八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第十六話 ある晴れた日にその十一
今回は朝起きるその六時にだ、早百合先輩のピアノの音楽が聴こえるその時にだった。いきなりだった。
僕ははじめまして、という明るい声を聞いた、そしてだった。
またかな、と思いながら一階に降りた、するとだった。
ピアノの席に座る早百合先輩のところにだ、黒髪を長く伸ばした、そして後ろを大正浪漫の感じでリボンにしている人がいた。格好も何と紅の袴に革靴、桜模様の淡いピンクの振袖姿の切れ長の黒い目の人がいた。
その人が慎ましやかな感じで立っていてだ、僕に言って来た。
「貴方が大家さんですね」
「そうですけれど貴女は」
「はい、今井裕子といいます」
頭を礼儀正しく、両手を前で組んだまま僕に言って来た。
「宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
僕も頭を下げて応えた。
そしてだ、頭を上げてからその今井さんに尋ねた。
「入居者の方ですね」
「そして八条学園に編入することになりました」
「そうですか」
「三年B組に」
「あっ、先輩ですか」
「大家さんは二年生ですよね」
「はい、そうです」
その通りだとだ、僕は今井さんに答えた。
「僕は」
「そうですね、ですが大家さんなので」
それでというのだ。
「敬語で呼ばせてもらいます」
「別にそんなことは」
「宜しいですか?」
どうにも真面目な口調だった、見れば今井さんの顔は切れ長の黒い目に高い鼻、小さな紅の唇に細面と留美さんをさらに大人にした感じの奇麗さだ。
「それは」
「はい、別に大家でも偉くないですし」
それで、とだ。僕は答えた。
「普通にお話してくれて構いません」
「左様ですか」
「本当に」
「しかしです」
何か随分とだ、真面目な感じで返す今井さんだった。
「私が住むアパートの大家さんなので」
「だからですか」
「敬語で呼ばせて頂きます」
そうだとだ、僕に言うのだった。
「宜しくお願いします」
「敬語で、ですか」
「こうしたことはしっかりとしないと」
いけないという口調での言葉だった。
「そうさせてもらいます」
「それじゃあ」
「はい、お願いします」
僕にこう言って来てだ、そしてだった。
今度は早百合先輩がだ、こう言って来た。
「この方は私もご存知の方です」
「先輩のお知り合いですか」
「はい、クラシックの分野で」
「じゃあこの人もピアノを」
「いえ、歌です」
こちらだとだ、先輩は僕に答えてくれた。
「歌を歌われるのです」
「歌手ですか」
「そうです、長崎では相当に有名な方で」
「長崎ですか」
「実はです」
僕にだ、今井さんがまた言って来た。
「八条学園に以前から行きたいと思っていました」
「そうだったんですか」
「はい、八条学園は音楽施設も整っていますので」
「ええ、この学園はそうですね」
僕も今井さんのその言葉に頷いて答えた。
「芸術関係も強いです」
「それでかねてより編入したいと考えていたのですが」
それが、というのだ。
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