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魔法少女コミカルあやめ

作者:人間狂愛
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第一話 幼女で洋女で養女なの?

 目が覚めたらなんか病室。
 目の前にはちっこい幼女。
 なんでしょうか、この状況。

「あ、気が付いたの?」
「……此処は誰? 私は何処?」
「え、えーっと、ここは病院で、あなたは病院……って逆なの!」
「うるさいですよ、幼女」
「あ、ごめんなさい、じゃなくて! それよりもあやめちゃん、大丈夫!?」
「はあ、私の名前はあやめというのですか。普通の名前ですね。でも精が飛ぶ愛で精飛愛(せぴあ)ちゃんとかふざけた名前ではないので良しとしましょう」
「ううん、本名は外国の人みたいな名前だったけど聞き取れなく……て? あれ? もしかしてあやめちゃん、自分の名前覚えてないの?」
「むむむむむ……」
「あやめちゃん?」
「……やっちゃったぜ☆ ですかね?」
「わわわっ、た、大変だよぉっ! お、お母さぁーん!」
「ちょま、あ」

 なんなんでしょう、一体全体。

 【幼女で洋女で養女なの?】

 身体が何かに揺すられる感触で、私は夢の世界から引き離された。そして瞼を開けた瞬間に広がっていた光景は、いつも通り、視界いっぱいの自分の姉の笑顔でした。

「おはようなの、あやめちゃん。えっと、今日は体調は大丈夫?」
「……すこぶるりょうこうですよ」
「すこんぶ?」
「それをアリサにあたえるのはぜったいにダメですよ。エセチャイナむすめになってしまいますから」
「ならないよっ! 声が似てるだけでアリサちゃんにそんな特技ないよっ!」

 毎朝恒例となっている挨拶に返事をしてから、これも恒例となっている姉妹漫才を終わらせて、私はベッドから起き上がり、そして身支度を整える為に、学校の制服に着替えてから、姉に連れられて階段を降りて洗面所へ向かいます。

 私は高町あやめ。私立聖祥大附属小学校に通う三年生。ここ、高町家では四人兄妹の末っ子で、血縁関係のない拾われっ子。大半の記憶を喪失しているのと、人差し指から変な指輪が外れないのと、お腹に魔法陣みたいな入れ墨があって温泉お断りなのと、名前が菖蒲なのに髪と眼の色が薔薇(ローズ)(レッド)なのが悩みの普通の子供です。

「あやめちゃん、歯を磨いてあげるからお口をあーんして?」
「朝から歯磨きプレイとは……」
「プレイとか言わないで! 普通にお世話してあげるだけなの!」
「顔が赤いし息も荒いですよ?」
「あやめちゃんが変な事言うからだよっ! それに息は叫んだからなの!」
「ねえひゃん、いいよ」
「だから違うの! もおっ! いいから大人しく口を開けてったら!」
「……あーん」

 洗面所に到着すると、姉は先に自分の身支度を整えてから私の準備を手伝いだす。相変わらず過保護で欝陶しいと感じるのですが、面倒なので私は彼女の好きなようにさせました。
 しゃこしゃこと歯ブラシで私の歯を磨いてくれているのは高町家次女。彼女の名前は高町なのは。同い年で小学校も同じクラスだけど一応姉。オレンジ色のように明るい茶髪と青い眼なのに純日本人という変わり者。父親と母親の実子は彼女だけという複雑な家庭環境でも悩んだりしない心が強い子。雪降り積もる真冬の公園で行き倒れていた私を発見してくれた恩人。その時の事が原因なのか記憶を喪失したり虚弱体質になったりしている私を気にしている優しい子。過保護でシスコンなのがちょっとアレだけど一応普通の子供です。

「はいっ、わたしとお揃いの髪型出来上がりなの」
「今時ツインテールとか最早あざとすぎなのなの」
「う、うるさいのっ! てゆーか真似しないでったら!」

 と、そんなこんなしている内に身支度終了。私となのはは朝食を摂る為にリビングへ向かいます。
 そこにいたのは二人だけ。キッチンにはなのはを成長させたような美女。リビングには椅子に座りながら新聞を読んでいる黒髪黒眼の典型的な日本人の美青年。物凄く若作りな見た目だけど実は三十歳を越えているこの二人が私達の両親。

「おはよう」
「あ、なのは、おはよう」
「おはよう、なのは」

 なのはが挨拶すると最初に母が応え、続くように父も挨拶を返す。

「あやめもおはよう」
「おはよう、あやめ」
「おはようございます」

 父、母が私にも挨拶してきたので私も頭を下げて挨拶を返しました。

「これ、お願いね」
「うん、任せてっ!」

 なのはは母にお願いされて朝食をテーブルに並べていきます。
 そんな姿を横目に、私は父が座る斜めの指定席の椅子に腰掛けました。

「あやめ、今日は体調大丈夫か?」
「いえすです、士郎。今なら林檎を片手で握り潰せるような気もします」
「ははっ、それは良かった」

 彼は父親、高町士郎。駅前にある喫茶店『碧屋』の店主兼マスター。近所のサッカーチームのコーチ。御神流だか神鳴流だかの剣術の使い手で、人間離れした身体能力を持つビックリ人間。戸籍も何も無かった私をいろいろ助けてくれて、そして、最終的に私を高町家の家族に加えてくれたお人好しさんです。

「朝ご飯、もうすぐ出来るからね」

 彼女は母親、高町桃子さん。喫茶『碧屋』のパティシエ兼経理担当。士郎の後妻。私をいろいろ精神的に救ってくれた恩人さん。士郎と同じくお人好し。
 ちなみに『碧屋』は駅前商店街の真ん中にあるケーキとシュークリーム、自家焙煎珈琲が自慢の喫茶店。学校帰りの女の子や男の娘や近所の暇を持て余した奥様達に人気のお店です。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

 なのはが朝食をテーブルに並べ終えた後、ふとそれを思い出したのか、士郎の方を見て尋ねました。

「ああ、道場にいるんじゃないか?」

 それを聞いて士郎は新聞を読み続けながら曖昧に言葉を返します。
 言葉は曖昧ですが、士郎の推測はきっと正しいでしょう。上の兄妹は毎朝剣術の修業をしているのですから。

「そっか、わたし呼んでくるねっ」

 同じ事を知っているのでおそらく正しい事がわかったのか、なのはは元気に頷きました。それから道場に向かうのかゆっくりと歩き出します。
 私は動きたくないのでそんな彼女に手を振って「いってらっしゃーい」と手を振りますが、彼女の中では私も同行する事は決定しているらしく、なのはは、

「あやめちゃんも一緒に行くの!」

 と少し立腹気味に言って、私の手を掴んで歩き出します。彼女が言い出したら抵抗しても無駄なので私は逆らう事はせず、彼女についていく事にしました。
 そんな訳で、途中で二人に渡す為のタオルをなのはが手に取って道場へ。

「今頃、恭也と美由希は朝から男女二人で激しい運動をして汗だくになっているでしょうね」
「なんでちょっと卑猥な言い方をするの……?」
「恭也ってほら、エロゲの主人公みたいな人間じゃないですか」
「人のお兄ちゃん……って言うか自分のお兄ちゃんにおかしな評価をするのはやめようよ」
「彼女だけではなく、義理の妹にまでフラグを立てる恭也の姿は容易に余裕で想像出来ます」
「だから、やめてってば!」
「冗談が通じないですねぇ」
「絶対に冗談で言ってないの」

 と、話している内に道場に到着。
 それから扉を開けると、そこには二人の男女がいました。
 木刀を振るう黒髪をみつあみにした眼鏡っ娘と腕を組みながらそれを真剣な眼で見つめる士郎によく似た青年。
 彼等が私達の兄と姉です。

「ふんっ! えいっ!」

 この眼鏡っ娘が高町美由希。高校二年生。士郎の妹の娘らしいのですが、いろいろあって高町家へ。

「…………」

 こっちの士郎似の青年は高町恭也。大学一年生。士郎の弟子で美由希の師匠。月村忍という彼女がいるのに妹の美由希といちゃついているギャルゲーの主人公のようなリア充野郎。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おはよう。朝ご飯だよ」
「おはよう」
「あ、なのは、おはよう」
「あやめもおはよう」
「あれ? あやめも? おっはよー」
「おはようございます」

 なのはが呼び掛けると恭也、美由希の順番に気付いて順番に挨拶を返す。
 その時、一緒に私の存在にも気付いたらしく、彼等は私にも挨拶をしてきました。私は頭を下げて挨拶をします。

「はいっ!」

 そう言ってなのはがタオルを美由希と恭也に順番投げると、二人は簡単にキャッチして「ありがとう」とお礼を言う。

「じゃあ、美由希。今朝はこれまで」
「はいはい、それじゃあ続きは学校から帰ってからね」

 そんなこんなで、またリビングへ。
 全員席に着いて朝食が始まります。
 長く四角いテーブルに二人ずつ。私となのはが隣同士。その正面が兄妹。子供達の間に夫婦。そんな感じで座りながらテーブルに用意された朝食を口に運ぶ。

「んーっ、今朝も美味しいな。特にこのスクランブルエッグが」
「本当? トッピングのトマトとチーズ、それからバジルが隠し味なの」
「みんな、あれだぞ? こんなに料理上手なお母さんを持って幸せなんだから。わかってるのか?」
「分かってるよ。ねぇ、なのは」
「うん」
「もう、やだ。あなたったら」

 新婚気分でいちゃつく夫婦。
 士郎の惚気に美由希となのはが答え、士郎の惚気に桃子さんが照れる。
 いろんな意味でご馳走な光景です。
 私は、毎日これを続けているいろんな意味で幸せな夫婦を気にしたら負けだと、高町あやめになる前に気付いたので、もう何も言わないし、何も反応しません。無視して朝食を摂る事に集中します。

「美由希、リボンが曲がってる」
「え、本当?」
「ほら、貸してみろ」

 そんな夫婦と同じように仲良しな兄と姉も無視です。無視ったら無視です。
 いちいち付き合ってたらストレスがマッハでゴーゴゴーです。

「ん、ご馳走様でした! はい、あやめちゃん、あーん」

 けれど、自分の朝食を食べ終えて直ぐさま私の飲食を手伝おとするなのはは無視出来ません。無視しても無視しなくても無理矢理あーんしてきますが、無視しなければ喉にフォークが刺さるという惨事は回避できます。だから大人しく口を開けて好きなようにさせるのが賢い選択です。
 人間諦めが肝心。小学校三年生にしていろいろと悟る私なのでした。

   ☆

 そんな感じの朝食を終えて学校へ。
 なのはに通学鞄を持ってもらいながら送迎バスに乗り込みます。

「なのはちゃん、あやめちゃん」
「なのは、あやめ、こっちこっち」
「すずかちゃん、アリサちゃん」

 すると、バスの一番後ろ、四人掛けの席に座る紫色の髪の少女と金髪の少女に声を掛けられました。
 それから私となのはがその席に近付くと、二人は間を二人分開けて真ん中に座れるようにしてくれました。
 私達はそれに感謝しつつ座ります。

「おはよう」

 金髪の彼女はアリサ・バニングス。一年生の頃から同じクラスで、なのはは彼女とすずかと同じ塾に今年から通うとかなんとか。ツンデレで釘宮ボイスに似た声の持ち主。両親は実業家で、お金持ちのお嬢様。自宅に十匹程犬を飼っている犬好き。アニメの世界から出てきたような幼女です。

「おはよう、なのはちゃん、あやめちゃん」

 紫色の髪の彼女は月村すずか。同じく一年生から同じクラスで、なのはと同じ塾。アリサと同じように自宅に猫をたくさん飼っています。月村家は資産家の家で彼女もまたお嬢様。メイド二人と姉と四人暮らしをしていて、その姉の月村忍さんは恭也の彼女。いずれ高町家の親戚になりそうです。それと大人しい性格と見た目なのに運動能力が凄いのが特徴です。

「うんっ、おはよう!」
「おはようです、愚民共」
「誰が愚民よっ!」
「あ、あはは……」

 そんな二人を加えて楽しく談笑しつつ、送迎バスは学校に向かいます。

「今日は三人共、塾ですか?」
「そうだよ。今更だけど、あやめちゃんは塾には行かないんだよね?」
「ええ、必要ないですから」

 左隣に座るすずかに確認してみると肯定されました。どうやら今日はなのは
なしで一人で帰宅出来るようです。

「ううぅっ、ごめんね。今日はあやめちゃんを守れないの……」
「なのはの意見は置いておくとして」
「アリサちゃん!?」
「そういえばなんでアンタは塾に通わないのよ?」
「だから不要だからですよ。だから不要だから……ぷぷっ」
「ふふっ、あやめちゃん頭良いもんね」
「授業中隠れて本を読んでるやつなんかが毎回百点とかおかしいわよ! てゆーか自分が言った駄洒落で笑ってんじゃないわよ! あと、どうせなら表情筋も動かしなさい! 全然笑えてないわよ!」

 なんというツッコミ乱舞。ツンデレキャラは何故ツッコミが得意なのでしょうか。長年の疑問です。
 ちなみにアリサの言うように私は毎回テストで百点を取りますが、それはたぶんチーティングみたいな感じです。授業内容もテスト内容も復習みたいな感じですらすら解けます。恭也の課題で確認しましたが、大学生レベルでもすらすらと余裕な感じです。きっと記憶を失う前の私はがり勉だったのでしょう。気持ち悪いです。

   ☆

 そんな会話をしてから暫くして学校へ到着。それから授業。今は三時間目の授業も終わって四時間目の授業。時計を見ると、それももうそろそろ終わりそうです。
 黒板の前に立つ女教師が教鞭を振るう姿を見つつ、私は欠伸をしました。

「この前みんなに調べてもらった通り、この町にもたくさんのお店がありましたね。そこで働く人達の様子や工夫を実際に見て、聞いて、大変勉強になったと思います。このように、いろいろな場所でいろいろな仕事がある訳ですが、みんなは将来、どんなお仕事に就きたいですか? 今から考えてみるのもいいかもしれませんね」

 いくら私立の小学校に通っていても今から明確に未来のビジョンが見えている小学生なんて少数だと思いますけどね。
 と、そんな事を考えていたところでチャイムが鳴ります。それから女教師に促されて、クラスの委員長が号令をかけて授業が終了しました。
 そして昼食の時間の始まりです。

「なのは、あやめ、すずか。さっさと屋上に行くわよ!」

 そんなアリサの呼び掛けで四人一緒に教室から出て屋上へと向かいます。
 春と夏の間の季節は屋上は割と人気スポット。今日は天気も良いのでわざわざ移動してくる暇人が何人かいました。

「アンタもその一人でしょうが」

 そんなツンデレのツッコミを無視して、私達はベンチに腰掛けます。
 膝の上にお弁当を広げて昼食開始。
 どうやら今日は御飯ではなくサンドイッチのようです。
 ネットで見た男子高校生のお弁当みたいに茶色と白のみのアレな感じではなく、カラフルで可愛らしいお弁当。冷凍食品で彩られた愛情が感じられない冷たいお弁当ではなく、全て手作りの愛情たっぷりなお弁当。毎度ながら桃子さんに感謝感激感動です。きっとなのはも恭也も美由希も同じ気持ちでしょう。

「そして士郎は桃子さんに毎晩愛し合う中で感謝ついでに顔し――あいたっ」
「真昼間から何言おうとしてんのよ!」

 続きを言う前に、何を言おうとしたのか察した真っ赤な顔のアリサに頭を叩かれて阻止されました。
 ちなみに、なのはははてな顔ですが、すずかはアリサよりも真っ赤な顔です。
 流石は海鳴市のエロクイーン。

「マセガキですね、アリサ」
「……いいから黙って食べてなさい」

 殺意を込めて鋭く睨むアリサさん。
 私はこれ以上頭を叩かれるのは嫌なので大人しく従う事にしました。

「将来かぁ……アリサちゃんとすずかちゃんはもう結構決まってるんだよね?」

 楽しく会話を交えながら食事を続けて数分後。授業の事を思い出したのか、突然なのはがそんな事を言い出しました。

「うちはお父さんもお母さんも会社経営だし、いっぱい勉強して跡を継がなきゃ、くらいだけど」
「そして将来は逆玉の輿狙いの金の亡者かナヨナヨした御曹司とゴールイン」
「……嫌な事言うんじゃないわよ」

 リアルにそれを想像してしまったのか怒るよりも先に落ち込むアリサ。
 ちょっと予想外なリアクション。

「私は機械系が好きだから……はむっ……工学系で専門職がいいな、と思ってるんだけど」
「むむむ、すずかなら世界一の大人の玩具とか作るんでしょうね」
「つ、作らないよ、そんなのっ! なんであやめちゃんは私を事あるごとにえっちなキャラにしようとするのっ!?」
「何と無くです」
「なんとなくで人を辱めないで!」

 真っ赤な顔でぶんぶんと首を振りながら否定するすずか。
 大人の玩具が何だかわかるとは……。最近の小学生の知識恐るべし。

「にゃはは、ええーっと……うん、そっか。二人共すごいよね」

 なのはは暗い表情なアリサと紅潮しているすずかに苦笑しつつ最後に纏める。
 そんななのはの言葉を聞いて、アリサとすずかも復活しました。

「でも、なのはは喫茶『碧屋』の二代目じゃないの?」
「むむむ、何故私を差し置いてなの
はが二代目になるのですかアリサ。納得のいく説明をしてください」
「決まってるじゃない。アンタは将来ニートになりそうだからよ。普段から将来は贅沢三昧堕落三昧のニートになりたいって言ってるじゃない」
「働きたくないでござる、キリッ」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「そんな事したら罰としてアリサには私をお嫁さんに貰ってもらいます」
「アタシの性別が男でも、アンタの性別が男でも、アタシはアンタだけは絶対の絶対に結婚相手に選ばないわ」
「…………ちょっと傷付きました」

 玉の輿、もしくは逆玉の輿作戦失敗。

「にゃはは、仲良しさんだね」

 これにはなのはも苦笑い。
 と、そんなやり取りを挟んで思春期にピッタリな真面目な話再開。
 暗い表情でなのはが語り始めました。

「あのね、それも確かに将来のビジョンの一つではあるの。でもね、やりたい事が何かある気がするの、まだそれが何なのかはハッキリとはしないんだけど。ほら、私って特技も取り柄も特にないし」
「バカちん!」

 と、思っていましたが、すぐに崩壊。
 なのはのうじうじしたその考えにキレたアリサが、某三年B組担任の言いそうな事を叫びながらお弁当のおかずをなのはに投げ付けました。そしてそれは見事になのはの頬にべちゃりと直撃します。

「自分からそういう事言うんじゃないの!」
「そうだよ。なのはちゃんにしか出来ない事きっとあるよ」
「お前等は腐った蜜柑だ! あーあ、みんな死ねばいいのに!」
「あやめ、お願いだからちょっと黙ってなさい」
「いえすまむ」

 なんだか喧嘩になりそうなのでボケてみたら胸倉を捕まれて脅されました。

「だいたいアンタ、理数の成績はこのアタシよりいいじゃないの! それで取り柄がないってどの口が言うの!」

 そう言って、アリサはなのはの上にのしかかって、彼女の口に指を突っ込んでおもいっきり引っ張ります。

「わ、わわっ、ふ、二人ともっ」

 見ているすずかはあたふた。

「ほら、もういっぺん言ってみなさいよ! ほらほら!」
「だ、だってなのは、文系苦手だし体育も苦手だし」
「『でもそんなわたし以下のアリサちゃんって……にゃはは』」
「何馬鹿にして笑ってんのよぉっ!」
「ち、ちがっ、今のは違うのっ!」

 会話の途中で百八式まである物真似の一つ、声帯模写を使って更に混沌とさせてみました。

「二人共ダメだよっ! ねえ、ねえってばぁっ!」

 すずかが止めるのも気にせずにアリサのなのは虐めが続くのを横目に、私は取り敢えず昼食を食べる事にしました。

   ☆

「あやめちゃん、危ない事があったらすぐに電話してね!? 光の速さで助けに行くから!」
「ほら、行くわよ、ば過保護なのは」
「絶対だよ!? 絶対だからね!?」
「ばいばい、あやめちゃん」
「あやめ、また明日」
「ばいばいですです」
「あ〜や〜め〜ちゃ〜ん!」
「なのは、うっさい」

 そんなやり取りがあって放課後。
 私は久しぶりに過保護な姉なしで一人で帰れる事になりました。と言っても家に帰っても両親は喫茶店。兄姉は剣術の稽古。暇になるのは明白です。
 そんな訳で、授業中に読み終えた本を返すついでにまた新しい本を借りようと市立図書館へ。返却を終えてから新しい本を探す為に図書館内をさ迷います。

「………………」

 そこで発見したのは車椅子の少女。
 何やら高いところにある本を取ろうとしているが、届かないご様子。

「そこのお嬢さん、フランス書院文庫はこの棚じゃないですよ」
「ああ、そうですか。なんや、ちょっと少し間違うてしまいましたわ……って、なんでやねん! 小学生が官能小説なんて読むかいな! うちがそんなにエロく見えんのかいな!」

 声を掛けてみると見事なツッコミ。
 関西弁も加えて、アリサ以上にキレのあるツッコミを見せて――いえ、魅せてくれました。

「……って、なんや、やっぱりあやめちゃんか。なんであんたはフランス書院文庫とか知っとんねんな」
「お互い様ですよ、はやて」

 車椅子少女。彼女の名前は八神はやて。きょっぱいもちっぱいも愛するおっぱいソムリエ。三年生に進級してぐらいの頃に図書館で今日みたいに困っているところを助けて以来何度か話すようになった変態さんです。足が悪いので小学校には通っていないらしいのですが、それでも図書館に通ったりしていて知識的には問題ない真面目な文学少女。エロい部分以外は完璧な美少女さんです。

「おっ、ありがとうな」

 彼女が取ろうとしていた本を取ってあげ、私も本を選んで、貸出手続きを終わらせてから、二人揃って雑談スペースに移動。図書館内では私語厳禁です。

「久しぶりやな、あやめちゃん」
「そんなに久しぶりじゃないですよ? はやてがすごく友達が少ないからそう感じるだけです」
「……そして相変わらずやわ」
「照れます」
「褒めてへんわ。それと照れる言うてる割に表情全く変わってへんよ?」
「変わらない、ただ一人の少女」
「ダイソンみたいに言われても……」

 ちゃんと通じる辺りはやても変わらずなようです。

「儲かりまっか」
「ぼちぼちでんなぁ。あ、言うとくけど関西の挨拶がこれやっていうのは間違いやからな?」
「そんなの信じてるのは、日本にまだ忍者や侍がいると思っている外国人と同じ数だけしかいませんよ」
「スシテンプラー」
「ゲイシャニョタイモリー」
「女体盛りはあかんやろ」
「体温で魚が傷んでしまいますしね」
「そう言う話ちゃうわ」

 食べ物を粗末にする行為なので、女体盛りを知らない良い子は、調べたり真似したりしてはいけません。

「あと、忍者とか侍がまだいるって信じとる外国人は結構おるらしいで」
「ああ、うちのアリサも『ニンジュ、サメラーイ、何処イルノヨ?』とか言ってましたし」
「なんで釘宮ボイスで喋るねんっ!」
「いやいや、アリサの声は釘宮ボイスにそっくりなんですよ。ちなみに自宅には犬を飼ってます」
「このバカ犬ぅっ! って?」
「結婚式をした後で五万の軍勢に一人で立ち向かう姿は格好良すぎます」
「あれは惚れてまうやろ。あ、もしかしてあやめちゃんって日野さんボイスもできんの? ちょっとやってみてぇな」
「『相棒、右だ! トレビア〜ン♪』」
「ちょwなんでそっちやんねんwwしかもなんか混ざっとるしwwwほんでその声何処から出しとんねんwwww」
「混ぜるな、危険」

 大爆笑するはやてさん。
 ちなみに『爆笑』は大勢の人が笑う事なので、多重影分身を身につけないと一人で爆笑する事は不可能だってばよ。だから本来は誤字です。と、自分でツッコミを入れてはやての大笑いが納まるのを待ちます。
 そんなこんなで数分後、漸く八神さん家のはやてさんは復活しました。

「いやぁ、久しぶり大笑いしたわ。あやめちゃんは本当に面白いなぁ」
「はやては面黒いですね」
「江戸時代の職人的な意味で? 俳句や川柳で使われるような意味で?」
「前者です」
「それなら安心したわ」
「面黒いに『おもしろい』と『つまらない』の両方の意味があると知ってる小学三年生って気持ち悪いです……」
「自分もやろ、自分も」
「む? 自分(はやて)は、ですよね」
「ちゃうちゃう。わかっとるくせに誤魔化すのはやめてぇや。自分っていうのは関西ではお前とかの意味があって――って説明さすな!」
「説明すんな! です」

 あはははは、と二人で笑う。
 そろそろ自宅に誘われても誘ってもおかしくないくらいには仲良しな感じです。あんまり自分の事を話さないで聞き役に回る事が多いはやては、車椅子の事も含めて複雑にいろいろありそうなので自分から誘ったりするのはアレですけど。

「……おっと、そろそろ買い物に行かなあかんから帰るわ。また見掛けたら声掛けたってな、あやめちゃん」

 そんな複雑な思いを抱えながらも話し込んでいると、窓の外は夕方。私もそろそろ帰った方がいい時間帯です。

「そうですね、『また、図書館に』」
「sleeping beauty、ってか?」
「この場合、はやては誰とキスするのでしょうか?」
「ツンデレ巨乳っ娘のお姉さんが私とファーストキスか……じゅるり」
「はやて、よだれよだれ」
「おっとっと」

 バイセクシャルの疑いが少しある八神はやてさん、でした。

「ほな、またなぁ」
「ばいばいですです」

 そんなはやてと別れて帰宅です。

   ☆

 帰宅してからもまたなのはが塾から帰ってくるまでいろいろありましたが、特に一般の家庭である事と変わりないので割愛。
 夕食の時間。全員が席に着くと、なのはが赤い宝石の付いた首輪をし
た茶色いフェレットが怪我をしているところを発見した事を話し始めました。
 塾へ行く途中に道端で発見して動物病院へ。怪我は深くないみたいだけれどかなり衰弱しているみたいだから様子を見る為に獣医さんが明日までは預かってくれる。でも明日からはどうしたらいいのかわからない。しかもアリサは大量の犬を、すずかは大量の猫を飼っているから預かれない。高町家も飲食物を扱っているからペットの飼育はダメとはわかっている。でも心配、だそうです。

「――という訳で、そのフェレットさんをしばらくうちで預かる訳にはいかないかなぁ、って」

 なのはが顔色を窺いながらそう言うと、高町家一同は一斉に悩み始めました。

「うーん、フェレットか……」

 士郎が腕を組みながら考え込みます。
 そんな士郎を身を乗り出すようにして真剣に見つめるなのは。

「ところで何だ、フェレットって」

 しかし、出てきた言葉は予想外のものでした。これには桃子以外の子供達全員ががっくりと、吉本新喜劇のようにズッコケます。

「イタチの仲間だよ、父さん」

 少し呆れつつも、恭也が士郎の質問に答えました。

「大分前からペットとして人気の動物なんだよ」
「確か、イタチ科に属する肉食系の哺乳動物ですね」

 それに続く美由希と私。

「活発で好奇心が強く、人間によく懐いて飼い主と遊びたがるとかなんとか。もし飼うなら壁の穴や戸棚、電化製品の裏側に好んで入り込むので注意です。適温は15℃から22℃で、汗腺が全くないので熱中症とかにも注意が必要ですね。それと臭いと発情行動は嫌ですから、去勢や避妊、肛門腺除去の手術はして欲しいですね。ちなみに寿命は六年から十二年です。更に野生では生きられないと思われます」
「……あやめ、詳しいね」
「しあわせソウのオコジョさんにフェレットが出ていたので違いが知りたくて調べました」
「それって、まだなのはもあやめも生まれて生まれてない頃のアニメ?」
「名作ですです」
「あはは……」

 褒めてたはずがいつの間にか呆れている美由希。周りを見るとなのはも士郎も恭也も何故か呆れていました。

「フェレットってちっちゃいわよね?」

 そんな空気を変えてくれたのは我等が天使、桃子さん。夕食のおかずを運び終えて、席に着いた後なのはに尋ねます。

「知ってるのか?」
「あやめと一緒にアニメで見たの」

 それから不思議そうに首を傾げる士郎に返事を返しました。

「えーっと……これくらい」

 なのはは三十センチの定規より少し長いくらいに手を広げて、桃子さんの問いに答えます。
 それを見て、桃子さんは笑顔を浮かべながら家族全員を見回しました。

「暫く預かるだけなら、カゴに入れておけて、なのはがちゃんとお世話出来るならいいかも。美由希、恭也、あやめ、どう?」
「俺は特に依存はないけど」
「私も特に異論はないですね」
「もちろん、私も!」
「あ、でも私は面倒なので絶対に世話を手伝ったりしませんから」
「あやめは世話される側だからな」
「うんうん、恭ちゃんの言う通りだね。あ、それならなのはがフェレットのお世話してる間は私があやめのお世話してあげようか?」
「いらないですよ、ふぁっきん」
「あはは、フラれちゃったー」

 てゆーかなのはの過保護がなくなるならむしろ万々歳です。

「だ、そうだよ」
「良かったわねぇ」

 士郎と桃子さんがなのはに笑い掛けながら言いました。
 それを聞いてなのはも笑います。

「うんっ、ありがとぉっ!」

 どうやら高町家に期間限定で家族が増えるようです。そういえば私を引き取る前も同じように家族会議をしたのですかね? なーんて。

「さあ、冷めない内に食べちゃってね」

 桃子さんがそう言うと、子供達が「はーい」と重なるように言って、それから全員で「いただきます」と手を合わせて、漸く食事が始まります。

「桃子、サラダ取ってくれるか?」
「はぁい、どうぞ」
「あ、俺も」
「はいはぁーい」
「あやめ、野菜もちゃんと食べなきゃダメだよ?」
「わかってますよ、美由希」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん! なのはが残さず全部食べさせてあげるから!」
「……少食だからお手柔らかに、です」

 高町家はいつも笑顔で溢れています。

   ☆

 夕食後。部屋に戻ってから宿題を終わらせて、お風呂に入ってパジャマに着替え、歯を磨いてからまた部屋へ戻って。子供二人には大きめのダブルベッドに腰掛けながら、私は今日借りてきた本を読もうか迷っていました。もちろんフランス書院文庫ではありません。講談社ノベルスです。第0回メフィスト賞受賞者のデビュー作です。

「あなくすなむーん」
「いもほてーっぷ……ってなんでいきなりハムナムトラなの?」
「そんな気分でした」
「どんな気分なの……」

 気まぐれにそんなやり取りをした後、結局本は明日読む事にして通学鞄へ。

「そういえばなのは、アリサとすずかにフェレットの事を報告したですか?」
「あっ、いっけなーい。忘れてたの!」

 それから思い出した事をなのはに伝えて、私はベッドに寝転びます。

「ええっと……」

 なのはがピンク色の携帯を充電器から外して、操作を始める。

「アリサちゃん、すずかちゃん。あの子はうちで預かれる事になりました。明日、学校帰りに一緒に迎えに行こうね。なのは。送信っと」

 そして、それが完了するとまた充電器に戻しました。
 私はそんななのはの様子を確認し終えると視線を外し、コンポの電源を入れてヘッドフォンを装着します。

《き――え――ま――――か――》

 そんな時、微かに声が聞こえました。
 私は意識をハッキリと集中させます。
 すると声もハッキリと聞こえました。

《聞こえますか? 僕の声が聞こえますか?》

 遠くから聞こえてくるというよりは、頭の中に直接響くような、まるでテレパシーのようなその声。なのはも同じ声が聞こえているらしく、なのはは、

「あ、夕べの夢と、昼間の声と同じ声」

 なんて独り言のように呟きます。

《聞いてください。僕の声が聞こえる貴方、お願いです! 僕に少しだけ力を貸してください!》

「あの子が喋ってるの?」

 また声。そしてなのはの独り言。

《お願い! 僕のところへ! 時間が……危険が、もう……》

 なんだか危機的状況に陥っているみたいな声の言葉。それを聞き終えた後、なのはがベッドに倒れ込んできました。
 私は慌ててそれを避けます。

「んんっ……はわっ!?」

 大丈夫、なのでしょうか。
 私は少し心配して、体調が悪いのかと尋ねようとしますが、その瞬間、なのはは一気に覚醒して立ち上がりました。

「あ、あやめちゃん、今何か声が!」
「『ねえ、きみ。ぼくと契約して魔法少女になってよ!』」
「ち、違うよっ! 声はさっき聞こえたのと一緒だけど、そんな事は全然言ってなかったよ!」
「危険がどうこう言ってましたよね」
「そう、それ! それなの!」

 なんだか面倒臭そうなフラグをびんびん感じますが、なのははそんな事は全く考えていないのか、心配そうにおろおろとしだします。

「だ、大丈夫かな!? た、たぶんあの声は、もしかしたらフェレットさんなの!」
「喋るフェレットとか珍しいですね。ふむ、取り敢えず返事してみますか?」
「ど、どうやって!?」
「…………念じて?」

 試しにやってみる事にします。

《あー、フェレット野郎さん。何が危険なのか知らないですけど、助けて欲しかったら出すもん出すにゃー、ですよ。こう、何て言うか……金銀財宝とか。それが嫌なら自力でふぁいと!》
《ちょ、なっ、あ、あぶなっ……って、会話出来てる!? えっと、そこの貴方! お願いしますから助けてくだ――》

 途中で途切れる念波(?)。
 まあ、それはともかくとして。

「普通に会話出来ましたね」
「あやめちゃん、強欲過ぎなの! てゆーかなんか頭に聞こえたの! あやめちゃんって超能力者だったの!?」
「学園都市一位の座は頂きですね」
「たかがテレパシーだけで調子に乗りすぎだよぉっ! いや、確かにすごいんだけれど……っ!」

 人間やってみれば何でも出来るものなのですね、うん。

「てゆーかそんな状況じゃないよ! た、たたた助けに行かないと!」
「こんな夜更けに?」
「うっ……」

 着替え出そうとしていたなのはに声を掛けてみると、彼女はぴたりと止まってしまいました。

「………………」

 しかしそれから何かを思い付いたのか縋り付くような視線で私を見ます。

「あ、あの……あやめちゃん?」
「…………はあ、わかったですよ。士郎達にはなのはがいない事がバレても上手く誤魔化しておきますからさっさと行きなさいです」

 私がそう言うと、なのははパァッと眩しい笑顔を見せました。

「あ、ありがとう、あやめちゃん!」
「いってらっしゃい、です」

 私の返事を聞くとなのはは猛スピードで速着替えを済ませ、あまり音を立てないようにして部屋から出ていきました。
 それから。一人になった部屋で私は何と無く思い付いた言葉を口に出します。

「この広い空の下には、幾千、幾万の人達がいて、いろんな人が思いや願いを抱いて暮らしていて、その思いは時には触れ合って、ぶつかり合って。だけど、その中のいくつかは繋がっていける。伝え合っていける。これから始まるのは、そんな出会いと触れ合いのお話。魔法少女リリカルなのは始まります――なーんて」

 私はコンポのスイッチを入れて、着けたままだったヘッドフォンから音楽が流れ出すのを確認すると、そのままな姿勢でなのはの帰りを待つ事にしました。

  ☆

「あやめちゃん! 私、魔法少女になったの! ほら、見て見て!」
「ちょ、なのは!? 魔法はバラしたらダメって言ったよね!?」

 お姉様は魔法少女になったようです。 
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