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『自分:第1章』

作者:零那
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『約1ヶ月後』

緊張せず、なるべく自然体で喋れるように慣れようとした。
でも、あくまでも、お客さん。
しかも風俗とは違う。
丁寧な対応をせなあかん。
今迄みたいに素を見せる場では無い。

自分を殺さなあかん。
女優にならなあかん。
どんな自分を設定したらええんやろ...
解らん。
ぐだぐだ。

相づちを打ったり、解らん話やったら素直に聞いてみたり。
いろんな人が来る。
緊張もするしプレッシャーもある。
でも、いろんな人のいろんな話を聞けるのは基本的に好き。

それでも、やっぱりお客さんに話して貰うだけじゃあかん。
お金払ってるのはお客さんやし。

約1ヶ月、自分なりに、いろんな葛藤を繰り返した。


知らん酒もある。
味も価値も解らん。
でも注がれれば頂く。

『若い』ってだけで喜んでくれるお客さんは居た。
ニコニコして、キャピキャピして、それでお客さんも笑ってくれる。
テンション高いお客さんには必要以上に喋らんくても大丈夫だった。

気難しいお客さんはまだ接客してなかったから、なんとなく、慣れてきたような錯覚に陥った。
それに、風俗してたからか、カウンター越しの会話より、隣の席で話す方が緊張感が逆に無かったりする。
特異体質なんかな...



聞いたらあかん事、言ったらあかん事...そのラインが曖昧で怖かった。
何かあったらママの責任、店の責任になる。
それが怖かった。


フィリピンママの方の店での事。
週末、オーナーが若い子達を団体で連れてきた。
ジャラジャラした危ない感じの子達。
スモーク貼った車で女拉致ってマワしてそうな子達。
零那が最も嫌なタイプ。
隣に座るのが嫌だった...
本能的に近付きたくなかった。

怖くて足が動かんかった。
大概の事じゃビビったりせんくせに、やっぱトラウマってのは怖い。
自分の意志とは無関係に、体が拒否する。

その中の1人に、手を引っ張られた。
隣に座らされた。
反対側にはオーナーが座った。
妙な不安があった。

この日、初めて色んな酒を飲んだ。
チャンポンやね。
わけわからんまま、飲まされるがままに...

カナリ酔ってきてるって自覚はあった。
酒には強い方やと思ってたけど、ころころ味が変わって気持ち悪いってのもあった。
意識はハッキリしてるのに真っ直ぐ歩けれんし。

でも、自分は酔ったら喋れるってのが判明した。
緊張がほぐれる。
この若い子達も、めっちゃ飲んで、歌って、ゲームして、一気飲みして...
楽しそう。

『酒のチカラは凄い!』


オーナーが言う。
『ママの店に皆連れて行っといて、後から行くけん』
ママに伝えてから店に向かった。

店に着いて、零那に対するママの第一声が『あんた大丈夫!!?』
すみません、飲まされるがまま飲んでたら...
酔ってしまってます...

ママの店では、こんなに酔うほど飲んだことがない。
ママは心配してくれてる。
『あんた先帰りぃ!後は良いから!』
迷惑ならんようにせなあかんな思てたのに既に迷惑な自分が情けない...
いや...むしろ、給料貰えるだけの仕事なんか出来んねやから、最初から迷惑なんか...

オーナーが来た。
ママと話してる。
こっちに来る。
『送るわ』
ママも『そうしぃ!お疲れさま』って...

挨拶するのもやっとだった。
頭ごっついガンガンする。
チャンポンな上に、テキーラ普通にグラスで飲んでたらしい。
そりゃ頭痛いはずやわ...


普段飲まん種類の酒に対して、恐怖感が少しだけ芽生えてしまった。

 
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