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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  26話

「私の好物?」
Bランク任務ということもあり多額の報酬が手に入ったので、現在自分ルールで里を逆立ちで百周しているリーとそれと一緒に逆立ちしているガイ先生以外でいつもの中華料理屋で食事をしているとテンテンそんな事を聞かれた。
「うん、ヒジリって何でも食べるけどその中でも好きな物とかあるのかなって思ってさ。ネジに聞いても分かんなかったし」
私の好物か……考えたこともなかったな。私の基本的に丁寧な食事であれば何でも美味く食えるので、特定の料理に対しては好き嫌いはない。
「私は特に無いな。ネジのように他人の物まで食う程の物はついぞ出会ったことがない」
「ひ、ヒジリ様、あの事はもういいでしょう!?」
「え、ネジなにやったの?」
「私は勘当されるまでは屋敷のものが作った物を食っていたのだが、されてからは自炊せねばならなくなったとは知っているな?」
「うん」
「で、私が勘当された年の大晦日に私が年越し蕎麦を作っていると半分泣きながらネジが私のいる離れに来たのだ。
理由を聞けば、年越しくらいは私を呼び戻してもいいのではないかと親父殿に聞いたところ、取り付く島もなく拒否された結果腹を立てて出て行ったという何とも子供らしい理由だったのだ。
しかし、そのまま帰れと言うにはあんまりな外見だったものでな。一晩だけならば泊めてやろうということになったのだが、ネジは何も食わずに飛び出しれきたらしく腹を鳴らしてこちらを見てくるのだよ」
あの時のネジは本当に捨てられ子犬か何かのようで、何とも哀愁漂う姿だったな。もっとも、その直後にされたことを考えると叩き出す事も選択肢に入れるべきだったかもしれん。
「4歳の子供が蕎麦を一人で作ってる事とか、それをごく普通に話すヒジリってどうなのかと思ったけど、ヒジリの子供時代なら意外と通常運転だったって納得させられる事とか色々あるのは一旦置いて置いて……ネジが物凄い震えながら頭抱えてるけど」
「捨て置け、家族関係の事以外は大抵水に流す私だが流石にあんな大晦日を過ごす羽目になった事は恨まざるを得ないからな。
腹を空かせたネジに年越しそばのニシンそばをくれてやった時に、ネジを心配したヒナタが訪ねてきたので私は玄関でネジは今晩だけ離れで過ごすと説明したのだ。
そして、私が戻って来た時にはこいつは私がくれてやった分だけでなく、茹で上がったばかりの私の蕎麦までおかわりだと勘違いして全部食っていた。
結果としてその年の大晦日、私は何も食わずに年を越すわけになったのだよ……で、ネジ。君の好物は一体なんだったかな?」
「……ニシンそばです」
「あの蕎麦は美味かったか?」
「ええ、とても」
ネジは一瞬しまったというような顔を浮かべたがもう遅い。
「ネジ、帰ったら君の相手をしてやろう、徹底的にな」
「……はい」
「ネジ、流石にそれは擁護できない」
「分かってる……あの日は一晩中正座させられて、ヒジリ様に日が昇るまで怨念の篭った眼で睨まれ続けたんだ。
……あれは俺の中でトラウマになっていて、それ以来どんな物でもおかわりをするという事が出来なくなったよ」
「ヒジリに一晩中…………ゴメン、想像しただけで無理ね」
テンテンはうんざりした表情を浮かべつつ酢豚を口に放り込み、再び私に視線を向けた。
「じゃあ、ヒジリがこれだけは駄目っていう物は無いの?」
これだけは駄目か……ふむ、あるにはあるのだが味がどうのではなく生理的に駄目という物だな。味より先に噛んだ段階で脳がギブアップしたので味なぞ分からなかったが、強いて上げるとするならばあれだろう。
「昆虫食は全般苦手だな……あればかりは生理的に無理だ」
あれがいけるのなら潜入任務などでも役に立つんだろうが、どうにもあの食感と外見が私には無理だ。イナゴの佃煮やらはなんとか大丈夫だったが……幼虫系統は全力で遠慮したい。
「それは私も無理……っていうか一体何処でそんな物食べたの?」
「昔、好奇心で買ったのだ。取り敢えず全種買って一通り食べてみたが……我ながらよくやったと思うよ」
「あーそれ以上はやめて。聞いてるだけで食欲失せるから」
「そもそも君が聞いたのだろうが」
そんな話をしながら食事を終えた私達は店を出て、苦無や手裏剣などの消耗品を買いに行くことにした。





「はぁ……今考えたらヒジリの作った忍具って異常に消耗品をすり減らすよね。あれ、どうにかならないの?」
テンテンはそう愚痴りながら、苦無と手裏剣の束を抱えている。ざっと苦無は百、手裏剣は八十か……確かに多いな。
「だが、命が金で買えると考えればその出費は安かろう?」
「そりゃ、初見殺しの多い武器が殆どだから多少格上でも勝てるけどさ。毎回毎回この消費は結構痛いの、懐問題的に。
それに仕込みの手間も割と面倒だし、いっそヒジリが店出してよ。そうすれば色々楽だし、纏めて仕入れが出来るからヒジリが売るにしても多少安くなるでしょ?」
武器商人か……存外悪い話でもないな。
世界を彷徨いて武器を売れば様々な技術と出会う機会もあり、それを新たに取り入れて商品を作り売る。この世界で武器商人は収入としては悪くはないだろうし、当分需要が尽きる事もないだろう。
「悪くないじゃないか。テンテン、君の意見は毎度のことながら色々と役に立つな」
「えっ!?冗談で言ったつもりだったんだけど……」
「いやいや、軽く考えてみたが私の性にはあっているのではないかと考えてな。今すぐにというのは無理だが、将来の選択肢としては中々にいいものだよ」
「そんな先の話よりも中忍試験の心配をして下さい」
ネジは既に買い物を終えたのか、袋を片手に下げてこちらに来た。今回の任務でネジはそれほど消費しなかったようで、袋にはそれほど中身がないようだ。
もっとも私達の班で忍具を使うのはテンテンが主で、逃げる相手を仕留めるときに私が使う程度だ。それ以外は使うとしてもネジが精々牽制に使う程度で、リーに至っては全く使わない。それ故にテンテンの出費だけが一つ飛び抜けているというのが現状だ。
具体的に言うとネジの経費とテンテンの経費はざっと桁が二つ程違う、冗談でなく実際に違うのだから笑えない。
ちなみに私の物は全て回収しているので、起爆札のような使い切りの物で無い限り経費は増えない。ので、任務終了後はテンテンは一人算盤を弾くことになっているのであった。
「はぁ……こんな時、私も体術が使えればって思うわ。なんでこの年で算盤弾いたりしなきゃなんないの」
「柔拳ならいつでも教えてやるぞ?」
「スプラッタ趣味は無いから遠慮させてもらうわ。それとあなたに教えてもらうとなると命が幾つあっても足りそうにないし」
失敬な、死にはしない程度に加減はするぞ。





 
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