八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第十七話 不思議な先輩その三
「近いです」
「そういえば」
留美さんが早百合先輩のお話を聞いてその目を確かなものにさせてこう言った。
「母を訪ねて三千里だと」
「はい、マルコはイタリアの子供ですね」
「そのマルコが普通にイタリアからアルゼンチンまで行っていますね」
「それで普通に喋っていますね」
「そういえばそうでしたね」
アルゼンチンはスペイン語だ、実際にメキシコ人のモンセラさんが話してくれた。
「そう、メキシコもスペイン語だけれど」
「中南米全体がだよね」
「そうよ」
モンセラさんは僕に笑顔で答えてくれた。
「ブラジルはポルトガル語でそれ以外の国はね」
「スペインの植民地だったから」
「スペイン語なのよ」
「そうよね」
「だからね」
それで、というのだ。
「メキシコもアルゼンチンもスペイン語なのよ」
「キューバもだよね」
「チェ=ゲバラは元々アルゼンチン人よ」
「そうだったんだ」
「国は違うけれど言葉は通じていたのよ」
それでゲバラとカストロは盟友となった、僕はこのことを本で読んで知った。
「普通にね」
「スペイン語で」
「ですからマルコも」
早百合先輩がここで話してくれた。
「イタリア語とスペイン語は近いので」
「アルゼンチンでも普通に旅が出来たんですね」
「そうなのです」
早百合先輩は僕に冷静な調子のまま話してくれた。
「イタリア語とスペイン語は本当に殆ど変わりません」
「それでイタリア語とフランス語も」
「はい」
そうだというのだ、ポルトガル語については言うまでもなかった。
「そうなのです」
「じゃあラテン系の国に生まれたら」
「それだけでイタリア語とフランス語の勉強しなくて済むみます」
裕子先輩はこう棒に話してくれた。
「ドイツ語等はそうはいきませんが」
「じゃあイタリア人やスペイン人はその分オペラ歌手になりやすい」
「そうです」
「語学が大きいんですね」
「それはどうしてもです」
否定出来ないものがあるということもだ、裕子先輩は話してくれた。
「ドイツ人ならドイツオペラが」
「ドイツオペラはそうですか」
「ドイツオペラにも魅力があります」
裕子先輩の目が光った、もっと言えば輝きを増した。
「モーツァルトやリヒャルト=シュトラウス、それに何より」
「ワーグナーですね」
早百合先輩が裕子先輩にここでこう言った。
「あの」
「そう、ワーグナーよ」
裕子さんも毅然として早百合先輩に答えた。
「ドイツオペラならね」
「ワーグナーが最高峰ですから」
「ドイツオペラを歌うのならね」
「何といってもワーグナーですね」
「その為にドイツオペラに進出する人もいるわ」
そこまでというのだ。
「あの人の歌を歌う為に」
「ワーグナーはそれ程までですの!?」
円香さんは裕子さんの話に唖然とさえなっていて言った。
「あの人を歌う為だけにドイツ語を勉強して」
「そう、そしてね」
「歌うのですか」
そのワーグナーの作品をというのだ。
「そこまでの音楽ですの、ワーグナーは」
「私はまだ勉強しはじめたばかりだけれど」
「そのワーグナーを」
「魅力に満ちているわ、あの音楽なら」
それを歌う為だけにドイツオペラに進出する価値があるというのだ。
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