雪玉
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第三章
第三章
その日彼女は家に帰るとまず自分の部屋の机に座ってあるものを書いた。それは手紙だった。一時間程で書きその中身を見てまずは満足する顔になった。
「まずはこれでいいわね」
手紙を見つつ言う。そして今度は窓の外を見る。もう暗くなっているその空に雪が降り続いている。外の世界は既に雪が積もっている。
それを見てまた思うのだった。
「この調子なら絶対にいけるわ」
雪を見て強い決意の顔で頷くのだった。それで決まりだった。そして次の日。見事に銀化粧をした学校の中で皆はしゃいでいる。めいめいで橇に乗ったりかまくらを作ったりしている。その中には当然ながら数馬もいる。数馬はクラスの皆の音頭を取って雪合戦をしようとしている。
「じゃあ皆やるぜ」
「やっぱりこれか」
「好きだねえ」
「雪つったらこれしかないだろ」
数馬は皆に対して言い返す。しかしその顔は満面の笑みだ。
「雪合戦だよ、やっぱりな」
「そうか」
「ああ。こんな日しかできないからな」
こう言ってもう手袋をはめる。雪合戦によく合うビニールの手袋をだ。
「それでだよ」
「わかった。じゃあな」
「まあどのみちやるつもりだったけれどな」
「女組もそれでいいよな」
「何よ、女組って言い方」
女の子達もいる。彼女達は今の数馬の言葉に少しつっかかった。
「少しは考えて言いなさいよ」
「何処の大昔の不良漫画よ」
「不良漫画だったか?」
数馬は今の彼女達の言葉に突っ込みを入れた。
「ジャニーズのグループの名前だったんだけれどな」
「それでも古いわよ」
「私達が生まれる前のグループじゃない」
やはり口が減らない。しかし数馬も同じ位口が減らないのだった。
「いいじゃねえか。じゃあ光源氏でいいか?」
「何処をどうやったらそんな名前になるのよ」
「無理があり過ぎよ」
「何だよ、ジャニーズだから出したのによ」
「せめて嵐にならないの?」
数馬に対しての容赦ない突込みが続く。
「随分古い趣味だけれど」
「中学生の趣味じゃないじゃない」
「わかったよ。じゃあしぶガキ隊にとくな」
冗談でこう言ったがこれに対する反論もかなりのものだった。
「センスの欠片もないわね」
「何、そのグループ名」
彼への反論ではなくなっているがそれでも彼に向けられたものになっていた。
「もうちょっと考えてつけたら?」
「冗談みたいよ」
「文句は向こうに言ってくれよ」
しかしそう言われても彼は平気なものだった。自分のことではないから気楽なのだという事情もあった。そう、彼は気楽なものであった。
「まあとにかく。はじめるんだよな」
「だから早くはじめろって」
「ジャニーズはどうでもいいからよ」
男の子達からの声だった。
「早いうちにな」
「頼むぜ」
「ああ、わかった」
彼等の言葉に頷きあらためて女の子達の方を向いて。問い掛けるのだった。
「じゃあはじめるな」
「了解」
「わかったわ」
「出席番号の偶数と奇数に分かれてやろうぜ」
学級委員長が言ってきた。
「それでいいよな」
「ああ、それでな」
「じゃあ早速」
メンバー分けはそれですぐに終わった。こうしてお互いに分かれて試合開始となった。数馬は奇数で恵理香は偶数だ。彼女にとっては実に都合のいいことだった。
「丁度いいわね」
向かい側に数馬を見ながら微笑んでいる。一人こっそりと。
「それじゃあ」
そのうえで懐から昨日書いた手紙を出した。すぐにそれを雪玉に入れて包み込む。雪玉は何度も何度も両手で押してそう簡単には崩れて投げている最中に投げている手紙が出ないようにした。玉はカチコチにまでなりそれを見て満足した笑みを浮かべる。これだけで準備万端整ったのだった。
後は早速速射砲の様に雪を投げ続けている数馬に顔を向けた。そのうえで彼の名を呼んだ。
「三日月君!」
「んっ、葉山!?」
「受けなさい!」
そう言って雪玉を投げたのだった。早速。
雪玉は一直線に飛ぶ。いいスピードと球筋だった。どうやら彼女の運動神経は中々のものだ。その速さは数馬といえど不意ではかわせるものではなかった。
雪玉は見事彼の額に命中したクリティカルだった。
「やった!」
「葉山さんやるね!」
偶数チームは恵理香が見事数馬に命中させたのを見て歓声をあげる。言うまでもなく彼が偶数チームにとって一番の脅威だったからだ。
その彼に命中させた。恵理香はスターになった。ところが彼女にとってそれはどうでもいいことだった。じっと数馬を見ているのだった。
「さて、どうかしら」
雪玉が当たった彼の反応を見ていたのだ。雪玉はさっきので割れて中身が彼に見える筈だ。話はそれからだ。どうなるのか、じっと見ていた。
ところがであった。彼女の予想通りには進まなかった。それどころか。
「うう・・・・・・」
「お、おい三日月!」
「どうしたの!?」
額にその雪玉の直撃を受けた数馬は背中からゆっくりと崩れ落ちたのだった。慌てて皆が駆け寄る。恵理香は崩れ落ち倒れてしまった彼を見て呆然としてしまった。
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