(仮称)武器の御遣い
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第壱章
第四席。法正、名無しの鬼を引き取るとのこと
Side:???
この手を血に汚したのは、いつの日か。
全てに裏切られ、全てと距離を置いたのは、いつの日か。
手に握るのは、剣。
刀身の銀、髪の銀。血の紅、右瞳の紅。柄の蒼、左瞳の蒼。
自分と重ね合わせた一振りの剣。孤独に生き、荒野を彷徨う、小さな鬼。
斬り殺した数、武器を振るった回数、生まれ故郷。何もかも、もう覚えていない。でも、殆どの事を覚えてない今でも、人を最初に斬った感覚は、初めて人を殺した感触だけは、鮮明に覚えてる。
最初に人を殺した理由は、瞳の色が左右で違うから気味が悪いと云う理由で襲われたから。相手は生まれの村の人達だった。村人達はまず僕を庇っていた僕の両親を殺し、僕を殺しに来た。だから、無我夢中で村人の一人の手から剣を奪って、そのまま村人達の首を斬り飛ばした。七つの時だ。
その後は、色んな理由を付けて殺しに来る役人や、下衆な下心丸出しな野盗の群れを、殺される前に殺し続ける事八年。
必死に、ただただ、生きていた。何を生き甲斐にすることもなく、はしゃぐことも、甘えることも、泣くことも、笑うことすらもなく。この身を血に濡らし、疎まれ、憎まれ、蔑まれながら、僕は必死に、ただただ生きてきた。
「(誰かが近づいて来る気配がする。また誰かが僕を殺しに来たんだろう。飽きない人達だ)」
そう思いつつ、気配がする方を向く。そしてそこに居たのは、美しく巨大な白銀の狼と、傘を被って外套を纏った女の人と、変わった服を着た黒髪の女の人と、白基準で黒い服を着た女の人と、変わった服を着て変な耳飾りをつけた女の人と、黒い帽子を被った僕と同じくらいの背丈の女の人と、純白の服を着て仮面を付けた人だった。
仮面の人以外全員眼帯を付けてたのは少し変わってると思う。
『……屍を食らう鬼が出ると聞いて、来てみたが。………お前がそうか?』
見た瞬間から震えが止まらなかった。そして、無意識のうちに刀を構えていた。敵だと思った。今までのように、僕を殺しに来た敵だと。
でも、勝てないと思った。アレ等と戦ってはならないと、僕の中の本能が叫んでいた。アレ等には勝てないと。
『……随分と、可愛らしい鬼も居たものだ。……剣も屍から剥ぎ取ったのか?』
僕が震えているのに気付いていないのか、仮面を付けた人は、僕に話し掛けてきた。身体全体が萎縮して上手く動かない。喋る事も儘ならず、俯いたままでいる僕。
『……子供一人で、屍の身包みを剥ぎ、そうして自分の身を護ってきたのか』
仮面の人は僕が震えている事など気にもとめず、ゆっくりと近付いて来る。
殺される。
そうとしか考えられない。此処へ来る奴は皆、僕を殺そうとする奴等ばかりだった。
そして、仮面の人は、手を伸ばせば届くほどの距離まで近づいて来て、右手をゆっくりと振り上げた。
逃げられない。殺される。もうここ迄だ。
そう思い、僕は目を固く閉じた。
――――ナデナデ
『……大したものだ』
仮面の人は、僕の頭を撫でていた。
意味が分からない。訳が分らない
僕は、頭の整理が追い付かず、目をパチクリさせる。
『……だが、そんな剣はもう要らない。他人に怯え、自分を護る為だけに振るうだけの剣なら、もう捨てちまえ』
そういうと、仮面の人は背を向けて離れた。そして、少し離れた場所で止まると、何処からとも無く、二つの槍と、三つの剣と、一つの弓を取り出し、こちらに放り投げた。
慌てて投げ渡された武器を受け取る僕。
なぜ? なんで武器を?
ひどく動揺した。理解ができなかった。この人は、僕を殺しに来たんじゃないの?
『……くれてやる。オレの武器』
そう言って、仮面の人は言葉を続けた。
『……武器の本当の使い方、知りたかったら、付いて来い。……これからは、武器を振るい、敵を斬る為だけではない。……己だけを護るのではなく、己が信念を、仲間を、大切なモノを護る為に』
そう言って、仮面の人は背を向け、離れて行った。その背中を見て、着いて行きたいと思った。
理由は分からない。ただ、初めて会った気がする。
こんなにも優しい人に。こんなにも強い人に。こんなにも気高い人に。
そう思いながら、僕は仮面の人の後を追った。
Side:END
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先程のやり取りの後、飛鳥達は着いて来る事を決めた少女を快く歓迎し、今は七人で対談中である。
『……お前、名前以外何も無いのか?』
「は、ハイ。な、名前は有りますが、字も真名も貰う前に両親を村の人達に殺されて……」
『……あぁ、目の色が左右で違うから、か?』
「ハイ……」
そう言って縮こまる少女。内心、村人達の様に気味悪がると思い込んでいる模様だ。
「なんだ? 私等がその程度の事でお前の事を気味悪がると思ってるのか?」
「え。だ、だって、瞳の色が左右で違うのは悪魔の子だって……」
「あっし等も、飛鳥様に拾ってもらう迄はアンタと似た様な境遇だったでござんす。それに、目の色が左右で違うだけで悪魔の子なら、飛鳥様は悪魔――否、魔王でござんす」
『……誰が魔王か』
「とは言え、あっしも信濃も、天龍も、木曾も、響も、その他この場に居ない者達も、飛鳥様の悪魔的なまでの力に救われたんでござんす。故に飛鳥様の事は慕ってるでやんすし、大好きでござんすよ?」
『……そんなこと言われたら、怒れない』
「フッフー、飛鳥様には怒られたくないでやんすし、怒ってほしくないでござんす。あ、申し遅れたでやんすが、あっしの名は胡烈、字は玄武。外道丸の胡烈で通ってるでござんす。あ、真名は志穂でやんすから、次からは志穂と呼び捨てで呼んで欲しいでござんす」
「……え?」
「私は周 魴 子魚。真名は信濃だ。信濃と呼び捨てで構わん」
「……あのっ」
「私は朱然、字は義封、真名は響だ。宜しくお願いするよ」
「オレの名は歩 騭 子山。真名は天龍だ。まぁ、好きに呼べ」
「俺は李 傕 稚然、真名は木曾だ。宜しく頼む」
『……法正、字は孝直、真名は飛鳥。……好きに呼べ。……名を聞いても?』
「あ、はい。馬良と申します! ……って、ちょ、ちょっと待って下さい! 会ってまだ八半刻も経ってない相手に対して真名まで預ける人が何処に居るんですかッ!?」
と、驚いた様子で声を荒らげる少女。それもその筈。 真名とは、それを持つ本人が心を許した証として呼ぶことを許す名であり、本人の許可無く真名を呼ぶことは、問答無用で斬られても文句は言えない、本人の魂と同じ位の重さを持つ物である。
それ程に重いモノを、会って三十分も経ってない相手に許す事等、まずありえない。それがどれだけ変わっているのか。それを少女は言っているのだ。
が、飛鳥達も、考え無しに真名を許した訳ではない。
「や。お前の言う事も正しいが、私等はお前と似た様な境遇だったって言っただろ?」
「そうでやんすよ。あっし等も、元々アンタと同じ様に、襲ってくる奴を返り討ちにして、その屍から剥ぎ取った武器を使って身を守ってたもんでやんす」
「それに、提督は闇の中から引き上げてくれただけでなく、信頼と共に武器を託してくれた。お前は既に提督から武器を託された。もう俺達とお前は同じ存在だ。なら、真名を預けるのは必定だろう?」
「武器を託された、って。そりゃ、さっき武器を貰ったけど……」
と、驚愕の表情の百面相をする少女。その少女に対し、飛鳥は優しく、諭す様に声を掛ける
『……ああ。……先にも言った通りの意味で、武器を託している』
「………………」
『……迷惑、だったか?』
「………………」
刹那。飛鳥が何処からとも無く苦無を幾つか取り出し、投げる。
――――キィン、キキィン。
という子気味良い音と共に、今しがた飛鳥が投げた苦無が地面に突き刺さる。それに遅れて、苦無と同じ数の矢が、地面に落ちた。
矢羽のある方向を見てみると、それ程遠くない距離に、賊の群れがいた。
それもちょっとやそっとの数ではない。遠目で軽く見積もっても、約五万。それ程の数の賊が居た。
「ッ! あいつら」
『……知ってるのか?』
「うん。二、三日前に同じ様な格好の奴等を屠った覚えがある」
『……成程。……差し詰め、敵討ちと言ったところか。……畜生風情が殊勝な事だ』
慌てた雰囲気の少女とは裏腹に、落ち着いた雰囲気で居る飛鳥達。すると飛鳥は徐に右手を軽く上げ、指を三本伸ばした状態にして賊の方に向けて振り下ろす。
すると――――――
「久々の狩りじゃ」
「狩りじゃー」
「オレ等の提督殿はトキドキカゲキだぜ」
――――――信濃、志穂、天龍の三人が凶悪な笑みを浮かべ、物騒な事を呟きつつ、各々の獲物を手にして賊の群れに走って行った。
その様子を見て、木曾と響は呆れたような表情をし、少女は慌てふためいた。
「…………ハッ! と、止めなくていいんですか木曾さん! 響さん!」
「大丈夫だって。三人とも強いから。それより、今の司令官の手の動き。ちゃんと見たか?」
「え、ハイ。見ましたけど……」
「хорошо。よく見ていたね。存外に君は優秀らしい」
「今のは手信号っ言って、手の動きと形の組み合わせで仲間に指示を伝えるモノだ。因みに、今の手信号は信濃さんと志穂さんが言った通り、《狩れ》って意味だ。全く、幾ら《狩れ》の指示が久しぶりでも、もう少し落ち着けないのかねぇ? 天龍も志穂さんも信濃さんも直ぐに熱くなるんだから。コレなら、長門さんか陸奥さん、龍田、球磨姉さん、多摩姉さん、纏々さん、夕雲さん、紅愛さんの誰かが帰って来るまで待つ様に進言すればよかったかな?」
と、木曾と響は少女に対して、溜息と共に皮肉の混じった説明をした。
しかし、少女は未だ不安を拭い切れないでいた。相手の数は、少なく見ても九万を超えているだろう。対して、向かって行ったのはたったの三人。そんな状況で余り気にするなと言われても土台無理な話である。
「そう慌てるなよ。天龍は仲間内でも大分と古参になる。提督には遠く及ばないが、それでも可也の実力の持ち主だ。志穂さんや信濃さんにしたって、天龍やオレ等には及びもつかない位強い。戦法を間違えなけりゃ、あの程度の連中に負ける事はないさ」
「それに、司令官はあの三人の事を信頼してるから《狩れ》って指示を出したんだよ。あ、三人だけじゃなく仲間の事は皆が互いに信頼しあってるんだけどね。ほら、その証拠と言っていいのかアレだけど、司令官と的盧を見てみな?」
そう言われて、響が指差す方を見る少女。そこには、伏せて目を閉じている的盧と、的盧の腹を枕にして飛鳥が横になっていた。
「………………起こさなくていいの?」
「да。司令官は仲間の事を大切にする人だよ? そんな人が、むざむざ死にに行かせるわけ無いだろう?」
「そう言うことだ。それに、万一の事があっても俺と響が手助けすればいい訳だしな」
「………………随分と、信頼しているんだな」
「当たり前だよ。私達は司令官に出会うまで、十年近く行動を共にしてたんだ。やってた事は山賊紛いの行いばかりだったけどね。で、ある時獲物にしたのが司令官とその部下の志穂さん達だったのが出会いだね。当時は向かうところ敵なしだったから天狗になっててね、実力を測り違えたのさ。で、手を出して返り討ちにあった訳だ。
想像できるかい? 向こうで天龍達が相手してるような雑兵程度なら少なくと二万は軽く屠れる実力を持った者が三十人。その全員で掛かって遊ばれたんだ」
「………………」
少女、絶句。
それもその筈。聞いてもない事をいきなり話し出したのもそうだが、それよりも、二万を相手しても勝てる様な猛者が三十人。軽く見積もって六十万の軍勢に匹敵するであろう集団が勝てないとならば、そうなるのもうなずける。
そして、響の語りを木曾が継いだ。
「で、何を思ったのか分からないが、提督は俺達の拠点に居座ったんだ。まぁ、自分で言うのもアレなんだが、その時は天狗の鼻をヘシ折られて逆恨みして、荒れてたんだ。で、全員がすっごい罵倒食らわしたわけだよ。思いつく限り、生意気なこと」
「………………」
口に出さなかったが、少女自身は話の内容を理解できた。自分が木曾達と同じ立場なら、同じ様な事をするかも知れないからだ。
「というわけで、提督が居座った早々思いつく限りの罵詈荘厳を喰らわせた俺達なわけだが、それからどうなったと思う?」
「……あの人が怒ったのかな」
「それが全然なんだよ。あの提督、全く怒らずに俺達の言葉無反応で受け入れてたままだったんだよ」
「……じゃあ何が」
「居座ったその日の夜に――的盧に殺されかけた」
「――へ?」
木曾が口にした言葉を聞いた途端、思考が停止した。二万程度なら簡単に屠れる実力を持った者が三十人も揃って殺されかけた? あの大きくて怖いけど大人しい狼に? と。
「いや、大変だった。まず俺達が寝入った提督の部屋に忍び込んで殺そうとしたんだ。で、殺そうとした瞬間、的盧が投げ縄を口でして、気付いたら全員捕まっててな。拠点近くにある広場に無理矢理力ずくで引きずられて、縄を解いた途端に途轍もない殺気が的盧から飛ばされて来たんだよ。咄嗟に全員その場を飛び退いたんだが、固まっていた場所に的盧が飛び込んで来て、地面に爪で切り裂いた様な痕が出来ててね。殺気は強いし目は本気で殺す気だったし怖いのなんの。というより、的盧自体超怖い」
「つ、つまり……生意気な態度を取ってたら狼さんに締められた?」
「そういうことだよ。ちなみにその時、全員死を覚悟してたんだ。殺気が強過ぎて立ってるのがやっとでね。これはもうダメかな、って思ってたら司令官に助けられたのさ。『……的盧、無闇矢鱈と殺そうとするな。……こいつ等がオレを攻撃してくる訳もわかるしな』ってね。で、助けられたし、命を救ってもらった訳だし、自分達でも逆恨みだって自覚してたから、今までの罵詈雑言を土下座しながら撤回したとさ。まあ、司令官は『……特に気にしていない』って赦してくれて、あーこの人いい人だぁーと思ったよ」
「そ、それってもしかしなくてもせんの……」
「うん。そうかもしれない。でも、司令官が私達の命を救ってくれたのは事実だし、私達の自業自得だったからね。何か恩返し出来る事を探しつつ、司令官の部下にして貰ったのさ」
心折った所に救いの手を差し伸べる。思い切り洗脳の手口じゃないかな? と思ったけど、口に出したら即肯定されてしまったので何度目かの驚愕硬直をする少女。
「まあ、と言う訳だ。キミも司令官にケチ付けると的盧達に殺されるかも知れないから気を付ける様にね? 的盧や今ここに居ない最古参の人達がしなくても、私たちの誰かがすると思うよ」
「……そんなにこの人が好きなの?」
「大好きだよ? 司令官の為に死んでもいいくらいには」
即答され、木曾もそれに同意する様に頷いていた。それを聞いて、思考が本格的に停止した少女。
その少女を見て、木曾と響は苦笑を浮かべた。
「ま、普通はそんな反応になるよな。でも、俺達は全員、親に捨てられたはぐれ者だったり、親が蒸発したりした孤児だったりするんだ。俺と天龍に至ってはお前と同じく瞳の色が左右で違う。行く先々で化物扱いされて石とかを投げられたよ。でも、提督はそんな俺や天龍にも普通に接してくれた。信頼の証として武器もくれた。殺そうとした俺達を、心の底から信頼してくれた。そこまでしてくれる人の為に死ねるなら、本望ってもんだよ」
そう言われ、少女は押黙るしかなかった。
それきり、木曾と響は黙って薪を集め、火を起こして暖を取り始めた。よく考えてみれば、今の季節は秋の終わり頃。風も出てきて少々肌寒くなった為、少女は木曾や響と同じ様に焚き火の近くに寄って行った。木曾と響も、黙って少女の入れる空間を作り、暖を取りつつ志穂達が戻って来るのを待った。
――――――――――――
木曾達が火を起こして約二十分後に信濃達は戻ってきた。二十分程度の時間で、雑魚しか居ないとはいえ、約九万の軍勢をたった三人で壊滅させる実力に脱帽である。
「…………四半刻もしない内に九万の軍勢を壊滅させるなんて。おかしいんじゃないかな?」
「慣れるっきゃないよ? 私達もそれなりの実力を持ってると自負してるつもりだけど、それでも私達より前に司令官の部下になってた信濃さんや志穂さん達には勝てないんだよ。それを象徴するかの様に、天龍の討伐数は約一万なのに対して、信濃さんの討伐数は約六万、志穂さんの討伐数は約二万だ。この討伐数の差が実力の差を表してるよね」
「オレ等が志穂さんや信濃さん達に届く訳無いだろ。そもそもオレ等と信濃さん達とじゃあ提督に訓練してもらってる時間が違うっての。大和さん達までならオレ等全員で掛かれば何とかなるかもしれないが、紅愛さんや紅葉さんとかは俺等と大和さん達加えて漸く互角だし、纏々さんや藺さんにはそれ以上だし、提督に至っては提督以外の全員で掛かっても勝てないんだ。そんだけ差があってどうやって志穂さん達に勝てって言うんだよ」
と、ボヤく天龍。しかし、その表情には焦燥や悲観と言った感情は無かった。
「フッ、そんな褒めても何も出せんぞ? と言うより、お前等も頑張れば私等と同等の実力ぐらい付くだろ」
「で、信濃さん達と同等の実力になる頃には、信濃さん達は更に強くなっているんだろ? 追い付くのは何時になる事やら」
「そりゃあっし等も何もせずにアンタ等に追い付かれるのを待つわけ無いじゃないでござんす。ま、紅葉や紅愛、信濃とかにはあっしも追いつけそうにねぇでござんすが」
と、談笑しているが、七人居る内の三人は返り血で真っ赤な為、少女はおっかなビックリと言った感じである。
『……さて、信濃達も仕事終えたし、帰るか』
飛鳥がそう言うと、全員がそれぞれ伸びをし、首や腰の関節を鳴らした。
『……もちろん、お前もな』
「…………ホントにいいの? 僕みたいなのを置いとくと面倒な輩に絡まれるよ?」
「そんな心配をお前がする必要はないぞ。先の戦闘を見てただろ? 億を超える数で攻められでもせん限り、私等に敗北は有り得ん。これは油断や慢心とは違う、確信だよ。余程、飛鳥より強い敵でも出てこん限り、私等は負けん。お前が心配する事はなんもない。気にせず付いて来りゃいい」
「そうでやんすよ~。アンタが気にする事ないでやんす。別段、あっし等襲撃なんて慣れっこでやんす。一応拠点の近辺の諸侯には山賊の一派みたいな扱いされてるでやんすから、希に軍を遣わされるでござんす。ま、其処いらの練度の低い軍兵なんて一瞬で蹴散らせるでやんすがね」
「そう言うこった。お前が気にする事なんてなんもねぇよ。俺や木曾の他に何人か瞳の色が左右で違う奴居るし、何より提督自身がそれだからな。宝石みたいで綺麗な眼だぞ?」
「で、でも……」
『……諄い。……オレ等はお前が危惧するほど弱くない。……お前が心配するような事は一切無い。……そう気負うな』
そう言って、右手を差し出す飛鳥。見れば、天龍達もこちらを注視していた。響は仲間が増えると期待の眼差しを向けていた。
「――――はいっ」
と、少女は飛鳥の手を取った。
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