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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第06話 食堂のカツコ

 
前書き
どうも蛹です。
今回も情報を提供します。
″侵略虫″のハーフ‥‥‥‥人間と″侵略虫″の混血生物。
           身体能力は人類の平均の約1.2倍。
           感覚器も普通の人間とほとんど変わらない。  
           変身能力がないので″鎧骨格″を形成できない。
           しかし、皮膚の核に″増殖器官″と同構造の器官がある。
           これにより、外部から活動するためのエネルギーを
           得ることができる。(栄養失調になりにくい)
           特化している点は″超技術″を使用できることである。
           しかし、発現率は3%と非常に低い。
           つまり人類とほとんど変わらないのである。 
           これにより、ハーフは人類の恨みの矛先とされた。
           人種差別などの延長線上の出来事である。
  

生物は領域内に別の生物が入り込むと酷く警戒します。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥人類も同じです。

それでは第06話、始まります!! 

 
「ここでいいか?」
「えぇ、そこに寝かせてあげて」

セキレイは食堂の寝室に運ばれて、ベットに寝かせられた。

「‥‥‥はぁ‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥」

セキレイの息は乱れており、気絶しているのに痛みを感じているかのように見えた。
それを見ていたハトが彼の手を強く握った。

「セキレイお兄ちゃん‥‥‥‥‥頑張って‥‥‥‥‥‥」

ハトは彼の手を額に当ててつぶやいた。
その時、わずかながら彼の顔から苦痛が消えたかのように見えた。

「それにしても“おばさん”。何であなたがあんなとこにいたんですか?」

気になったジョンはついに聞きたかった質問を投げかけた。
おばさんは振り返りながら言った。

「私の名前は“カツコ”よ」

おばさんは胸元の金の金属板をぐいと引っ張って見せた。
そこには確かにKATUKOと刻まれていた。

「漢字では勝利のカツに子供のコで″勝子″、分かった?」

ジョンはそう言われてとりあえずうなずいた。
そして、改めて質問に答え始めた。

「私はセキレイちゃんがケガをするのを知っていたからあそこにいたの」

それを聞いたジョンは驚愕した。

「まさか、あなたは予知能力者ですか!?」

カツコは笑いながら手を横に振った。

「そんなわけないでしょ。私が彼に頼んだのよ」

そう言って向こう側に手を差し出した。その先には隊長が椅子に座り込んでいた。
隊長はすぐに立ち上がり歩み寄りながら言った。

「俺はミッションは必ず遂行すると言っただろ」
「ボブが受諾してくれて助かったわ。本当にありがとうね」

隊長改めボブにカツコは礼をした。

「いいさ。俺はおばさんに育てられたもんなんだからな。いわば親みたいなもんだ。
 親孝行ができて良かったと思ってるよ」

ボブは少し照れた顔をして言った。

「私、セキレイちゃんの大ファンなのよ。だから、助けたかったの」

カツコは顔の前で手を合わせて嬉しそうに言った。

「それにしてもやり方があるんじゃ‥‥‥‥‥‥」

ジョンのこめかみを汗が流れた。

「大人しく来てくれるとは限らないわ。それに
 あの電撃をセキレイちゃんに喰らわせないといけない理由があったの」

カツコは説明を始めた。

「実は″新人類手術《EVOLオペレーション》″の過程で
 ある装置が脳に埋め込まれていたの。その装置は万が一脱走を試みて
 それが成功して、外に出た瞬間に本人の脳を破壊するように出来てるの。
 埋め込まれたものを起動させずに取り出すのは至難の業で
 外科医的処置では取り出せないから、仕方なく
 彼の電撃でその装置をショートさせて、その後に取り出す予定だったの」
 
それを聞いたハトは泣きながら叫んだ。

「それでも、お兄ちゃんがかわいそうだよ!」

おばさんはハトの頭に手を置いた。

「私も反対したわ。信じられなくて。でも、ボブが資料を見たときに
 その術式が書いてあったから間違いないって。強力が電撃を加えれば
 壊れるって言っていたから私は彼を信じたの」

ボブは帽子を脱いだ。

「俺もできる限り電撃を弱めて使ったが、それでも常人なら即死のレベルだった。
 賭けだったが彼は君を助けるために立ち上がったんだ。それには俺も驚いたよ。
 危険な事をしてしまってすまなかった」

彼は深々と頭を下げた。
ハトはそれを見てゆっくりとうなずいた。

「おじさんもやっぱりセキレイお兄ちゃんの味方だったんだね」

彼女は少しだけ笑顔になった。

「‥‥‥うぐッ!‥‥‥‥‥‥」

セキレイはうめき声を上げた。全員はセキレイのそばに駆け寄った。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥」

呼吸がひどく乱れており、表情は非常に辛そうに見えた。
カツコはセキレイを診た後に言った。

「早急に手術をしないと少しやばいかもね」

それを聞いたハトとジョンは焦っていた。

「それならお医者さんを呼ばないと!」
「医療室はここから少し遠いが間に合うか!?」

しかし、カツコは冷静につぶやいた。

「私がやるわ」

その言葉を聞いて二人は耳を疑った。

「料理だけでなく手術までできるんですか!?」
「おばさん手術したことあるの?」

ハトやジョンは質問したいことだらけだった。
しかし、カツコはそれを手で遮った。

「今はそんなに時間がないわ。急いで手術室に運ぶわよ!」

おばさんが急いで入り口に走って行った。
ボブはセキレイを背負って彼女を追いかけた。
二人も彼らを追いかけて行った。



    **********



 ガンッ!

大きな音を立てて手術室の無影灯がセキレイの手術野を照らした。
おばさんとボブ、ジョンはその周りで立っていた。
ハトは手術室の外で全員の帰りを待っていた。

「二人とも、準備はいい?」

おばさんは見回しながら訊いた。二人は大きくうなずいた。

「では、脳内の装置の摘出手術を始めます。メス」

ついに、セキレイの手術が始まった。



    **********



「きっと大丈夫だよね、セキレイお兄ちゃん」

ハトは手術室の前のランプの消え入る時を待ち続けた。
手術前のおばさんの一言を思い出しながら‥‥‥‥‥‥‥


 数十分前―――――――‥‥‥‥‥‥‥


「本当におばさんは大丈夫なの?」

ハトはおばさんに訊いた。
彼女は笑顔でハトの頭に手を置いた。

「私はあなたが生まれる前にお医者さんをしてたの。
 絶対に治してあげるから、ね?」

そう言って、手術室に入って行った。

「俺たちもできる限りのことはしてくるからな」

ジョンも帽子をかぶりながら言った。

「ハト。俺に命令を与えてくれ。俺はどんな命令でも必ず守ってみせる」

ボブはサングラスを置いて、ハトの前にしゃがみこんで言った。
ハトは軽く首を振った。

「違うよおじさん。約束だよ。絶対にセキレイお兄ちゃんを助けてあげてね」

それを聞いたボブは少し微笑んだ。

「‥‥‥‥‥あぁ。そのミッション、必ず遂行する」

そう言い、彼はおばさんに着いて行った。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

ハトはしばらく立ち尽くしていた。
そして、椅子に座り込んで祈った。

『‥‥‥‥‥セキレイお兄ちゃん‥‥‥‥頑張って‥‥‥‥‥‥‥‥』





「‥‥‥‥ちゃん‥‥‥ハトちゃん、起きて」

カツコはハトの肩を揺らしながら言った。

「‥‥‥‥‥‥あれ?」

ハトは目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。

「セキレイお兄ちゃんは!?」

彼女はカツコに大きな声で訊いた。
だが、その必要はなかった。なぜなら―――――――

「ここにいるわよ」

カツコの後ろでセキレイが脚に車輪のついたベットの上に寝ていたからだ。
頭に包帯を巻いてはいるが、呼吸も安定しているので大丈夫なのだろう。

「‥‥‥‥良かった‥‥‥っ‥‥‥‥」

ハトはセキレイの傍らに寄って手を取り、涙を流した。
全員も笑顔でその光景を見ていた。

「‥‥‥‥‥‥″任務完了《ミッションコンプリート》″」

ボブはサングラスを掛けながらつぶやいた。

「本当、あなたには救われたわ。ボブ」

カツコは手術中の光景を思い出しながら言った。



「システムがまだ生きているなんて予想外だったわ‥‥‥‥‥
 このままじゃセキレイちゃんの脳から摘出できない!」

彼の前頭葉にクモのような形の装置が取り付けられていた。
これが脱出後、脳の最高中枢である脳幹を破壊することで
本人を死に至らしめるのだ。しかも、多少動きはぎこちないが
確かに動いているので、そこから動かすことさえ許されない。
それゆえに三人は立ちすくんでいた。

「俺に任せろ」

ボブはそう言うと、ポケットから何かを取り出した。
四角い小さな物が手の上に乗っていた。

「‥‥‥‥‥‥磁石?」

ジョンはそれを見てつぶやいた。

「そう、ただの磁石だ。俺にとっては違うがな」

ボブは磁石を前頭葉の上の装置に近づけた。

〖!!‥‥‥‥!?――――――!!?〗

 カタカタカタカタッ

クモ型装置は急に変な動きをし始めた。

 ガチンッ!

磁石にクモ型装置がすごい勢いで引っ付いて来た。


機械はたいてい強い磁力に弱いため、彼は能力で磁石の力を限界まで引き上げて
クモ型装置の回線を壊すと同時に、手元に引き寄せたのだ。

 ヒュンッ ザクッ!

そのままボブは持っていたナイフをクモ型装置の電源部分に突き刺した。
まだ、カタカタと動いてはいるがそのうち完全に動かなくなるだろう。
 
「あとは任せましたよ、おばさん」

そう言うとボブはクモ型装置を捨てるために手術室に去って行った。

「ハッ!そうね、後は細かい所の治療と縫合だけ!
 もう少しだけ頑張るわよ!」
「分かりました!」

そう言って二人はセキレイの手術を再開した。



「ほとんど軽い火傷だけで済んでたわ。
 頭は少し開いたけど、彼の再生力ならすぐに治るはずよ。」

カツコは食堂のベットにセキレイを寝かせた後に言った。

「どのくらいで治るの?」

ハトはセキレイの寝たベットの横に座って聞いた。

「うーーん‥‥‥‥‥だいたい2、3日はかかるんじゃないかしら?」
「そんなにかかるんだ‥‥‥‥‥」
「大丈夫だろうか?」

カツコの言葉を聞いたハトとジョンは悩んだ。
これからセキレイをどうしようか、と。

「‥‥‥‥‥‥仕方ないわね。私の能力、見せてあげるわ。」

カツコはセキレイの胸のあたりに両手をかざした。

 ポウゥゥ‥‥‥‥‥

彼女の両手から優しい光がセキレイに照射された。
ハトとジョンはその光景を眺めているしかなかった。

「何やってるの?おばさん」

ハトはカツコに訊いた。

「治してあげてるの。私の″超技術″でね」



カツコの能力名は″治療光線(リカバリーレイ)″。
肉体の欠損した組織に定着し、タンパク質等と同じように働く
特殊な光子を手の平から照射する能力である。

数日から数ヶ月かけて治すはずの重傷を圧倒的短時間で
回復させることができる、とてつもなく貴重な回復系の″超技術″である。

自身で生産するエネルギーを他者に分け与えるため
少し休めば再び治療を行えるほどの状態まで回復できる
体力面に対する配慮が少なくて済む便利な能力である。

唯一の弱点といえば、手の平からしか照射できないので
治す面積に限界があるというところだろう。
だが、それも手の距離を考えて照射すれば解消できる問題である。

ナイフなどによる一部分の深刻な傷は近くから。
火事による火傷などの全身の傷は遠くから。
この二つの使い分けで彼女は治療を行うのである。



「じゃあ、すぐに治るの!?」

ハトの顔が明るくなった。カツコはうなずいた。

「えぇ、手術の痕を治すだけだから簡単よ。
 それでも30分はかかるかしら」
「数日が30分になるんなら、それで十分さ」

ジョンはカツコに言った。

「俺はそろそろ戻らせてもらうぜ」

ボブはそう言いながら寝室の入り口に向かった。

「セキレイが消えました!ってアイツ等に報告しないといけないからな」

彼は軽く笑いながら言った。
ハトはボブを笑顔で見送った。

「頑張ってね!」
「‥‥‥‥‥‥‥おぅ」

そう答えると彼は食堂を去って行った。

「さぁ、あとは頭の傷を治すだけよ!」

カツコは頭の近くに手をかざして力を込めた。
優しい光がセキレイの頭を包み込んだ。



    **********



「なかなか治らないわね。これでも頑張ってる方なんだけど‥‥‥‥‥」

カツコはセキレイの手術痕を診ながら言った。

「おばさん頑張れ!」

ハトはカツコを応援した。

「おばさん頑張るわね!」

カツコはそう言って再び能力の使用に意識を集中した。


 ガチャッ!

「動くなッ!!」

軍人たちがドタドタと音を立てて入り込んできた。

「な、どうして!?さっきボブが報告に行ったはず‥‥‥‥‥」
「戦国博士の命で捜索をしばらく続けていたのさ。
 やっぱりアイツは裏切ってたんだな!前から怪しいと思っていたんだ!」

彼らはハトたち四人を取り囲んだ。

「お前らの射殺命令はすでに出ている!全員発射準備!!」

そう言いながら軍人の代表のような一人が引き金に指を掛けた。
残りの全員もそれに続いて指を掛けた。やはり躊躇はないのだろうか。

「で、でも!おばさんは撃たないであげて!
 おばさんはセキレイお兄ちゃんを助けただけだから――――――」
「それなら十分、反逆罪だ!彼女にも死んでもらうッ!!」

モブキャラ代表は部屋の隅にいる四人に銃口を向けたまま叫んだ。
もう聞く耳を持つつもりもないようだ。

「セキレイお兄ちゃん‥‥‥‥‥‥‥」

ハトはセキレイに抱きついた。

「今度こそ、もう駄目みたい‥‥‥‥でも良かったね、お兄ちゃん。
 寝てるから痛くないもん‥‥‥‥‥‥‥‥私は痛いけどね、えへへ」

彼女は笑っているのか、泣いているのか、よくわからない表情で言った。

「話は終わったか?それでは処刑を始める」

軍人たちに緊張が走った。
ハトはゆっくりと軍人の方を向いて立ち上がった。

「じゃあね‥‥‥‥‥セキレイお兄ちゃん」

ハトはゆっくりと目を閉じた。



 フワァァァァァッ!

「な、何ィッ!!?」
「一体どういうことだ!?」
「身体が‥‥‥‥宙に!?」

軍人たちの身体が宙に浮遊し始めた。
彼らは空中でただもがくことしかできなくなっていた。

「″重力無効《ゼログラ》″」

いつの間にか上半身を起き上げていたセキレイが
右手を彼らの前に差し出したままつぶやいた。

「“じゃあね”じゃないぜ、ハト。俺たちは絶対に自由を手に入れるんだ。
 それまでは死ぬわけにはいかないんだ」

セキレイはベットから立ち上がって言った。

「‥‥‥‥うん‥‥‥‥‥‥そうだね‥‥‥‥‥‥‥」

ハトは泣きながらそう返事をした。
セキレイはようやく完全に復活したようだった。 
 

 
後書き
セキレイ復活!やはり主人公はこうでないといけませんね!

食堂のおばちゃんことカツコさんは料理も治療もできるだなんて
本当に素敵な女性ですね。旦那さんはいるのでしょうか?
しかも、″超技術″まで持っているということは
少なくとも、ただの人間ではないようです。一体、彼女は何者なのでしょうか?

次の話では、あの男がしぶとく復活します!
もう、これで誰かお分かりでしょう?

次回 第07話 逆襲の??? お楽しみに! 
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