【完結】剣製の魔法少女戦記
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第六章 正義の在り処編
第二百話 『男達の壮絶なる戦い』
前書き
更新します。
今回はほぼジグルドとゼストの決闘です。
ではどうぞー。
ゼストとジグルドの戦い。
ゼストはかつてストライカー級の魔導師であった。
いや、力が当時のものまで戻った今、かつてをつける必要性はない。
そう、ゼストは今もストライカー級の魔導師なのだ。
それはシホも真正面から魔術という反則なしで戦えば負けるかもしれないと言わしめたほどの腕前を持っている。
そんな十全の能力を発揮できるゼストに烈火の剣精・アギトが融合すればどうなるか……?
ただでさえリインとユニゾンしたシグナムすらを不十分の体で圧倒した腕だ。
それはもうかなりのものになるだろう。
シグナムはある時にこう言った。
『私は確かに本気で戦った。そこに嘘偽りはない。だからこそ力が戻られた今のゼスト殿と負けてもいい……本気で戦ってみたい』。
………と。
あのバトルジャンキーなシグナムが笑みを浮かべながらそう言い切ったのだ。
だからこそゼストの腕は底知れないものだと思われる。
そんなゼストの力を若い時から聞かされてきたジグルドは当然己の限界を超えなければ勝てない相手だろうという思いはあった。
………だから、ジグルドは今このとき解放する。
己の体に宿っている竜の血を……!
「ゼスト殿。私の本気の力を見せる。見ていただきたい」
「よかろう」
それでゼストは自慢の槍を地面についてジグルドが本気になるのを待った。
そしてジグルドはその待ってくれるゼストの心にさらに感銘を覚え、感謝し、己の全開を発揮する。
「ぬんっ!」
ジグルドの体から大量の魔力が放出されていく。
次第にジグルドの体は青く変色していき目が赤く染まっていく。
爪が伸びて尖っていき背中の部分から二対の翼が生える。
「はぁあああああああーーーッ!!」
そして先ほど放出された魔力が今度は再びジグルドの体へと戻っていく。
一度放出された魔力が体の表面へと纏わっていく。
そして一瞬だがジグルドの体が発光して、それが収まると、
「………ゼスト殿。お待たせした。これが我がブリュンヒルデ家に流れる竜の血を具現化した形態………『ドラゴンフォーム』です」
「………」
ゼストは驚きの表情をしているものの槍を握りしめる力は衰えていない。
むしろ強敵に会いまみえたことに対して少し歓喜しているところすらある。
なぜジグルドがこのような姿になれるのかというと、ブリュンヒルデ家の歴史をひも解いていく必要がある。
元々ブリュンヒルデ家は “竜と交わった”という言い伝えがあり、その家系に生まれた人間は高ランクの魔力………最低でもAAランク相当のもの、を持っている。
そしてブリュンヒルデ家には数十年に一度、先祖返りとして最も竜の血を色濃く生まれた子は“ドラゴンフォーム”というレアスキルが備わっている。
背中から竜の翼、皮膚から竜の鱗が浮かび、鋭い爪と牙を生やした姿へと変身するという。
そんな言い伝えを具現化した男がジグルド・ブリュンヒルデなのだ。
この姿になった後に残るのは倒された敵の姿だけ……。
ゼストもこの倒されたものの一覧に収まる男なのか……?
この二人の勝負は今始まろうとしている。
先に動いたのはジグルドであった。
その翼から発せられる魔力をバネに一気にゼストとの間合いを詰める。
そのスピードは常人が出せるものでは決してない。
だがそんなスピードを出していても、
「ぬんっ!」
ガキッ!
「ッ!?」
「まだ、見えるぞ?」
なんとゼストはその動体視力と反射神経だけでジグルドの最速の横薙ぎからの切り付けを槍を盾にすることで受け止めてしまったのだ。
そんなゼストにジグルドは一瞬思考を停止させたが即座に槍を弾き後方へと下がり一言。
「………まさか、私のトップギアのスピードによる斬撃を受け止められるとは思っていませんでしたよ。さすがストライカー級の魔導師ですね」
「なに………俺とてただでこの命を差し出すわけにはいかないからな。………帰りを待っていてくれるものがいる。俺を必要としてくれる友がいる」
ゼストの頭に思い浮かべられるのはルーテシアやアギト、そして自身を慕ってくれる戦闘機人の子達。
そして長年の友であるレジアス。
この思いがある限りもう二度とゼストは敗北はしないと誓っている。
もちろんそんな恥ずかしいことは寡黙なゼストは語らないが今現在はアギトがユニゾンしているために脳内の考えが結構だだもれ状態だったりしているために、
『旦那~………あたしは嬉しいよ! 旦那がそんなにあたしやルールーのことを大切に思っていたなんてー………』
中でいやんいやんと体を動かしているアギトの存在をあえてゼストは無視した。
そう、顔には出さないでおくべきだ。
俺は寡黙なのだからな……。
そんなどうでもいい一幕があったが、ゼストの「アギト、いくぞ」という声とともにアギトが「おう!」と言って、
『一気に行くぜー! 旦那、受け取りな! 炎熱加速!!』
瞬間、ゼストの槍に炎が宿る。
そして槍を構えて、
「はぁあああああーーーーーッ!!」
裂帛の叫びとともにゼストはジグルドへと向かって駆けていく。
そのスピードはドラゴンフォーム状態でのジグルドにも負けていない。
ジグルドも負けじとアスカロンを構えて、
「負けられないのだよ! おおおおおーーー!!」
ジグルドも負けじと同じくらいの気合のこもった叫びを上げてゼストに向かって高速で駆け抜ける。
そして互いの武器が交差する。
瞬間、金属がかち合う凄まじい音がそこら中に響き渡る。
ギギギッ!とジグルドのアスカロンとゼストの槍はつばぜり合いをしていて力も同等ということになり、
「………やるな」
「ゼスト殿。あなたこそ!」
ただただゼストはジグルドの力と技量を冷静に褒めて、ジグルドもゼストの腕に改めて感銘を覚えていた。
そして始まる。
剣戟による激しい武器のぶつかり合いが………ッ!
ジグルドはアスカロンを何度も振り回し剣戟をぶつけていく。
それに対してゼストは水平に構えて槍による刺突を繰り返し連打する。
剣戟と刺突。
本来はかみ合わない異なった攻撃が二人の技量の高さゆえに高次元戦闘を演出している。
何度もぶつかっては一回距離を置き、再度お互いに突撃を開始する。
そんな過激な戦いがどれくらい続いただろうか……?
「ふぅ、ふぅ………」
「はぁ、はぁ………」
ジグルドとゼストは互いに多少の荒い息を吐き、だがしかし負けじと剣と槍を衝突させる。
その戦いをレジアスの護衛として間近で見ていたランにレン、ギンガはその高次元の戦いに魅せられていた。
「すごい、戦い………! 私とバルムンクじゃまだあそこまで到達するのは無理そうだね……」
《マスターの発言には異を唱えたいところですが遺憾ですが認めましょう。私達はまだあそこには届かないでしょう》
ランとバルムンクはそんな会話をしていた。
「ねぇ、アウル? あの攻撃を受け止められるようになったら僕も強くなれているかな………?」
《それはマスター次第です。しかし、すでにマスターは強くなれていますよ。だからもっと上を目指しましょう。遥かなる壁が我らを待っています》
「そうだね、アウル!」
レンもアウルヴァンディルとそんなこれからの成長を予感させる会話をしていたのだった。
そしてギンガはというとランとレン、二人のそんな会話を聞いていて、
「(ランとレン君……。ゼストさんとジグルド提督の戦いに触発されてまた一歩強くなったわね。かっこよくなってね………レン君!)」
ギンガはランとレン………いや、正確には特にレンを応援していた。
想いを寄せる相手であるがゆえに……。
そして二人の戦いは終盤に入ったのだろう。
「まだだ………まだ倒れんぞ。そしてこの戦いをもっと続けていたい! こんな心の底から楽しめる戦いは初めてだからな!」
ジグルドはその表情はとても爽やかなものだった。
「………続けたければ投降しろ。ジグルド。そうすればいつでも模擬戦でできるのかもしれないぞ?」
ゼストがそう言ってジグルドを説得する。
しかしその言葉で正気に戻ったのだろう、ジグルドは「いえ………」と言って首を振り、
「私にはもうそんな未来は残されていないのですよゼスト殿………。だから、ここで決めさせてもらう! 行くぞ! フルドライブ!!」
「引き際を誤ったようだな、ジグルド。ならば………フルドライブ!!」
ジグルドとゼストは互いにフルドライブを発揮する。
そして同時に地を蹴り、渾身の一撃を叩き込もうとしようとしていた。だけどそれは第三者の介入で止まってしまった。
―――ザシュッ!
「なっ!?」
ゼストが目の前の光景に目を見開く。
ランやレン、ギンガにレジアスもあまりの光景にゼスト同様に口を大きく開けて驚愕している。
「………あ?」
ジグルドは数秒理解するのに時間を要した。
それはなぜか………?
それはとても簡単なこと、そしてとても残酷なこと。
ジグルドの胸には背中から突き出しているのだろう、巨大なドリルがジグルドの胸を貫通していた。
「ぐ、あ………!? だ、誰だ? 私の背後を襲った馬鹿者は!?」
「さーて誰でしょうねー? キヒヒ!」
そこには聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声の持ち主とは先ほど志貴に腕を切られてどこぞへと撤退したはずの男。
そう、モリア・モルドレッドだったのだ。
「モリ、ア………ッ!? 貴様ぁーーーッ!!」
「ひゃははははーーー! やっと隙を見せてくれたねぇ~ジグルドォ♪ 俺様はこの時を待っていたんだよ? お前が隙を見せて背中ががら空きになるその瞬間を………!」
モリアはそう言いながらも右手に装着されていてジグルドを今もなお突き刺しているドリルを高速で回転させる。
ギュイイーーーン!という音とともにジグルドの胸が削られていっているのだ。
当然そんな現在進行形で広がっている胸の穴をさらに傷つけられて、
「ぐあああああああーーーーーッ!!」
ジグルドの苦痛にもがき苦しむ叫びが戦場一帯すべてへと響いていく。
「モリア・モルドレッド! 貴様!!」
それでゼストが高速でモリアの隣へと移動してモリアのドリルの腕を槍で切り裂いた。
その反動でジグルドの胸に刺さっていたドリルは抜け落ちた。
しかし同時にそれはジグルドの体から大量に血がまき散らされていくということになる。
地面に倒れて青い顔をしているジグルドはすでに死に体に近い様態であった。
それに対して腕を切り裂かれたモリアはというと、
「くひひ! そんなものじゃぁ俺様は殺せないよー!」
「なんだと!?」
すると切断されたはずのモリアの腕は見る見るうちに再生していく。
ナノマシン技術………。
再生機械がモリアの体に埋め込まれているために数秒もせずにモリアは腕を回復させていた。
「ああー………。ヴォルフ・イェーガー殿からいただいた魔導ジェネレーターは最高だねぇ♪ これがあればどんな傷も魔力とナノマシンがある限り全身機械の俺様の体でも再生可能なんだからねぇ! きひひ……」
モリアが一人自慢に酔いしれてもうジグルドにはあまり眼中にないらしく、冷めた視線を向けて、
「さぁて、ジグルドォ~。もうお前は絶対に助からねーんだよ。なにが宿願だ。なにが粛清だ。なにが管理局を変えるだ………。寝言は寝て言えよ」
「ジグルド! おい、しっかりしろ!」
「カフッ………ククク」
ゼストがジグルドを必死に呼びかける。
だがジグルドはそこで笑いを浮かべていく。
「なぁにがおかしいんだ、ジグルド? お前はもう………」
「………わかって、いたさ。モリア、貴様が裏切ることなど……」
「なに………?」
「私はお前が裏切ること、も……想定、していたのだよ………カフッ!」
「ジグルド! もう喋るな!」
「………いや、言わせてくれ、ゼスト殿………。私の、真の目的は絶対悪という烙印を押されて悪となり、……最後には正義の味方に倒されて後世の歴史に正義の味方に倒される悪人として………名を刻んで、そして管理局に蔓延している汚職や最高評議会のような連中を払拭することが最大の目的、だったのだよ………当初の予定では私を、倒す役目はシュバインオーグ一尉に任す予定だったのだがな………ふふふ、まかり通らないものだな………グッ………」
「は、ははは………あはははははは! とんだ自己犠牲だよジグルド! しかしそんな計画ももうオジャンだな! これからは俺様が世界を破壊してやるよ!! このモリア・モルドレッド様がな!!」
そう言ってモリアは高笑いを続ける。
だがジグルドは最後の力を振り絞って、
「………ふっ………できるものなら、やってみるが、いいさ、モリア。知って……いるか? 悪は最後には正義の味方に倒されるのが……お決まりなのだよ………?」
そう言ってジグルドはその眼から光を失いそのまま目を閉じて命を無くし、逝った………。
「………ジグルド! くっ………」
ジグルドの体を抱きかかえていたゼストは逝ったことを悟ってしまいその顔を悲痛に歪ませた。
「さぁて………ジグルドは逝ったことだ。後は俺様が好きなようにして―――………」
―――バシュッ!
「………ひゅ?」
モリアは今度はジグルドと同じことをされたかのようにフードを着ている隻眼の男………ヴォルフ・イェーガーに首を捻じり千切られていた。
しかし、モリアは全身機械であったために、首だけでも生きていたために、
「………ヴォ、ヴォルフ殿? な、なにを………?」
「私の予定を狂わさないでもらいたいな、モリアよ?………まぁ、いい。ジグルドは残念だったがここがお前の最後なのだろう。暴走しろ、魔導ジェネレーター………いや、『疑似聖杯のカケラ』よ」
瞬間、モリアの体の方に内蔵されていた魔導ジェネレーター、否『疑似聖杯のカケラ』が暴走を開始してモリアの体を突き破りそこから黒い獣が数十体以上も飛び出してきた。
[ガルルルルルッ………]
[ガァアアアアッ………]
[ルルルルルルゥッ………]
その黒い獣はどんどんと分裂を繰り返して増殖していく。
そんな光景に、しかし一旦戦いは中断したのだろうシホ達がこちらへとやってきたのは……!
「ヴォルフ・イェーガー!? これはいったいなに!? ジグルド提督はどうして………!?」
「それはそこのゼスト・グランガイツに聞くのだな。………さて、シホ・E・S・高町、交渉しようではないか………」
「交渉………?」
ヴォルフ・イェーガーがシホに持ち出した交渉とは一体なんなのか?
増殖し続ける黒い獣は一体なんなのか?
謎は加速的に増えていく………。
後書き
非道な行いによって命を落としたジグルド。
そして同じことをされたモリア。
ヴォルフ・イェーガーは一体何を交渉するというのか………?
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
では。
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