは言われるままにもう一度岩を覗き込んだ。
すると、シリカがビーストテイマーだと認識したのか、柔らかそうな草の間に一本の芽が伸び、シリカが視線を合わせるとフォーカスシステムが働き、更に細部に至るまでわかる。
若芽はくっきりと鮮やかな姿へ変わり、先端に大きなつぼみが出来た。
それはゆっくりと開き、真珠の様な雫が生まれた。
シリカは、それに手を伸ばす。
絹糸の様に細い茎に触れた途端、氷の様に中ほどから砕け、シリカの手の中には光る花だけが残った。
そして、そのアイテム名は
『プネウマの花』
「果報は寝て待て、ってな。
寝ちゃダメだけど」
「これで、ピナを生き返らせれるんですよね」
今日一番の、幸せそうな笑顔だった。
「そうだよ」
「その雫を心アイテムに振り掛ければOK。
だけど、ここは強いモンスターが多いから、もうちょっと我慢して、町に着いてから、な?」
「はいっ!」
シリカは満面の笑みでアイテム欄に花を収納した。
「よかったな」
シャオンはキリトに聞こえるようにそう言う。
シリカは、この会話には気がついていない。
プネウマの花に釘付けになっているからだ。
「ああ。ありがとな、シャオン」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、シリカは転移結晶で一気に飛んでしまいたかったが、徒歩で帰る事にした。
転移結晶は、高価なものだからギリギリの状況で使うべきものだからだと判断したからだ。
シャオンとキリトの2人がいれば、シリカに危険は無いだろう。
幸い、帰り道では殆どモンスターと出くわす事はなかった。
――あと少し、ほんの少しで、会える。ピナに……
シリカは弾む胸を抑えながら先頭で小川にかかる橋を渡ろうとした時。
「……シリカ」
シャオンから呼ばれた。
シリカは驚いた。
その声が強張っていたのだ。
振り返ると2人の表情ががらりと変わっていた。
まるで、何かを警戒するかのように。
シャオンたちは、橋の先を睨みつけている。
「え?ど、どうしたんですか?」
シリカは何も感じない。
「そこで待ち伏せているやつ、出てきたらどうなんだ?」
「えっ?」
2人が睨んでいる場所。
橋を少し超えた先にある木立。
シリカも目を凝らした。
だが、何も見えない。
「さっさと出てきなよ、赤髪の女」
シャオンもキリト同様に言う。
はっきりと、誰がいるのかもわかっているようだ。
「あかがみ?」
シリカはその言葉に驚きを隠せない。
赤い髪で女。
そんなプレイヤーは1人しか思いつかない。
そして、その嫌な予感は的中する。
シャオンの言うとおり炎の様な真っ赤な髪、赤い唇。
黒いレザーアーマー、そして槍を装備している女プレイヤー。
「ろ、ロザリアさん!?なんでこんなところに?」
瞠目するシリカの問には答えず、ロザリアは薄ら笑いをしていた。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね。少し侮っていたかしら?」
漸くシリカの方へと視線を移す。
「その様子だとどうやら、首尾よくプネウマの花をゲットできたみたいね?おめでと、シリカちゃん」
シリカは、ロザリアの真意がわからない。
だが、本能的に後ずさった。
1秒後シリカの直感を裏切らないロザリアの言葉が続き、シリカを絶句させることになる。
「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」
「な!? 何を言っているの?」
シリカは得体の知れない恐怖感に襲われていた。
シャオンはそんなシリカの肩を掴み、自分の後ろへと隠すようにした。
「これはこのパーティで得たものだ。無料でやるわけないだろ?ま、お前に何言われても渡さないけどな」
シャオンは、ロザリアにそう言い放つ。
「へぇ、そう」
ロザリアは笑みを崩さない。
だが……
「シャオンの言うとおりだ、このアイテムはこの子に必要なものだ。ロザリアさん。いや、犯罪者ギルド、タイタンズハンドのリーダーさん、と言った方がいいかな?」
キリトのその言葉で笑みが消え眉がピクリと上がる。
SAOにおいて、盗みや傷害、あるいは殺人といったシステム上の犯罪を行えば、通常緑のカーソルからオレンジへと変わる。
それゆえにオレンジプレイヤー、犯罪者の名称だ。
そしてその集団をオレンジギルドと通称する。
その知識はシリカも知っている。
だが、自分自身は実際に見たことがない。
しかし、眼前にいるロザリアのカーソルはどう見ても緑。
オレンジなら、そもそも街にも入れない。
シリカのそんな気持ちがわかったのか。キリトやシャオンは話し出す。
「ああ言う連中は、ずる賢さだけは人並み以上。
全員が犯罪者カラーじゃない場合がある。まず、グリーンカラーのメンバーが街で獲物を品定めする。
そのあと、パーティで紛れ込んで待ち伏せポイントに誘導するんだ」
「昨日の俺たちを盗聴してたのもアイツの仲間だろうな」
そう答えた。
シリカは、黙って聞いていたロザリアの顔を見て、間違いない事に気がつく。
「まさか、この2週間同じギルドにいたのって?」
「そうよ。あのパーティの戦力を評価すんのと同時に、冒険でたっぷりお金がたまって、美味しくなるのを待ってたの。本当なら今日にも殺っちゃう予定だったんだけどー」
シリカの顔を見つめながらちろりと舌で唇を舐める。
「一番楽しみな獲物だったアンタが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテムを摂りに行くって言うじゃない?
今が旬だからとってもいい相場なのよね、プネウマの花は。情報はやっぱり命よね~」
そこで言葉を切り、シャオンたちの顔を見た後。
「でもさぁ、そこまで気がついててノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿?それとも体でたらしこまれちゃったの?」
そのロザリアの侮辱にシリカは視界が赤くなるほど憤りを覚えた。
短剣を抜こうとしたが、肩をつかまれる。
「俺は単純だけど、あんたらみたいに人ができてない訳じゃないし、仕事も兼ねて来たから別になんでもないけどな」
「同じく」
「はぁ?仕事?」
ロザリアは意味がわかっていないようだ。
「そうだ。アンタ、10日前にシルバーフラグスって言うギルドを襲ったな?メンバー4人が殺されて、リーダーとサブリーダーだけが生き残った」
「ああ、あの貧乏な連中ね?」
ロザリアは頷いた。
「俺はリーダーだった男、こいつはサブリーダーだった女から依頼された。泣きながら毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で仇討ちをしてくれる奴を探していた」
シリカはこの時、シャオンのその凍てつくかのような言葉の雰囲気にゾクリとした。
それは、隣にいるキリトの表情からも感じる。
「それにな、そいつらは共に言ったんだ。アンタ等を殺さず、黒鉄宮の牢獄へ入れてくれってな。あんたに奴の気持ちが解るか?」
「わかんないわよ」
めんどくさそうにロザリアは答えると
「何?マジになっちゃって馬鹿みたい。ここで人を殺したってホントにその人が死ぬ証拠なんてないし。そんなんで 現実に戻ったとき罪になるわけないわよ。だいたい、戻れるかどうかもわかんないのにさ。正義?法律?笑っちゃうね、アタシそう言う奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈を持ち込む奴がね」
ロザリアの目は凶暴そうな光を帯びた。
「んで?あんた、その死に損ない共の言う事真に受けたの?それでアタシらを探してたわけだ。それもたった2人でギルド1つを?暇だねー。
でもさぁ……たった2人で何とかなると思ってんの?タイタンズハンドをさぁ?」
唇が歪む、そして、卑しい笑みを浮かべ、右手の指先が素早く二度中を仰いだ。
それが合図だったようだ。
途端に向こうへ伸びる道の両脇の木立が激しく揺れた。
その瞬間には次々と人影が現れた。
その殆どのプレイヤーのカーソルがオレンジ。
シリカからみれば禍々しい色だ。
その数、24人。
絶望的、だと頭を過ぎった。
その殆どの男は、ニヤニヤと卑しい表情を浮かべていたのだ。
「に、人数が多すぎます。脱出しないと……」
2人に囲まれるように守られているシリカが小声でそういった。
この距離なら、直ぐに転移結晶を使ってテレポートまでの時間、何とか逃げられれば、と思っていたのだ。
「大丈夫だ」
シャオンは、そう言うとキリトの方を向く。
「キリト、いいよな、手加減なしで?」
「シリカと、あいつらの逃亡防止だけ警戒してくれれば良いか?」
「ああ」
そう言うと、青く澄んだ色をした片手剣を取り出した。
「そ、そんなっ!たった1人でなんてむちゃですっ!」
シリカは小声を心がけていたんだけれど、ここではつい大声になってしまっていた。
「大丈夫だ。ま、見てなって」
そう言うシャオンの表情。
その瞬間だけ優しさが出ていた。
「何かあったら、俺も行くから安心しててくれ。ただ、転移結晶だけは準備していてくれよ」
「で、でもっ!」
シリカは、まだ心配だった。
人数が人数だからだ。
「あいつ、たった一人で俺たちを相手しようってか?」
その会話を1人聞いていた聞き耳スキルが高いグリーンの男が薄ら笑いを上げながら皆言う。
その1人で相手をするということを聞き、皆が笑い上げていた。
脱出の方法を必死に模索するのがいつものパターンだったけれど、おとりなどという行動をとるなんて、今までなかったからだ。
歩み寄っていた男達は脚を止め、暫く下衆な笑みを浮かべていた。
Story4-7 END
後書き
シャオンたちとタイタンズハンドの対決!
実は、シャオンが軽ーく怒ってます。
普段陽気で温和な彼が少し態度を変えるので……まぁ、お付き合いください。
次回はChapter-4 最終話です。
じゃあ……
フローラ「次回も、私たちの冒険に!」
シャオン「ひとっ走り……付き合えよな♪」
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