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霹靂の錬金術師

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GO OUT

巨大な蜥蜴に姿を変えたエンヴィーはその直視しがたい醜怪な姿をぶるりと震わすと六本ある足のうちの前足で掬いあげるように攻撃を仕掛けてきた。
リン君は危なげなくかわし、エドワード君はダッシュでかわした。一方私は横っ跳びし、血の海に頭から突っ込むことでなんとかかわす。
エンヴィーはそんな不様な私には目もくれず、リン君向かって畳み掛けた。始めこそアクロバティックな動きでかわしていくが、エンヴィーが体に似合わない速さで動き、遂にはリン君を鷲掴み血の海に叩きつけた。勢いそのままにエンヴィーはエドワード君をその長い尾を鞭のようにしならせ、打ち込もうとする。しかしそれは私がさせない。
杖をばしっと宙を叩くように振り下ろし雷を錬成、エンヴィーの尾の付け根に叩き落とす。雷はエンヴィーの尾を焼き切りそのまま血の海に落ちようとするが、もし落ちたら感電してしまうのでギリギリで消す。

「エドワード君、リン君、ここは私に任せて下さい」

「でもっ!」

「でもじゃありません! ……ここは私に任せて。これでもイシュヴァールでは雷の魔女の異名をとってたんですよ?」

エドワード君は私の後ろにいたから知らないだろうけど、この時の私は、さぞ悪辣な顔をしていただろう。口ではこんな事を言っているが、だだこの目の前に居る私の夢を遠因として壊した蜥蜴を、自分一人で殺したいと言うエゴのためにエドワード君達を下がらせたのだ。悪辣な顔にもなるというわけだ。
エドワード君は私のいつもとは違う雰囲気を感じ取ったのか、イシュヴァールでのことを察したのか危なくなったら手を出すと言って、リン君を連れて下がってくれた。
エンヴィーはこの間、ニタニタと癇に障る笑みを醜い顔に浮かばせていた。

「一人で僕とやろうってのかい? 馬鹿だね、雷の魔女だかなんだか知らないけどぶっ!?」

そこから先は雷を直接喉に叩き込んでやることで口にさせなかった。しかしその傷も人造人間の超再生で錬成反応を起こしながら見る間に治っていく。

「まったく、いちいち癇に障ります。下品な口調も、醜い姿も、下衆な性格も。でも、その錬成反応だけは綺麗ですよ」

杖を円を描くように回し、エンヴィーの上に雷の輪を造る。そして杖をツイと振り下ろし、円からタコの脚のように伸びた六条の稲妻がエンヴィーのそれぞれの足へと爆音と共に、肉の爆ぜる音をさせる。

「っ!ぎゃぁぁぁぁあ! クソが!!」

巨体の支えを失ったエンヴィーはそのまま無様に血の海に落ち、小波を発生させた。
私はそれに若干よろけながらもエンヴィーに近づいていく。もちろんいつでも雷を発生できるよう、杖の先に雷の種を造っておき、雷の輪も継続してエンヴィーの足を爆ぜさせておく。エンヴィーが再生の光をさせながら、恨めしげな目で見てくる。

「あら、意外と元気ですね。じゃあまだまだ死ねるということですね。では次は趣向を変えましょうか」

そう言ってエンヴィーの体の真ん中あたりに雷を持続的に落とし、肉を削っていく。エンヴィーの大絶叫を聞きながら、お目当ての物を見つける。赤黒く巨大なそれは禍々しく脈動し、命の在処を示していた。すなわち、心臓だ。

「心臓に電気を流して通常では考えられない程の脈拍にしてあげます」

そう言ってエンヴィーの心臓に電気を流す。それにより心臓は急激に脈拍を速いものにする。

「息が切れてくるでしょう?」

エンヴィーは口をだらしなく開き、長い舌を出し酸素を犬のように求めた。
その口めがけて、喉の奥に届くように雷を叩き込み喉を潰し息ができないようにする。


「こうすると身体は酸素を求めるのに酸素を取り込めなくなる。つまり窒息と同じ様な状態になるんです」

エンヴィーは直ぐにこめかみに血管を浮かび上がらせながら苦しみにのたうち回るようになった。

「そして結果も窒息死と同じで、顔を真っ赤にしながら、糞尿を垂らしながら、死んでゆくんです」

これはイシュヴァールで感電が人体に与える実験で得た、最も苦しみながら死んでいく方法だ。
手足はもがれ、喉も潰され、のたうち回るしか能が無いその様に私は大きな背徳感とともにそれを遥かに凌駕する満足感を覚えていた。

「貴方が引き起こしたイシュヴァール殲滅戦が教えてくれたんですよ。ありがとうございます」

最後の一言には最大の皮肉を込めた。
エンヴィーは耳は聞こえているので悔しげに一層大きくのたうつ。しかし当然、私に危害を加えることも、下品な口を聞くこともできない。
あとはこれを眺めながらエンヴィーが死ぬのを待てばいい。私がその様をまじまじと最後まで鑑賞してやろうと、居住まいを少し正した時、後ろから、待ってくれ!というエドワード君の切迫した叫びがかかった。

「なんですか?手出しは必要ありませんよ?」

顔だけをエドワード君に向け、極力笑顔で諭すように優しく言う。
エドワード君は血の海を勢いよく掻き分けながら私に近づいてきた。

「違う! もしかしたらここから出られるかもしれない!それにはエンヴィーの協力が必要なんだ!!」

「どういう事ですか? 納得できるよう説明して下さい」

エドワード君はエンヴィーには聞かせられない話なのか私に耳を貸すように仕草で伝えてきた。私はエンヴィーから少し離れ、エドワード君の口に耳を寄せる。

「ロス少尉の時にクセルクセスを通った時の話なんだけど、」

なるほど、確かにマリア・ロス少尉の生存はあまり広めない方がいい。
エドワード君の説明によると私から離れたあと、ある遺跡の一部を見つけ、それがマリア・ロス少尉の際に行ったクセルクセス遺跡の一部ではないかと言う。そして、それは人体錬成を表しているかもしれないとのことで、そこら辺は辺りに散らばる遺跡の巨石をかき集めないとはっきりしなく、それをエンヴィーにやって欲しいのだとか。目をずらすと確かにそれらしい意匠のある巨石があり、人では到底全ては集められなさそうだ。

「わかりました」

私は杖を雷から切り離すように振り、錬成をやめ、エドワード君とエンヴィーの両方に忠告する。

「少しでも危険を感じたら容赦なく潰します」

その後はエンヴィーが巨石を円盤状の足場の上にすべて集め、エドワード君がそれを見て何やらブツブツ呟きながら理論を組み立ていく。
私はそれを手に杖を握り締めながら体育座りをして見ていた。ふと自分の手を見て、思わず目が細くなる。私の手は小刻みに震えていた。それが恐怖によるものなのか、怒りの余波なのか、はたまた別の何かなのか、まったく分からなかったが何故だか、自己嫌悪に陥り抱えた膝に顔を埋めた。
しばらくしたあと、私の肩をゆする手に半ば閉じかけていた意識を起こし顔を上げる。そこにはエドワード君が心配そうな顔をして立っていた。

「大丈夫よ。ごめんなさい、少し疲れちゃったみたい」

立ち上がり軽く口角を持ち上げながら答えるとエドワード君はあまり納得した顔はしてくれなかったが、それでもこれからすることについて説明をしてくれた。

「生きた人間を錬成し直す、ですか…… 私はそっち方面には疎いのでお任せします」

エドワード君は人体錬成をした事もあり生体錬成方面に強い。私も全く知らないというわけではないが、やはり空気中の水分を弄ったり、そこから電気を発生させる方が得意だ。だから今回はエドワード君に責任を丸投げし、全面的にお任せだ。でもなぜだろう、きっとエドワード君なら成功すると確信を持って言える。
エドワード君が描いた大きな人体錬成陣の上にエンヴィー含め四人で乗っかり、エドワード君が謝りながらエンヴィーの中の賢者の石を使い錬成を開始。
途端にここに来た時と同様の、全身を麻酔され身を削がれるような感覚が襲いかかって来た。

「うっ」

ここからは目まぐるしかった。
思わず声を漏らしながら目をきつく閉じ不快感に耐え、身体が分解しきるのを待つ。
そして一瞬の落下感のあと再び不快感に耐え、今度は身体が錬成されるのを待った。錬成されると同時に頭から吸引されるような感覚が起き、反射的危機感からジタバタするが当然なんの意味もなくそのまま身を任せることになる。
それも長くは続かず、誰かの絶叫と共にどこかに放り出され、落ちた。
身体は何かブヨブヨした生暖かいモノに包まれている。それを押しのけ退け、光ある方へ何とか這いずり出た。
そこは暗かったが血の海はなく、ひどい鉄臭さもゼロだった。なにはともあれ、どうやら生きて帰ってこれたようだ。 
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